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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
8/50

タンク

 約束した場所は、ギルド前だったが、意外に宿が近かったために、美和の宿屋前になった。


 ――おそい!


 私は懐中時計を見る。

 約束の時間はとうに30分は過ぎていた。

 すると、宿から出てくる美和、「ごめん、ごめん」と走り寄ってくる。


「で、情報収取はどうだったの?」


「まだ現実世界で1時間半だけしか経ってなかったけど、まあまあね」と含み笑い、あと試したいことあるから、と少しテンション高い。


 仮想現実(VR)時間が8時間あたり現実世界の1時間相当に値するらしい。「まいったわ、スレからスレに漂流してたら、3分ほど過ぎてて焦ったわ」と美和は汗を拭く動作をする。

「スレ?」とあかねは小首を傾げる。

 スレってねスレッドといって、と美和は用語とその他にまつわる用語も説明をしだした。「な、なるほど」と頷くあかね。


 あかねちゃんが入ってはいけない領域に入っていく……。


「昨日にも少し議題にあがったと思うけど、PTに関する役割分担を明確にしない?」


「そうね、でないと昨日と同じ轍を踏むからね」と美和が横眼で見てくる。


 私はそっと視線を外し、「私は支援職と分かったことだし、あかねは回復職。そしてミワは攻撃職――と」


「なので今日は、前衛職――欲を言えばタンクを見つけたい」


「異論はないわ」と美和は片手をあげる。

「タンク?」

「タンクってのは、盾職と言われる。云わば、防御専門の職業ってことよ」


「んー、このVRMMO(ゲーム)は表示がないから、いちいちステを聞いていくしか……」


「タンク募集で叫ぶしかないんじゃない?」


「やっぱり、それに限るか……」


「あ、あの、言葉通りに盾持っている人に話しかけてみるっていうのは?」


 私と美和は、あかねを指さした。あかねはビクッと驚いた。


「それだ!」



 朝一ということもあり、ギルドは大勢のNPCとPCが出入りしている。もちろん、ギルド前にも大勢のPCがいた。募集(shout)しているPCもいれば、募集(shout)待ちのPC――こちらのほうが多い――がいた。


「ねぇ、ねぇ。あのPC(ひと)はどう?」と美和はすでに吟味している。


 ミワ、たくましすぎるわ……。と思いつつ、


「バックラー型か。私はタワーシールド型のガチッガチのがいいわ」と、ちゃっかり要望を出す。


「じゃ、あれはって。駄目ね、もうパーティ組んでるわ」


 あかねは私たちの後ろに隠れるようにして、「ふむふむ」と、なぜか手はメモ帳のように開いて覗き見ている。


 アンタはどこの探偵だ?


「あ、あの人はどうですか?」とあかねが柱に寄りかかって腕を組んでいる少年を指さす。


 ぬ、プレートアーマーだと! しかもヒーターシールドではないか!


 美和も目を輝かせて見ている。かなりの良物件のようだ。「あれならファイア誤爆でも大丈夫よね」と怖いこと呟いてる。片目は不気味に輝き、背景には黒い靄が渦巻いて見えるわ。


「でも、だれも声かけてないよね……」


 そう、このゲームでもタンク不足らしい。結構な頻度で、盾募集が叫ばれている。


「甘いわね、あまりにガチ装備だと声って逆に掛けにくいものよ」と、美和はチッチッチと人差し指を振りながら言う。


 ああ、分かるわ。ガチ勢って怖いイメージあるしね。それにあの少年、鎧を着こなしている。バランスのとれた体型なんだろうなって思う。貧そうな身体じゃ、プレートアーマーは似合わないからね。日焼けもしてるし、きっとリアルでは運動部に所属しているはずだ。帰宅部や文化部は声かけにくいか。


 美和は、私をじっと見つめる。


 あれ、これは私が声かけれってこと?


 と、思っていると、美和はくるっと回り、「ここは、あかねに任せるわ」と、あかねの肩に手を置いて宣言する。


 なんだ、このホッとしたのような、ムッとしたような……。


「アサヒは話したらアレだけど、見た目はかなりの美人だからね。相手が怖気づくわ」と付け加える。


 アレってなに! 褒めらているのに貶されている……。


「それに比べて、あかねカワイイから――」


 おとこってやつは、と小声で連呼している美和。


 ――ミワも小学生みたいでカワイイよ。


 キッと美和は睨む。


 ぉう、ココロノ声を聞かないで。


 負のオーラがすごすぎて、こわい。すでに、両目がキラーンと光っているわ。あかねもそれを感じ取ったのか、いつもはオドオドしてるだけなのに、なにも反論もせず、「い、いってきます」と足早に行く。


 あかねの声かけに、少年の顔が紅潮したように見える。


 なんだ、この校舎裏で告白をするのを見ている気分は――。


 ハァハァと覗いてる美和の息が荒い。


 見えないヨダレが見えるわ。


 美和が、ない液を拭く仕草をしていると、あかねがこちらに向き大きく手で合図を送る。それを見た少年は、不思議そうに辺りを見回した。


 私たちは、二人のもとに近づく。


「あれ、もう仲間がいたんですか?」

「す、すみません、こういうの初めてで説明不足でした」

「いや、俺もこういうゲームは初めてで。あなたたちも、ゲームは初めてで……。え、小学生?」

 少年は、到着した私たち、とくに美和をみて驚く。


 あ、地雷踏んだ――。


「初めてもなにも、初VRMMOなんだから、初めてに決まっているでしょ」

 美和は睨みを利かす。だが、少年は小学生の睨みに脅威は感じないようで、「そっか、ごめんね」と黒帽子の上から頭を撫でる。「お兄ちゃん!」と怒っている妹を、兄が諭している雰囲気に、遠目なごやかに見える。が、美和はこちらに振り向き、「ファイア撃ってもいいよね」と囁いてくる。


 ソレはやめて。


「あのね、この子はこう見えても15歳なのよ」と言い放ってやった。そして、美和に足を踏まれた。


 ぉう、なんで……。


「ごめん、まさか同い年とは思わなかった」と少年は平謝りだ。

「黒崎美和――ミワでいい」どうせ、慣れてるしと俯きソッポを向く。


 カワイイ。


「朝比奈朝日――私も名前でいいよ」と、手を差し出す。


 少年がぼーっとこちらを見ている。


 え、なに?


 手に気付いたのか、慌てて両手を鎧に擦り、握手をする。このゲーム、汗とかでないから……。


 蚊帳の外、二人がヒソヒソ話し合っている。


 だから、なに!


「あ、俺の名前は内藤洋平ないとうようへい。よろしく――」


 内藤だとぉ! これはネタなのか? ネタなのか!


 ――本名だった。


「はやくクエスト受けに行きましょ」と、美和はいつになく急き立ててくる。こういうネタは好きなはずなのに……。


 美和はギルドに入るとすぐに掲示板から依頼書を走って持ってきた。


 ワイルドボア討伐依頼。

 南にあるオロナ村にでる野生の魔獣を倒してほしい! 討伐部位は両牙――。


 あかねと美和の二人は外で待ち、なぜか私と洋平で列に並ばされた。なにもなしに突っ立って待っているるのもなんだし、お互いの高校の話でもする。向こうが大阪の公立校。私は東京の私立校。女子高と聞くと、なぜか目を輝かせている。女子高ってだけで、男子にはどういったイメージを持たれているんだろうか。話題は部活に――私は中学よりやっていたバンド活動やっている。エレキ担当のギターボーカル。腕はプロ級。自称だが……。でも、手先は器用な方よ。PCゲームはキーボード派だ。ゲームの話で熱くなったら、少し引かれた。ちなみに、洋平は男子校で、野球部だそうだ。結構、全国で有名な野球高みたい。私は野球に詳しくないので、真偽のほどは分からないが。ピッチャーでエースだとも言ってたが、エースが夏休みにゲームってどうなの、というと苦笑いされた。きっと補欠なんだろう。


 まぁ、なんだ。ガンバレ。


 順番が回ってきたので、ギルドカードを預かる。あかねと美和のはさきに預かっていた。


 Lv6 白石あかね

 Lv5 黒崎美和

 Lv2 朝比奈朝日

 Lv6 ブラッド・リッジ


 …

 ……

 ブラッド・リッジ!


 だれ?


「ブラッド・リッジ」と囁くと、横にいる外人こと洋平がわなわなと震えているのが伝わる。そして、

「ないとう、ようへいです」とうそぶいた。


 私はついにカースト制度で一番下を見つけたのだった。


 ニヤリ。


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