表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無課金無双  作者: 原雷火
2/36

「仲間を集めろ」その1

 腰の得物は「見た目だけでも用心棒っぽく見えるから」と、人に持たされたものだった。それでも身体は勝手に動き、青年は山賊の放った一撃を長剣で受け止める。


「うおおおおおおおりゃあああああ!」


 剣を押し返しながら、青年は威嚇するように叫んだ。


 助太刀に入ったのには理由がある。


 襲われていたのはエルフの女剣士で、相手は山賊の男が五人だった。


 街道とはいえ、元は魔王の支配地域だけあって、未だに無法地帯である。


 青年はこれまで世話になった行商人の馬車から飛び降りて、女剣士に加勢したのだ。


 山賊の頭目が青年を睨みつける。


「ガキはすっこんでろ」


「断る! 襲われてる女の子を見捨てられっか」


 威勢の良い青年をかばうように、エルフの女剣士が前に立った。


「逃げなさい。あなたには関係ないことでしょ?」


「素直に助けてくださいって言えばいいのに。怯えた目をしてるぞ?」


「ちょ、ちょっと押され気味なだけよ。集中できれば、こんなやつら敵じゃないわ」


 山賊の一人が、剣の切っ先を青年に向けた。


「そっちの女の方から仕掛けてきたんだ! うちの団員が何人やられたとおもってやがる。それにそいつはエルフなんだぞ! 人間を裏切ったエルフをかばう義理なんてないだろ!」


 青年は剣の切っ先を突きつけ返した。


「そんなこと知るか。つうか山賊をしてる方が一方的に悪いに決まってるだろ」


 山賊の頭目が鼻で笑った。


「俺らは山賊じゃねぇ。自警団だ。いいか? そもそもここらは俺らの縄張りだったんだ。街ごと魔王城の前まで押しかけてきて、挨拶もなしってのは、ちぃとばかり地元民に冷たくねぇか? 関税ってやつだよ」


 青年は視線をエルフの女剣士に向けた。


「マジか? お前って、可愛い顔して、世の中の自警団を殺して回る物騒な人なのか? 自警団に親でも殺されたのか!?」


「か、可愛いだなんて……じゃないわよそんなことするわけないでしょ! 山賊の言うことなんて本気にしないで。こいつらはただの略奪者よ。試験で討伐されるのにうってつけの悪党なんだから」


 青年はほっと胸をなで下ろした。


「なーんだ、びっくりした……って、試験ってなんだ?」


「まさか、なにも知らないで飛び込んできたの?」


 目をまん丸くさせたエルフの女剣士に、青年はうんとうなずいた。


「あなた、攻略街を目指してるんでしょ? 出身はどこ?」


「大陸東端の港町辺りだけど。魚が超うまいんだ」


「はぁ……つまり、お上りさんってわけね」


 山賊の頭目が二人に吠えた。


「お取り込みのところ申し訳ねぇんだが、とりあえずにーちゃんよ。死んでもらうぜ。女の方は色々使い道があるんでな。エルフはその手の好事家に高く売れるんだよ」


 殺すなよ。と、頭目が部下に視線で合図を送る。エルフの女剣士は息を吐いた。


「どうやら逃げられそうにないわね」


 青年は笑顔になった。


「だったらますます戦うしかないな。俺はどいつの相手をすればいい?」


「殺されるかもしれないのに、笑ってられるなんてずいぶん自信家みたいだけど、ここはわたしの背中を守ってちょうだい。目の前でうろちょろされたら集中できないから」


「わかった。背中はまかせろ! ばっちりお前を守ってやるよ」


「そ、そこまで言うなら信頼してあげなくもないわ」


 山賊の部下たちが一斉に襲いかかってきた。


「背後さえ取られなければ、あなたたちなんて敵じゃないのよ」




 一分とかからず、エルフの女剣士は四人の山賊を倒してしまった。青年は言われた通り、彼女の背後から斬りかかろうとする山賊を牽制する……ので手一杯だ。


 本当に、背中を守るだけだった。なのに、自分の仕事に満足したように青年は胸を張る。


「どうだ! 俺の力を見たか!」


「見たか! じゃないわよ。一人も倒せてないじゃない」


「実はさ、剣で戦うのこれが初めてなんだ。そのわりにはけっこうがんばっただろ?」


 青年は爽やかな笑顔で女剣士に告げた。


「へ、へぇ。普段はどんな武器を使ってるのかしら?」


「釣り竿かな。地元じゃ世界を釣る男とまで言われてたんだぜ」


 瞬間、女剣士の目がつり上がった。


「武器の種類を聞いたんだけど?」


「刺身包丁よりでかい刃物はもったことがないぞ」


「自殺願望でもあるわけ!? よく今まで無事でいられたわね?」


「そんなに怒んなって。俺がいて助かっただろ?」


「それは……そうと言えなくもないけど……」


「結果オーライだな」


 エルフの女剣士は軽く眉間をつまんだ。


「わたしがか弱いお姫様で、山賊から逃げてただけだったら……あなた死んでたわよ」


「お前を逃がす時間稼ぎくらいはできたさ」


 剣を鞘に収めて青年は腕組みした。エルフの女剣士は肩を落とす。


「どこからその自信が出てくるのよ。無謀すぎるわ。まったく……成り行きとはいえ、これであなたも冒険者試験を合格しちゃったわね」


 青年は首をかしげた。エルフの女剣士はするどい視線で、残った山賊の頭目を睨みつける。


「で、そっちはどうするの?」


「きょ、今日の所は勘弁してやる!」


 月並みなセリフを残して、頭目は森の奥へと走り去った。青年が聞く。


「追わないのか?」


「あいつを倒しても、他の誰かが山賊の頭目に成り代わるだけよ。ところで、お互いにまだ名乗ってなかったわよね。わたしはエリー。剣士よ」


「ユーマだ。釣り人をしてる」


「それは冒険者的な職業じゃなくて、一般職の方でしょ。街を出る時に、冒険者ギルドで適職診断をしてもらってないの?」


 ユーマは腕組みしたまま「う~~ん」と唸る。


「無いな。釣り人で良いと思ってた」


「良くないわよ! 無職なのに攻略街に来たわけ?」


「無職じゃねぇ釣り人だっての! ともかく、全世界的に魔王をどうにかしなきゃならないんだろ? 俺にも何かできないかと思って、はるばる大陸を横断してきたんだ」


「無職なのに魔王討伐をしようなんて、ある意味すごいわね」


「無職と連呼しないでくれ。じゃあそのギルドってところで、適職診断をしてもらえばいいんだろ? 俺ってどんな職業に向いてるんだろうなぁ。きっとすごいやつに違いないぜ!」


「その自信の根拠はどこにあるわけ?」


「俺は前向きな性格なんだ」


「はぁ……そう。まあそうでもなかったら、一般人が魔王討伐に名乗りを上げたりしないわよね。とりあえず剣は振るえるみたいだし、剣士か戦士向きなんじゃない?」


 エリーはうつむきながら、もじもじと膝をすりあわせつつ付け加えた。


「それはそれとして……あの……ちゃんとお礼しておきたいから。さっきは助太刀してくれてありがとう」


「おう! 当然のことをしたまでだ。しっかし、エリーってすごく強いんだな。親戚にゴリラでもいるのか?」


「うん、母方の親類が歴戦のメスゴリ……エルフよエルフ! わたしのどこにゴリラ的な要素があるのよ! 今のは……あなたが後ろにいてくれたから、わたしは目の前の敵に集中できた。それだけよ」


 顔を上げると、エリーはほっぺたを赤らめながら興奮気味にユーマに提案した。


「もし、本当にあなたさえ良ければなんだけど、わたしと一緒に行かない?」


「わかった。行こう。すぐ行こう今行こう! 悪い魔王をこらしめに!」


「誘ったこっちが驚くくらいの即決ね」


「エリーは色々詳しいみたいだし、願ってもないからな」


「ほ、本当にいいの? わたし、エルフなのよ?」


「つうか、エルフのなにが問題なんだ? やっぱり実はゴリラなのか?」


「ゴリラじゃないわよこの無職」


 思い詰めたような顔をして、エリーは肩を落とした。


「気にしない人間の方が珍しいから、ちょっと驚いただけよ。ユーマが良いなら、問題無し。わたしも人間のあなたがいっしょにいてくれると、なにかと助かるし」


 エリーは道具袋の中から小さな宝石を取りだした。それを倒した山賊にかざす。


「なにしてんだ?」


「え? まさか映写石も知らないの?」


 ユーマは珍しそうに透明な宝石を見つめた。


「この石で山賊討伐の証拠を撮影するのよ」


 エリーが石をかざして「その姿を写し捉えよ」と呟くと、石は黒っぽくすすけた色に変化した。それをユーマに渡す。ユーマは石を太陽に透かしてのぞき込んだ。


「お! すごいなこれ。中に山賊が写ってるぞ」


「これを冒険者ギルドに提出すれば、晴れて冒険者の仲間入りね」


「もしかして、俺も一人で山賊を倒しに行かなきゃだめなのか?」


「心配いらないわ。もともと三~四人でこなす討伐ミッションだし、途中参加もOKだから。ユーマは途中参加したってことにしておいてあげる」


「ありがとエリー! けど、エリーはなんで一人でやってたんだ?」


「それはわたしが……ぼ、ぼっちだからよ。言わせないでよねそういうこと!」


「すみません。友達がいない人に残酷な質問をしてごめんなさい」


「丁寧な口調で改めて言い直さないで! あなたって、良い性格してるわね」


「前向きさだけには自信があるぞ。魔王さえいなけりゃ、今頃は大東洋の主を釣り上げて、東洋大海王エターナルチャンピオンになってたはずだ」


「そんな称号は聞いたことがないんだけど……ともかく、前向きさに関してはわたしがお墨付きをあげるわ。それに……エルフへの偏見もないみたいだし。あなたって変じ……とっても個性的な人ね」


 エリーはそっと、手を差し伸べた。


「それじゃ、改めてよろしくねユーマ」


 ユーマは強く握り返す。


「こっちこそ、よろしくエリー!」

今日は19:00まで一時間毎に更新~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ