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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
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古代文明流砂洞攻略2-9

定時・・にはちょいと帰れないと諦めてもらうしかないね」

 キラはこちらの様子を伺うので、サムズアップする。こっちの準備はOKよと。

「なぁに、まだ大丈夫さ。バードの生命線は君にかかっている。君さえ消えてもらえれば、バードを守れるPCはいない。それは実に簡単なことだ。すでにこの群衆の中で避けれないのは証明済みだからな。一撃。あと君に一撃さえ入れればそれだけで瀕死状態になる。それは雑魚の攻撃でもいい。が、最後は私の攻撃で終わらせる。予告しよう。次にカタストロフィを使用したあと3秒後に――君は地面に這いつくばる! これが決定された未来だ」

 Pkerの標的が私からキラに入れ替わる。

 キラは細かいステップを多用して避け、距離を置こうと後ずさる。距離を詰めるPker。この完全攻略の要になる鬼ごっこが始まった。


 そう、キラには時間を稼いでもらわないといけないのだ。


 逃げる。逃げる。雑魚の攻撃を蛇のように搔い潜り、そして蛇のように執拗に追いかけるPker。

 Pkerを取り巻こうとする多勢の雑魚が、いやPkerに付随する得物がキラに襲い掛かる。キラも敵を視界前方に集めながらバックステップを踏み後退していく。

 だが、Pkerの最短ルートで詰めていかれ、終いに――


 捕まる。


 雑魚の攻撃をキラの直線上に集めだすPker。キラは群衆という箱の中に完全に飲み込まれた。それでもキラは必死に逃げようとする。

「まだ足掻くか。だが――その映像はすでに観ている」

 舌打ちをしたキラ。その後方より雑魚ウォーリアのWSである鋭い刃(キーンエッジ)がPkerに、いやキラに襲い掛かる。両者がWSを同時に避けた。そして、背後からの攻撃を避けたということは、つまり――。

「使ったな?」

 Pkerは粘着した声質でキラの耳元で囁く。「そして――私のリキャスト0時に重なっている」

 キラは逃げれないと悟ると、ある場所で立ち止まり攻撃に転じた。Pkerは纏わりつく汗のようにねっとりと密着した形で攻撃を避ける。


「3、2、1――」

 Pkerは死の宣告カウントダウンと共にシミターを振りかぶる。


 ラプラスからは決して逃れられない。


「0――」

 死の宣告を完了されたにも関わらず、Pkerのシミターが振り下ろされることはなかった。


 私はついに安堵で笑みを零した。


 そう――逃げならね。この一連のすべての行為は逃げではない。これは逆転クリティカルへ通じる布石。


「バカなッ! なぜ未来の君がまだ避け続けれるのだッ?!」

 ふーっとキラは深く深呼吸をすると、「ギリギリだったね。その問いの答えはこうだ、僕の能力が上がったからだよ。今は姉御の詩の効果も伴ってカタストロフィは10秒……、否もっと効果は持続しているかもしれないね」


 もちろん、キラの固有詩は――『クレイジークレイジー』だ。システム上、攻撃速度は上がらない。が、この支援だけは移動速度が上がるのだ。ただ、移動速度だけでなくギフトまで効果を底上げするとは思わなかったが。

「まさか最後の方に回されるとは思っていなかったけど」

 キラが流し目でこちらを視てくる。


 ギクッ。

 イヤー、ようへいのバカがHP(ヒットポイント)が低いくせに雑魚3体も抱え込むからさ……。やっぱ全員生存して勝ちたいじゃないか。

 マルカートの最大のデメリットは、個々に歌の効果を掛けなおすために時間が掛かることだ。


「まあ、それだけ僕を信用していたと云うことにしておくか。それにあと1秒でも遅ければ殺られていた。姉御、もしこの展開まで読んでいたなら――」キラはPkerに目線を戻して、「たかが詩人バード如きが僕たちよりももっと先を読んでいたと云うこと――それはすごく皮肉だと思わないかい?」

「いい気になるなよ、それで勝った気か? 決定力がなくなったのはお互い様だ! まさかと思うが、18人いれば勝てるとでも思っているのではないだろうな。それとも何か、力を増した君が私を倒すとでも云うのか? 私は負けない。ラプラスは負けない。絶対にだ!」

「僕が倒す? なにか勘違いしているね。もう僕の行動は()()()終了している。僕はね、この位置にさえ来れれば良かったんだよ」

「なにを云っている?」

「オマエの弱点の一つは――未来を読めるが、それを過去に意味付けできない」

「貴様ッ! なにを云っているッ!」

「15、14――10」

 Pkerは舌打ちする。ラプラスが発動したのだ。

「無駄だ。お前たちの行動すべてラプラスに読まれているのだからな」

 Pkerは奥の壁に移動を開始する。

 私の横ではミワの掲げた杖に火が集まりだし、やがて――炎となる。


 いけるか?


 だが、詠唱が完了した時にはPkerは壁際に移動が終わっていた。その行為はまるで壁の前に雑魚の障害物を造る形になった。


「フレア!」


 無数の点を一気に引き寄せた炎の塊が発射される。初弾がPkerを取り巻く外周に着弾。その威力は雑魚のHP(ヒットポイント)という壁に吸収され、高火力のフレアは無残に消え去った。一直線に放たれた魔法は広範囲に雑魚だけを巻き込んだだけに留まったのだ。Pkerまで届かない。着弾があきらかに壁奥までの距離から離れていたからだ。バリケードを破壊するまで至らなかった。そしてそれはラプラスがこうなることを予見している。


 けど――

 そんなことは私だって十分承知している!


「馬鹿め、さすがに雑魚のヘイトは維持できないぞ! 最初の犠牲者は魔術士か。どうやら距離も、そしてダメージ計算も見込み違いだったらしいな。所詮、すべてを正確・・に把あ――」

 Pkerはハッと息を飲む。


「ああ、僕の能力ギフトは『正確』。もちろん、なにからなにまで凡て正確に把握している」


 全雑魚の視線がミワに向く。フレアによりヘイトが移ったのだ。だがミワは冷静に次の詠唱を開始していた。

「あら、わたしの最大魔法がフレアだなんて、いつから錯覚――否、心得違いしてた?」

 ミワは杖を地面に刺し尊大に言い放つと同時に、杖の2m頭上に点みたいな炎が浮かび上り急速に膨らんだ。直径1mもあろう火球に様変わりしたのだ。その球の表面は所々爆発し、龍を象った紅炎が球面上から飛び出している。

 それはまさに小さな太陽であった。


「3、2、1――」

 キラのカウントダウンは続く。


 そうPkerの弱点の一つは――10秒先の未来を読む能力ラプラス、言い換えれば10秒()()しか未来が視えないのと同義、つまり――


 11秒後の未来は分からない!


 ならそれ以降に起こる結果になる行動をすればいい。だが、それはPkerを大いに怪しませるだろう。だからこそ10秒きっかりに起こるフェイクを混ぜ込む必要があったのだ。人は自分で判断した結果を信じる。ラプラスという能力はその心理を大いに増長させる。なんせ未来の映像を過去として視えてしまうのだから。私たちの計画は失敗した、いや失敗すると勝手に決定づけたのだ。本当の作戦は、その一秒後だと知らずに。


 そして――逆転クリティカルする。


「ゼロ!」


「未来に震えて負けろ!」



「フレア2!」


 ミワの放った火球が押し寄せる雑魚を次々とポリゴンに変えながら突き進み、ついに最終地点――Pkerの目前まで辿り着いたのだ。


「クソがぁあぁツ!」

 火球がひと際光り輝き大きく爆ぜた。Pkerはいとも簡単に粗い粒子へと還った。

 そして女王の間の壁も瓦解する。


 ――クリティカルが発生しました。

 システムメッセージが脳内に響く。


 崩落した壁により辺りは砂煙が漂っており、視界は奥に行くにつれ閉ざされていく。私たちは息を凝らして壁の奥部屋を見つめた。

 砂の粒子は重さを静かに取り戻す。

 そして真の女王の間が現れた。

 だが誰一人として歓声は上がらない。まだ戦いは終わってないからではない。たしかにジャイ-アントが数体残っているはいる。が、さきの戦闘に比べれば遥かにクリアは簡単だ。まして、これから登場するボスへの緊張感でもない。

 ではこの静けさを担っているのはなにか。

 そこにいるべき本来の女王ボスがいる――はずだと思っていた。

 だが私たちが視認しているのは到底ボスには見えない()()だったのだ。その異様な光景に私たちは固唾をのんだ。


 壁の奥、小部屋の中央にある台座に置かれているのは――1つの箱だった。


 箱の中身は、また箱だった。



「オイ、これはジャイ-アントを倒せばクリアなのか?」

「どうなっているんだ?」

「これでいいの?」

「勝ったのか?」

 各々の声が無意識に口から発せられている。それほと奇妙な光景だったのだ。


「あれは――箱なのか?」

「開けば女王が出てくるんじゃない?」

 たしかに状況的にはそうなんだろう――が、だれもその意見に賛成の声はない。そんな演出があり得るのかと言う疑問の割合の方が多分に含まれているのだろう。

「いや、きっとよぉ。箱の中身は次も箱ってオチなんだぜぇ」

 ソウがぶっきらぼうに言った。だが、なんだかそれが一番しっくりきたのが不思議だ。


 でもあれって――


「こ、古文書?」

 モルル博士が身振り手振りで説明しようとしていた形にそっくりだった。

 なぜ女王がいないのかはさておき、あれを持って帰ることできっとストーリーの展開が開ける――のではないか。なんだか自分に都合のいい意味ができるだけで安心してきた。


 ゴゴゴゴゴゴ――


「じ、じしん?」

「いや、ちがう。これは――」


 壁が――床さえもポリゴンに変換され消滅していっている。

 何もないところに浮き上がるのは、渦だ。目がちかちかする得体の知れない黒緑の渦がうねうねと蠢いている。


「バグ?!」


「マジか! これ、飲み込まれたらどうなるんだ?」

「普通に考えて、強制ログアウトあたりじゃないかしら」

「オイオイ、あとちょいでクリア目前だったんだぞ。クソ運営め!」

「いったん、このエリアから脱出――」

「いや、それよりアレだけでも回収し――」

 私は箱を指さし、したほうがと言いかけたあたりで地面が抜けた。


 え? 


 私はこの女王の間にいる全員が渦に飲み込まれていく様を下から眺めるかたちで奈落の底に落ちていった。


 ――きゃああぁあー。


 悲痛な叫びと共に。

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