「好機を生かせ」その1
怠惰の王に対峙して、デモダッテが一歩前に出ると、ステッキをかざして魔法を放った。
「……中級中範囲火炎魔法。えい!」
突進してきた怠惰の王の足が止まる。
ウゴオオオオオオオアアアアア!
炎の柱に巻き込まれて、怠惰の王は吠えた。
「……やった……かな?」
ぷすぷすと煙をあげながら、怠惰の王はゆっくりと視線をデモダッテに向けると、再び突撃した。
すでに、ユーマとエリーは霊魂化し、シエンは迷宮の外に飛ばされたあとだった。
「……残念」
怠惰の王の突進にデモダッテは蹴散らされる。
――パーティーは全滅しました――
今日もユーマは正座させられていた。酒場のテーブルには、今日もシエンが飲み過ぎて青い顔になりながらつっぷしている。
エリーがユーマにダメ出しをした。
「なんで怠惰の王を見るとつっこんでいっちゃうのよ?」
「レベル10になったんで、いける気がした!」
外郭迷宮第一層に通い詰めたユーマは、☆1の成長限界に達していた。
デモダッテはレベル5になり、エリーはレベル9に上がっていた。
「で、実際にいけてなかったわけだから、今後は地下五階の探索中に怠惰の王にあっても、逃げるようにするのよ」
「わかった。俺、がんばるぜ!」
「これ以上がんばっても、覚醒でランクを上げなきゃユーマの成長は頭打ちなんだけど……はぁ」
エリーが困ったように眉を八の字にさせる。
「じゃあ、どうしたら強くなれるんだ?」
「覚醒に成功するか、強い装備を手に入れるしかないわね」
「エリーみたいにか?」
「ちょ、ちょっと! まじまじと見ないでよ。胸とかおへそとか……ユーマの……エッチ」
デモダッテがぽつりと呟いた。
「……たぶん、よくわかってないよユーマ」
エルフの少女は肩を落として息を吐く。
「この鎧……回避と防御は上がってるけど、魅力は全然上がってないじゃない」
ユーマがじっとエリーの顔を見つめた。
「そろそろ立っていいか? 足がしびれてきたんだけど」
「しょうがないわね。いいわよ」
デモダッテが小さく笑う。
「……最初は、ユーマが正座するのを人に見られるの、恥ずかしがってたのにね」
「俺もすっかり、正座反省が板に付いたってことだな!」
エリーがほっぺたを膨らませた。
「そういうところで自信をつけないで!」
席に着いたユーマが腕組みをする。
「さてと、じゃあどうやって怠惰の王を倒してやろうか?」
エリーが自分の眉間のあたりをつまんだ。
「今、戦わないって言ったばかりなんだけど?」
「けど、方策もなしにこのままってわけにはいかないだろ? どのみち倒さなきゃいけないんだし」
「それはそうだけど……じゃあ、考えてみましょう。まず、シエンばっかり外に飛ばされる理由がはっきりしてないわね。
それに、仮にシエンが飛ばされなかったとしても、今のわたしたち前衛の武器じゃ、あの外皮にどうしても阻まれちゃうのよね」
主な問題点はこの二点だった。
デモダッテが、えへんと胸を張る。
「……ボクの魔法、ちゃんと効いたよ」
「その一撃で倒せれば、苦労しないわよ。前回は運良く怠惰の王まで魔法力を温存できたけど……っていうかデモダッテは、まだ二回魔法が使えるくらいの魔法力にならないの?」
「……うん。これくらいのレベルアップで、ニートを社会復帰させることは難しいよ」
エリーは酒場の天井に向かって口を尖らせた。
「やっぱり、全ての原因はあの貧乏神にあるわ。だいたいあの神が本気になれば、今の状況でも、倒そうと思えば倒せるのよ」
青年が首をかしげた。
「助っ人の力を借りるのか?」
「そうしなくても、貧乏神が湯水のように、じゃぶじゃぶと神珠を使えばいいのよ。
全滅してもその場で復活して、デモダッテが魔法を撃って、また全滅してから復活して、全快したデモダッテが魔法を撃って……ふふ、ふふふ! 完璧じゃない」
ユーマが困ったような顔っで、背もたれにもたれかかった。
「なんだかなぁ。助っ人に頼るよりもひどくなってる気がするんだが……。よし、今夜も交神して、俺から神さまを説得してみる」
「い、今の案はあくまで一例よ。期待しないで待ってるわ。それじゃあ、夕食にしましょ? 今日はスペシャルメニューのオムライスですって」
「……やった。ボク、オムライス大好き」
「ここのメニューって、異界に住んでる神さまたちが作り方を教えてくれた料理なんだってな?」
「ええ。不思議で美味しい料理が食べられるのだけは神、様々ね」
エリーが笑顔になって、ユーマは心の中でほっと安堵の息を吐いた。
ユーマは白い空間で空を見上げた。
「と、いうわけなんだ神さま。全滅と復活を繰り返せば、怠惰の王を倒せるぞ!」
「お前はそれでいいのかよ?」
「よくない! けど、俺はもう、今のままじゃレベルも上がらないし……神さまの奇跡が必要なんだ!」
「いいかユーマ。奇跡を使うには金がかかるんだ」
「じゃあ、俺たちが迷宮で手に入れた宝石を、全部神さまにあげるから!」
「ゲーム内通貨じゃなくてリアルマネーなんだけどな。えっと、いいかユーマ。神の世界の金は、そっちの世界の金とは違うんだ」
「じゃあ神さまの貧乏神っぷりは、どうすることもできないのか? 俺にできることがあれば、なんでも協力するぞ!」
「気持ちだけ受け取っておいてやる。そもそも俺はごく普通の高校生なんだし……親がお金持ちな誰かさんとは違うんだ」
ユーマは首をかしげた。
「神さまの言ってることが、よくわからないんだけど。コウコウセイ? 神にもランクがあるのか?」
「あぁ……いや、こっちの話だ。ともかく、俺みたいに神格が低い神もいれば、女神みたいな課金してコスト容量も神格以上にあげまくってる廃神もいる。
俺に女神みたいな大盤振る舞いを期待されちゃ、困るんだ」
「わかった。ごめんな神さま。俺も神さまを頼ろうとしてばっかりで……あ! 神さまも自分の神格が低いことなんて、気にすんなよ? 俺たちは大丈夫だからさ!」
「そんな悲しいフォローすんな! 目から汁が出るだろ」




