「好機を生かせ」その4
「やだ、ちょっと! あたしのお財布勝手にあけないでよ!」
シエンの道具袋から、高価な宝石が五つ、勝手に飛び出したかと思うと、光に溶けて消えた。そして、神の手からも三つの神珠が消失し、二つの魔法力が合わさって十面体ダイスに変化する。
「さあ、神さま。もう後戻りはできませんね。最後に、みなさんに言うことはありますか?」
神はユーマに視線を落とした。
「待たせたなユーマ。これに成功したら、次は装備ガチャで、お前かエリーが装備できる剣を出す。火曜日の武器ガチャは右手装備が出やすいらしいからな」
「神さま……ありがとう。俺、覚醒してからもがんばるよ」
神はダイスを手にした。
「というわけで、頼む! 苦労して集めたこの神珠で覚醒してくれ!」
神の手から運命のダイスが転げ落ちた。コロコロとダイスは転がって、転がって、次第に力を失い……止まる。
出目にはこう、書かれていた。
――失敗――
「ファーーーーーーーーーーーーーーーーーック! この世には神も仏もいねぇ! 成功率八割だぞどうなってるんだ!」
バッファーが呟く。
「☆1からの失敗ですから、特にペナルティはありませーん」
神が涙目になりながら、呟く。
「ふ、ふふふ……けどまあ、こんなこともあろうかと、予備の神珠が用意してある」
枯れて出がらしになったようなユーマの顔に、精気が戻った。
「さ、さすが神さま!」
「大丈夫だ。今のは事故だ。ユーマ。次の一投で、お前は☆2になるんだ」
神の手が再びダイスを握って……放つ。
――失敗――
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! もう一回だ! これで最後だ! これで最後だからな!」
――失敗――
神の憔悴しきった表情に、ユーマはむしろ自分の覚醒失敗の残念さよりも、気の毒な気持ちでいっぱいになっていた。
「お、おい神さま? 生きてるか?」
「あ……ああ、なんで俺……こんなに引きが弱いんだよ。ユーマが引けたのって、マジで奇跡だったんだな」
ユーマが心配そうに神の顔を見上げた。
「べ、別に神さまのせいじゃないし、そんな顔すんなよ。覚醒できなかったけど、神さまが俺たちのことを考えて、いろいろしてくれたってのはよくわかったし、それだけでも感謝してるからさ」
ずっと貧乏神と文句を言っていたエリーまで、少しだけ及び腰になって確認する。
「ね、ねぇ? さすがにもう、神珠はない……わよね?」
神がぐったりとうなだれた。
「余り二個だ。これじゃあ武器ガチャもできんし半端だな……。こうなったら……明日にかけるぞ。ああ、それにしてもムキになって三投もするなんて、ばかばかばか。俺のばか!」
ゆっくりと顔をあげると、神は血走った目で呟いた。ユーマが聞く。
「ど、どんまい神さま。ところで明日って、なにかあるのか? 一日で俺たち、強くなれたりするのか?」
「お前らが強くなることはないけど、逆はあるんだ。それでも、本来なら今日の覚醒込みで安全に勝てるシナリオだったんだけどな。いや、むしろ安全に勝とうなんていう考えが、甘かったんだ。逆境上等!」
シエンがため息を吐いた。
「盛り上がってるところ悪いんだけど、なにがあるっていうのよ?」
「明日からフェアがあるんだよ」
ユーマが子犬のような眼差しで、じっと神を見つめた。
「フェアってなんだ?」
「いやまぁ、だいたい百万人登録が増えるごとにやってんだけどな、ガチャの内容が良くなったり、攻略特典がついたりするんだ。今回、ガチャは関係ないんだが……時間限定でボスの配置が変わるのが重要だ」
エリーが腕組みをして、神を見上げた。
「配置が変わるって、怠惰の王ならいつも地下五階をいったりきたりしてるじゃない?」
「それが迷宮の奥までいかなくても、一階でエンカウントできるようになるんだ。いや一階って言い方にも語弊があるな。洞窟に向かう途中の森にまで、あの怠惰の王が出てくるんだ」
シエンが顎を人差し指と親指で挟んで呟いた。
「そういえば……噂で聞いたことがあるわ。怠惰の王はあの外皮を甲羅干しするみたいなのよ。
ずっと暗闇の底に居すぎると、外皮が硬化しすぎて動けなくなるから、不定期なんだけど太陽の下に出る……って話。デマだと思ってたわ」
エリーが息を呑んだ。
「それが……明日ってこと?」
神はゆっくりうなずいた。
「そういうことだ。怠惰の王を倒すには絶好のチャンスだからな」
ユーマが笑顔で返す。
「じゃあ、さっそく倒しに行こう!」
神は息を吐いた。
「待て待て明日だっつっとろーが。それと、攻撃のオーダーを変えるから心して聞け」
「どうするんだ神さま?」
「いいか。今までの基本は、エリーが攻撃。ユーマも攻撃。デモダッテは強敵が出るまで魔法を温存。シエンは回復で、死人が出そうなら、先行入力で蘇生魔法って感じだったな」
シエンがふふん♪ と、鼻を鳴らした。
「予測して蘇生できるのも、あたしが経験豊かな天才だからよ。感謝なさい」
神はにんまり笑みを浮かべる。
「それを変えるぞ。前衛二人は攻撃。デモダッテは怠惰の王まで魔法力を温存。シエン……お前は回復しつつ、死人が出ても蘇生はするな!」
「な、なんですって? あたしから蘇生をとったら魅力半減じゃない?」
ユーマも頷いた。
「デモダッテが死にやすいんだけど、そのままでいいのか神さま?」
「こと、怠惰の王と戦う場合は、それでいいんだ。俺も気づくのが遅すぎたんだが、スキル発動のトリガーがやっと推測できた。
ともかく、怠惰の王と戦闘に入っても、すぐにはデモダッテを生き返らせるな。生き返らせるのは……怠惰の王をあと少しで倒せるってところにきてからだ」
ユーマが困ったように眉尻を落とした。
「なんか難しいし、面倒だな。どうしてそんなことするんだ?」
「説明すると長くなるんだが、怠惰の王の追放魔法には法則があるんだよ。なんでこんなことに気づかなかったんだ俺は! あいつに言われて気づいたみたいなのが、なんか納得できん」
エリーが聞いた。
「あいつって誰よ?」
「女神だ。この前の聖十字なんちゃらのところの守護神だよ」
デモダッテが呟いた。
「……もしかして、彼女?」
「そんなわけあるか! ほら、じゃあ明日に備えて今日は解散……っと、ユーマだけちょっと残ってくれ」
エリーが不機嫌そうにほっぺたを膨らませる。
「わたしたちに言えないことなの? 怪しいわね」
「男同士でしかできない話なんだ。それとも、エリーは猥談に参加できる男脳の持ち主なゴリラなのか?」
「男じゃないわよ! せめて雌ゴリラに……じゃないゴリラも違うんだから!」
シエンがほほ笑んだ。
「じゃあ、あたしたちは先に帰ってるわね。ほら、行くわよエリーちゃん」
デモダッテが神を見上げる。
「なんだデモダッテ? なにか言いたいことでもあるのか?」
「……なんでも……ないよ」
三人の少女が真っ白な空間から消えて、ユーマだけが残った。
「神さま。俺にしか言えないことってなんだ?」
「とりあえず、俺の推理を聞いてくれ。
あの怠惰の王がどうやって外に弾くメンバーを決めてるのかについてなんだけどな……高い魔法力を感知した次のターンに、一番高い魔法力を使った相手を転送してる……と、思うんだ。
全滅しても場外に飛ばされた奴が、宝石を少しだけ持ち帰れる救済措置になってる。そして、ある一定レベル以上の強い助っ人を排除する効果もあるんだよ」
「うーん、さっぱりわからん。高い魔法力なら、なんでこの前、セリーヌが飛ばされなかったんだ?」
「セリーヌ? あぁ。聖十字以下略のことか。あれは強すぎてどうにもならんかったんだ。
あいつは元帥が持つ加速魔法で相手のターンの進行を遅らせたのに加えて、攻撃力強化と敵防御力ダウンの魔法を使い、怠惰の王に反撃を許さず一撃で倒したんだ」
「おお。神さま、やっぱり俺にはよくわかんないけど、なんかすごいんだな」
「説明のしがいがないやつだな。まあいいが。というわけで、さっきの作戦通りにすれば、怠惰の王に対して勝機はある。うまくはまれば……って感じだけどな」
「俺たちがんばるよ!」
神は一呼吸おいた。沈黙する。
「どうしたんだ神さま?」
「あのな……それで、これはその……相談なんだが。もし、今回の作戦に失敗したら……パーティーを一度解散させることも考えてる」
「か、解散!?」
「一時的にユーマにはパーティーメンバーから外れてもらうことになる」
「やっぱ、俺のコストが重すぎるからか?」
「ああ。俺だって本当は嫌だ。だから頼む……勝ってくれ」
ユーマは笑顔で大きくうなずいた。
「当然だ! 絶対に勝つ! 俺がいないと神さまも寂しいだろ?」
「ば、バカ言え。ったく……期待してるぞ」




