パーティ
目を開けると、そこは見知らぬ天井だった。
てか、暗すぎてなんも見えないわけだが……。
そして、
発覚したことがある。私――
攻撃耐性がない!
ダメだ、あの感覚を思い出すだけで――両手を肩に交差して、身震いした。
しかし、ここはどこ?
あたりはうす暗く、1m先も見えない。四面の壁には松明が飾られていて、その灯りで室内はぼやっとだけ見える。遠くで、光が差し込んでいるところは出口だろうか。
そこを目指して進む。
痛ッ――
別に痛くはないのだが、足に何かぶつかった感触で声を上げてしまった。
私が横になっていた台座と思わしい物体が別にもう一つ、いや部屋を埋め尽くさんばかりに設置してるのだろう。歩くたびに、一定の間隔をもとに台座らしきものがある。
私は、手さぐりで進むと、なんとか出口まで来られた。
そこは地下になっていたのか、階段がらせん状に伸びている。階段を上ると、そこは教会の中だった。
あれは、死体安置所だったのか、どおりで、シンキくさい場所だと思ったわ。
教会を出て、思案する。
PTを組もう!
この運営、妙なこだわりがあるのか、リアリティを求めている節がある。アイテムボックス、可視化しない敵情報、チャット機能もしかりだ。チャット関係は全部しんでいる。テル機能もなく、遠くのフレンドと話すということはできない。てか、フレンドシステムすらない。セイ機能のみ。普通の会話しかできないってこと。叫べば、シャウト機能といってもいいのかもしれないけど、それって機能ってことじゃないと思わない? もしかすると、やり方があるのかもしれないけど、今のところは立体画面で操作できるのは、ログアウトくらいだ。
掲示板でPT募集ができれば、楽なんだけど……。
もちろん、そんな機能もいっさいない!
掲示板か。ギルドに掲示板あったから、そこから募集出せるかな?
いったん、ギルドに戻ろうとしたが、たどり着くのに、1時間ちかくかかった。
迷子じゃないよ! 飛んだ先の位置がわからなかったんだから仕方ないと思わない?
「どなたか《神秘の森》クエスト受けている方、一緒にいきませんか?」
「こちらレベル4前後のPTです、残り1枠、職はなんでも」
「ィッヵ……ゥバッ」
「レベル8前後で、挑発系スキルもちの前衛募集!」
ギルド前は、にぎわっていた。
みんな考えていることは一緒か。ここで募集してるってことは、ギルドの掲示板は使えなかったっぽいなぁ。ただ、私が参加できそうな募集枠がない!
てか、もうレベル8とかいってる猛者もいるのか!
自分で募集するのもなんだから、もう少し聞いてみよう……。コミュ障じゃないよ!
「クエスト《パーティの蘊蓄》まで進んでる方、一緒にクリアしませんか?」
「クエスト《トカゲのしっぽ》受けている方、一緒にやりませんか?」
「東平原でレベルあげしませんか? 推奨レベル5」
「ィッショニ……」
うーん、なかなか自分に合うのがないぁ。レベル1だしね。
「レベル8前……」
「クエスト《大地の……」
「のPT、残り1枠」
「……ゥサギトゥバッ。……ィキマセンカ?」
パーティ募集の間になにかノイズが……。私にだけ聞こえるなにかですか!
私に電波属性はついてない……はず!
声のする方へ、
「……ィッショニ、ィキマセンヵ?」
うん、なにか聞こえる……。耳を澄ませて、近寄っていく。ギルドの角を曲がった、薄暗い路地付近にまでいくと、
「ど、どなたか、一角兎討伐を一緒に行きませんか?」
ハッキリ聞こえた! と思ったら、少女が目の前にいた。
私より頭一つ分は背が低く、ボブヘアの女の子。
服装は白を基調とした法衣を纏い、腰に小さめのロッドを下げている。
やだ、モジモジしてる。
「一緒に、行きませんか?」
潤んだ眼で上目遣い、さらには両手を組んで声は小さめ。
これが、カワイイは正義なのか!
少女の両手を握り、
「私でよければ!」と、答えていた。
ただ、失念してたことが。初期装備の私に比べ、装備が整っている。いや、防具にお金をかけているのかもしれない。私は、ファッションにこだわりはなく。あ、ゲームでの話よ、あくまで! ステの高い装備を部位ごとに装備する傾向だ。だから、以前やっていたMMOのグラフィックはヒドイ。まったく、統一感がない。なにこれ、って思うが気にしない。気にしたら、負けだと思っている。
レベルが高いってことはないよね。あのクエ、初級討伐っぽいし。私ですら、三撃で倒せる。いや、武器だけはいいんだった、私。防具に費やしてるから、武器は弱めかも? うーん、と考察中に、
「わたしもPTに参加してもよろしい?」と背後から聞こえた。
振り返ると、黒い三角が揺れている。見下ろすと、とんがり帽子がしゃべっている。こちらを向いているようだが、鍔が異様にデカいため、顔が見えない。声質から、女の子だと判断できる。
女の子は鍔を手で押し上げ、
「わたしの名前は、黒崎 美和。さきに言っておくけど、高1よ」
私の驚きに、
あ、睨まれた。
「私、朝比奈 朝日。おなじく高1」
美和と名乗る少女は、私を上から下まで見て、不公平ねと、また睨んだ。
「あ、自己紹介遅れました。私も高校一年生です。白石 あかねと申します。よろしくお願いします」
と、あかねは律儀にお辞儀した。
黒崎美和。大きな黒帽子に、裾が膝までしかない黒のローブ。黒いソックスを膝まで履いていた。黒髪は膝元まで伸びている。色白で顔立ちは、スッキリしているので、第一印象はゴスロリした雛人形。そして、禍々しくも大きな黒い杖を装備している。
「まぁ普通、リアル情報はご法度だけど、ここでは顔バレしてるしいいのかな」
「みんな本名?」
「自分の顔で名前だけ違うのが違和感あるから、本名よ」と美和が答える。
「わ、わたしは本名を記入するものと思ってました……」
「ちなみに、私も本名。よろしく! 白石さんは、こういうゲーム初めてっぽい?」
「は、はい。ゲーム自体あまりしたことないのでして……」
「わたしは、やり込むタイプよ。あと、わたしにさん付けはいらないし、名前でいいわよ」
「じゃ、私もいらない。同世代だしね」
「わ、わたしも、あかねと呼んでください」
美和と私は、最近やっていたMMOの話題になり、違う鯖であったが、同じゲームをやっていたことが分かった。そして、美和は結構なコアゲーマだった。
閑話休題。
「では、行きますか!」と南門へ向かおうとすると、
あっ、とあかねがギルドを指さして、呼び止めた。
「ん?」
「え?」
「アサヒは説明書を読まないタイプね。クエストの際は、パーティ申請するのが基本よ」
「そ、そうなの?」
ギルド受付まで来る。
「すみません、パーティ申請したいのですが」
「かしこまりました。では、ギルドカードを提出してください」
私は、二人からギルドカードを預かる。あかねのカードが上になったとき、
「え、レベル3?」
「は、はい。依頼を達成していましたら、レベルがあがりました」
お使いクエストは報酬だけでなく、経験値ももらえる仕様なのか。
「わたしはレベル2。一応、クエスト関係がどんな風になるのか、クリアしたときに上がったわ。そのとき、ファイアを覚えた」
「あ、わたしもヒールを覚えました」
「ええ。レベルがあがると、最初のステを基準に覚えるみたい。って、アサヒが知らないってことは、まだレベル1よね」
「うぅ、てっきり戦闘でしか、経験値はもらえないものとばかり……」
「まえにやっていたMMOの先入観はいけない」
「3名様ですね。パーティリーダはどなた様でしょう?」
私は二人に振り返る。
「アサヒでいいじゃない?」
「お、お願いします」
「はい、アサヒ様ですね。では、これで登録は終了です……」
あ、あれ?
パーティ募集にのったのに、いつの間にか自分がリーダーになっている……。
どうしてこうなった?
「では、ご健闘をお祈りします」