「あいつに任せろ!」その1
怠惰の王が支配する、外郭迷宮第一層。その地下五階でユーマたちは、再び迷宮の主と対峙していた。
ユーマが剣を構えて吠える。
「もう、前みたいに簡単にやられたりしないからな! 俺たちは強くなった。それに、エリーはビキニアーマーだ! もう一度言うぞ。エリーはビキニアーマーだ。観念して倒されろ!」
エリーが顔を真っ赤にさせて、剣を抜く。
「なんで二回も言うわけ?」
「重要なことだから復唱したんだ!」
二人のやりとりの間に、怠惰の王の瞳が臨戦態勢を整えるように赤く染まる。先手必勝とばかりに前衛二人が斬りかかると……。
ガキーンッ! と、金属の塊を切りつけたような鈍い金属音が地下通路に響き渡った。ユーマの剣もエリーの剣も、怠惰の王の外皮に易々と弾き返される。
デモダッテが魔法のステッキを構えて呪文を唱えようとした。
「……中級中範囲火炎魔法……しかし魔法力が足りない」
地下五階にたどり着くまでの戦闘で、デモダッテの魔法力も空っぽだ。レベルは上がっているものの、結局一回魔法を使えば、彼女はただの人になってしまう。
「……神が回復してくれないのが悪いんだよ」
グルアアアアアアアアアアアアアア!
と、雄叫びを上げてつっこんできた怠惰の王にはねられて、デモダッテはあっさり霊魂化した。エリーとユーマが怠惰の王の背後から斬りかかる。
だが、全身を覆う硬い鎧のような外皮は、二人の剣をまったく寄せ付けない。
シエンがデモダッテに蘇生魔法をかける……と、怠惰の王の瞳の色が青く染まった。
「上級蘇生魔法! もう一回囮になんなさ……あ、あれ? またあたしなの!?」
シエンは今回も、怠惰の王の魔法によって迷宮の外に転送されてしまった。
ユーマが吠えながら、怠惰の王を斬りつける。
「どうしてシエンばっかりなんだよ!」
剣の方が折れてしまいそうな硬さに、ユーマの手がしびれる。
エリーは怠惰の王の関節部分を狙って突きを放ちながら、ユーマに返した。
「あれって、もしかしたら蘇生魔法に反応してるんじゃない!?」
関節部への精度の高い突きも、外皮を攻撃するのとまったく変わらない硬さだった。
「じゃあ、俺たちのうち誰も死ねないってこと……うわああああ!」
怠惰の王が丸太のような腕を振るった。デモダッテが自分から飛び込んでいってユーマをかばう。
「……二人とも、逃げた方がいいかも」
蘇生後、即座に霊魂化したデモダッテの言葉に、エリーはうなずいた。
「悔しいけど、前回とこれじゃあ同じね。対策を立てないと……今は逃げましょうユーマ!」
青年は首を左右に振ると、怠惰の王に向かっていった。
「せめて一太刀くれてや……嘘だろおおおおおおおお!!」
「無茶よ! 逃げま……きゃああああ!」
身構えた怠惰の王が、ごろごろと二人に向かって転がってきた。狭い通路で逃げ場もなく、ユーマとエリーは巨大鉄球のような怠惰の王に潰されて、同時に霊魂化したのだった。
――パーティーは全滅しました――
ユーマは酒場の床に正座させられていた。
エリーがほおをパンパンに膨らませている。
「なんで逃げなかったのよ? まあ、逃げ切れたかっていうと、疑問だけど」
顔を上げてユーマはまっすぐな眼差しでエリーに告げた。
「前回、戦った時とは違うってところを、怠惰の王に見せたかったんだ。俺たちはいつまでも、やられっぱなしじゃないぞ! ……ってな」
シエンはすでにやけ酒ならぬ、やけミルクの飲み過ぎで眠りこけていた。
デモダッテが呟く。
「……前と一緒だったね」
ほっぺたから空気を抜いて、エリーは頷いた。
「そうね。っていうか、二回ともシエンが狙われたのって、どういうことなのかしら?」
「……もしボクが迷宮の主で、一回だけ敵パーティーの一人を外に飛ばせるとしたら、やっぱりシエンを狙うと思うよ。回復役がいなくなれば、どんなに強いパーティーでも戦線が維持できないし」
珍しく、デモダッテが建設的な意見を出した。エリーが肩を落とす。
「持久戦じゃなく、短期決戦で倒すしかないか……」
青年が頷いた。
「よし、それでいこう!」
エリーが再び肩を落として首を左右に振る。
「自分で提案したけど、現実的じゃないわね。わたしとユーマの剣は通じてないし、デモダッテの魔法も途中でどうしても使っちゃうし」
「俺とエリーだけで地下五階まで、全部の敵を倒せるくらいに強くなろう」
エリーは恨めしそうに酒場の天井を見上げた。
「もうちょっと、あの貧乏神が奇跡を使ってくれれば楽なのに……」
ユーマが正座したまま腕組みをする。
「神さまは神珠をもってるっぽいけど、使ってくれる気配はないし。正直、困ったな」
「困ったな……じゃないわよ! 悔しいけど、最終的には、わたしたち前衛の致命的かつ決定的な火力不足が原因なのよね。
たぶん、あの鎧みたいな外皮は、ある程度の攻撃を無効化してしまうのよ。どうにかして、その一線を越える攻撃力が必要だわ」
「エリーならできるんじゃないか? 剣士は攻撃の専門家なわけだし?」
「よ、よくわかってるじゃない? けど、相性が悪いのよ。わたしが得意な連続攻撃って、一撃の威力は低くても、手数で勝負する……って感じだから。
戦士の大槌使いとかなら、力を溜めた一撃であの外皮を突破できそうだけど……」
「じゃあ、エリーが大槌を使えばいいんじゃないか?」
「それじゃあ剣士じゃなくて槌士でしょ。そんな職業あるか知らないけど……」
ユーマはゆっくり立ち上がった。
「俺たちはまだまだ修行が足りないんだろうな。明日から、また特訓だ!」
「……うん。がんばって」
他人事のように呟くデモダッテに、エリーは怒る気力すらなくして告げた。
「物理攻撃が効きにくい相手には、あなたの魔法がすごく有効でしょ。もしかしたら、魔法で攻撃することで、あの外皮を一時的に無効化できる……なんてこともあるかもしれないし。
がんばってじゃなくて、一緒にがんばりましょ」
「……エリーがなんだか、ユーマみたい。前向きさが伝染した?」
「落ち込んでても、なにも始まらないものね」
エリーが胸を張ると、水蜜桃がゆさっと上下した。
「ZZZZ……おっぱいおかわりぃ! ZZZZ……」
シエンの寝言にエリーの顔が赤くなる。ユーマが気にせず笑った。
「そうだな。がんばろうぜエリー!」
明日からの方針を決めたユーマたち……の隣の席に、他の冒険者の一行がやってきて、テーブルを囲むと談笑を始めた。迷宮探索の成果があったらしく、全員が笑顔だ。
「今日は本当にありがとうございます。助かりました」
「いえいえとんでもない。お手伝いできてこちらこそ、光栄です」
一行は……五人組だった。
「しかし、友神の助けがあると、まったく違いますなぁ」
「是非、今度は我々の旅の友となっていただきたい」
「おお、もちろんですとも。うちのパーティーでしたら、誰が良いでしょうか?」
「魔法使い殿に手助けしていただきたいのです。少々、属性で手こずる魔物がおりまして。我らの魔法使いとともに、連中を蹴散らしてくださいませ」
彼らは四人組と、違うグループの一人の混成パーティーのようだった。エリーの尖った耳がピクンと反応する。
「ね、ねぇ……どういうことなの?」
眠っていたはずのシエンが、突然顔を上げた。
「友神からの助っ人れしょう? 前のパーティーで何度か助っ人、きれらわよぉ。ろくに働かないれ、報酬泥棒もいいところらけろぉ!」
ユーマがシエンの両肩を前から掴んで揺らした。
「な、なあシエン! 詳しく教えてくれ!」
「やぁん。そんなにぶるんぶるん揺らしたらゲロっちゃうわよぉ」
「そうだ。情報をゲロってくれ!」
「あたし今日はもう、限界らからぁ……神にれも、聞いてみればぁ」
ユーマはそっとシエンを放すと、瞳を輝かせた。
「助っ人か……五人で戦ったら、きっと勝てる!」
エリーが肩をすくめさせた。
「そういうものかしら。逆に、一人多くなることでシエンの回復が追いつかなくなったりするかもしれないし、一概に戦力アップが期待できるとは言えないわよ」
デモダッテが頷いた。
「……ボクより働かない助っ人が来たら、ボクが働くことになる……死にたい」
心配するデモダッテの頭を軽く撫でると、ユーマは二人に「じゃ、さっそく行ってくる!」と言い残して、今日も伝奏師の元へと走るのだった。




