「あいつに任せろ!」その2
白い空間に、神の姿が浮かび上がった。
「おう、どうしたユーマ?」
「今日は怠惰の王のとこまで行った……けど、勝てなかった」
「そうか。気を落とすな。しかしまぁ、五階まで探索の行動範囲に入れないと、良い宝石が手に入らない。とはいえ、五階だと怠惰の王とエンカウントする……か。よく出来てるな……まったく」
「あの、納得してるとこ悪いんだけど、神さまにお願いがあるんだ!」
「神珠を使って回復だの復活は無理だぞ。今はちょっと……理由があって使えないんだ」
「そうじゃなくて、あの……ゆ、友神だよ神さま!」
「お前、それも酒場で仕入れた情報か?」
「おう! 友神に助っ人を出してもらえるんだろ? そうなんだろ?」
「そう……らしいな。よく知らんけど」
「知ってくれよ神さま!」
「神さまにだってわかんないことはあるんだよ。あと、理解したくないこともな!」
「なんでそんなに友神の話を嫌がるんだ? やっぱり、神さまって、友達がいないのか?」
「うおおおおおおお! やっぱりってなんだよやっぱりって!」
「なんか、そんな気はしてたんだ。なあ神さま。友神作れよ。自分から飛び込んでいかないと、ずっとひとりぼっちだぞ?」
「命令形かよ! 哀れむなよ! まったく簡単に言ってくれるな。縛りをほどくのって、なんか敗北感たっぷりだし……いいか、俺は友達がいなくて友神システムをスルーしてたんじゃないんだ。
一人でこつこつレベル上げをして、強くなったあとボスをさっくり倒してほっこりするのも、楽しみの一つなんだよ」
「なに言ってるかよくわかんないけど、俺は神さまのこと信じてるぜ。大丈夫だって。神さまならきっと、ぼっちを卒業できる!」
「ぼっち言うなぁ! わ、わかったそこまで言うなら……見せてやるよ。俺の本気ってやつをな。ともかく、誰でも良いから友神作って、どんなやつでもいいから助っ人を借りてくりゃいいんだな?」
「や、やってくれるんだな神さま! さすが神さまだ!」
「どんなに弱い助っが来ても、文句言うなよ。いいな?」
「任せろ! なんかわくわくしてきたぞ」
◆
神「というわけなんだ。まあ、別にランダムの助っ人でも良かったんだけどな。ほら、よく知らない奴と友神登録して、そいつが地雷だったり『一番強いのを出せ』とか、粘着してこられても困るし……」
女神「心配しすぎじゃない? あ……けど、そうかもしれないわね。最初の友神には、リアルで知り合いの方がいいと思う。じゃあさっそくID交換しましょ」
神「あ、ああ、ありがとな。それにしても、ずいぶん馴れてるっていうか、ゲームのことを勉強したみたいだな?」
女神「結構おもしろくてはまってるのよ。そうね。どんなキャラを助っ人に出せばいいかしら?」
神「あー。じゃあ……そこそこのを頼む。同じ時期に始めたし、たぶん戦闘力も同じくらいだろ?」
女神「一番強いのを出せって言わないんだ」
神「俺は節度あるゲーマーだからな」
女神「遠慮しなくてもいいじゃない。一番強い子を出してあげるわ」
◆
翌朝、ユーマたちが冒険者酒場に集合すると……四人を待っていたのは白金の全身鎧に身を固めた、金髪碧眼の美女だった。
美女はユーマを見つめてから、開口一番ため息を吐く。
「貴方がユーマさんかしら? なんてみすぼらしい装備ですの。勇者の名が泣きますわね」
美女が腰に下げている剣に、エリーが悲鳴をあげた。
「そ、そそそ、それ……女神の聖剣じゃない!」
ユーマがきょとんとした顔のまま聞いた。
「も、もしかして助っ人か!?」
美女は微笑みながら頷いた。
「わたくしが、☆7の聖十字魔法大元帥のセリーヌですわ。レベルもカンスト間近の69でしてよ」
デモダッテが目をつぶった。
「……見えない。ボクには超一流の冒険者がまぶしすぎて見えないよ」
シエンがセリーヌを上から下まで値踏みするように確認する。
「装備も最強クラスで、☆7……覚醒成功者……ゆ、許せない」
ユーマが一歩前に出て、手を差し伸べた。
「今日はよろしくなセリーヌ。俺はユーマ。ビキニアーマーの彼女が剣士のエリーで、働きたくない系魔法使いのデモダッテと天才ちびっ子僧侶のシエンだ」
「あらあら、ビキニアーマーだなんて、ずいぶんと趣味装備ですのね。着せている神の趣味か、よっぽど財政難ですのね。しかもエルフだなんて……ふふふ、あら失礼。お気を悪くなさらないで」
「ちょ、ちょっと! 喧嘩売ってるの?」
「いいえ。同情して差し上げているのですわ。それとも、その装備に誇りをお持ちな露出狂かなにかですの?」
「わたしだって着たくて着てるんじゃないわよ! うちの貧乏神が変な装備を引き当てたのが悪いのよ!」
「あらあら、では財政難ですのね。神格の低い守護神を持つと、へんた……大変ですわね」
セリーヌは小さく鼻で笑うとユーマに向き直った。
ユーマは握手のために差し出した手を、出しっ放しにしている。
「なあセリーヌ! 握手しようぜ!」
セリーヌが握り返してこないとわかると、ユーマの方から彼女の手をとった。
「あら、ずいぶんと強引ですのね。それで、何層のどの迷宮に行くのかしら?」
ユーマはハキハキとした声でセリーヌに告げた。
「第一層だ!」
セリーヌが目を丸くさせて口を開く。
「初心者向けの迷宮で、わたくしに剣を振るえとおっしゃるの? コスト80の勇者とうかがっていたので、共闘を楽しみにしていましたのに……とても残念ですわ。
まあ、わたくしもコスト60ですけれど、安心なさい。助っ人のコストの負担は、わたくしの女神がきちんとこなしますから。貧乏神に勇者と聖十字魔法大元帥は重すぎますでしょ?」
「なんかよくわからんけど、ありがとう! ところでセリーヌ、聖十字魔法大元帥ってなんだ? 剣士なのか?」
「ただのハイレベルな器用貧乏ですから、勇者の貴方と比べられると肩身が狭いですわ。
簡単に説明すると、わたくし自身が僧侶の回復力と戦士の防御力に、剣士の攻撃力を持つ聖十字騎士であり、一流の魔法使いにして指揮能力を持つ元帥なのです」
エリーがぎゅっと、爪が手のひらに食い込むくらい強く拳を握りこんだ。プルプルと小刻みに震えながら聞く。
「へ、へぇー。器用貧乏っていうのね、それ」
「ええ。それぞれの職業で己の特化された方には、笑われてしまう能力ですもの。そんなわたくしですけれど、本日はよろしくお願いいたしますわ露出狂……もとい、エリーさん」
「う、うるさいわね! 見せてあげるわよ特化した剣士の美技を!」
普段冷静なシエンまで、ムッとした顔で呟いた。
「そういう態度でいるなら、あたしにも考えがあるわよ」
「あら、お気遣いなく。僧侶の貴方に負担はおかけしませんわ。
わたくしの鎧には聖なる守護の魔法が掛かっていて、各種の状態異常や即死魔法からわたくしを守るようになっておりますし、わたくし自身、回復魔法も嗜んでおりますから」
ちびっ子僧侶が悔しそうに奥歯をギリギリ噛んでから吠えた。
「回復魔法は嗜む趣味じゃないわ。実践的な魔法よ! それに、いくら守護が厚くても、うっかり死ぬ可能性はあるでしょう?」
「それでしたら、こちらの救世のロザリオが、一度だけですが自動蘇生をしてくれますわ。あら、みなさんお持ちでないようですのね」
エリーとシエンが目を血走らせている横で、ユーマとデモダッテは「おぉ~」と、感嘆の声をあげていた。
デモダッテが目をキラキラさせてセリーヌに告げる。
「……ボクをお嫁さんにする権利をあげるよ」
「貴方、女の子ですわよね? そういう趣味はありませんの」
ユーマが無邪気に笑った。
「よくわかんないけど、心強いぜ。じゃあ、出発しよう! えいえいおー!」
「……おー!」
ユーマに応じてときの声を上げたのは、デモダッテだけだった。




