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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
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古代文明流砂洞攻略2-8

「なにかある」


 まだまだ余裕のあるPkerだったが、その言葉に表情は一変した。見ているこっちが怖いくらいに。


「きっとあの壁――壊れるんじゃないか?」

 キラの言葉を聞いたミワたち魔術師は一斉に壁を凝視した。


 壊れるのか?


 だが、攻撃はできない。NPC、ここではモンスターに対しての攻撃が能動でないなら――未だPkerの誘爆による脅威は消えてないのだ。Pkerを無力化できていない。DPSはなにもできない。


「あの壁は壊すな」

 Pkerの低い声。


 あの中に何があるんだ?


「いいか? あの壁の中には、そうだな――あの箱の中には猫が1匹いる」


 ネコ? なんだなんだ、なんともカワイイ話になりそうだゾ。まったく話の繋がりは分からない薄ら寒い点を除けばだが……。

 その壁に注意深く耳を傾けるも、もちろんミャミャとかネコの鳴き声など一切聴こえてこなかった。ただただ聞こえてくるのは耐え忍ぶタンクの声だけ。


「そして外部からスイッチを押せば、二分の一の確率で箱の中に仕掛けた毒ガスが作動し、


 ――猫は死ぬ」


 ぉう、カワイくともなんともなかった……。話しぶりからしてなんとなく予想してたけどね。


「その猫は死んでいるのか生きているのか、箱の外側からは判断できない。人間の意識下では死んだ猫と生きている猫が存在――重なり合っている」

「 シュレーディンガーか」

「この哲学的問いの回答を導き出すのは基本、不可能だろう。だが、私の能力ではどうだと思う? 確率ですら無視をするこの力。だがね――」

 Pkerは苦い顔。

「それでも結果は一様ではなかった。きっと混じり合ってはいけない世界が、その壁を画して重なり合っている」


 ラプラスで見たのか。たしかに、その能力なら外部から中身を確認できるか……。ズルい。いや、まさにチート能力だからな。だが、それでも結果は同じではなかった?


「なぜ、そのことを云わなかった?」

「なぜ? なぜかだって? 簡単なことだ。それは今からデスゲームを始めると云うくらい陳腐な台詞だからだよ。ゲームをクリアすれば、この世界が終わりを迎えるなど誰が信ずるものか!」

「だから――」

「私自身が守る必要があったのだ」

「なるほど、それが――動機か」

「君もその能力なら分かるだろう。確定されていない未来がとても胡乱なことに」

「否、分からないね。決定された事象などちっとも面白くもなんともないじゃないか」

「好奇心、猫をも殺すぞ!」

「お前の猫は死んでいたのかな?」

 Pkerはしかめっ面になり、「まったく、君は本当にを苛立たせてくれる()()だよ」と言うとすぐに、深く深呼吸した。「それに、君は焦っていると云っていたが、私は焦ってなどいない。バードの能力はすでに把握済みだ。()()()だ! 私はね――ただただ時間の無駄が嫌いなんだよ。仕事はキッチリ定時に帰りたい派なんでね」

 Pkerは最後の台詞に近づくにつれ落ち着きを取り戻していた。キラはそれについて得心した感じだ。まあ、その言動からラプラスで私の能力がバレているのは明らかだからか。


 そう――たしかに私の()()能力ではPkerを倒すことは不可能だろう。いや、不可能だと言ってもいい。もともとが支援職なのだから。吟遊詩人の能力はステータスを上げること。LOの基本システムはレベルが1上がる度に、Pointがそのレベルに応じて与えられる。

 そのPointをステータスに割り振り能力を強化、そしてスキルを得られるのだ。極論になるが、レベルを無理やり底上げするのが詩人の役割になる。

 私の能力スキル――『マルカート』。CHRを上げて取得した制限つきのスキルであり、これはレベル45相当になる――は個々のステータス1つだけ上げ、詩の効果時間を2倍にする能力。レベル45相当のスキルの割にショボいって? この能力の最大の魅力は範囲を無効にすることなのだ。通常、詩の効果は一種類のみ。つまり範囲上にいるPTには別々の詩の効果を乗せれない。詩の範囲を絞ったり歌い手が移動したりして、範囲を調節すれば詠い分けることは可能だろう。こと今の状態では不可能だ。だが、このマルカートは違う。個々に合った能力UPが可能になるのだ。

 もちろん、デメリットがないわけではないが……。これは歌支援効果総てのデメリットに繋がるが――ステータスUPは、所詮、ステータスUPのみということ。レベル自体が上がった訳ではない。このLOはレベル補正がかなり強い。敵とのレベルが近づけば、体感で敵の動き自体が遅く感じるようにできている。なので、ステ能力UPはそのようなシステムには関与せず、与ダメ、非ダメにのみに関与。または武器防具の一時的な装備に関わってくるだけなのだ。

 だが、その程度の効果か、と鼻で笑うPCはMMO経験者にはいない。与ダメ0と1では戦闘をするしないの選択が変わってくる。レベルの高い敵、つまりは難易度の高いクエストに挑戦できるかの有無が決定されるのだ。まさにPCの地位ステータスに携わってくるものである! 失礼、詩人の有用性について熱くなった……。

 閑話休題。まあ、主要PCそれぞれに見合うステータス上昇なら、この戦況を乗り切れるのではないか。今ここにある危機とは雑魚の脅威。それを根こそぎ狩れるのではないか。上手くいけばジャイ-アントもいけるかもしれない。そうすれば――Pker一人なら、


 勝てるのか?


 ふと今になって疑問に思う。全員の能力を上げたとしよう。それで敵モブを全て倒したとしよう。それでもラプラスに勝てるのか。イメージは掴めない。

 この現状を打開することだけしか考えてなかった……。

 そう、レベルが上がるわけでないのだ。Pkerの攻撃を避けれるようになるわけではない。こちらの攻撃スピードが速くなるわけではない。どんなに攻撃力が上がろうとも、Pkerにとっては当たらなければどうということはないのだ。そして時が経てば、また雑魚モブの再POP。この遣り取りの繰り返し。終わらないレベル上げに近い。

 問題は棚上げなのだ。


 だから――


 ラプラスというチート能力に勝てるのか?


 10秒後の世界。

 10秒に一回、自ら攻撃を仕掛けれる。


 ラプラス……。


 ぬるっとして脳にこびりつく感覚。

 そして――


 待てよ。コイツ、弱点があるゾ。あまりに単純すぎて気が付かなかったが。明瞭はっきりとした弱点がッ!

 イヤ、ダメだ。弱点が弱点になっていない。Pkerを倒すことには直結しない。


 倒す? 何を?

 私はだれと闘っている?


 本末転倒していた。

 Pkerを倒すことがそもそもの目的ではない。目的自体が何か、それが一番の問題だったんだ。

 あっ――だから、キラはあの話を振ったのか。


「ミワ!」

 私は手招きする。未だに足は覚束ず立ってるだけでやっとなのだ。ミワが、もう何よと小足に近寄ってくる。キラとPkerの会話を一字一句逃さず聞いてたのに邪魔するなと言わんばかりだ……。

「そうだ、アサヒ! CHR上げて何する気なの?」

 ミワが追及してくるが、すでに次の段階に移っていたので早口に説明を行う。そしてカードを見るように示唆する。

 ミワが小さく、えっウソと驚いた。


「足りる?」

 私はミワに聞く。そのミワは自カードを覗き込んだ状態で、フッフッフと肩を震わし笑い、「足りるかですって? いける! いけるわ! けどその計画――」


「大丈夫。キラはすでにPkerの弱点に気付いている。そしてこれから私がやろうとしている意図もね。あとはキラが合図を送ってくるはずよ。チャンスは一度きっり……」


「ほんっと――アサヒはわたしに最高の見せ場を用意してくるんだから――。いいわ。わたしの最大の魔法を魅せつけてあげるわ!」


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