「好機を生かせ」その2
翌朝、ユーマたちは朝食を食べるために、早朝の酒場を訪れた。
席について、朝限定のパンケーキセットを注文したエリーがユーマに訪ねる。
「昨日の交渉の結果はどうなったの?」
「ともかく、みんながんばろうぜ!」
エリーだけでなく、シエンとデモダッテも肩を落とした。
「「「……神、使えない」」」
同時に息を吐く三人に、青年は笑顔で返す。
「まずは朝飯をしっかり食べよう!」
そんなユーマたちの隣の席に、四人組がついた。
その四人は……どことなく、ユーマたちと似ている。気づいたユーマが声をあげて指さした。
「なんかエリーみたいな剣士だな」
エリーが隣の席に視線を向けた。すると、鏡のように相手の剣士と目が合ってしまう。エリーは恥ずかしそうに会釈した。相手のエルフの女剣士は、微笑み返す。
「ば、バカ! 知らない人を指ささないの! 失礼でしょ!」
声を殺しながら、エリーはユーマの目をじっと睨んだ。
「お、おう。けど、あっちのエリーはビキニアーマーじゃないな」
エリーがちらりと、隣のテーブルの一行を盗み見る。
パーティーの構成がユーマたちと同じだった。
「勇者っぽい人もいるわね」
エリーの呟きにデモダッテもうなずいた。
「……あっちの僧侶の人、シエンが大人になった感じ」
ちびっ子なシエンの十年後よろしく、落ち着いた雰囲気の女性が僧侶の法衣に身を包んでいた。
シエンが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「フン! あっちの魔法使いなんて、魔法力が溢れ出過ぎて減魔力の拘束具で力を抑え込んでるじゃない。他人のそら似だけど、ずいぶん差があるわね」
「……べ、別にボクだって本気になれば、あれくらいできるし。今はまだ本気出してないだけだし。むしろ、今のボクはみんなには見えない『働きたくない』っていう、拘束具を身につけてるだけだし」
シエンが付け加えた。
「なにより、あっちの魔法使いの子の方が可愛いいわ」
「……ガーンだな」
ユーマたちのテーブルに、人数分のパンケーキセットが運ばれた。それに手もつけず、エリーたちはつい、隣の四人の会話に耳を傾けてしまった。
七色の光彩を放つ全身鎧を身にまとった勇者が、柔和な笑みを浮かべた。
「ついに虹の鎧を手に入れられましたね。これですべての属性攻撃を無効化できます。残るはあと二層。気を引き締めていきましょう」
エリーにそっくりな女剣士も笑顔で返した。
「最初の頃にあなたってコストばかり高くて大変だったけど、高レベル装備がそろってきてようやく報われた気がするわ」
クールな視線をユーマたちに向けてから、魔法使いの少女が呟く。
「……隣のテーブルのパーティー、きっと苦労するだろうね」
大人の包容力を感じさせる、聖女のような僧侶が小さく首を左右にさせた。
「あんまり意地悪を言っちゃいけないわよ。あたしたちはたまたま、神格の高い神のもとに集められたから順調だったの。運が良かっただけなんだから」
虹色の鎧の勇者が深く頷く。
「そうですね。ここまでこられたことを、神さまに感謝しなければいけません」
女剣士が寂しげな顔をした。
「あのコストバカ食いでリストラ最有力候補だったあなたが、なんだかちょっぴり懐かしいわ。今じゃ、私がかばってもらってばかりだし」
「そうでしたね。私は……神への感謝よりも先に、みなさんに助けていただいたことにお礼申し上げるべきでした」
魔法使いの少女が微笑んだ。
「……いいよ。ぼくら、仲間じゃないか」
僧侶の女性がゆっくり頷く。
「誰より強くなっても、謙虚なのね。そういう素直なところは、ずっと変わらないんだから」
ユーマたちは肩身を狭くさせながら、同時にため息を漏らした。シエンが声を漏らす。
「なんだか、向こうの勇者ってユーマくんとは性格がぜんぜん違うみたいね」
デモダッテもうんうん頷いた。
「……超紳士っぽい」
エリーがぶんぶん首を横に振る。
「他人行儀すぎて気持ち悪いわよ! わ、わたしは今のままのユーマの方が……す、すすす、好き……かな」
青年は顔を真っ青にさせていた。
「なあ、もしかして……怠惰の王に勝てないのって、俺のせいなんじゃないか?」
エリーが目を見開いた。
「な、なんでそんなこと言うのよ!?」
「俺ってコストバカ食いなんだろ? 一番コストが高いのに……エリーみたいに安定した攻撃力はないし、シエンみたいに回復でサポートするにも、回復魔法が弱いもんな」
「……ボクよりは働いてるよ」
「デモダッテはすごいって。俺やエリーじゃ歯が立たない怠惰の王に、魔法でちゃんと攻撃を成功させたし……ああ、俺はなんてダメなんだ」
シエンがため息混じりに、笑顔を作った。
「今日は気分が乗らないわ。たまにはお休みにしましょ。ユーマくんには一日、静養を命じるわ」
「え? 休みだって?」
「ええ。これはパーティーの健康管理をする回復役からの絶対命令よ。ユーマくんのがんばりは、誰よりもなによりも神よりも、間近で見てきたあたしたちが知ってるわ。
最近、張り詰めすぎて疲れがたまってたのよ。一日のんびりゆっくり休んで、好きな事をしてらっしゃい。はい、お小遣いよ!」
道具袋からお金を取り出すと、シエンはユーマにお小遣いを手渡した。生存率の高さから、いつの間にかパーティーのお財布を握っていたのは、シエンだった。
「こ、こんなにいいのか?」
「……いいなぁ。ボクもお小遣い欲しい。読みたい本とかあるし……」
シエンが冷たい視線をデモダッテに浴びせかける。
「ダメよ。それと、ユーマについていって、おごってもらうのもなし」
「……えー。なんで? ユーマは可愛いボクとデートしたいよね? 攻略街には冒険者たちがやる気を出すように、いろんなお店があるんだよ? 引きこもりだから、行ったことないけど」
エリーの耳がピクンと反応した。
「で、でででデートですって!?」
シエンがきっちりくぎを刺す。
「二人がそばにいたら、ユーマくんがどこかで気を遣ってゆっくり休めないでしょ。それじゃあ、このあとは自由行動ね。
ユーマくんは今日一日、自分が冒険者だってことは忘れるのよ。酒場と宿舎と浴場以外の冒険者関連施設には行かないこと。交神も禁止。いいわね?」
「お、おう……わかった」
半ば、仲間はずれにされるように、ユーマはお小遣いを握らされて、ひとりぼっちの休日を言い渡されてしまうのだった。




