古代文明流砂洞攻略2-5
「今度は本気でか」
Pkerはフンと鼻で笑う。
「君の能力でか? 君は自分の能力に100%の自信を持っているね。それは、そうだよね。君の本当の能力――」
「ラプラスの霊」
Pkerのその一言でキラは舌打ちをした。悪態をつくのは珍しい。Pkerはそんなことお構いなしに滔々と語り出す。
「フランスの物理数学者ラプラスによる『確立に関する哲学的考察』にはこう記されてある。森羅万象、ありとあらゆるものの位置と速度が正確に測れるなら――過去から未来に亘ってすべてを物理的な計算で分かると。そう、未来は――」
「決定している」
「君の能力が『正確』だったからね。どうかね、この推論は?」
「運命的だね」
キラはPkerの質疑には答えず、あくまでふざけた態度だ。だが目は笑っていない。
先が読めるなら、接近戦、いや戦闘にこれ以上ない強みではないか。
「だからこの能力を持つ自分は負けない、とね。だが――
「君はこうも考えている――なぜコイツは、こうまで雑魚の攻撃すら当たらないのか。なぜ、ここまで戦況を予測できているのか。もしかすると、
「コイツも僕と同じ系統の能力を持っているのではないか、ともね。
「試してみるかい?」
Pkerは手でクイクイと挑発した。
仮に未来を読む能力が本当だったとして――決着に終点はあるのだろうか?
キラの身体はタイミングを測るように揺らいでいる。Pkerを囲む有象無象に一筋の、PCが一人分空いた瞬間、一気に間を詰めた。もちろん、そうさせてもらうと言わんばかりに。
キラの得物とPkerの得物が衝突音を奏でる。キラは一刀を接したままニ刀を振り抜く。が、Pkerには当たらない。前回と変わらぬ攻防。二振目、キラにとっては三振目かーーこれもPkerに相殺され、通常攻撃からのWSも空振りに終わる。当たらない。当たらない。当たらない。
当たり前だ。能力が同じなら、闘いは平行線上だ。終わりがない。
だが、なぜキラには焦りの色が見えるのだろうか。
違う、戦況は拮抗などしていない。一見、互角に見える戦いだが、データ換算上は明らか違いが出てる。相殺――といえど、二人の武器性能が異なる。そう、ククリではD値が負けているため微ダメージであるがしっかり蓄積されているはずなのだ。
左右に跳び退ける二人。そこにいたであろう影に雑魚の攻撃が空を切る。二人はそのモーションをまったく見ていなかったにも関わらずにだ。
やはりPkerにも先が見えている。
キラは避けた方向にいた雑魚を踏み台にして後方へ距離を取る。空中で一瞬、スリングにかけた手が止まった。Pkerがクナイを放ったからだ。それをキラはククリで弾く。あのままスリングショットを放っていればダメージを食らっていた。
踏み台にされた雑魚は依然Pkerに敵対している。運がよいことにPkerがヘイト保有している雑魚だったようだ。いや、これは愚考か。未来が観測できるなら、どの敵が保有しているかなど分かるのも当然か。
二人は一定の距離を保ち、一旦仕切り直しになった。Pkerは雑魚の攻撃を交わし続けながらだが。
もちろん、余裕の表情で。そしてニンマリと笑った。
「今ので確信したんだが、君の攻撃にはある一つのパターンがある。足蹴りからのバック宙が典型的なそれだ。この行動原理は何か。距離を取る。つまり――
「リキャスト。
「君の能力のね。リキャスト待ちではないか。これまでの戦闘を観察、分析考慮して――リキャストは10秒。そして、君の能力の限界は3秒。
「3秒しか未来を観測できない」
キラはPkerを凝視する。
「無言は肯定と捉えるぞ!」
今度はPkerが距離を詰める。雑魚も大移動だ。
群集の中、避け合戦が始まる。
だが、Pkerの予測通り、いや決定された世界か。キラは一定数避けた後、雑魚を足蹴に後方宙返り。Pkerはここぞとばかりにクナイを投げる。だが、キラにではなく――
神楽PTの魔術師が崩れ落ちた。
「いいね、後衛は柔くて」
Pkerは「さぁ、どうする?」と言いながら、意地悪く考える暇を与えないと間を詰める。
キラは接近してきた――すでに自然災害みたいなものだが――Pkerと共に集団の雑魚に囲まれる。今度はキラは攻撃をせず避けにまわる。
だが結果はさきと同じ展開だった。キラが後方へ飛んだ瞬間、後衛に標準を定めるPker。違いは、戸田PTの魔術師が狙われたことか。完全に弄ばれている。ヒラを狙ってこない。
どうして――同じ能力でこうも完全に打ち負ける?
「分からないか? 性能の差は何も武器だけではないのだよ。能力自体に圧倒的な差がある。いいかい、私の能力は10秒先まで観測できる。そして――
「リキャストは10秒だ」
それはずっと発動しているのと同義じゃないか!
「私はこの能力をラプラスと呼んでいる」
――コイツ、強すぎるッ!
キラは突っ込む。何か勝算があるのか?
「やはりね、そうくるか」
ラプラスは発動している。キラの行動はすでに予測されている。
キラの接近攻撃に対してPkerは相殺しない。
「シミターの相殺にククリ二刀同時攻撃か。良い考えだ」
相手に攻撃を与えるのではなく、相殺にタイミングを合わすことにしたのか。
二刀流の二振りを一点に集中――これなら
D値は逆転する。
「だが、こちらが攻撃しなければいいだけの話。あとは雑魚が君を倒してくれる」
キラの死角からの雑魚の攻撃。これをキラは避ける。きっと能力が発動したんだ。
発動したにも関わらず、距離を取ろうとはしないキラ。それもそうだ、取ろうものならPkerの遠隔攻撃が待ち構えているのだ。だが、取らないということは、その場に――雑魚10匹程の攻撃にさらされ続けることになる。もちろんこれでは――雑魚の攻撃にキラは当たり吹っ飛んだ
――いずれ攻撃に当たる。
だが、今のは吹っ飛んだというより自ら後ろへ飛んだと言うべきか。
距離を取ってもPkerの遠隔攻撃、取らなくても雑魚の攻撃を喰らわせられる。結局、距離を取らされるのだ。
そして今回、Pkerの気まぐれで選ばれたクナイの標的は――
力が抜け倒れ込む。
――私だった。
そしてPkerの勝利を確信した笑い声を地面を通して聴いたのだ。




