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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
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古代文明流砂洞攻略2-4

「ハイデガーね」

「存在忘却か、哲学的だね」

 ミワとキラの軽妙なやり取り。

 なぜ、彼女らはこんなに達観しているの?

 私は……。


 ハァハァハァ。

 苦しい。

 こんなシステムはない。これは錯覚だ。最初に出会った門番は会話もスムーズでNPCか分からない程だった。武器屋のオヤジも、串焼き屋の店主も……。キラの推測は本当に正しいのか。目の前にいるPkerは、本当にPCなのか? 実はNPCでこういうセリフが決まっていたんじゃないか? ミワ、あかねちゃんは実世界で会っている。けど、キラ、ソウ、ようへいは――本当に実在しているのか?


「姉御、僕たちは存在している」


 ダメ、私には分からない。

 息が――。


「どうした? 苦しそうだぞ。だが、それを知覚するゲームシステムはLO世界にはない。感覚は鈍化、もしくは一部は完全に遮断されている。本当に君は――」


 Pkerが微笑む。まるで悪魔の笑みだ。

 聞きたくない。私は、私は。

 鼓動が高鳴り、息が上がる。胸を押さえる。

 だが、そこには何もない。脈なんて打ってない。当たり前だ、私は人形(NPC)なんだから。


 ハァハァハァハァハァハァ……。


「アサヒ!」

 奥から叫び声が聞こえた。


「ようへい!」

 私この虚無から逃れるために、叫ばずにはいられなかった。


「アサヒ、聞け! オレたちはプレイヤーだ! このVRにあって現実にないものをオレは知っている。そして、いまアサヒに起こっている症状もオレはたぶん説明できる!」


 ――いったい、なにを……。


幻肢ファントム・リムだ」


 ようへいは必死に叫ぶ。


「両足を失った男がいる。男は不思議なことに失った脚がまだあると感じるんだ。そして質の悪いことに切断された脚に痛みを感じ始める。無い――のにだ! これは単純に先端にある神経が刺激され脳が騙されている訳なんかじゃない。痛みの神経を切除しても――仮に症状は治まるが、幻肢痛は再開したからだ。これが意味するのは”体そのものが幻であり、脳が一時的に構築”しているということ。現実世界でもそういうことは起こる。だからVRでも”ないものがある”ように感じるのも不思議じゃない!」


 でも、そんな症状はだれも……。


「きっとアサヒは、共感する能力が人一倍長けているせいだ。それを証明するように能力ギフトもそんな力だ」


 ようへいが安心させるように力説してくれてるが、私は逆に怖くなっていた。それは――、


 なぜ、ようへいがそんなことを知っているのか、だ。


 いち高校生として、それは常識的なことなのだろうか。いや、違う。私の知っている高校生はそんなこと知らないはずだ。まして私の周りにそんな高校生はいなかった。

 私の猜疑心は大きく膨らんでいく。やがて、私だけがPCで、すべてがNPCではないかと。

 みんながみんな私を騙そうとしてるのだ。私だけがPCだと私が一番よく分かっている。

 それだけで十分じゃないか。


 でもなんでだろう、そう思えば思うほど焦燥感が募っていくのは……。



「ぬぅ、アントの攻撃が――重くなったッ!」

「やってくれたわ。アサヒのギフトのせいね」


 ――私のギフトは”その場の雰囲気で支援能力効果が変わる”。


「白いカラスが存在しないことを証明できない。俗に云う『悪魔の証明』か。やれやれ、Pker()さん、僕たちのことを調べつくしているね」

「もちろん、知っているさ。君はキラくんだったね。ギフト名は『正確』。魔術師の君は、たしか『空間把握』、オリジナルスキルは『ヘヴィ』。MTには『暴飲暴食』と、あと『ドッペルゲンガー』がいたかな」

 Pkerは誰かを探す素振り。だが、結局見つからなかったようで、

「あとSTに――」

「おい、テメェー。なに勝手に講釈垂れてるんだぁ?」

 ソウがPkerの前にぬぼうと躍り出て攻撃を仕掛けた。だが、不意の攻撃に対しても――更には雑魚の攻撃に対してもPkerは涼しい顔で躱していく。

 ソウのかき分けた際に雑魚敵への攻撃が判定したのか、数匹のタゲが移っていた。

「そうそう。彼はあかねくんに対してのみ直情的になる。ありがとう、これで少し動きやすくなったよ」

 Pkerは細かいステップの連続で、雑魚の群衆から抜け出す。「待ちやがれ」とソウが拳を振りかぶる動作がまた違う雑魚にHIT。計4匹の雑魚がソウに張り付いた。クッと雑魚の攻撃をパーリングするため足が止まる。

 Pkerはまんまとソウの雑魚の渦中に置いてきたのだった。


 ミワ率いる魔術師たちはすでにソウの持つアーチャーを倒し、次の標的に移動している。だが、移動したのは、魔術師だけではなかった。Pkerもアーチャーに魔法攻撃している軌道直線上に移動してきたのだ。

 ファイアがPkerに当たると思った時、何も知らない雑魚が手前にしゃしゃり出てきてた。

 背後からの攻撃に雑魚が目標ターゲットを切り替える。

 ソウがヘイトを奪い貸して、ことなきを得たが、また違う魔術士の魔法も繰り返し誘爆される。

 今度は拓也が挑発で取り返した。


「ま、待って!」と慌てて神楽が攻撃中止の合図をとる。


 さっきまでの爆発音がなくなり辺りは急に静かになった。寂しげに――剣や盾が重なる音や声を忍んで耐える声が鳴り響く。

 魔術士たちは見守ることしかできなかった。


「チッ、結局よぉ。ザコを倒さないといけねぇのかよぉ」


 そうするしかない。が、それは前回と同じ轍を踏むのは明らかだった。

 魔術師たちは攻撃に喘いでいた。攻撃すれば雑魚を擦り付けられるものだから。 


 だが、いつまでも現状維持はできない。攻撃しない訳にはいかないのだ。

 刻一刻とヒラのMP残量は減りつづけタイムリミットは迫っていく。


「ファイア!」

 ミワは攻撃した。

 なにを血迷ったかと思えたが――見れば、アーチャーとPkerの距離の差がかなり空いていた。

 Pkerだって雑魚の攻撃を避け続けている。いくら雑魚を分散させたとはいえ、あの数だ、移動しながらでないと避けれないのだ。

 この距離なら誘爆される心配はない。そう思った時だった。

 あり得ないことが起こる。

 拓也の取った雑魚がふらふらとPkerに吸い寄せられるように移動したのだ。そのせいで、ミワのファイアの軌道上に乗った。

 誤爆。

 そしてそれは、あろうことかソーサリータイプだった。


「こ、これは――」


 ミワのヘイトを取った距離が問題だった。魔法タイプの敵は釣った距離が離れており、且つ、その距離が敵の魔法範囲内の場合であればその場に止まり魔法を打ち返してくる。一流の釣り師(Puller)はそのことを利用して釣った後、敵の魔法詠唱外へ逃げ、ノーダメでPTの下まで帰ってくる。だが一定以上の距離がある魔法範囲外の場合――これが今起こっている状態――敵はその距離を埋めるように()()魔法を仕掛けてくるのだ。


「ヤバい!」


 敵の掲げる杖に炎が集まり、ドッジボール程の火球を作り出す。勢い良く杖を振り下ろした。

 もちろんこれは――、


 範囲魔法フレア。


 大爆発と熱風と共に、私を含め後衛全員を巻き込んだ。私だけはなんとか体勢を持ち直せたが、他の後衛陣は力が抜けように崩れ落ちる。急いで自己ヒールをかけるヒラ達。次いで魔術師達にも回復を始める。だがMAXまでHP回復は出来ていない。MP残量が底をつきだしたのだ。その証拠に私への回復はきていない。

 さすがに今の大惨事を引き起こした張本人も次の行動へ移せないでいた。また先の出来事が起これば、それはゲームオーバー等しいからだ。


「な、なんだ? あのソーサリーは。いま変な動きをし出したよな?」


 確かに明らかおかしい行動だった。自らファイアに当たりに来たように見えた。

「たぶん、Pkerがあらかじめ何体かに敵対値量を含んでいるのを混ぜていたんだ」

 キラは推測している。

 ちょっとした動作で敵を奪い返せる程のヘイト量をPkerは保有してたのか。

 どの雑魚に仕込んでいる? それとも全部にか?

 そんなの分かるはずない!


 敵対値は不可視。


「コイツ――強い!」


 Pkerたった独りに18名が翻弄されていた。


 今の今まで傍観だったキラが動く。

「僕がアイツを抑えるよ」

「いける?」

 ミワが短く問う。

「たぶんね」

 キラの口調は普段通り戯けていたが、

「今度は本気で行くから」

 Pkerを見据える眼は真剣だった。


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