「好機を生かせ」その3
白い空間に神の姿が浮かび上がった。
「ん? あれ? 今日はユーマじゃないのか?」
神が視線を落とすと、三人の少女が並んでいた。
シエンがビシッと神の顔を指さす。
「今日はお願いがあって来てあげたわ。異界の神!」
「な、なんか上から目線だな。まあいい。願いを言え。叶えてやれるかはわからんが、聞くだけ聞いてやろう」
「ユーマくん、すっかり自信喪失しちゃってるのよ。先日まではレベルを上げれば強くなれるって信じてたけど、成長限界なの! いい加減、覚醒させなさい!」
神は真剣な顔でシエンに告げた。
「そうしたいのは山々だが、ユーマの覚醒チャレンジには、一回で神珠を三つも使うんだぞ。初期から三つってあほか! 宝石だって結構良い奴を消費するし……失敗したら目も当てられん」
エリーがムッと口を尖らせた。
「この前、助っ人に来た聖十字なんちゃらは、いっぱい覚醒してたじゃない! なんであなたにはできないわけ?」
「そ、それは……女神が課金してるからだ。しかも重課金の廃神だからであってだな……」
デモダッテが濡れた瞳で神を見上げた。
「……なら、神もそうすればいいよ」
「か、課金する奴はクズだ! 工夫を放棄したゲーマーの風上にもおけないやつらだ!」
シエンがクスリと笑った。
「あなたって、クズに負けるクズ以下の存在なのね」
エリーとデモダッテが、じっと神を見つめた。
「このままじゃユーマが可愛そうよ!」
「……神さまお願い」
神は黙り込むと……腕組みをしてじっと考えてから……ゆっくり息を吐いた。
「くっ……し、仕方ない。もう少しパーティーの能力を底上げしてからにしたかったんだが……あの方法を使うか……。いいかお前ら……俺はしばらくこの世界より離れる」
エリーが両腕を振り上げて抗議した。
「離れるって、いっつもわたしたちのことを放置してるじゃない?」
「う、うるせー! ともかく、お前らはこのミッションをこなせ!」
エルフの少女が神を睨みつける。
「逃げる気じゃないでしょうね?」
「それこそゲーマーの名誉に関わるからな。俺は逃げないぞ」
「ミッションってなによ? それをすれば、ユーマのためになるの?」
「ああ、気分転換にもなって、一石二鳥だ。そうと決まればさっそく実行あるのみ!」
神の姿は白い空間から消えて、代わりに依頼書の羊皮紙がひらひらと、エリーの手元に落ちてきた。
それを空中でキャッチして、中身を確認した三人の少女は、絶句するのだった。
どこまでも続く広大な畑に、ユーマは鍬を振り下ろす。大地と対話するように、青年は土を掘り返し、柔らかく耕していった。
額から落ちる汗をぬぐいながら、青年は憑き物が落ちたような、すっきりとした笑顔になる。
「こういうのも悪くないな」
攻略街の郊外を開拓した農場で、ユーマたちは農作業に従事していた。
その場にしゃがみ込んで、ミミズをつんつんつつきながらデモダッテが呟く。
「……働きたくない。ボクもミミズになりたい」
シエンも白い手についた泥を叩きながら、肩を落とした。
「泥だらけじゃないの。日焼けもするし……もう! 最悪だわ」
剣を振るう要領と通じるところがあるのか、エリーは次々と畑を耕しては、綺麗に畝を作っていった。
「ここに野菜が実るのね……森を切り開いて畑にするなんて自然破壊……人間的すぎるけど、生産性の向上って聞くと、なんだかはまっちゃいそうだわ。わたしってばエルフなのに、いけない子……」
ユーマが一息ついてから、再び鍬を振り上げた。
「戦いもなくて平和だな。こんな平和な世界を、俺たちは守らなきゃいけないんだ……神さまは、きっと俺たちに普通の平和を知ってほしかったんだろうな」
デモダッテがしゅんと肩を落とした。
「……でも、一週間は長すぎるよ。あっ……ミミズもう一匹いた……つんつん」
こうして時間は流れ、きっちり一週間の労働をこなしたユーマたちは、交神所で久しぶりに神との交神を試みた。
今回は、伝奏師に無理を言って四人全員で神を待つ。
白い空間に神の姿が浮かび上がった。
「うお! 敵襲かっ!? 防空警戒。緊急発艦……って、なんだお前らか」
エリーが牙を剥くように神に吠え立てる。
「お前らか……じゃないわよ! いくら肉体派なわたしでも、一週間も土と戯れさせるなんて、ぜんっぜんご褒美でもなんでもないっていうか
……あのまま、ユーマといっしょに小さな家を建てて、畑の面倒をみながら生きるのもいいかな……なんて、お、思ってないんだからね!」
神が小さく咳払いを挟んだ。
「おちつけエリー。ともかく、お前らががんばったおかげで、畑神珠を手に入れたぞ」
ユーマが首をかしげた。
「なんだその畑神珠って?」
「イベントの神珠の一つだ。所持数制限はあるけど、使う分には、普通の神珠と同じ効果だぞ」
シエンが目を細めた。
「一つ、神珠を手に入れるのにあんな苦労をさせられるなんて、割に合わないわ」
「そういうなシエンよ。つうか、お前らが神珠神珠っていうから、俺もとってきてやったんだよ」
デモダッテが呟く。
「……窃盗?」
「するか!」
シエンの冷たい視線が神に突き刺さった。
「で、何個盗ってきたの?」
「人を……もとい、神を泥棒扱いするなっての。俺はお前らのために……他の世界の神になってきたんだ」
ユーマが目を皿のようにした。
「神さま……もしかして、俺たちの神を辞めるのか? み、見捨てるのか?」
「安心しろユーマ。詳しく説明しても混乱しそうだから、意味がわからないことは聞き流してくれ。
えぇと……神の世界では、どれだけの神がその世界に関与しているかが重要になるんだ。この世界にはそれこそ八百万の神が関与している。そして世界の管理者である『運営』がいるんだ」
ユーマが不思議そうに目をぱちくりさせた。
「ウンエーってのも神なのか?」
「神を統括する存在だ。ウンエーは神たちに様々な世界への扉を開く。が、人気のある世界とそうでもない世界ができてしまう。
そこで、不人気世界にもユーザー登録……もとい、神たちが関与してくれるように、ウンエーはしたいんだ。
不人気世界に関与するだけで、この世界の神珠を無償で支給するという仕組みを編み出したんだよ。この世界は人気のある世界だからな」
「つまり、どういうことなんだ?」
「俺は様々な世界を渡り歩いて、すべての異世界でチュートリアルまでクリア……もとい、ある程度の神格を発揮し、世界を守る手助けをした。その報償としてウンエーより神珠をもぎとってやったのだ!
無料で!」
ユーマの表情が明るくなった。
「なんだかわかんないけど、イキイキ輝いてるぞ神さま!」
「「「……貧乏神」」」」
「こら女子三人! なんだその不満げな顔は」
エリーが代表で口を尖らせた。
「正直に感想を述べたまでよ。それに、神珠を集めても使ってくれなきゃ意味ないでしょ?」
神は大きくゆっくり頷いた。
「もちろん使うぞ。全員そろってるしちょうど良い。おい! 出てこいバッファー!」
神の呼びかけで、白い空間に赤い瞳の小動物が姿を現した。
「なにかご用ですか神さま?」
後ろ足で立って執事のように一礼するバッファーに、神は告げた。
「さっそくだが、ユーマに覚醒の儀式を行う」
「では、神珠を三つに各種覚醒に必要な宝石を頂きます。成功しても失敗しても、これらのアイテムは消滅してしまいますが、よろしいですか?
ちなみに、覚醒に成功しやすくなる大成功ダイスのご利用には、神珠を五ついただきます……が、今回、キャンペーン中なので神珠三つでご利用いただけますよ?」
ウィンクするバッファーに、神は首を左右に振った。
「バカを言え。いくらユーマが高コストな勇者でも、☆2に覚醒するだけなら成功率は80%だ。大成功ダイスでブーストするまでもなく、成功するだろ」
「では、通常ダイスをご用意いたします」
バッファーが前足を天に掲げた。




