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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
6/50

天丼

 とりあえず、私たち3人は西の高原にでた。


 空いてるかな?


「まだ都市から近いし、枯れてるはず」


「ミワは、ホーンラビット狩ってたの?」


「えぇ、一匹いたから、攻撃ファイア。そしたら、急にPOPしたのか、さっきまでいなかったのに、後ろからホーンラビットに突かれたわ。ファイア唱えていたら、横からピョンピョン。後ろからピョンピョンと。終いに、もう一匹沸いて……」


「死んだ」

 美和は遠い目をしている。


 運悪く、一斉にPOPしたようだ。枯れてる狩場にはよくあるよね。


 ご愁傷さま……。


「ファイアの詠唱時間とリキャストが間に合わないのが、問題だわ」


(ぶつり)で殴れば?」と意見すると、美和は、こぶしで自分の手のひらをたたいた。PON!と音がでてきそうだった。


「アサヒはたまに鋭いことを言うよね」


 たまにってなに! てか、さっき会ったばっかりなんですけど!


 杖で攻撃か今度ソロ時にしてみよう、と美和は小さな声で言っている。


「あ、あの、枯れるってなんでしょう?」

「枯れるとは敵がいない状態、フィールドに何もいなくなったことを言う」

 美和は平原を指す。


 ほんと、何もないわ。いるのはPC(プレイヤ)だけ……。


 その後、美和によるMMO用語についての講義が始まった。


 そして話題は、こと仮想現実の話になった。


「こんなに早く実装するなんて思わなかったわ」


「知ってる? このMMOはゲーム業界が開発してない。まして軍事関係が開発したわけでもない。たった一つの企業の革新から始まったのよ」

「あ、わたしも新聞やテレビで見ました。その画期的すぎる技術に、現実的な法規制などのインフラ問題が追いついてないって。あと、身体における心のバランスなど、問題点が多いとか」

「人間に悪影響がないか。その論点だけが、マスコミに取り上げられてたよね」

「だけど――」美和は一拍溜めて、「企業が出した一つの論文が世界を席巻した。曰く、人間の能力があがったと」


「能力?」


「簡単に言えば、IQやEQ」

「は、はい。だから思春期の多感な私たちが選ばれたのです」

 あかねはなぜか声がすこし荒い。


「なるほど、学生が多いのはそんな理由なのか」


 あきれた、と美和はため息をつく。


 むっ、VRよ! 仮想現実よ! 普通、手放しで飛びつくでしょ、ゲーマーなら!


「男女の比率は5:5(ゴ・ゴ)なのはデータを取るためよね」


 女性プレイヤが多いと感じたのは、そんな意味があったのか。美和は独り言のように、それに学生だけだとは限らないと言った。


 私の頭の上にはクエスチョンマークが出てるかもしれない。


「特別な人間が集められたって話がある」


「とくべつ?」と私はあかねに向いた。


 あかねは「さ、さぁ」と首を傾げる。


「これはあくまで噂」美和は私たちを見向きもせずに続ける。「この企業の噂はいくらでもある。やれフリーメイソンだの。某国の陰謀だの。ネットで探したら、キリがないくらい。ただ、この企業――すべてを一から作っている。メインシステムはもちろん、ネット環境すらも。何から何まで」


 さっぱり話についてけない……。


「ネットシステムは企業内だけのワークを実現してる。外部からはメインシステムには入れない。完全に独立してる――箱庭みたいなもの」

 美和はそう捲し立てるように言うと、やっと私たちを見た。

「この施設、見たでしょ」


 たしかに、この施設の広さは異様だった。収容人数1000人だとは聞いていたが、まさか一人一部屋の宿泊機能つきで、各区画毎に200名集まる大部屋。その中にはカプセル型の機器がずらっと並んでいたのは圧巻だった。なんのためか分からないが、携帯電話などの通信機器は没収されたが。区画A,B,C,D,Eと別れてるけど、配置的には4隅にしか区画が存在しない。ま、まさか、人体実験が……。


 美和はこっちを見て、笑いを堪えてる。


「だました?」


「言ったでしょ、噂は噂だって」


 むぅ、なんか恥ずかしいので、話題を変える。

「私のいる施設は東京だけど、二人は?」

 開催地区は全国4か所。東京・大阪・福岡・札幌だったかな。


「奇遇ね。わたしも東京よ」

「あ、あのう、東京です」


 なんと、区画も一緒だった。もしかすると、施設内で会っていたのかもしれない。

 東京のどこに住んでるだの、高校はどこだの、あそこの店のあれが美味しいだの、まだ行ってないなど女子話ジョシバナに花が咲く。


 ただ、私が女子高だと言ったら、やっぱりねと二人して言われた。


 なぜ?


 結果、ログアウト後にオフ会をすることをなった。もちろん、私の部屋で……。




「……。アサヒ、敵がいないわ」


 いや、それ私に言われても。


「あそこなら――」いるかも。いや、でもなぁ……。


「なにかありそうね、そこに行きましょう」


 3人ならなんとかなるか。


「よし、穴場まで連れて行ってあげるわ」

 私たちは更に西の方角、森まで着いた。


「アサヒ、ここ危険はない?」


 さすが廃人ゲーマ。平原から森のエリア移動でなにかを察したようだ。って、睨んでる。


 ハイ、ゴメンナサイ。


 大丈夫、大丈夫と茂みを分けて奥へ進む。開いた場所に、ホーンラビットが3匹いた。


 見て、と私は勝ち誇る。


「すごいです」と、あかねは目を輝かせるが、美和は「ドヤ顔がムカつくわ」と悪態をつく。


ファーストアタック(FA)とるわ。ファイアお願いね」


 美和が頷くのを確認して、3匹の中へ切り込む。1匹攻撃すれば、残りの2匹もアクティブ状態になった。


 美和のファイアがFAとったモンスターではない敵にあたる。当たったホーンラビットは美和へと飛びついていく。Hate(ヘイト)が移ったのだ。美和は杖を後ろに構え、大きく振りかぶった。当たったホーンラビットは綺麗な粒子となって消える。


 もう、言ってたこと実践してる――さすが廃人。


 私は2匹になったホーンラビットを避けながら、最初に攻撃した敵から一撃与える。

 そのうちに、美和のリキャストが回復したのか、ファイアがホーンラビットに直撃。一直線に美和を襲い掛かるホーンラビット。


「あかね!」

「は、はい!」

 あかねは横を通り過ぎるホーンラビットに「ご、ごめんなさい」とロッドを振り下ろす。

 私はホーンラビットの突進を避けて、無防備になった背後にレイピアで突く。すべての敵が消えて、PT初勝利を飾った。


 ドロップ率が高いのか、3匹とも角を落としていた。私たちはそれぞれ1個をポーチに入れる。


「ねぇ、ミワ。敵対心ヘイトって見えないもの?」


「見えないわ――それに、見えても、ファイアは誘導式ではない。混戦だと狙った敵に当てるのは、難しいのよ」


 美和とは同じMMOをやっていたので、敵対心の高い敵から倒していく認識であってるはず。それができないってことは、そういう仕様なのか、慣れの問題なのか。


 とりあえず、問題は置いておく。次の狩場(POP)を探す。今度は早くにホーンラビットが見つかった。

 ただし、1匹のみ。


「ミワ、攻撃くらってみるから攻撃なしで」


 美和はサムズアップする。


 私はホーンラビットに攻撃を仕掛けた。敵の攻撃。突進。


 体当たりをまともに受けたが、オークに攻撃されたほどの不快な感覚ではなかった。

 攻撃力の差によって、与える痛みの種類が違ってくるのかもしれない。今のは、じーんって感じだった。


「あかね、回復おねがい」


「ヒール」


 体が少し光った。ぉ、鈍い感じがなくなった。


 私はサクッとホーンラビットを倒した。美和が、倒すなら言ってよ! わたしも攻撃したかったと近づいてきた。


 私は、美和をなだめながら、


 いける! これならオークも倒せる!

 あのにっくきオークの顔を思い出す。そうそう、こんな緑色の醜い顔、

 茂みの葉っぱが同化したオークに見える。


 あれ? なんか目と目が合ったような……。


 あかねが叫んでる。


 オークは茂みを払いのける。いや、私を攻撃したのだ。オーク自体が茂みに隠れていたので、攻撃モーションが見えなかった。


「んはぁん」とたまらず声が漏れる。私は、またあの悶絶するような姿勢になった。


 この決して痛くはないけど、全身をビリビリと覆う感覚……。


 と、肉の燃える匂いがした。美和がファイアを当てたようだ。そのうちに、あかねのヒールが飛んでくる。


 よし、動ける、と立ち上がる。


 ファイアでタゲ(ターゲット)が動いたのだろう、オークが美和を襲い掛かっている。ただ、攻撃ファイアした位置が悪かった。敵と美和の距離が短い。次のリキャストが来るまえに、オークの一撃を食らう美和。キラキラと消滅していった。


 一撃かよ!


 私はHPが回復したので、オークに身構える。だが、オークは私の存在など気にせずに、あかねに向かって走り出す。


 ぎゃー。ヒールヘイトのこと忘れてた。


 私は必死にオークを追いかけるも、間に合わず、粗いポリゴンになり壊れて消えていった。


 なに、この地獄絵図!


 このとき私は、後ろに忍び寄る影に気付いていなかった。


 気付いた時にはもう遅かった。もう1匹のオークがリンクしていたのだ。

 私は背後から襲われ、またしても屈辱的な態勢なった。そして、

 私は言い放つ、


「クッ、コ――」


 オークに蹂躙されたのだった。

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