「みんながんばれ!」その1
木漏れ日の射す森の外れに、小さな広場があった。
ユーマたちは洞窟には向かわず、この広場で待つ。
グルウウウウウウウウウウオオオオオオオオオオオオ!
怠惰の王は噂通り、森の広場に姿を現した。その身に陽光を受けて、外皮は沸々と沸き立っている。
「来たぞ! みんな……これが最後の決戦だ!」
ユーマが剣を抜き身構えた。
エリーが吠える。
「最後だなんて縁起でも無いわね!」
風のように駆け抜け、怠惰の王に迫るとエリーは剣で連続攻撃を加えた。
グルアアアアアアアアアア!
それは、威嚇ではない絶叫だった。エリーの切っ先は弾き返されることなく、外皮の下まできちんと届いていた。
「手応え……ありね! 柔らかくなったバターみたいにサクサク切れるじゃない!」
ユーマが追撃を食らわせた。怠惰の王の腕を切りつける。
「うおおお! 弾かれないぞ!」
丸太のような太い腕を振るう怠惰の王。その一撃でユーマは吹き飛ばされた。
「痛ってえええええ!」
普段は外皮の硬さで威力が増している攻撃が、今日に限っては手ぬるい。
それでも、レベル1のユーマだったら一撃死していたところだ。
死にかけなユーマの傷が、動ける程度にまで回復する。全快にはせず、回復量を調整しながらシエンが小さく口元を緩ませた。
「蘇生じゃなくて、ここは回復魔法ね……いいのかしらこんなので?」
デモダッテが魔法のステッキを掲げる。
「……いくよ。中級中範囲火炎魔法!」
怠惰の王が炎の柱に包まれた。柔らかくなった外皮が焼け焦げる。
まるで、脱皮でもするように怠惰の王の外皮がぼろぼろと、崩れて剥がれ落ちていった。
青い肉体の巨人が姿を現す。その赤い瞳が青くなった。
「……え、ええい!」
魔法を撃って出がらしになったデモダッテが、怠惰の王に向かっていった。
蝿を払うように、怠惰の王の平手打ちがデモダッテを叩く。
瞬間、デモダッテの身体は霊魂化した。
エリーが吠えながら、怠惰の王の背中を二連撃で斬りつける。
「ここまで……作戦通りね」
シエンは蘇生魔法を使わなかった。
怠惰の王の瞳が、青く染まる。だが、その視線はシエンには向けられなかった。
霊魂化したデモダッテを見つめると、怠惰の王は魔法を発動させる。
デモダッテの足下に、落とし穴のような魔法のゲートが開いた。
「……残念。ボク、死んでるし」
追放魔法は不発に終わったのだ。
ユーマが剣を構えて、怠惰の王に斬りかかる。
「うおおおおおおりゃああああああ!」
一太刀浴びせては、ユーマは反撃を受けて死にかける。今度は、シエンは回復魔法をケチらずに全快させた。
エリーが怠惰の王を攻撃する。そのスピードに、怠惰の王は翻弄されて、エリーに対する反撃は空を切った。
霊魂化したデモダッテが、ふわふわ浮きながら呟く。
「……みんながんばって。草葉の陰から応援してるよ」
シエンが舌打ちする。
「余裕があれば、蘇生させて仕事してもらうけど……ユーマくんが攻撃するたびに、反撃で死にかけるのはやっぱりキツイわね」
怠惰の王の体力は、徐々にではあるが確実に削れていた。
ユーマが反撃を受けながら、自分に回復魔法をかける。シエンの回復魔法と足して、傷を癒やすと青年は吠えた。
「シエン! あと何回いけそうだ?」
「次ので打ち止めね」
続けてユーマは確認した。
「エリー! そっちは?」
「相手の動きが止まって見えるわ。絶好調よ!」
デモダッテが挙手をする。
「……ボクも普段より身体が軽く感じられて、調子良いかも」
エリーが剣を振るいながら吠えた。
「死んでるからでしょ!」
外皮を失った怠惰の王は、転がる攻撃や突進をしてこない。
それでも、振り回された巨大な腕による一撃は、当たれば致命傷になりかねない威力だった。
エリーは口で強がりながらも、焦っていた。
「このままじゃ……じり貧じゃない!」
剣を構えて集中し、怠惰の王を見据えると……気合いを込めて連撃を放った。
それはZ軌道を描く三連撃だった。怠惰の王の胸にそれを刻みつけた瞬間、エリーの足が止まる。
「…………ッ!?」
三連撃は浅かった。怠惰の王の反撃の拳が、エリーに叩きつけられる。
ユーマは跳んだ。エリーを突き飛ばすようにして……拳の下敷きになる。
シエンが悲鳴をあげた。
「ユーマくん! 生きてるの!? 死んでるの! 死んでたら蘇生は……」
シエンの魔法力は、回復魔法一回分しか残っていない。
エリーが呆然と立ち尽くした。
「ここまで……なの?」
怠惰の王の赤い瞳が、じっとエリーを見据える。
腕を振るって、怠惰の王はエリーをはじき飛ばした。
前衛二人がほぼ同時に瓦解して、残るはシエンただ一人だ。
四人の視界が、白く染まった。
空に神の姿が浮かび上がる。
シエンが神に向かって吠えた。
「まだ、あたしは生きてるわよ!」
神は笑った。
「ああ。全滅なんかさせるかよ。こいつを使うぜ」
神の手から神珠がこぼれおち、奇跡を起こす。




