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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
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古代文明流砂洞攻略2-1

 私は何度目になるか分からない懐中時計を見やった。


 ――うぅ、早く来すぎた。


 集合時間より1時間早い。


「そんなに気負うことないって」

 洋平はそう言うと付近でPOPしたアントを攻撃した。

 流砂洞内のアントに比べ、外エリアのアントは明らかに弱い。たしか、内部アントは全員女性(メス)らしい。まあ、見た目が昆虫アレなので性別など私には判断できないが。で、老いて働けなくなったアントは外へ押っぽり出されるみたいだ。実際の蟻も行動原則が効率的だと採用さているコミュニティだとか。この憶測から、外のアントは3段弱い設定だというのが解析班の解読結果だ。


「随分昔には、日本にも『姥捨て山』や『小芥子こけし』って習慣があったそうだ。なにはともあれ、役立たずは排他される社会ってのは人間もアリも一緒なんだよ」


 洋平がこの話を聞いて、かなり辛辣なことを言っていたな。解析班というのは、隠れクエスト発見を主とするPCの総称を言う。如何にそういった分野が確立したかは、隠れクエストに多くの優れた武器、防具が報酬とされていたからだ。そして、さきのアント生態を解明したのが、あかねだった。あかねは解析班でも結構、いやかなり有名みたいだ。なんでも、ドラゴンシリーズを数個見つけたとか。このドラゴンシリーズが現在発見されている武器、防具で最強の位置づけらしい。


 あぁ、会ったらなんて話せばいいんだろう……。


 そんなことを思案していたら案外時間が過ぎるのが早かったみたいで、


「姉御ー」と呼びかけられた。


「キ、キラ」ちょっと声が上擦った。いつも間にか眼前にキラが立っていたのだ。


「いやー、ログインしたら皆いなくなっているし、まいったよ。死に戻りしたら、ミワには会えたけど――」


 そういや、今思えばキラとようへいはケンカ別れというのではなかったな。たしかようへいがキラも同じでログインできなかったんじゃないかとか言っていたような……。ようへいは大阪、キラは札幌。ログイン障害でもあったかな。うーん、あれば運営からお知らせが届くよね。どういうこと?

 うっ、理由なんて聞かないって断言した私……。今更、聞くに聞けないわ。


「アサヒッ!」

 後ろから急に抱き着かれた。


「あ、あかね」


「なっ、だから来るって云っただろぉ」と後からソウが現れ、

 野郎と喧嘩したときも無理に仲直りするこたぁなかったんだよぉ。機会はいずれ来るんだよぉ。そしてよぉ、時間とよぉ、距離を空けるんがよぉ、コツなんだよぉと豪快に笑った。

「アサヒは女性レディです」とプンプンと抗議するあかね。


 頬を膨らませるあかねちゃんカワイイ。


「まあ、ソウちゃんは女心を分からない人だからね。いや、もしかすると人間としてのデリカシーが欠落してるかもしれないね」


 いや、キラが一番デリカシーという言葉から遠いような……。


「おい、テメェ。こっちこいや、オラぁ」

 ソウちゃんケンカはダメよ、と仲裁に入るあかねちゃん。

 喧嘩じゃねぇよ、これは教育的指導ってヤツだよぉ、と腕を捲るソウ。

 人差し指を折り、クイクイと上げ挑発するキラ。


 この騒々しさ、懐かしい――。


「アサヒ!」


 私はその声にビクンと背筋が震えた。


「なに怯えているのよ。なんか私が悪いみたいじゃない」


 ミワがいた。ソウの影に隠れて見えなかったようだ。その一際小さい体躯は――的確に杖で頬をなぶってきた。


 おう、この感覚も久しいな……。


 ミワは私を品定めするかのようにじっと見て、

「あら? いつのまに得物を変えたの? レイクエムまでツヴァ――」と途中でハッとした顔で口を噤んだ。


 レクイエムは私が動画を上げた時のサムネームだ。

 ミワは目を逸らし頬を掻きだした。


 レイクエムまで?


 わたしは冒険した記録を上げていた。でもそれは、からしべスレに載せて――。


「あああああッ!」

 思わず大きな声が出てしまった。

 わたしの奇声に驚いたようへいは、雑魚アントから一撃を喰らっていた。


 愚かな……。

 いや、ようへいのことではない。もちろん、ようへいのこともだが。


 ‘今度から、わたしもからしべスレを確認しておくわ’

 以前そう言っていた……。そうか、居たんだ、スレに――ずっと見てくれてたんだ。


 独りじゃなかったんだ。


 そのことに気付いた私は、

「ミワ!」と抱き着いた。


 コラ、離しなさいと言いつつ、いつもは杖ですぐ引きはがすのに、なぜかされなかった。


 そして――ミワは息を吐くように小さな声で、


「おかえり、アサヒ」


 と言った。

 その言葉に涙した。そして、悟られないよう今以上にギュッと強く抱きついた。


「ただいま」

 

 ただその声が震えていたので気づかれたのかもしれない。


 もう一度、ミワは「おかえり」と呟いた。


 その声もすこし震えていたように感じたのは私の願望だろうか。



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