「特技をいかせ!」その7
赤く燃えたような瞳が通路の奥に二つ、灯る。
グルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウオオオオオオウ!
洞窟内の空気がきしむように揺れた。
それは、ユーマたちが今まで遭遇してきた魔物たちとは明らかに違う、まったく異質な存在だった。シエンが青ざめる。
「あら、やばいかもしれないわ」
ユーマが聞き返した。
「やばいって……まさか、あれが洞窟の主なのか?」
「怠惰の王がランタンの光に反応したみたいね。まさか、降りてすぐに遭遇するなんて……その可能性も考慮しておくべきたったわ」
四人に向かって、闇に紛れた赤い瞳が突撃してきた……瞬間、ユーマは神に祈った。
ユーマは独り、白い空間にぽつんと立っていた。空に神の姿が投影される。
「神さま。大ピンチだ! もう一回、あの奇跡を使ってくれ」
「あー。それ無理なんだわ。一回だけって言っただろ」
「ど、どうして!? 神さまってすごいんだろ?」
「すごいヤツもそりゃあいるだろうけど、俺、無課金ユーザーだから」
「無課金ユーザー? なんだよそれ?」
「説明すると長くなるんだが……とりあえず課金するやつはクズってことだ」
「よくわかんないけど、奇跡を使ってくれないんだな?」
「悪いんだけど……健闘を祈る!」
ユーマが意識を取り戻すと、目の前には身体が岩の塊で出来たような、巨人の魔物が壁のようにそびえ立っていた。
エリーが剣を抜く。
「どうするのユーマ?」
「健闘するしかないらしい。つまり答は一つ! うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
青年は迷宮の主――怠惰の王に斬りかかった。だが、その攻撃は弾かれ、岩のような身体に傷一つつけられない。
「わたしとユーマが引きつけてる間に、二人は逃げて!」
エリーが疾風のような身のこなしで怠惰の王の足に斬りかかる。だが、ユーマと同じく、攻撃がまったく通じない。
デモダッテが魔法を撃とうと身構えた。
「……しかし、MPが足りない」
ぽつりと呟いたデモダッテに、巨人の拳が炸裂した。瞬間、彼女の身体は霊魂化する。シエンがそれを見越していたように呪文を唱える。
「上級蘇生魔法!」
「……なんでボクを生き返らせるの?」
「文句を言わずに肉壁になんなさい。とはいえ、じり貧ね。こういう状況をひっくり返せるほど、迷宮の主って甘くないのよ」
怠惰の王の赤い瞳の色が、青く染まった。その視線がシエンを捉える。
怠惰の王は低くくぐもった声で呪文を唱えた。次の瞬間――シエンの足音にぽっかりと暗い穴が空くと、彼女は悲鳴をあげる間もなく、吸い込まれるように穴の中へと落ちていった。
ユーマが叫ぶ。
「シエン! おい、お前……シエンをどこにやった!」
青年が怠惰の王を睨みつけると、王の瞳が再び赤く燃え上がった。
返答代わりに、怠惰の王の拳がユーマを潰すように振り下ろされる。
「危ないッ!」
エリーがユーマを突き飛ばし……ハンマーよろしく叩きつけられた拳の餌食となった。
「ちくしょう……なんで俺、こんなに弱いんだよ!」
剣を突き立てようにも、ユーマの攻撃は怠惰の王に傷一つつけられない。
「こんなんでなにが勇者だよ! ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!」
「……が、だめ。都合良く秘められた力は覚醒しなかった。どんまい」
生き返ったばかりのデモダッテが、再び怠惰の王に殴り飛ばされた。壁にめり込みそのまま霊魂化する。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
自棄になって正面からつっこんでいった勇者は、怠惰の王にハエのようにたたきつぶされた。
――パーティーは全滅しました――
白い空間に、小さなうさぎのような小動物――バッファーが姿を現した。
「やあユーマ。どうやら全滅したみたいだね」
ユーマの左右には、エリーとデモダッテの姿がある。
「あれ? シエンは……そうだ! シエンはどこなんだ?」
バッファーは首をかしげた。
「ここに来てないってことは、生きてるってことじゃないかな」
エリーが声を上げた。
「なら、なんでわたしたちは全滅扱いになってるのよ!?」
バッファーはつぶらな瞳でエリーを見つめ返した。
「それは言えないんだ。けど、実はこの状況になるのって、ヒントだったりもするんだよね」
デモダッテがぼそりと呟く。
「……思わせぶりだね」
ちょこんとお辞儀をしてから、バッファーは前足を天に掲げた。
「立場上、ぼくが答えを教えちゃいけないだけどね。本来は保険と強すぎるゲストの弱体化を兼ねた機能なんだけど……おっと、お迎えが来たみたいだよ」
バッファーが呪文を唱えると、三人の姿は光に包まれ白い空間から消滅した。




