「特技をいかせ!」その2
蘇生に関する手続きは、光の最高神を信奉する教会で行われていた。礼拝堂の地下には、遺体を保存するための安置所がある。
外郭迷宮で死亡した冒険者たちは、攻略街の魔法装置によってその亡骸を転送され、教会の地下に保管されるのだ。
蘇生には冒険者の能力に応じて、相応の寄付金が必要だった。受付でユーマは教会のシスターに冒険者免許を見せる。
「あ、あの……この三人を生き返らせてください。お願いします」
「剣士エリーの復活には70G。僧侶シエンの復活には300G。魔法使いデモダッテの復活には10Gが必要になります」
「お、おう! ありがとう!」
「寄付金をお願いします」
「わかった! 寄付する! します! させてくれ!」
教会のシスターにユーマがお金を渡すと、ユーマの財布に5Gが残った。新米冒険者に王国が支給する支度金は、綺麗さっぱり財布の中から消えてしまった。
ユーマは酒場の床に正座させられていた。生き返ったばかりのシエンが椅子に座って、その小さな足を組みながら、ユーマをにらみつけている。
「無駄遣いねユーマくん」
「死んだままにしてたら、かわいそうだと思って……。生き返るときも、みんな一緒がいいだろ?」
珍しく、ユーマは涙目だ。シエンがため息を吐いた。
「まあ、復活のためにかかるお金は、あたしがダントツで高かったわけだし、あんまり強く言える立場じゃないわね……これからは、うかつに死ねないか。
いいユーマくん? 必ずしも全員を生き返らせる必要はないのよ。そもそも、あんな詐欺教会にお金を落とすのはしゃくに障るわ」
「けど、寄付金は大戦で親を失った子供たちのために使われるって言ってたし……」
「途中で教会がガッツリマージンをとってくのよ。これからは、もし全滅しても、あたしだけ復活させなさい。お金が足りない時は、街で日雇いの仕事をするのよ。
で、残り二人は復活はさせないで、あたしを復活させたあとで、遺体だけ引き取ればいいから。まとめてあたしが生き返らせてあげるわ」
エリーが正座姿のユーマに手を差し伸べた。彼女は困ったように眉を八の字にさせながら、顔を真っ赤にさせている。
「ちょっと、ほかの冒険者たちが見てるし……立ってってばユーマ!」
「すみません」
ようやく立ち上がったユーマに、エリーは困ったような顔をした。
「ユーマが敬語になるってことは……よっぽど応えてるみたいね。とはいえ、このままじゃ迷宮に向かう度に赤字よ」
何かに気づいてユーマは目を丸くさせた。
「リーダーだけは無料で復活させてもらえるんだよな?」
青年の質問と視線がシエンに向かう。
「シエンがリーダーになれば、全滅してもお金を使わなくて済むんじゃないか? 我ながら名案だぜ」
シエンがぷいっと顔をそっぽに向けた。
「あたしはそういうの嫌よ。性に合わないし」
「そこをなんとか頼むよシエン!」
「ユーマは勇者なんでしょ? リーダーは勇者って相場がきまってんのよ」
「そう……なのか?」
少し考えるような間をおいてから、エリーもシエンに同意するようにうなずいた。
「そうしなきゃいけないってことはないけど、わたしもユーマにリーダーをしてほしいかな。ユーマがいたから集まったメンバーなんだし」
エリーがユーマに着席を勧めて、励ますようにほほ笑みながら続けた。
「けど、全滅しちゃうと、途中で敵を倒して手に入れた宝石は持ち帰れないみたいね。だから……これからは全滅しないよう心がけましょ? ユーマは前向き思考が得意でしょ?」
「お、おう! じゃあさっそく……第一回、俺たちはどうすれば全滅しないのか会議を開こう!」
青年の開会宣言が終わるのと同時に、シエンとエリーの視線がデモダッテに注がれた。シエンが目を細める。
「まぁ、あえて問題点をあげるとすれば……この子ね」
「……ぼく、わるいことはなにもしてないよ」
デモダッテがプルプルと震えながら首を左右に振る。エリーが語気を荒げた。
「いいこともしてないじゃない! 魔法使いなら攻撃魔法を使ってよ」
「……やだよ。疲れるし」
エリーがテーブルの上に乗り出すようにして、デモダッテに詰め寄った。
「疲れてないでしょ? 歩いてないでしょ? だいたい、なんであなただけ乗り物にのってるわけ?」
デモダッテは壁に立てかけた魔法の箒に視線を向ける。
「……みんなも乗ればいいじゃん」
エリーがため息混じりに確認する。
「そこに無駄な魔法力を消費してるんじゃないの?」
「……無駄じゃないよ。ぼくの役にたってる」
プチッと、エリーの堪忍袋の緒が切れた。
「うがあああああああああああああああああああああ! パーティーの役に立てって言ってんのよ!」
ユーマは一度呼吸を整えてから、ヒートアップしたエリーに告げた。
「落ち着けエリー! 影のリーダーが暴走してどうするんだ? ともかく、限りある魔法力を温存しないと、地下迷宮の奥まで行けないってことだよな?」
シエンが静かにうなずいた。
「魔法力の管理が必要だから、僧侶って大変なのよねぇ。誰かさんがうらやましいわ」
エリーが片方の眉をつり上げる。
「それって、わたしが脳みそ筋肉バカってこと? 魔法が得意なはずのエルフなのに、魔法が使えない落ちこぼれっていいたいの!?」
「そこあまでは言ってないわよ。っていうか、魔法が全然ダメなエルフなんて、聞いたことないわね」
冷笑を浮かべるシエンをエリーが涙目になって睨みつけた。ユーマが慌てて二人の間に割って入る。
「ちょ……待てエリー! 魔法力がなくなった時にこそ、エリーが頼りになるってシエンは言いたいんだ! そうだよな?」
シエンが楽しそうに目を細めた。
「エリーちゃんの肩を持つなんて、もしかしてユーマくん、彼女の事が好きなの?」
デモダッテまで乗っかってくる。
「……気になる。そうなのユーマ?」
尖った耳の先まで、エリーの顔が真っ赤になった。
「え、そ、そそそそんなわけないわよね? ユーマとは出会ったばっかりなんだし……す、好きだのなんだのって……」
恥ずかしそうにうつむきながら、エリーはちらりと上目遣い気味にユーマに視線を向けた。青年は笑顔だ。シエンがそんなユーマに確認する。
「ねぇ? 実際の所どうなのユーマくん?」
青年は黙って深くうなずいた。シエンの瞳がキラキラと輝く。
「ひゅ~~♪ パーティー内で恋愛しちゃうなんて、修羅場確定ね。このパーティークラッシャー!」
デモダッテも目を丸くさせて、エリーとユーマを交互に見つめた。
「……二人は恋愛なんて面倒なこと、しちゃうんだ」
エリーが椅子から立ち上がって、テーブルに拳をたたき付けた。
「ち、違うわよ! ユーマは人格的な意味でわたしを尊敬してるっていうだけで、女の子として好きとか……そ、そういうんじゃない……わよね?」
だんだん恥ずかしそうにトーンダウンしていくエリーに、ユーマはゆっくり大きく力強くうなづいた。
「おう! エリーは良い奴だから、尊敬してるし大好きだ」
「そ、そうよね」
落胆するエリーに、ユーマは不思議そうに首をかしげるのだった。
伝奏師の力を借りて、外郭迷宮へと冒険者たちは侵入する。
その時、重要になるのが契約した守護神の神格だった。神格の高い神ほど「持続聖」とよばれる外郭迷宮への干渉力が高くなるのだ。
そして、外郭を越えて先に進めば進むほど、神に要求される持続聖もまた、大きくなっていった。




