10.
案の定、家に帰った章一に、母は、
「今日は何をもらったんだい?」
と何かもらうに決まっているというような聞き方をしてきた。
「あ、これ」
と章一はすんなりとカンダさんからの封筒を差し出した。
と、母はそれを確かめ、目をうるませて…
「ショーちゃん、また何かいいことをしたんだね。あんたはね、そういう人なのよ。人の魂を浄化できる、そういう能力があるんだよ」
と母が言うので、章一はしらけきり、
「あ、そうなの?」
と心のシャッターを下ろして自分の部屋に閉じこもった。でも、いやな気はしなかった。
母は部屋の外からまだ章一に話しかけていた。
「ショーちゃん、このカンンダさんという人はきっと女神さまのようなお方だよ。字もきれいだし、ていねいだし、何よりあんたを敬っているからね。ちゃんとしておあげよ」
「は?」
ちゃんとって? いったい? と章一は当惑するのだった。
それから数日後、母が黒地に白い花と星の模様のあるほしくず屋の包装紙にくるんである箱を章一に見せた。紅いリボンがかかっている。
「これ、かりんとうギフトセットだよ。これもね、あたしの発案なの」
と母はにんまり笑い、
「これをね、カンダさんにあげるんだよ」
と、言われ、章一は氷ついた。
「恥ずかしいんだね。大丈夫だよ。このまま持って歩くのは恥ずかしいだろうが、ちゃん大き目の袋に入れて行けば…」
と母はやはりほしくず屋の黒い大きいレジ袋みたいな袋にその箱を入れて、章一に押し付けた。
「あとね、これは会社の人に配るんだよ。今日は奇術の日だからね。きっとマジックが叶う日だよ。こういうことはね、そういう特別な日を選んで一度に一緒にいろいろやった方が効果があるんだよ」
とわけのわからないことを言う。母が別に差し出したのは、万能かりんとうが小分け袋に入ったものだった。
「これもね、あたしの発案なの。今、いろいろなお菓子で大きな袋の中に小袋で分けて入っていることがあるだろ。あれはいいよ。少しずつ人にあげられて、しかも湿気たり汚れたりしないからね。ご利益があるよ。万能かりんとうもそうしてもらったんだよ。もうスケさんたら、あたしの言うこと真面目に取り上げてくれるのよ」
母のうっとりとした顔を見て、章一は頭の中真っ白になりながら、仕事に向かった。
小袋分けの万能かりんとうは社内で事務をやっている女性に頼むとして…、さて、カンダさんあての大げさなギフトをどうしたものだろうかと、章一は考えていた。
と、よっちゃんからメールが入った。
『カンダさんのメアドお知らせします』
というメールだった。なんともはや、グットタイミングすぎる。これはもう、カンダさんに渡すしかないのではないだろうか。と、章一は気が進まないながらも、カンダさんをまた例のカフェに呼び出すことにした。
昼休みにさんざんメールの文句を考えて、結局『お渡ししたいものがありますので、この間のカフェに六時半に来ていただけないでしょうか』とカンダさんにメールを送ってから、章一はなんだか落ち着かないような奇妙な気分を味わった。気が進まないと思っていたのだが、なんだかそうでもないのだ。ちょっとうれしいような、そうでもないような、楽しみなような、ごちゃまぜな気分だった。