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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
7/50

アビリティ

 そこはカビ臭く薄暗い室内。

 壁に架けている松明トーチから風が横切ったのか、揺らめいた。わずかに人の気配がした……。

 私は、そっと目を閉じた。どうせ、暗いのだ。

 そして、反省する――。


 どうして、ああいう状況になったのか。

 あの地域は一角兎ホーンラビットが出現する。これは確定。オークも出現する。これも確定。では、オークはなぜ寄ってきたのか。

 ノンアクティブ・アクティブの敵がいる。

 ノンアクは、もちろん一角兎ホーンラビットで、こちらが攻撃するまでアクティブにならないタイプ。反するアクティブは、こちらが攻撃してなくても、向こうから積極的に攻撃してくるイヤなタイプ。

 ただ気になるのは、2回とも、すごく良いタイミングでオークと遭遇したことだ。

 これは別ゲーだが、当てはまる現象がある。知覚タイプのモンスタの存在だ。茂みに隠れて、一角兎ホーンラビットと戦闘してた。

 つまりは、オークは聴覚タイプということかもしれない。視覚タイプは、敵の視覚内にPCが確認されれば、襲ってくるタイプ。逆に言えば、敵の真後ろで戦闘をしていても、気付かないタイプなのだ。聴覚タイプは、PC(プレイヤ)の物音で襲ってくるタイプ。これは、敵に隠れていようが、物音ひとつで見つかって戦闘状態になるタイプのことだ。むしろ、オークは聴覚と視覚の2種類もっているかもしれない。

 ボヤっと淡い光が、閉じたまなこ越しでも感じられた。

 だが、私の考察はつづく。

 どうして、ああいう結末にいたったのか。

 魔法攻撃ファイア一発で、タゲを奪われ、ヒール一発でモンスタからシカトされる現状。いや、本末転倒している。私は、前衛(痛いの)がイヤでPTを探していたのではないか。それが、最前線でタンクとして体を張っている。ヘイトを取るスキルすらないのにだ。むしろ、レベル1の私が、なぜタンクをしなくてはいけないのか。たしかに、後衛職二人に盾役はむずかしいだろう。だが、考えによっては、レベルの高いものが盾になったほうがいい状況だってあるはず。たとえば、ヒールタンクという言葉だってあるのだ。


 ――と、さっきから周りに漂っているひかりが、チリチリと近づいてきた。


 次に、私は奇怪な声をあげてしまい、台座から転げ落ちた。


「アサヒ、私に気付いてたでしょ」と美和は気色ばんでいる。


 ゴメンナイサイ。怖くて――。


「まあ、いいあわ。一旦そとに出ましょう」


 ハイ。


「あかね、いくわよ」と美和は部屋の隅に声をかけた。体育坐りしている、あかねの姿がそこにはあった。

「モンスター怖い」と、小声で震えている。


 なにかしらのトラウマを植え込んだようだ。なんか、


 ホント、ゴメンネ……。


 私は、あかねの機嫌を取りつつ、さっきの考察を美和に話した。


「そうね、レベル1だったわね。ステは何振り?」


「コジンジョウホウですので、ハナシタクアリマ――」


 と、美和はボワっとファイアを手元にフワフワと漂わせた。


 ――キャー、ファイアはやめてぇえー。


「CHR全振りでございます!」と明快に答えて、敬礼のポーズをした。


「あかね、説明おねがい」


「ハ、ハイ――」とあかねも敬礼のポージングをして答えた。


 あかねちゃん、立ち直るの早いよ! そして、ニヘラとした顔がカワイイよ!


 ちなみに、あかねは運営からのマニュアルを一通り把握してるみたい。


 私? 私は説明書なんて読まない派!


 説明によると、


 STRは攻撃力をあげる。

 VITは体力、防御力をあげ、防御系スキルとパッシブを覚える。

 DEX AGIは攻撃系のスキル、パッシブ。

 INTは攻撃魔法系。

 MNDは回復魔法系、と。

 そして、CHRが人間的な魅力――


 えっと、死にステですか?


 地面をレイピアでつつく。どうどうと、あかねが背中を摩ってくれた。


 あかねちゃん、アリガトウ。


「CHRはカリスマってことね。きっと指揮系統スキルを覚えそうね。いわゆる、支援職じゃない?」


 ぉお、支援職はPT戦ではかなりの人気職ではございませんか!


 私が急に立ち上がったので、あかねはビクっと驚いた。


「アンタ、立ち直り早いわね……」美和はため息をつき、「レベル1あげて、スキルみて判断しましょ」とギルドへ歩き出した。

 そして、唐突に――、

「アサヒのヤられ方……、なんかエロいわ」


 私はあかねに説明を請うように顔を向ける。

 あかねは頬を赤く染めていた……。


 エロい、ってなんですか?!





 あたりは、夕暮れ――


「時間も時間なので、依頼クエスト報告でパーティ解散かな。わたしは宿屋に泊まって、ログアウトするけど。あなたたちはどうする?」

「あ、わたしも予約取っているので」と、どこの? ああ、結構ちかくね、など話題は宿の質について盛り上がっている。


「宿って一泊いくら?」


「一泊6000ギルが相場じゃない? って、アサヒ宿取ってないの?」


 私は首を振る。てか、宿の予約っている?

 顔に疑問が浮かんでるのが伺えたのか、


「あのね、アサヒ。ここはVRなのよ。スペースは有限なの、つまり、宿にも限りがあるはずなのよ……」

「わ、わたしは旅行のクセで――」

「はやめに予約入れておいて、あかねが正解よ」


 マジですか?! 私、野宿決定? いや、予約云々、お金がなかった……。


「あ、あの、よければ一緒に泊まりませんか。わたしが探してる時には、すでに二人部屋しか空いてなかったので」


 おぉ、あかねちゃんマジ天使! それに比べて、ミワは「あ、わたしは一人部屋だからムリよ」とツッケンドン。


「では、明日8時、ここに集合ね」と、話に夢中ですでにギルド前に到着していた。


 日も沈む前とあって、ギルド受付前にはPC(プレイヤ)たちが列をなしていた。


 なんだろう、列を見るとなんだかホッとするよね。なんか日本人って感じ。


 二人は明日受けるクエストを見にいってくると、私は何も言わずに、列の最後方にいた。


 リーダー決定なのね――


 あれ、目から水が……。


 私の順番が回ってきて、依頼書とドロップ品を納品した。


「はい、ありがとうございます。では、ギルドカードに成功報酬の3000ギルとギルドポイントを付加しておきます」


 私はすぐさまギルドカードを確認する。1000ギルがカードに記載されていた。ちょっとニンマリ。

 そして、レベル2に上がっていた。


「明日の目星はついたわ」と二人がもどってきた。どれどれと美和が顔を覗かせる。


「レベル2になっているわね。ステとスキルは見えないか」

 で、どうなの? とわき腹をこづいてきた。


 私の個人の自由(プライバシ)はどこいった!


「スキルは2つ。騎士のミンネザングと聖者のディーヴァ」


「で」と美和は急かしてくる。


 立体画面タッチパネルに触れると、別窓が開き、説明文が足される。


 《一小節歌うと、効果が出る。歌い続ける限り、効果は継続される。途切れた場合は、10秒まで効果は残る》


 歌ってなに? と頭に疑問が浮かぶ。急に、音楽が流れてきた。


 うぉ、ビクっと体が震える。それに、反応したのか、美和は「なに!」と怪訝そうに聞いた。


「え? 曲が流れているけど聞こえない?」


 美和はあかねに向くも、首を横に振る。


 二人には聴こえないようだ。脳内に流れ込んでいる感じか。


「ちょっと、詠ってみなさいよ。効果が知りたいわ」と興奮が勝っている美和。


「ぇえ――ここでは、ちょっと」と周りを見る。まだPC(プレイヤ)もたくさんいる。


「どうせ、戦闘になったら詠うんだから、いいじゃない」


 そ、そうだけど、まだ心の準備が……。


 宿への帰り道で効果を試すこととなった。やはり、人目の付くところで、詠う羽目になったわけだ。


「さあ、いいでしょ」


「もう、ちょっと」と、横道に入っているけど、人が行き交うのを待つ。


 まわりは全部NPC。まわりは全部NPC……。


 脳内曲に合わせて、詠ってみる。字幕みたいなのものが出てるけど、これをテンポに合わせて詠っていく感じか。


 なんて、リズムゲー――


「んー、効果は微妙ね。いまの曲調で一小節なら4拍子ってところかしら?」


 つまり、4秒後に歌の効果がでるってことかな?


「なんか曲の速さがバラバラね」


「仕方ないでしょ、脳曲をなぞって詠っているんだから」


「というより、安定してない。数値が上がったり、下がったりだわ。しかもVITプラス2から3あたりをね。でも最後、安定した上がりだったのはなんでかしら」


 最後はサビのあたりで詠いやすかったからかな?


「次は、その脳曲でなくていいから、好きな歌でやってみてちょうだい」と美和は促す。


「違う曲で効果なんてでるの?」


「それを確かめるための検証でしょうに」


 とりあえず、最近覚えたアーティストを選曲する。マイナーな歌手だが、心が温まる拍子で、よくカラオケでも歌っている。いまのお気に入りの曲だ。


 目を少し閉じ、


 深呼吸して詠う。


 そして――


 歌詞の一番まで歌っているが、なにも言ってこないので美和の方へ向く。


 ナンカイッテ、沈黙が怖いんですけど。


 美和は意外な顔つきで、「しゃくだけど、聞きほれたわ」と言い放ち、あかねはぶんぶんとヘッドバンキングしているかのように振っていた。


「あぁ、数値ね」と気を取り直し、美和は自分のギルドカードを見て、驚いた。


「MNDプラス10もあがってるわ……」


 マジですか!


 その後、いろんな曲で試してみた。効果はでたようだ。

 脳内曲はサンプル曲って位置づけみたい。


「次」とあかねを指さし後方へと下がらせる美和。


 ミワ、人使い荒いよ。何も言わずに、下がっていく、健気なあかねちゃん。


「範囲検証よ――どう?」とあかねに尋ねる。

 5m程下がったあたりに差し掛かり、

「こ、効果がきれました!」と、あかね本人は叫んだのだろうが、かろうじて聞き取れるほどの音量だった。


「ちょっと、大声で詠ってみて」


 ぇえ、恥ずかしんですけど!


 早くしろとばかりに、腰元をこづくいてくる美和。


 私はため息をついて、詠う。


 あかねは、両手を振って、歓喜している。きっと効果がでたのだろう。

 美和は検証結果に満足したのか、にんまり笑い、「曲はなんでもいいが、覚えているVIT、MND(ステータス)を意識しながら詠えば、その効果が1つ乗る。最低範囲は5mくらいで、音量で伸びる――と」美和はINT系を早く覚えてほしいわ、フフフと笑った。


 その悪だくみな顔こわいよ!


 そうこうしていると、あかねの取っている宿屋に着いたようだ。

 二人がいっていたように宿屋街なのか、いろんな宿が建ち並んでいた。あかねの泊まる宿は、ひとつひとつの質が良く、雰囲気が良い宿であった。それに比べて、ひと際、簡素な宿に美和は「では、明日」とそそくさと入っていった。一旦、ログアウトして情報を仕入れてくるらしい。運営のプラットフォームに簡易ではあるが書き込みができるそうなのだ。そこは冒険者なら酒場で情報収集じゃないと疑問に思ったが、口にはしなかった。


 門構えには灯篭が飾られ、陽が落ちた暗い闇に優しく灯っている。玄関先までは砂利の小道が続く。入り口をまたぐと女将が「いらっしゃいませ」と出迎える。建物内は板張りで、純和風な感じだった。


 運営、中世ファンタジー路線はどこいった。


 2階に通され、室内は畳で、ふすまがある和室そのもの。温泉まで完備しているから驚きだ。きっと、運営に温泉旅館好きがいるのだろう。夕食は、日本食が出てきた。おい、と思ったが、この雰囲気で肉料理がふんだんに出て来てもそれはそれで……。

 食後、旅の疲れを落とすため、露天風呂があるということで、二人で入った。


 あかねは恥ずかしそうに服を脱いでいる。

 私はすでに全裸だ。

 あかねちゃん、恥ずかしくても大丈夫。ギルドーカード裏面のように規制が入るから。たぶん、他人には白いモヤモヤが掛かっているはず。

「ス、スタイルいいですよね」と、あかねは、それでもタオルを前に身体からだを隠している。

 うーん、靄でシルエットすらぼやけているはずなんだが。想像力豊かな、あかねちゃん。

 てか、

 あかねちゃんのほうが、女性的なフォルムで理想的でしょ。と、注視する。丸みを帯びた曲線。そして、タオル越しでも分かる胸の大きさ……。C、いやDはあるんじゃないですか!

 私は、B……。でもまだ高校生だし、伸びしろはあると思うの。

 ミワ? ミワは、きっとAね! と同時に身震いがする。


 お、悪寒が――。


 湯あたりでもしたか。


 二人で湯船につかっているなか、きっと、あかねはお嬢様なんだろうと思う。話し方や話す内容の節々にそう感じるところがあった。

 ただ、自分のことは包み隠さす話してくれるが、こと家族のことになると口が重くなった。私はすこし気まずくなり、両手をあげ伸びをしながら、もどろうかと言った。あかねは無言でうなずき、二人で自室に戻った。そして、

 おやすみ――とライトを消した。


 さすがに、リアルわれしてるからと言って、余計なことは聞かないほうがよかったと最後にもう一度、反省した。



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