「仲間を集めろ」その1
腰の得物は「見た目だけでも用心棒っぽく見えるから」と、人に持たされたものだった。それでも身体は勝手に動き、青年は山賊の放った一撃を長剣で受け止める。
「うおおおおおおおりゃあああああ!」
剣を押し返しながら、青年は威嚇するように叫んだ。
助太刀に入ったのには理由がある。
襲われていたのはエルフの女剣士で、相手は山賊の男が五人だった。
街道とはいえ、元は魔王の支配地域だけあって、未だに無法地帯である。
青年はこれまで世話になった行商人の馬車から飛び降りて、女剣士に加勢したのだ。
山賊の頭目が青年を睨みつける。
「ガキはすっこんでろ」
「断る! 襲われてる女の子を見捨てられっか」
威勢の良い青年をかばうように、エルフの女剣士が前に立った。
「逃げなさい。あなたには関係ないことでしょ?」
「素直に助けてくださいって言えばいいのに。怯えた目をしてるぞ?」
「ちょ、ちょっと押され気味なだけよ。集中できれば、こんなやつら敵じゃないわ」
山賊の一人が、剣の切っ先を青年に向けた。
「そっちの女の方から仕掛けてきたんだ! うちの団員が何人やられたとおもってやがる。それにそいつはエルフなんだぞ! 人間を裏切ったエルフをかばう義理なんてないだろ!」
青年は剣の切っ先を突きつけ返した。
「そんなこと知るか。つうか山賊をしてる方が一方的に悪いに決まってるだろ」
山賊の頭目が鼻で笑った。
「俺らは山賊じゃねぇ。自警団だ。いいか? そもそもここらは俺らの縄張りだったんだ。街ごと魔王城の前まで押しかけてきて、挨拶もなしってのは、ちぃとばかり地元民に冷たくねぇか? 関税ってやつだよ」
青年は視線をエルフの女剣士に向けた。
「マジか? お前って、可愛い顔して、世の中の自警団を殺して回る物騒な人なのか? 自警団に親でも殺されたのか!?」
「か、可愛いだなんて……じゃないわよそんなことするわけないでしょ! 山賊の言うことなんて本気にしないで。こいつらはただの略奪者よ。試験で討伐されるのにうってつけの悪党なんだから」
青年はほっと胸をなで下ろした。
「なーんだ、びっくりした……って、試験ってなんだ?」
「まさか、なにも知らないで飛び込んできたの?」
目をまん丸くさせたエルフの女剣士に、青年はうんとうなずいた。
「あなた、攻略街を目指してるんでしょ? 出身はどこ?」
「大陸東端の港町辺りだけど。魚が超うまいんだ」
「はぁ……つまり、お上りさんってわけね」
山賊の頭目が二人に吠えた。
「お取り込みのところ申し訳ねぇんだが、とりあえずにーちゃんよ。死んでもらうぜ。女の方は色々使い道があるんでな。エルフはその手の好事家に高く売れるんだよ」
殺すなよ。と、頭目が部下に視線で合図を送る。エルフの女剣士は息を吐いた。
「どうやら逃げられそうにないわね」
青年は笑顔になった。
「だったらますます戦うしかないな。俺はどいつの相手をすればいい?」
「殺されるかもしれないのに、笑ってられるなんてずいぶん自信家みたいだけど、ここはわたしの背中を守ってちょうだい。目の前でうろちょろされたら集中できないから」
「わかった。背中はまかせろ! ばっちりお前を守ってやるよ」
「そ、そこまで言うなら信頼してあげなくもないわ」
山賊の部下たちが一斉に襲いかかってきた。
「背後さえ取られなければ、あなたたちなんて敵じゃないのよ」
一分とかからず、エルフの女剣士は四人の山賊を倒してしまった。青年は言われた通り、彼女の背後から斬りかかろうとする山賊を牽制する……ので手一杯だ。
本当に、背中を守るだけだった。なのに、自分の仕事に満足したように青年は胸を張る。
「どうだ! 俺の力を見たか!」
「見たか! じゃないわよ。一人も倒せてないじゃない」
「実はさ、剣で戦うのこれが初めてなんだ。そのわりにはけっこうがんばっただろ?」
青年は爽やかな笑顔で女剣士に告げた。
「へ、へぇ。普段はどんな武器を使ってるのかしら?」
「釣り竿かな。地元じゃ世界を釣る男とまで言われてたんだぜ」
瞬間、女剣士の目がつり上がった。
「武器の種類を聞いたんだけど?」
「刺身包丁よりでかい刃物はもったことがないぞ」
「自殺願望でもあるわけ!? よく今まで無事でいられたわね?」
「そんなに怒んなって。俺がいて助かっただろ?」
「それは……そうと言えなくもないけど……」
「結果オーライだな」
エルフの女剣士は軽く眉間をつまんだ。
「わたしがか弱いお姫様で、山賊から逃げてただけだったら……あなた死んでたわよ」
「お前を逃がす時間稼ぎくらいはできたさ」
剣を鞘に収めて青年は腕組みした。エルフの女剣士は肩を落とす。
「どこからその自信が出てくるのよ。無謀すぎるわ。まったく……成り行きとはいえ、これであなたも冒険者試験を合格しちゃったわね」
青年は首をかしげた。エルフの女剣士はするどい視線で、残った山賊の頭目を睨みつける。
「で、そっちはどうするの?」
「きょ、今日の所は勘弁してやる!」
月並みなセリフを残して、頭目は森の奥へと走り去った。青年が聞く。
「追わないのか?」
「あいつを倒しても、他の誰かが山賊の頭目に成り代わるだけよ。ところで、お互いにまだ名乗ってなかったわよね。わたしはエリー。剣士よ」
「ユーマだ。釣り人をしてる」
「それは冒険者的な職業じゃなくて、一般職の方でしょ。街を出る時に、冒険者ギルドで適職診断をしてもらってないの?」
ユーマは腕組みしたまま「う~~ん」と唸る。
「無いな。釣り人で良いと思ってた」
「良くないわよ! 無職なのに攻略街に来たわけ?」
「無職じゃねぇ釣り人だっての! ともかく、全世界的に魔王をどうにかしなきゃならないんだろ? 俺にも何かできないかと思って、はるばる大陸を横断してきたんだ」
「無職なのに魔王討伐をしようなんて、ある意味すごいわね」
「無職と連呼しないでくれ。じゃあそのギルドってところで、適職診断をしてもらえばいいんだろ? 俺ってどんな職業に向いてるんだろうなぁ。きっとすごいやつに違いないぜ!」
「その自信の根拠はどこにあるわけ?」
「俺は前向きな性格なんだ」
「はぁ……そう。まあそうでもなかったら、一般人が魔王討伐に名乗りを上げたりしないわよね。とりあえず剣は振るえるみたいだし、剣士か戦士向きなんじゃない?」
エリーはうつむきながら、もじもじと膝をすりあわせつつ付け加えた。
「それはそれとして……あの……ちゃんとお礼しておきたいから。さっきは助太刀してくれてありがとう」
「おう! 当然のことをしたまでだ。しっかし、エリーってすごく強いんだな。親戚にゴリラでもいるのか?」
「うん、母方の親類が歴戦のメスゴリ……エルフよエルフ! わたしのどこにゴリラ的な要素があるのよ! 今のは……あなたが後ろにいてくれたから、わたしは目の前の敵に集中できた。それだけよ」
顔を上げると、エリーはほっぺたを赤らめながら興奮気味にユーマに提案した。
「もし、本当にあなたさえ良ければなんだけど、わたしと一緒に行かない?」
「わかった。行こう。すぐ行こう今行こう! 悪い魔王をこらしめに!」
「誘ったこっちが驚くくらいの即決ね」
「エリーは色々詳しいみたいだし、願ってもないからな」
「ほ、本当にいいの? わたし、エルフなのよ?」
「つうか、エルフのなにが問題なんだ? やっぱり実はゴリラなのか?」
「ゴリラじゃないわよこの無職」
思い詰めたような顔をして、エリーは肩を落とした。
「気にしない人間の方が珍しいから、ちょっと驚いただけよ。ユーマが良いなら、問題無し。わたしも人間のあなたがいっしょにいてくれると、なにかと助かるし」
エリーは道具袋の中から小さな宝石を取りだした。それを倒した山賊にかざす。
「なにしてんだ?」
「え? まさか映写石も知らないの?」
ユーマは珍しそうに透明な宝石を見つめた。
「この石で山賊討伐の証拠を撮影するのよ」
エリーが石をかざして「その姿を写し捉えよ」と呟くと、石は黒っぽくすすけた色に変化した。それをユーマに渡す。ユーマは石を太陽に透かしてのぞき込んだ。
「お! すごいなこれ。中に山賊が写ってるぞ」
「これを冒険者ギルドに提出すれば、晴れて冒険者の仲間入りね」
「もしかして、俺も一人で山賊を倒しに行かなきゃだめなのか?」
「心配いらないわ。もともと三~四人でこなす討伐ミッションだし、途中参加もOKだから。ユーマは途中参加したってことにしておいてあげる」
「ありがとエリー! けど、エリーはなんで一人でやってたんだ?」
「それはわたしが……ぼ、ぼっちだからよ。言わせないでよねそういうこと!」
「すみません。友達がいない人に残酷な質問をしてごめんなさい」
「丁寧な口調で改めて言い直さないで! あなたって、良い性格してるわね」
「前向きさだけには自信があるぞ。魔王さえいなけりゃ、今頃は大東洋の主を釣り上げて、東洋大海王エターナルチャンピオンになってたはずだ」
「そんな称号は聞いたことがないんだけど……ともかく、前向きさに関してはわたしがお墨付きをあげるわ。それに……エルフへの偏見もないみたいだし。あなたって変じ……とっても個性的な人ね」
エリーはそっと、手を差し伸べた。
「それじゃ、改めてよろしくねユーマ」
ユーマは強く握り返す。
「こっちこそ、よろしくエリー!」
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