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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
44/50

古代文明流砂洞攻略2-6

 

「高笑いの時に水を差すようで悪いんだが――」

 キラは立ち上がり、

「お前の云い方を借りれば、

「1つ――否、僕の場合は2つ確信したことがある。たしか、僕と同じの能力を云ったよね。ずっとそれが頭に引っかかっていたんだ。なぜ、同じ能力と云わなかったんだろうってね。読める時間が3秒と10秒の違いか? いや違うね。

「さきの戦闘で分かった」

 キラは力強く断言する。

「根本的に違うんだ。僕の能力はあくまで『正確』だ。その能力の副産物として未来が読める()()なんだ。継続した過去が変わっても未来はその選択肢の中で決定されていく――未来いまを持続して見ている。この能力を僕は『カタストロフィ』と呼ぶ。お前の能力――ラプラスは未来の映像を10秒すでに見ている()()だ。未来を過去に還る能力だ。では未来を読んだ者が過去を変換したら、どうなる? 未来が改変されたなら、過去に視た未来はウソになるのか? 『卵が先かニワトリが先か』、否この場合は『脳の中のホムンクルス』と云った方が正しいか。


「矛盾が生じる」


 Pkerはほうと感嘆するように肯いた。


「自らの行動で未来が変われば、その能力は解除される。その証拠に周りにPCがいるときだけは、決して自ら攻撃していない。予言には絶対に逆らえない。まさにラプラスの悪魔だよ。システムに囚われているのは――お前の方だ!」


「ブラボー!」

 Pkerは器用に雑魚の攻撃を避けながら拍手を送る。

「攻撃範囲にPCがいれば――私自身攻撃できない、か。

「いいかい? 私の弱点は私が一番よく知っている。君よりもだ。そして――それは弱点とは云わない。別に私が攻撃する必要はない。雑魚によって倒される。


「これは確定された未来だ」


 尤もな話だ。攻撃する必要はない。近づくだけでいいのだ。現にキラは雑魚の攻撃を喰らった。


「距離を詰めさせてもらう」

 最短ルートでキラに接するPker。追随する形で雑魚どもがワラワラと追いかける。

 Pkerが対峙すると大きく上半身だけ右へ傾ける。背後からのアントナイトの突きがPkerを――いや、キラを襲う。雑魚の攻撃に対してキラを直線上に置くだけでいいのだ。

 雑魚単体の攻撃が集まりだし連続し、そして波となる。それがやがて荒波へと変貌する。

 だが、二人は当たらない。かなり密接して二人は移動していく。まるでツインダンスを踊っているかのようだ。敵味方関係なければ見惚れるほどに。

 でも、いずれキラは打ち負ける。Pkerの予言は絶対だ。


 10秒経過――。


 可笑しい……。

 すでに攻撃が当たってもいいのに、キラはまだ避けている。Pkerの讖は成していない。


  何が起こっている?


「モンスターには必ず癖がある。

「たとえば、アントパルチザンは左肩と下げると右の大振りが来る」


 キラの予測通り、パルチザンの右大振り。


「そして――アントナイトは腰を落とす動作で

「一閃」


 これもまた予測は見事に的中。


「すべての癖は『正確』にすでに把握した」


「クセの分からない私の攻撃への誘い水のつもりか? のらないよ。そして――なぜ決着を急ぐ? それには弱点がある。動作を、すべてを視認しなくてはいけない」

 キラに襲う背後からの攻撃。見ることなく最小限の動きで避けた。

「そこは『カタストロフィ』で避けるか。すばらしい! だが――


「残り7秒、死角ができたぞ!」


 キラは小刻みに視線を動かす。雑魚と雑魚との空いたスペースへ滑り込み、全体を雑魚が視線の先にいる状態に持っていった。そして7秒は経ったであろう――リキャストは回復する。

「なるほど。リキャストは『正確』で補完するのか。そして――

「雑魚10匹程度では止められない、か」

「ああ、そうそう。君の説明で1つだけ訂正させてもらえるかな。私の能力は、たしかに能動的な行動を取った際に解除される。


「だが、それはPCに対してのみだ。


「返してもらうぞ! 私の獲物――得物を!」

 Pkerは両手指に3本ずつクナイを挟み込み、そして連続に放つ。そのクナイは雑木林に入ったゴルフボールが枝木に引っかからずにフェアウエイに戻るように、囲んだ雑魚には当たらずに散らばった雑魚のみに命中した。

 ヘイトを上げたPker。そして――。


 MTSTを攻撃していた雑魚の目が赤く光り、Pkerに振り向く。タゲが変わる。

 Pkerは不敵に笑う。


「さぁ、雑魚20匹の嵐の中、君は避けれるかな?」


 Pkerがピタリとキラをマーク。雑魚がPkerを襲い、キラが巻き込まれていく。前方による攻撃は簡単に去なすキラだが、やはり死角からの攻撃には滅法弱いのか。カタストロフィを発動して避け――視界が開ける場所を探そうとする。だが、私から見ても避けた後に逃げれる場所がない。すでに雑魚が占有している。あんな狭い空間に雑魚が総勢20匹が入り乱れているのだから。

 背後からの攻撃に反応が遅れたキラは、避けるのではくWSで相殺に転じた。が、アントウォーリアだったのが災いした。D値が高い雑魚に当たったのだ。そして運が悪くウォーリアによるWSでノックバック――後方に吹っ飛んだ。

 Pkerは後衛に攻撃しなかった。もうキラを始末することだけを楽しんでいる。

「一気にHPが半分くらいになったんじゃないか? 動きが鈍くなったぞ」

 あとは見るも無残に、キラは雑魚の攻撃を相殺するのに限界だ。それでも致命的な攻撃は喰らっていないのはさすがだが。

 ついには前方にいる雑魚の攻撃からも相殺する羽目になっていた。


 ようへいは見かねて挑発でタゲを取り返す。すぐさまアビリティを駆使し、あと2体の敵を取るのに成功した。

 だが、残り二人のMT神楽、戸田はPkerに纏わりついてる雑魚のヘイトを取らない。タンク職ならヘイトを奪うアビリティが数あるのにだ。MTが各3体ずつPkerから雑魚を引っこ抜けば、再度互角の戦いに持っていける。


 だが、この状況を判断するのは難しい。 

 二人の考えていることは、たぶん、私と一緒だ。


 なぜなら――好機。


 今はMTがジャイアントだけに専念でき、ヒラは余分なヒールでMPを圧迫されずに残量を増やしていける。雑魚の対処を取っ払えただけで、MTのアビ節約やヒラのMPとかなりの便宜がある。

 Pkerがキラに執着している今がチャンスともいえるのだ。

 たしかに、それはキラを犠牲にするという行為に見えるかもしれない。

 MMOでは――特にLO世界では不文律が存在している。それはたったひとつ。

 タンクとヒラは絶対落としてはいけない。

 DPS系における戦闘においての回復順位はこの2職に比べれば、二の次だ。最低限、タンクヒラが生きていれば勝負ができる。だから決して見捨てる行為は悪いことではない。

 いや、そもそも善だ悪だが存在しない。


 だから――


「オイッ! お前ら仲間を見捨てるのかよ!」

 ようへいは吼える。だが、MT二人は動かない。


 仕方ない……?


 たしかに、ゲームの目的は是か非が問題ではなく、結果のみに意味が成す。

 それに向かって、PTメンバー全員が足並み揃えて真っすぐ行軍するのだ。結果である勝利のために。そして、その道を逸れるだけで――その行為に罵倒、嘲笑、揶揄に煽動するのだ。


 だから、私は――ミワやあかねにあんなヒドイことを……。


 今にしていればどうかしていたと思う。だけど、あの瞬間はあれが正しいと思っていた。私が正しいと思っていた。私の行動こそが正しいと馬鹿馬鹿しくも本当にそう思ったのだ。


 そして今もだ。今も――

 ようへいの行為すらも異常だと感じたのか。大切な仲間を助ける――すごく人間的な行動だというのに――だ。どこか冷めた自分がいた。


 なぜ?


 ここがリアルじゃないから?

 ここがゲームだから?

 私がそもそも人間じゃないから?

 私がNPCだから?


 違う、違う。……そうじゃない。

 そういう考えをしてはいけない。


 考えれば考える程ぐるぐると思考は廻り、螺旋状に落下する。闇の奥へ誘われる。

 その暗闇には悪魔が――Pkerが薄ら笑っているのだ。


「――お前ら。

「アサヒもアサヒだ。何をいつまで燻っていやがる! いいのか? このまま俺たちの冒険をコケにされたままで! 立てよ! 立ってくれよ!」


 ぼうけん……。


 私たち冒険の軌跡を思い出す。

 そう、思う。考えるのではなく、想う。


 このLOを初めて降り立った時のドキドキ。

 PTを組んだ初戦。連携が決まった時の高揚感。

 未開の土地に踏み入ったワクワク。

 そして、新たな仲間との出会い。

 一緒に過ごす上で同じ景色を観、同じ気持ちを分かち合えた。

 いまでは仲間の好き嫌いも分かるようになった。

 もちろん、いい思い出ばかりじゃない。紆余曲折したこともあった。

 だけど、それらすべてが、私のすべてだ。

 自分や仲間がPCだとかNPCだとかが入り込む余地はない。


 抱いた感情はすべて本物だ。


 たしかにようへいの考えはゲーム的ではない。

 だから、どうした!

 これはゲームであって、ゲームでない。これは――人間性を問う、


 そう、冒険だ!


 考えるのは、止めだ。

 私は考えるタイプなんかじゃない。考えるのは考えるヤツに任せておけばいい。


 そして、漸く私はただただ、地面に這いつくばっている状態にあることに気付いた。



 嵌っていた。

 Pkerに上手く嵌められていた。

 震える拳を地面にぶつけた。

 鈍い音がした。そう音だけだ。

 ゲームの仕様上、痛みは鈍化されている。


 それでも『心』は痛かった。


 この心臓もない借り物の箱(キャラクター)に。

 そうだ、この感覚こそが――現実だ。


 私は下からPkerを睨め付けた。だが、こっちには気付かない。当然だ。私はPkerにとって地面にある石ころと同じだから。


 それにしても――ようへいめ。無茶なことを言ってくれる。


 瀕死状態では立てないのが、このLOの有りようだ。

 いや、そんなことは考えるな。

 ゲームの仕様だなんて関係ない。


 動けよ、私の足ッ!

 動け、動けよッ!


「なにを熱くなっている――しょせん、これはゲームだ」

 悪魔が呆れたように呟くのが聴こえた。



 ――プチン。


 私のなにかが切れる音がした。

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