「仲間を集めろ」その2
時に――王国歴800年。
魔王討伐のために建造された遺跡城塞都市「攻略街」が、魔王城の目前に転移してから一年が経とうとしていた。
街には大陸中から様々な人種が集まり、今もなお増え続け、混沌とした様相を呈している。
大半は人間だが、エルフやホビット、ドワーフに竜族や水棲族。果ては魔王軍から離反した魔族さえもが暮らしていた。
街は魔王城攻略のための橋頭堡であり、攻略の役目を担う冒険者たちは、この世界の希望の星だった。
「というわけなのよ。って、話聞いてる?」
「いやぁ。でかい街だなぁ。すげぇなぁ。いったいどうやって作ったんだ? あっ! あそこの屋台で焼き鳥やってんじゃん!」
「こら! 勝手に行かないの! しつけのなってない犬じゃないんだから」
屋台に向かおうとしたユーマの手をとって、エリーは引き戻した。
「うう、焼き鳥……」
「先にやるべきことをやっちゃいましょ。街の基礎知識を教えて欲しいって言ったのはユーマじゃない?」
「焼き鳥を食べながら楽しくおしゃべりしようぜ!」
「時間的にそんな余裕は無いわよ。で、さっきの話に戻るんだけど……この街は、発掘された遺跡を利用して、王国と教会が改修した、いわば生きた遺跡なの」
腕を掴まれ引きずられながら、しぶしぶユーマは聞き返した。
「あれ? じゃあ、そもそもあった遺跡は誰が作ったんだ?」
「人類の始祖よ。元はエルフも人間も魔族も、みんな同じ種族だったらしいの」
「ゴリラもか?」
「次にその話をしたら……斬るわよ」
エリーがほほ笑むとユーマは目をそらした。
「い、いやぁ。しかし見た目とか結構違うだろ。エルフは耳がとんがってるし、魔族は肌の色が青っぽいし……始祖ってのは、どんな格好なんだ?」
「始祖の背中には羽が生えてて、空を自由に飛べたんですって。信じられる?」
「それって楽しそうだな! どこに行けば会える?」
「何千年も前に始祖は絶滅したそうよ。その時、始祖から派生したわたしたちの先祖は生き残ったの。純粋な始祖だけがかかる病気が蔓延したなんて説もあるけど、本当のことは誰にもわからない。
ちなみに空を飛ぶだけなら、浮遊の魔法があるわ。魔法使いが箒にかけて使ったりしてるわね」
ユーマが瞳を輝かせた。
「それを聞いたら、魔法使いになるのもいいかもって思えてきた。魔法使いかぁ。なんかかっこいいな! クールで冷静で俺にぴったりだ」
「どっちの要素も持ち合わせてないでしょ。あれこそ知識と英知の職業なわけだし……剣士のわたしに色々聞いてる時点で、ユーマに魔法使いの適性があるとは思えないわ」
二人は攻略街の目抜き通りを、冒険者ギルドに向かって歩く。エリーがこれまでの話のまとめに入った。
「ともかく、この街は魔王討伐のための最前線……あっ! 猫ちゃん!」
路地裏の小道から、片手に載るくらいの大きさの子猫が、ぴょんと飛び出してきた。不機嫌そうなエリーの顔が、みるみるうちにトロンと緩む。
「おいでおいでー!」
しゃがんで手を差し伸べると、子猫は足取り軽くエリーに向かってきた。
「きゃー! 超かわいい!」
子猫はエリーの手をすり抜けて、ユーマの足下にぴたりと寄り添った。瞬間――。
「ヘ、ヘアッ……ハックション!」
突然の大きなくしゃみに驚いて、子猫は全身をびくつかせたかと思うと、一目散に元来た小道に逃げ込んでしまった。
「あ! 行かないで! ちょ、ちょっとユーマ! 猫ちゃん逃げちゃったじゃない?」
「へアックション!」
「き、汚いわね。風邪でもひいてたの?」
エリーがハンカチを手渡すと、ユーマは鼻をかんだ。
「猫は苦手なんだよ! 釣った魚はもってかれるし、くしゃみは出るし。あ! これありがとな」
「普通、鼻水たっぷりのハンカチを返却する?」
「えっと、じゃあ洗ってから返す」
「返さなくていいわよ。もうっ!」
エリーはユーマにハンカチを押しつけて、肩を落とした。
「田舎から出てきたばかりにしても、常識がなさ過ぎるわよ」
「すみません」
「真顔で謝られると調子が狂うじゃない。はぁ……ともかくギルドで冒険者登録しましょ。やることはいっぱいあるわよ。今日は一日、タフなスケジュールになるから覚悟しておきなさい」
「わかった。えーと、エリー。あの……その」
青年はぽりぽりと、ほっぺたを指で掻いた。
「なに? 言いたいことがあるなら、はっきり言ってちょうだい」
「エリーと出会えなかったら、この街にたどり着けたとしても、俺は右も左もわからなかった。だから、本当にありがとう」
「そ、そういうの別にいいから。ほ、ほら、着いたわよ!」
顔を真っ赤にさせたエリーに手を引かれて、ユーマは冒険者ギルドの建物内に足を踏み入れた。
待合室で冒険者登録を済ませたエリーは、ソファーに座ったまま、ぼんやりと虚空を見上げていた。その手には発行したての冒険者免許があった。
「……わたしのコスト……低すぎ。ランクも☆4なんて……」
「なあエリー。コストってなんだ?」
突然、エルフの少女の顔をユーマがのぞき込んできた。
「い、いきなり話しかけてこないでよ! びっくりするじゃない。それで、そっちは冒険者登録終わったの? ちゃんと適職診断もしてもらった?」
「ばっちりしてもらったぞ」
「おめでとう。これで無職卒業ね。どんな職業だったの?
あ! 言わないで当てるから! えっと……神秘と信仰心の僧侶って感じもしないし、剣を振るうだけの腕力があって、誰かを守りたいって意思もあるから、ずばり……戦士でしょ?
剣士と違って盾が持てるのよね」
ユーマは首を左右に振った。
「え? 違うの。じゃあわたしと同じ剣士かしら?」
「勇者だってさ。なんか勇気だけしか取り柄がないって感じで微妙だよな。職業っぽくないし、勇者って限りなく無職に近いんじゃないか?」
「へぇ~~そうなんだゆう……勇者!?」
エリーは目を皿のように見開いた。ユーマが頷く。
「魔法使いの方が良かったんだけどなぁ。ま、どんな職業になってもベストを尽くすしかないか」
「そ、そうね。それにしても勇者って……珍しいかも」
「なんかまずいのか?」
「ううん。ただ、あんまりいないから驚いてるのよ。けど、あなたの性格を考えると、あり得るかもしれないわ。それでランクはいくつよ?」
「なんだそりゃ?」
「冒険者免許に書いてあるでしょ?」
ユーマは腰に下げた道具袋から免許を取り出して確認した。
「この☆のことか? 一つしかないな」
「☆1……ま、まあ当然よね。それで当然、レベルも1よね」
冒険者免許には、職業、ランク、レベル、コストの四項目が書かれていた。ユーマはレベルの欄を見て頷く。
「千里の道も一歩からだな。それで、エリーのレベルはいくつなんだ?」
「レベル7って認定されたわ。ランクは☆4よ」
「なんかごちゃごちゃしてるんだな。レベルとランクってなにが違うんだよ?」
「レベルっていうのは、冒険者ギルドが認定するその人の総合的な戦闘能力のことよ。高いほど強いってことね」
「じゃあランクは?」
「その職業そのもののレベルって感じね。たとえば同じ剣士でも☆1のレベル10と☆2のレベル10だと、☆2のレベル10の方が強いのよ」
「じゃあ☆1のレベル10と、☆2のレベル1だとどっちが上なんだ?」
「そのままの状態なら、☆1の方が強いわね。けど、☆1のレベル10って成長の限界なの。☆2ならレベル20までは上げられるわ。ランクはレベル上限って覚え方でいいかもしれないわね」
ユーマはうんとうなずいた。
「つまり、どっちも高い方がいいんだな」
「コストの関係でそうとも言い切れないんだけど、ひらたく言えばそうなるかな」
「コストってなんだ?」
「えっとね、魔王城の攻略には、どうしてもつきまとう概念なんだけど……今はとりあえず、コストは低いほど良いって憶えておいて。本当は高い方がいいんだけど」
「高いのがいいのか、低いのがいいのか、その言い方だとよくわからんぞ。俺のコストの80って低いのか?」
「え? 8の間違いじゃないの?」
ユーマは冒険者免許をエリーにつきつけた。
「ほら? 免許に80って書いてあるし」
「……む、無茶苦茶高いじゃない」
「高いとやっぱりまずいのか?」
「これはちょっと困ったことになるかも……えっと、コストの説明をするためにも、攻略街ができるまでについて、もう少し説明しなくちゃいけないわね」
エリーは待合室の椅子に座って、隣の席をぽんっと軽く叩いた。
「ちょっと長くなるから、座って話しましょ」
青年が隣に座ったところで、エリーはうなずいた。




