「みんながんばれ!」その2
倒されたはずのユーマとエリーが立ち上がった。デモダッテも肉体を取り戻し、全快で復活する。
さらに、シエンの枯渇した魔法力が甦った。
シエンが吠える。
「また、回復できるから……二人ともがんばってちょうだい!」
戦線復帰したユーマとエリーが、うなずき合うと左右から怠惰の王を挟撃した。
ユーマたちはゆっくりと、それでも少しずつ確実に怠惰の王を追い詰めていく。
デモダッテが二発目の攻撃魔法を放った。
「……もう一回、中範囲中級攻撃魔法!」
怠惰の王の青い肉体が炎に包まれた。
グルウウウオオオオオオオオオオオ!
それでも、怠惰の王は倒れない。腕を振り回しながら、標的をデモダッテに変えて襲いかかる。
「……うわ。怒ってる?」
怠惰の王の怒りの反撃で、デモダッテは再び霊魂化した。
シエンは蘇生せずに、ユーマとエリーの体力をこまめに回復していく。
ユーマが声をあげた。
「あと少しだ。がんばろう!」
エリーは頷いた。
「さっきはごめんね……ううん、かばってくれてありがとうねユーマ」
「お、おう! 仲間なら当然だろ」
そんなユーマの周囲を、デモダッテがふわふわと回った。
「……ボクはかばってくれないの?」
「わ、悪かったデモダッテ! 成仏してくれ」
「……化けて出てやる」
ぺろっと舌を出して、デモダッテは怠惰の王の背後に移動した。
シエンが声を上げる。
「残り、回復一回よ!」
ユーマが怠惰の王を斬りつけて、反撃を受けた。それをシエンが回復魔法ですぐに治癒する。エリーは無理な攻撃はせずに、回避を考えながらの攻撃に切り替えた。
「まだ倒せないの! なんなのよこいつ!」
エリーの脳裏には、聖十字魔法大元帥――セリーヌの姿が浮かんでいた。彼女はユーマたちが四人がかりで、神珠まで使って倒そうとしている相手を、一撃で仕留めたのだ。
「悔しいわ。もっと……強くならなくちゃ」
シエンが宣言する。
「回復魔法終了!」
その言葉に合わせて、神から二つ目の神珠が投入された。
「やっぱ二個目まで必要か……も、もったいないなんて思ってないからな!」
そんな神の声が響き渡り、デモダッテが復活した。
ユーマとエリーの傷も癒え、シエンの魔法力も全快になる。
デモダッテが、怠惰の王の背後側から魔法を放った。
「……本日最後の中範囲中級火炎魔法!」
全身に剣による傷を刻まれた怠惰の王の身体が……燃え上がる。
グルウウウウウ……
その叫び声から、威圧感が消えていた。
膝をつき、怠惰の王は動きをとめる。
エリーがユーマを見つめて声を上げる。
「今よ、ユーマ!」
「おう! これで……とどめだッ!!」
青年は走った。振り払おうとする怠惰の王の腕を、一本橋のようにかけあがる。
ユーマは跳んだ。太陽を背負いながら、振り上げた剣を怠惰の王の脳天に……叩きつける。
まるで、青年の背中に羽が生えているような、そんな姿にデモダッテがぽつりと漏らした。
「……本で読んだ古代人……みたい」
ユーマの一撃で、怠惰の王の身体が地面に沈み込むように溶けながら……消えた。
シエンがホッと息を吐く。エリーがその場に、へなへなとしゃがみ込んだ。
四人は怠惰の王に勝利したのだ。
白い空間に、神の姿が浮かび上がった。
「よくやったなお前ら。欲を言えば、二個目の神珠を使う前に倒してほしかったんだが……」
地面にへたり込んだまま、エリーが吠えた。
「ならもっと威力のある武器をよこしなさいよ!」
神が苦笑いで返す。
「そりゃ、ごもっともだな」
神の眼下に、封印の宝珠が浮かび上がった。どこからともなくバッファーが現れる。
「助っ人なしで倒したみたいだね。それじゃあ早速、封印をするかい?」
ユーマは一度、神の姿を見上げた。
「神さま。神珠、使ってくれてありがとうな」
「と、当然だろ。こういうアイテムには使い処ってのがあるからな。機を見てせざるは情弱なり……だ」
「神さまがなに言ってるのか、よくわかんないけど……おかげで勝てた」
「いや、エリーもシエンもデモダッテもがんばったし、ユーマ……お前のがんばりだよ。だから、きちんと封印してくれ」
神の言葉に頷くと、ユーマは宝珠に触れて念じた。
「封印する……っと」
バッファーが前足をあげる。
「口に出さなくてもいいのに……えっと、じゃあ封印を確認するね」
封印の宝珠が光り輝くと、それは砕け散って消えた。バッファーが神に声をかける。
「封印完了しました。次からは、第二層に挑戦できます。それと、攻略ボーナスとしてご褒美装備ガチャを回せますけど、どうしますか?」
「なんだそのご褒美って?」
神の質問にバッファーは頷いた。
「通常のガチャとは別ものなので、曜日によるフェアとは無関係です。なにが出るかはお楽しみですよ」
「権利をとっておけるのか?」
「もちろんできますとも」
神とバッファーのやりとりをみて、ユーマたちが瞳をキラキラさせながら、神にひざまずくと。せがむように祈った。
潤んだ八つの瞳に、神は息を吐く。
「ああ、わかった。今引くから。なにが出ても文句は言うなよ。バッファー。ご褒美ガチャだ」
「では、こちらのダイスをお願いします。一応、見た目は六面体ですけど、本当になにが出るかはわからないようになってます」
バッファーが掲げたダイスを神は振る。
ダイスは白い空間の真ん中でコロコロ転がると、力を失いぴたりと止まった。そのダイスがぱかりと箱の展開図のように開いて消える。
ダイスの中から宝箱が生まれた。
シエンが肩をすくめさせる。
「箱の中に箱を仕込むなんて、どうかしてるわね」
すぐにデモダッテが宝箱のそばまで駆け寄って、中身を確認した。
「……首飾り?」
箱の中には、人の顔を記号化したようなペンダントトップがついた、首飾りが入っていた。ちなみに、顔の表情は笑顔だ。
「……ださい。もう一回、引き直しを要求する」
神がため息を吐いた。
「それじゃあガチャにならんだろ。とはいえ、どうしたもんか」
エリーが首飾りを見てから、頷いた。
「ほ、ほら。わたしはビキニアーマーもらっちゃったし……二個も装備を独占するのは、よくないわよね」
シエンが頷いた。
「そうね。えっと……この首飾りからは微弱な魔法力が感じられるけど、どんな効果かまでは解らないわ。けど、呪いの類いでもなさそうね」
「……ボクはいらないよ。趣味じゃないし」
ユーマがシエンをじっと見つめた。
「じゃあ、いつも回復をがんばってくれるシエンに……」
「ユーマくん。最後に怠惰の王にとどめを刺した、あなたにこそこの戦利品は相応しいわ!」
首飾りを手にして、シエンがユーマにかけようとした。身長差でうまくいかないので、ユーマはひざまずく。
エリーが微笑んだ。
「なんだか、叙勲式みたいね」
デモダッテが首をかしげた。
「……エリーは叙勲式に同席できる人? ああいうのって、騎士とか、貴族とか、王様とかだけじゃないの?」
「え、えっと。そういう話を聞いたことがあるっていうだけよ」
少し手間取ったものの、シエンはユーマに笑顔の首飾りをつけてあげた。
「どう、ユーマくん。なにか変わった感じがする?」
「おお。なんだか、不思議と身体に力がわいてきたかも」
神が呟いた。
「別にステータスの数値は変わってないぞ?」
ユーマは笑顔で返した。
「数値に表れない効果があるんじゃないか、神さま?」
「まあ、お前が気に入ったんなら、いいんじゃないか。それじゃあ一同、怠惰の王の討伐大義であった。今夜は好きなだけ騒いでいいぞ!」
エリーが神に向かってあっかんべーをする。
「言われなくてもそうするわよ!」
「くそー。お疲れ様会か。うらやま……しくないぞ。いいか! 明日からもびしびし行くからな。第二層はこんなもんじゃないぞ! きっと!」
そう言い残すと神の姿は消えた。バッファーが前足をあげる。
「ではでは、攻略街までお送りします。この調子で第二層もがんばってください」
一同の視界が白く染まったかと思うと、見慣れた攻略街の東門の近くに、四人は降りたっていた。




