初戦
え~っと、ここが武器屋かな……
入り口から少し出て、上を見る。
たしかに、看板には剣と盾の絵が描かれている。
――間違いない。
なぜに二度見をしたのかは、
ボロい……
その一言につきた。
大都市だからもっと煌びやかな店を期待してしまったようだわ。
ふっ、しょせん、初心者の私、最初はこんな店よね。
はぁ……
「おじゃまし――」
「邪魔するなら帰れ! ったく、ため息交じりで入ってくる奴がおるか! まったく最近の若いやつらは……」
奥には、頑固爺よろしくとキセルを銜えたおじいさまが、こちらを威厳たっぷりに睨まれております。
ハイ、ゴメンナサイ。
「そんなに嫌なら止めてもいいんじゃよ。中央区にいけば、そりゃ、わしのより良い武器があるさ――まあ、あんたに買える金額かどうかは分からんがね!」
いえいえと両手をあげながら、趣のあるお店ですよね、と小声で答える。
わたしは、店にある品定めをしかたなく――
ギロっと睨まれた。
ひぇ、怖っ。ぬ、盗みませんよ、と乾いた笑いがでた。
主人は興味をなくしたのか、鼻を鳴らしてそっぽを向く。
き、気を取り直して――店内を見回す。
品揃えは結構あるのね。両手武器から片手武器に弓に杖と防具類まで、幅広く取り揃えているようだ。
両手斧を手に取る、テンションあがるわ。気分は狂戦士!
街で最初のお買い物って、
1,武器
2,防具
3,道具
あなたなら、何番?
私は、だんぜん1!
やっぱ、武器だよね。武器さえ良ければ、敵を1ターン早く倒せるって思わない?
攻撃は最大の防御って言うよね!
注視していると、立体画面が浮き出てきた。
『名前:ネックチョッパー。D40。長い柄は持ちやすく改造しており、取り付けた刃は両刃になる。名前のごとく《首をかるもの》の異名に……』
こ、攻撃力40! 初期装備の背中に装備している短剣なんて、D値たったの8よ……
値段は――10万ギル!
さ、さっきの買い物が……
うなだれる。
ふと、横に目をやると、
『名前:EXゴブリンピアッサー。D35。この両手槍には……』
D値は劣るが、レア属性だと! しかも、値段が9万ギル!
買える!
両手槍の種類はこの1本だけ。
きょろきょろと辺りを見回す、けっして怪しいものではない。PCが何名かいるが、気付いてないようだ。
ふっ、ほかに良い掘り出し物がないのか、探しているのかな。
私は直観を大切にするのよ。
槍ってリーチあるわで、初心者におすすめって何かで読んだことあるわ。
「これ、ください!」
主人はこちらに一瞥すると、「いいのかね?」
ええ、と長い柄をすりすりしながら頷いた。
「まったく初心者の考えていることはよくわからんな。装備できないものを買うなんてのぉ」
え
え?
ええぇぇええぇえ!
立体画面を確認する。
『名前:EXゴブリンピア―――――――STR▲30』と申しわけない程度に文章の最後に書かれてあった……
もしかして、STR30は必須ってこと?!
「非力そうな、おまえさんにソレが振れるのかのぉ」
「キ、キャンセルで」
「買い取りってことかの? では45000ギルじゃ」
「ちょっと待って、私は――」
「わしは、買うかどうか尋ねたじゃろ?」
あ、
たしかにファイナルアンサーしたわ。
「で、でも」
私は食い下がる。さすがに半額はキツイよ。
主人は「だめだめ」と素っ気ない。
どんなにアタックしても、首を横に振るだけだった。
どこのお役所勤めなの!
くぅ、これだからノンプレイヤは……。プログラム通りの行動しかできないのね。あまりに会話が自然だから、もっとファジーにできるもんだと思ってたわ。
日ごろのスキップによる弊害がこんなところで……。
「私に合う武器をお願いします」
種類は?とキセルを吹かす。
「モウ、ナンデモイイデス……」
主人は奥へ向かい、一本の剣を持って戻ってきた。
「わしの見立では、これがいいじゃろう。価格は50000だが、49800にまけておこうかのぉ」
『名前:エスパダ。D20。このレイピアは……』
う、さっきの値をみてるから20が低く見える。
「ハイ、オネガイシマス」
わたしのヒットポイントは戦う前なのに0に近かった。
ここは最初の大通り南城門から出て、西にある平原――《ハイアット平原》。
生息するは一角兎……のはず。
なにもいない!
みごとな枯れっ枯れ。もうすこし歩みを進める。
一人のPCが、呆っと立っている。
あ、構えた。
そろそろPOPするのかな?
と思ったら、こっちを警戒してただけみたい。
ヘイヘイ、新参者は奥にいきますよっと。ドロップ判定がどうなっているのか分からないし、狩場での取り合いは好きじゃない。せっかくのVRMMO世界にまできてギスギスしたいくないしね。
進んでいくと、あちこちにPCが狩りをしている。ほとんどがソロプレイヤのようだ。
一角兎は、ギルドの依頼書に描いていた絵と一緒で、頭に一角生えている、紫のウサギだった。
角も入れて、私の腰くらいまでの体長だ。それがピョンピョンはねる跳ねる。
うわ、あの人、両手斧で攻撃あてにくそう。と精神安定にディスっておく。
一角兎の攻撃パターンは一直線に突っ込んでくる、これだけだった。あれなら、よけれそうねと、頭のなかでシミュレートしながら歩く。
気づけば、かなり奥まで来た。
平原ではなく森林にちかい景色に変わってる。PCもみなくなった。
ヤバくない?
MMOにはエリチェンすれば、生息する魔物が変わることがある。つまりレベルの違う魔物が出てくる可能性がある。
葉の重なる音。
息を飲む。そして、
レイピアを抜き、構えた。
茂みから出てきたのは――
一角兎だった。しかも2匹!
2匹か、いけるか?
と思ってたら、攻撃してこない。いや、攻撃態勢すらしていない。
おそるおそる近づいてみるも、なにもしない。
ノンアクなのか、とちょっと一息。
すこし、観測。気づいてはいたけど、ネームがでない。MMOだと頭上にキャラクターの名前が表示されるのが多い。が、このゲームでは非表示が基本みたいだ。まして、体力ゲージまで不可視になっている。
バックアタックに意味があるのか分からないが、一応、後ろから攻撃してみる。
ホーンラビットに一閃。ファーストアタックは成功。こちらに向き、臨戦態勢。さらに、もう一撃お見舞いしようとすると、横やり、いや横角が飛んできたので、避ける。
ノンアクだけど、アクティブ状態になるとリンクするみたいだ。
――仲間意識が高いこと。
まあ、予想はしてたけど。リンク上等!
括目せよ、ドッジボールでなぜか最後まで生きのこる私の実力を!
ヒョイヒョイと避けまくりながら、最初のホーンラビットに狙いを定めて二連突き。計三回の攻撃で粒子になって消えた。
次に、リンクした一角兎に下から上に斬り上げてから、斜め下へと斬り下げる。そのまま横に切り払ったところで、粒子となった。
粒子になった場所にドロップとして、一角が落ちている、確定ドロップでないらしく、1本しかドロップしていなかった。こちらは確定ではないが、
――たぶんだけど、
レイピアは突く以外でも、叩くような攻撃でも攻撃判定として認められる。極端な話、チャンバラごっこでもOKってことか。VRだとしても、基本的な体の動作は現実とはなんら変わらないからね。だから、現実世界の身体能力がVR世界にあまり差がでてこないようにしてるかもしれない。運動神経がVRで大きな差が出るなら、大勢のPCは不満を持つだろうし、ここは運営の仕様ってところね。
ガサガサ
お、ここは一角兎の巣窟だったのか。
と、のんきに後ろを振り返った。
緑色の化け物が、そこにはいた。
オ、オーク?
化け物は醜悪な顔して、手にはこん棒を持ち、すでに臨戦を整えている。
振りかぶったこん棒をみて、とっさに避ける、
かろうじて、よけれたが、手にこん棒が触れたようだ。
なっ
触れただけでも、ダメージ判定あるのか?
って、ノンキに考えてる場合じゃない!
この感覚っ、
頭では回避しようと臨むが、身体はいうことをきかない。全身に正座をしたあとに足裏を触れられたような、あの何とも言えないな感覚……
オークの攻撃が左肩に直撃する。これが瀕死状態ってことなのか、視界が暗くなる。
い、痛くないんだけど、
これは、だめぇええええ――
地面にころがるように身もだえする。
私は人一倍感じやすいタイプなのだ。両脇を触られるだけで、奇怪な声をあげちゃうくらいに。
オークが見下ろすかたちで、私の顔を覗き込む。必然と影を落とす。
そして、こん棒を大きく振りかぶった。
「クッ、コロ――」
視界は完全に真っ黒になった。




