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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
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古代文明流砂洞攻略2-7

 今、コイツ何て言った?


 ”ゲームなんてやってないで、勉強でもしなさい。将来、なんの役に立たないわよ”

 母親の言った言葉が脳裏を掠める。

 ゲームだって達成したときのほんの少しの優越感くらいはある。いや、言いたいことは分かる。現実的な意味での得があるのかと言えば――たぶん、ないだろう。逆に課金などで金銭的な実害があるかもしれない。若者に許された貴重な時間を無駄にするなと言いたいことも分かっている。きっと、その結果になにも残らないだろうということも分かっている。

 結果に意味はない。

 けど、それに至るまでの過程にはきっと――きっと、意味があるんだ。

 私の――仲間たちと培ってきた時間――冒険を侮ることは許せない。侮辱することは許せない。

 意味がないなんて言わせない。


 それをコイツは何て言ったぁああ!


「ふ――


「ふざけるなぁあああぁッ!」



「おい、見ろよ」

「ハハハ、マジで立ちやがった」

「ア、アサヒ、大丈夫?」

「アナタたち、アサヒが頑張っているんだから踏ん張りなさい!」

「わかってるよぉ」

「あぁ、これからだ」


 Pkerは舌打ちをした。「たかが、バードごときが立ち上がったくらいで何を勝った気でいる。お前たちに逆転はないんだよ」


「アンタ、私たちのことをよーく知ってると言っていたけど、本当は知らないのね。いい?


「私たちは逆転クリティカルが得意なんだよ」


 Pkerは鼻を鳴らす。私は背中にあった得物を杖代わりに立っているからだ。たしかに負け犬の遠吠えにしか見えない恰好だろう。私はその得物に巻き付いた布を勢いよく解いて投げ捨てる。


「ウソ? アサヒが――」



「「「ギターーーー?!」」」



 なぜみんな驚いている? しかも見事なハモリ具合……。まぁ、あれだけ歌特化に渋っていたからな。

 そして、なぜようへいだけ得意げな顔なんだ?


 たしかにPkerが言った通り現状は――たかが吟遊詩人バード如きが立ち上がっただけだ。これで機が好転したわけではない。状況はなに一つ変わっていない。MTSTのHPは残り少なく、ヒラのMPが酸欠気味、アタッカーに至ってはPkerにより攻撃を封じられている。そしてなにより、これはエンドコンテンツではない戦いなのだ。まだ始まりに過ぎない。すでに、減らなくてもよいMTのHPは摩耗し、この状態を維持しようとヒラのMPも回復した端から泡と消えていってる。


 流れが悪い……。


 なら、流れを変えるだけ――ミュージックロードに乗せるだけ。


 私はコードを思い切り弾いた。

 アンプのゲインも、エフェクターの調整もいらない。ホントこのLOは楽でいい。

 ギターの音がこの小ホールほどの空間に鳴り響く。ほんの一瞬だけ。ただそれだけで、このエリアの空間が止まったように感じた。後に残るのは木霊する音色だけ。そして、止まった空間が徐々に熱を帯びてくる。視線が一気に自分へと引きつけられる。この独特の期待感。自身に流れるこの緊張感。


 この臨場ライブ感。


 張り詰めた緊張をほぐすように、腹の底から肺に至るまでのありったけの空気を絞り出す。


「私の詩を聴けぇええええッ!」


 弾き始めるとあらかじめ用意していたシステムプログラムからドラムとベースの音がどこからともなく伴奏される。この出だし(イントロ)懐かしい。いつもは伴奏などなかったから新鮮な気持ちだ。これは大昔に流行ったロック。そしてなにより、私が初めて弾いた練習曲でもある。コード自体が6種類しかなく誰でも簡単に弾け、自分をプロになったかのように錯覚させる曲だ。バレーコードなど一部難しい箇所もあったが、そこを克服した時の感覚、次のステージにいけたという想いが身体を熱くさせた。また次へと階段を上がらせてくれた、想いの曲。


「この曲初めて聴くぞ」

「アサヒ様の新曲キター!」

「この曲どこかで……」

「オヤジが好きでよぉ、車でかかっていたのを聴いたことあるぜぇ。かなり昔の曲だぁ」

「アナタたちは戦闘でステが見れないと思うけど――


「CHRが異様な上がり方をしてるわ。アサヒ、一体なにをしようとしているの?」


 さきまで涼し気な顔していたPkerが一変、

「そのノイズ、目障りなんだよ。消えろッ!」

 雑魚の群れの中からクナイを放つ。


「させないよ」

 キラがスリングショットでクナイを攻撃。スリリングの弾だけがポリゴン化。依然、クナイは勢いそのまま元気に私に向かってくる。


「ここはゲームの中だと云うことを忘れちゃいけない。攻撃を当てようがクナイの軌道は変わらない! 仮に、相殺による威力低下が目的だとしてもだ――瀕死のバードを狩るには十分だ。


「これで終わりだ!」


 悔しさで目を閉じた。私はなにも出来てない。まだなにもしていない苛立ちに、「クソッ」と思わず口から汚い言葉が出てしまう。だが、いつまで経ってもあの死に戻りの時の感覚が襲ってこない。不思議に思い恐る恐る目を開ける。

 クナイが眼前にあった。


 え?


 ほんの鼻先で止まっているクナイ。いや、クナイだけじゃない。見渡すとPkerに雑魚モブ、そして仲間たちが静止している。


 これは――

 時間が止まっている? 


 不意に頬を何かが掠めた時、クナイがポリゴンに化し――周りが動き出した。


「ゲームの中ならスキルの名前くらい覚えてた方がいいんじゃないですか?」


 今の感覚はなに? 


 いやそれより――キラのさきの攻撃は、

 ――ダブルショット。


 遠隔攻撃スキル。二つの弾を同時に撃つ。威力は2倍だが、その代わり極端に命中率が下がるWSだ。使い勝手が悪く、余程のPS(プレイヤスキル)がなければ2発当てれない。近距離で撃つしかないのが現状だ。だが、近距離で敢えてD値の低い遠隔攻撃で攻撃するなら近接攻撃に徹した方がDPSは格段に上。そのためLOではダブルショットは死にスキルとなっていた。


もちろん、キラには『正確』がある。だからこそ攻撃が当たったのだろう。


「なにを焦っている? 一体なにを見た? 否むしろ――攻撃したね。僕を倒すのに近寄りすぎだ」

キラの横払い。Pkerは半歩下がって攻撃を躱す。

上手い。雑魚が背後から攻撃を仕掛けるタイミングで行った。


これは――当たるぞ!


だが予測に反してPkeerは難なく躱す。キラの困惑した表情。


バカな、ラプラスは発動しないんじゃなかったのか!


「残念だったな。当てが外れたかな? ラプラスのリキャスト(ゼロ)時の行動は反映されない。云ったはずだ。私に

「――弱点はない!」


「そうか。そういうことか。なるほど……。ああ、そう、違う、違うんだ。そうじゃないんだ。驚いたのは――()()()()()()じゃないんだ。


「どんな事象もイレギュラーは存在する、か」


Pkerは怪訝な顔。


「分からない? そう、分からないんだ。あっ、そうそう――」とキラは今思い出したんだがと言いたげなワザとらしい演技。「今更だけど、あと1つ確信したことを云ってなかったね。

「このゲーム上での本当のギミックは何なのか? それは、ここに――女王の間に来て分かったよ。頭の中で製図を引くように、正確に描いた地図には、


「不自然な空白がある」

 キラはそう言うとこの部屋の一番奥を指して言った。


()()()()()



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