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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
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古代文明流砂洞攻略2-3

 

「展開と少し……、違う?」

 ミワの困惑顔。


 ――予想外のことが起こったのか?


「やってくれたね」

 一方、キラは台詞とは裏腹に楽し気だが。

「ええ」

 ミワは苦い顔に変わる。

「けど――」

「これで確定した」

 そして双方が顔を見合し、頷いた。



「おい、これはどいういうことだ?!」

 神楽がPT全体の疑問を口に出す。


「時間がない。急いで!」

 ミワは後方を見る。私も釣られて見やるが何もない。

「あとで説明してもらうからな!」と神楽が敵陣に突っ込む。次いで盾職が追随していく。陣形は前回と同じ、違うのは雑魚がいない為、ソウたちSTもジャイ-アントを受け持つ形となった。


 神楽がジャイ-アントナイトとヒーラー、本来受け持つアーチャーをSTの拓也が引き抜く。ソウももう一体の弓のヘイトを剥がす。戸田はナイトとソーサリー。ようへいは残りのヒーラー、ソーサリー。

 まずは敵高火力のソーサリーから落としにかかる。MT受け持ちとは言え、2体維持――最初はヘイトが浅いため、こちらの魔術士も慎重に攻撃を開始。ようへいが持つソーサリーを攻撃すれば、次は魔法は戸田のソーサリーへ攻撃とヘイトを分散する。

 ソーサリーが杖を地面に突き刺す。すかさず、ようへいがバッシュ。この行為は概ね正しい。なぜなら、この動作後はソーサリーによる古代魔法”トルネド”の詠唱に入るからだ。

 このような敵の大技には一種の予備動作があり、対処を間違えれば大ダメージを被る。初見や動作見逃しが命取りになるのは言うまでもない。

 WS(攻撃スキル)も固有モンスタ――RMなどは何個か注意する動作が挙がっていたな。もしかすると通常攻撃すら特有の癖、あるいはパターンなどあるのかもしれない。だが、公表されているのはほとんどない。さっき言ったことと違うじゃないかと思われるかもしれないが、トッププレイヤの基準はなにも装備品だけではない。PSプレイヤスキルもトッププレイヤを測る目安の一つだ。寧ろ、PSがあるからこそのレア装備取得に繋がるもの。まして敵の攻撃をノーミスで撃破などは、トッププレイヤとしてのアドバンテージになりえるし、その代表格としてキラ、ソウがいたのだ。今でもソロリストの間ではこの二人の人気は根強いらしい。あとTAタイムアタックもアドバンテージとして考慮されている。モンスター特有の動作を秘匿にされているのが多いのはそんな理由からだ。

 もう一体のソーサリーも時を同じくして杖を刺す。だが、対峙する戸田は何もしない。

 戸田のミス? いや違う。古代魔法は威力は絶大だが詠唱時間がべらぼうに長い。なんと20秒。即バッシュで中断させるのもいいが、ここは詠唱間際まで粘るのが正解だからだ。そうすることで最大19秒+3秒の間、相手を無力化できる。この真摯リーダーこと戸田くん、時間の管理がずば抜けている。いや真摯PT自体が時間管理に長けているPTと言えるだろう。


 なんなくソーサリー2体を撃破。アーチャーへと攻撃をシフトしていく。


 このままクリアしちゃうんじゃない?


 なんて不吉なフラグをたてていたら、


 硬い甲同士を擦った不快な音。虫たちが蠢く音。


 近づいてくる!


「予想より早いな」

 キラが嘯く。


 重い青銅の扉が開く。先頭に立つのは指揮官。引き連れるは雑魚数20匹。


「途中からの参戦だとぉ?」

「こんなパターン見たことないぞ!」

「キラに指揮官を任せればいいのか?」

「じゃあよぉ、雑魚は俺達で見ればいいんだな?」

「でもそれだと前回と変わら――」

「どうすれば――」

「ミワ! 俺達はどう動けばいいんだ!」

 いきなりの敵の訪問に場は混乱した。


「いい? よく聞いて」

 この状況にあまりに相応しくない落ち着いた声に場が静まる。

 すぐそこには、カシャカシャと噛み合う歯音がもうそこまで近づいているが。

 それでも尚、ミワは冷静だった。



「これを――あえてギミックと呼ぶのならだけど」

 美和は意味深く一拍置き、


「このギミックで一番重要なことは雑魚を相手にしてはいけない」

 と言い放った。


「なっ!?」

「なにぃい!」


 驚くのも無理はない。指揮官と雑魚が今か今かと襲いかかろうと来ているのだ。

 私自身その指示が聞き間違えであろうと思ったほどだ。

 雑魚20匹が包囲していく。

 だが、包囲されたのは――、


 指揮官だった。


 雑魚は私たちPTを無視して指揮官に攻撃を繰り出してゆく。


「思った通りね」


「な、なにが起こっているんだ?!」


「これはね――PKプレイヤーキラーなんだよ」


「ハハ、何を云っている? PKだなんて、そんな――」


   神楽の言いたいことは解る。私も同じ意見だ。

 PKに何の意味がある? PKをしたからと言ってLvが上がる訳でも、まして装備品やアイテムを奪える訳もない。それにLOここは顔バレしているんだ。本気になればリアル情報だって分かるのだ。

 PKなど百害あって一理なし。

 やる動機すら見当たら――あ、だからキラはあの時……。

 でも本当にPKなんてことがあるのだろうか。


「あるはず――ないか。確かにPK自体に理は見いだせない。ある者は云った、”2種類のアイデンティティは不誠実である”と。ネット社会に透明性を示すのにアイディンティティは二つもいらない。これは別に道徳に限っての話ではない、実利に関する話だ。このLOはオープン性を高める。それが是が非でもだ。透明な世界では人々は責任ある行動をするようになる。だが、それは抑止力であって絶対ではない。あり得ない敵の行動、挑発が効かない、ランダム攻撃、ボス特有のグラもなく僕たちと同じ装備。事象を検討する上で、一番大事なことは複雑なことを持ち出してはいけない。ここで云う複雑系ってのは倫理や利己的な理由、つまりは動機がそれさ。それさえ排除すれば簡単に説明できたんだ」

 キラは饒舌だった。そして、次の言葉に帰結する。


「物事は、よりシンプルな原理へと収束する」


「オッカムね」

 ミワは補足して、自らの推理を披露する。

「わたしの場合はね。アカネからの情報――古代文明流砂洞には女性メスしかいない。これがずっと頭に引っかかっていたのよ。ゲームとしてのデッサン、象形フォルムはいかようにでも変えられ、無理にでも指揮官を男性キャラへと変える意味があるのか。もちろん、触媒として――つまり男性オスがいることは理解できるわ。でも果してそれだけだろうか。制作側と違った意図が生じたのではないか。周り回った結果、キラと同じだったのよ。つまり敵モンスターの攻撃ではなく、PCからのアタック。決して交わることのない推論が、2つ同じ結論に達した。地動説による特異点みたいなものね」

 これは偶然なのか。でも偶然にしては必然が勝ちすぎている。だからこの企画をしたのよ、とミワは嘯いた。


 おいおい、本当に去年まで中学生だったのか?

 そろそろ、昨日のTV特番でやっていたのを覚えていたんだって言うんじゃないか……。


「バカな。たった一人のPkerに負けていたのか? アライアンス――エンドコンテンツに参加する18名を、たった一人にだぞ! そんなことは絶対にあり得ない!」

 神楽はその推論を認めていない。それに対して、とつとつとキラは語り掛ける。

「もし敵がPOPしたら、どうする?」

「タ、タゲを取るに決まっているだろう!」

「それは誰が決めた?」

「何を云ってる? そんなの当たり前の話だろ!」

「盾がヘイトを稼ぐ、当たり前。ヒーラーが仲間にヒールを配る、当たり前。アタッカーが敵に攻撃する、当たり前。それは――当たり前ではないんだ。あるのはそういうシステムの中にいると云うことだ。でもね、それはシステムから離れた行為には関与しないのと同義。いいかい? これはMMMO独自による暗黙の了解を利用したPKなんだ」


 システムに踊らされた? そこを――、


「そこをつかれたんだ」


 敵がヒラに向かっていくとして盾職がヘイトを稼がないといけない道理はない。いや、道理はあるのか。戦闘を円滑に進める、勝率を上げるという道理が……。ヒラの行為も、ましてアタッカーの行為もだ。ただ、それだけだ。だが、それだけが、システムだけが私たち――PCを動かすのだ。

 ヘイトを稼げば盾は後衛に敵の範囲を当てないように壁に背をする。だが――これはPKにとって敵の視線を受けなくてもよい。これじゃあ、PKのやりたい放題じゃないか! PKだけが自由に動いているのではないか? そして思う。


 本当に自分たちの意志で動いていたのか、と。


 ――ククク。

 人を虚仮にして笑うのを必死に抑える声が聴こえる。

「バレたか。だが、もういい。バレてもな。十分な時間は稼げたからな」


 かなり低い声だ。これが指揮官の声、いやPkerの声か。


「な、なんでこんなことをしたの?」

 私は聞かずにはいられなかった。Pkerは私の顔を見やり、ほんの少し思惑した。


「なぜかって? これはPKなんかではない。これはPCかNPCかの戦いだ。ここで云うNPCは狭義ではなくCPUに操られたPCのことも含む。彼がご高説したように、君達には自由意志がなく、人間の形をしたNPCさ。恰も自らの意志で動いているかのようにみせ、システムによって動かされている。だから、私はこう問わなければならない――」


「君達は本当にPCなのかい――とね」


 Pkerの問いは――話はもちろん、独特な言い回しに拍子、声質、すべてが私を焦心させるのであった。



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