表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
36/50

古代文明流砂洞攻略4

「え?」

 声が漏れた。あまりに在り得ない状況に。


 ――いない?


 瞬間、ゾッとした。

 コマンダーが、あかねの隣に居たのだ。


 あかねはまるで気づいてない。今は盾3人掛け持ちでヒール担当行っているのだ、当然か。

 コマンダーがシミターを振りかぶった。


 バカな、フェーズ移行はまだ先じゃなかったか?! エンカウントした時点から時間経過で移行するタイプなのか?


 フィールド上のヒールヘイトがコマンダーに乗ったのか。それとも、コマンダー(コイツ)完全ランダム攻撃なのか。


 思考が乱れる。

 反応が遅れる。


 しまった、あかねちゃんが危ないじゃないか。


「あ、あか――」


 ギンギン。


 刃と刃が弾ける音。交差する衝撃。

 キラが素早くコマンダーの攻撃を相殺。いや、ククリ刀2連撃で打ち勝ったのだ。

 コマンダーが音もなく飛び下がり――驚いた。それはNPCと言うより、すごく人間的であったように感じた。

 洋平の視界の端に写ったのだろう。こちらに気づく。


「ようへい!」


「違う、ダメなんだ……」


 なにやっている! ヒールが届く距離ということは挑発も届く距離いるっていうのに。


「挑発は――とっくに()()しているんだ!」


 私は舌打ちをした。

 厄介だ、これで完全ランダム攻撃と決定か。序盤でこれか、先が思いやられる。たったそれだけで、魔術師の『瞑想』が潰されたのだ。これでPT全体のDPSが格段に落ちた。


「姉御、ボクが壁役なるよ」


 そうか、近接攻撃で相手の進路を妨害できる。別に、タンク()だけが後衛を護れる職ではない。タンクの特徴はヘイトを集めること。その敵対心が意味を成さないなら、壁役は誰でもいい。もちろん、攻撃を受け止めれる前衛職が望ましい。キラはまさに打って付けだった。ただ、大型モンスターには不向きな戦略だが。


 コマンダー相手に一進一退の攻防が続く。


 キラの二刀流――攻撃間隔が短いが、全武器中最下位の攻撃力だ。それゆえ、手数を多くしてDPSを補う。ただ、その連続攻撃すらもコマンダーのシミター一本で軽くなされている。


 これじゃ、どっちが絶対回避か分からんよ。


 けど、別にそれでいい。

 倒すことが目的ではないのだ。時間を稼ぐ、ただそれだけでいい。

『クレイジークレイジー』ならキラは優位に立てるかもしれないが、それは敢えてしない。キラはアタッカーだが生粋のアタッカーではない。壁役として機能しているならそれに越したことはないのだ。仮にコマンダーとの一戦に優勢になろうとも、きっとHPは私たちの10倍以上は保有してるはずだ。それに、今は人型だが――きっと第二形態がある。RPGではお約束の展開だ。HP一定以下で発動なんてなれば目も開けられない。触らぬ神に祟りなしだ。


 大広間からみて南東、洋平の戦闘をちらりと見る――ソーサリーアントを倒すべく魔術士たちの爆撃が始まっていた。

 この火力ならもうすぐ洋平の受け持ちは終わるだろう。

 だから今は我慢の時、

 キラに視点を戻す。

 コマンダーの大振りに、ピクンと反応したキラ。だが、上体を逸らして躱すだけにとどまった。


 いつもなら、相手の懐に飛び込んでいくのに……。

 なにかあっ――


 コマンダーが大振りの勢いをそのままに連続して足蹴りを放った。


 後ろ回し蹴り?!


 潜っていたら喰らっていたかもしれないタイミング。


 あれは誘い水だったのか?


 キラも後ろ回し蹴りに自身のけりを合わせ――バック宙返りからのスリングショット。こちらも負けずにトリック攻撃か。てか、CPU相手にすら張り合うってどういうこと?

 レイド戦だというのにキラはキラか。緊張感がないわ、そしてブレないな。


 コマンダーはすかさず腰に付けたクナイを投げる。

 弾とクナイが衝突し、弾だけがポリゴンに還った。D値はクナイのほうが上か。

 クナイはそのまま軌道を変えずに、まっすぐ空中にいるキラに突き刺さる。

 目の前に落ちてきたキラ。

 コマンダーが追い打ちのクナイを発射。

 だが、それはキラに目掛けてではなく――


 わ、私?!


 キーン、と甲高い音を立てて真っ赤なクナイがポリゴンと化す。

 鼻先に刃が現れる。ククリ刀を握り締めたキラがそこにあった。


「危ない危ない」


 空中での反撃ともあり避けれなかったキラ。ただ幸か不幸か、相殺された攻撃はダメージが少なかったようだ。


 だが、

「今の色違いクナイ――」

 考えられるは、状態付与付きか。スタン程度ならいいが、もしあれが『沈黙』だったなら……。

 最悪だ。

 歌えない詩人などお荷物同然だ。もちろんこのVRMMOにも状態回復魔法はある。だが、あかねは絶賛レイドMTで手一杯。なれば、ヒーリングしている他ヒラからの支援しかない。秒単位でMP回復量が違うこの世界ではヒーリングを中止してまで状態回復は手痛いのだ。状態異常効果は一律20秒と決まっている。確実に歌の効果は切れる時間だ。DPSが下がるのは非常にマズイ。今は敵モンスターの数を一秒でも早く減らす。敵の数が減れば減るほど攻略が容易になるのは自明の理だからだ。


「助かったわ、キラ」

 これでランダム攻撃は決定。そして状態異常効果の遠隔攻撃。

 この一つ一つの情報の積み重ねが、謎に包まれたレイド戦コマンダーを丸裸にしていく。

 最高難易度エンドコンテンツ攻略にまた一段上がっていくのだ。


「洋平くん、コマンダーは無視でいいので、こっちを手伝ってほしい」

 洋平の受け持ちが終わり、こちらに向かうさまで神楽に呼び止められていた。

 ランダム攻撃に盾は不要との判断を下したのだろう。いや、絶対回避キラ一人で押さえ込めると踏んだのだと捉えるべきか。


 身内が認められるほど、自分が褒められるより嬉しいことはない。


 ええ、旦那。そりゃ私のキラは有能ですぜ!


 いい進捗だ。確実に進んでいるのが分かる。

 まずコマンダーのみにする下地を作る。18人もいれば、第二フェーズ移行しようが化物に変身しようが何とかなるだろう。



 不意に――気づく。


 キラが細い声で――暗唱しているかのように呟いていた。それは何かを確認する問のように語尾は上がっている。


「60……、55……?」


 さっきまで後衛から離れた場所で戦っていたキラだが、今度は一転押され始めた。中心部にコマンダーが近づいてきたのだ。ただこれは戦闘に集中せずに何かに意識を散漫されている結果かもしれない。


 いったい何に?


 コマンダーに目を凝らす。口元が――動いている。声には出てない。だが、それに連動してキラの「25……、20……」と結ばれる。


「13、12、11……」

 私も自然に唇を読んでいた。

 この局面どこかで出くわしたことがある。このデジャヴ感。

 そうだ、これは美和が歌の効果を乗せるギリギリの時間を計った時の口の動き。

 やはり――フェーズ移行は時間経過によるものだったのか。


 時間?


 私たちはこの大広間まで攻略に何分かかった?


 6、5……、カウントは続く。


 20分?

 そしてレイド戦が始まり何分経った?


 私はとうとう理解してしまった。


 3……、


「チッ、最悪のシナリオだ」

 キラがなにか悟ったように嘯く。

 そしてそれは私の読みと中っている。


 2、1、


 こ、このカウントは――。


「み、みんな逃げろぉッ!」

 声の限り大声で叫んだ。


 ゼロ。


 ガチャガチャと甲冑が擦れ合う音。足並みそろう振動。電子音を不快にさせたような昆虫特有の発声。


 そう――大広間に一斉に雑魚が雪崩込んできたのだ。


「バカな……」

「え? 周囲の雑魚は一掃してたはず……、なんで?」

「おい、まだアビ残っているヤツはタゲとりを!」

「そっちいったぞ!」


 たちまち阿鼻叫喚の図になった。


「『仲間を呼ぶ』ギミックは雑魚狩りとは無関係だったということ?!」


 雑魚狩りが無意味なんかじゃない。逆だ。

 雑魚狩りでこの事態が起こったのだ。


 この広大なエリアを持つLOリヴァイアサンオンラインでは、運営の仕様により再配置はPC付近で現れる。これはこよなく好評だ。探しに行く手間が省けれるのだから。


 それが還って仇となったのだ。


 非道いものになると目の前でポリゴンが出現しアントへと形成されていく。

 盾も必死にヒラの元へ駆け寄ろうとするも、雑魚の壁に立ち塞がれた。

 ヒラが一人亡くなると、瞬時にアライアンスPTは瓦解がかいし始める。

 まずレイドアント複数匹持ちの神楽が陥落。神楽を支えたヒラ、つまり中央にパラディンアント、ソーサリーアント、アーチャーアントが狙ってきた。ただすでに、雑魚の密集地帯と成り果てた場が功を奏し、レイドアントの進行を妨げていた。

 だが、このままだとレイドアントに殺られるか雑魚に殺られるかの違いだけだ。


「このまま引き下がれないわ。せめてボスに一発でも――」

 美和がパッと開眼した。


 おい、この状況で『瞑想』してたのか!


 美和が炎に包まれる。大袈裟に掲げた黒く禍々しい杖に、火龍が集まりだした。


 こ、このエフェクト――。


 まさか、この至近距離で範囲フレア?


「フレア!」


 ちょッ!?


 私は爆発の光に目が霞み手で遮蔽したが、そのまま暗転したのだった。




 ここは知らな――、

 いえ、見慣れた天井でした。


 なんかひっさしぶりの死に戻りだわ……。

 それにしても、

 ミワ、自爆覚悟の玉砕って。

 なんていうか、お見事? そしてミワらしいというべき?

 おっと、考え事は外に出てからにするか。


 死に戻りは皆、この教会死体安置所だ。もちろん台座は相当な数はある。逆に言えば、死者が生き返る台座の数も限りがるということだ。LO初期だと死ぬPCが多かった。台座が全部埋まっている状態だと、死に戻りのPCが空きが出るまで待つことになるのだ。もちろん、PCの意識には待たされている感覚はない。ふと、朝目が覚める感じ。ゲームでのNow Loading...という暗転時の画面は出ないのだよ。まぁ、最近ではPCスキルも上がり、死に戻りの数も減っているだろうけどね。ただ、マナーとして台座に長いこと居座らないとなったのだ。

 私は急ぎ台座から飛び降り――隣で死に戻りしたであろうPCに運悪くぶつかった。


「あ、ごめん――」

 頭を下げている最中にそのPCは無言のまま去っていった。


 ムカっ。私が悪かったけど。あの態度はなに?

 くぅ、顔みてれば良かったわ。そりゃ、晒したりしないけど。てか、そんな度胸もない!

 だから、私のココロのブラックリストに追加しとくだけだけどね!


 外の眩しさに目を細めた。

 さっきの野郎がいないか周囲を見回したが、それらしき人物はいない。

 まだ教会内にいるのか? 振り返ると丁度、あかねとソウが揃って教会から出てきた。


 あら、お仲が宜しくて。


 喧騒が聞こえた。


 キラ、美和、神楽を中心に円を描くように集まっていた。

 その中、美和はひどい剣幕だった。


「お、ケンカか?」

 ソウがオレの出番だと言わんばかりに腕を捲った。


 おまえは行くな。ややこしくなる。

 あかねちゃん、ソウはまかした。

 目で合図すると、あかねはソウの捲った袖を元に直していった。


 うん、ソウが硬直してる。

 てか、いったい何でもめているの?


「だから、なんでわたしが戦犯にされなくてはいけないの!」

「聞いたところ、範囲フレアで巻き込んだそうじゃないか!」

「ハァ? すでに半壊してたんですけど!」

「最初の前提――ギミックが間違っていたんじゃない?」

 このキラの問いに神楽と美和以外が唸る。

 私が近寄るとキラが手をあげて迎えた。その仕草で一同が私を一様に注視する。

 そして現場が静まる。


 やだ、シーンとしないで……。


「え、えーと。再POPと《仲間を呼ぶ》が同時に起きた、不運が重なった事故みたいなもんじゃない? だれが戦犯とかないと思うけど」


「それが原因とは限らないのよ」

 美和はきっぱり断定した。助け舟を出したと思ったら落とされた。


 ええ、私のはドロ舟ですよ。

 ダンジョン型の敵は再POP30分等間隔、それが奇跡的にレイド戦途中に起きた。そういうことじゃない?


「話はそう簡単な事象ではない。我々だって再POP罠の存在は危惧してた」

「アサヒは知らないだろうから説明しておくと――再POP罠はダンジョン型によくある偶然のギミックなのよ」


 つまり狭いダンジョンだとボスないしはRM討伐中、最初に倒した雑魚が再POPしてしまうってことか。


「あのルートは丁度、女王の間前で再POPするよう調節したものなのだ」


 でも――結果、罠は発動してしまった。

 うん? 違うな。そもそもレイド戦、遭遇場所が女王の間ではない。


「てことは、《仲間を呼ぶ》というギミック自体が間違っていた?」

 確認するよう回りの見やるとキラは頷き、


「そう、前提――つまり今回は作戦の根本が誤りなんだよ」

 フンと鼻を鳴らして神楽は自PTへ戻っていった。


 おう、あおの悪態のつき方。見事な悪役っぷり。イケメンでもあれはないわ……。


 千由が別れる際に何度も何度も頭を下げていたのが印象的だった。

 こうして私の初レイド戦は、後味の悪さを残し幕を閉じたのだ。


 恒例のギルド2F酒場にて祝勝会――にできなかったのが残念だが反省会を催した。

 久々の王国ギルドはすこし閑散としていた。攻略が進んだことにより初期の街にはPCがいなくなったか。


「うーん、結局ギミックについては何も得られなかったか」


「《仲間を呼ぶ》ではなかったってことは確かね」


「消去法か――それだと攻略に時間かかりそうだわ」

 テーブルに突っ伏くした。


 行儀悪いなと洋平が言った。が、気にしない。

 今日は頭使いすぎたんだよ。疲れたんだよ。誰か癒しを……。


 頼んでたエールが来たので、ひんやりして気持ちよかったテーブルから顔を上げる。エールなんて飲めなかっただろって? ふふふ、人は成長するのだよ。この苦さがクセになるのだよ。この酔う感覚。もちろん錯覚だ。アルコールなど入ってないのだから。きっと雰囲気に酔っているのだ。そして大人になった気がする。これも憧れ――錯覚だ。


「本当にギミックなのかな?」

 声にならないような小さな声。


「キラ、なにか分かったの?」


「いや、確たる証拠もない――それに」キラは顎をさすりながら言ったが、後半は酒場の喧騒に紛れてあまり聞こえなかった。だが、たしかに――、


 動機が分からないんだ。


 と聞き取れた。


 どうき、どーき、同期? いや銅器? うん、「動機」がしっくりくるが、話の脈絡にどれも合わないんだよな。余計に意味が分からなくなった……。


 キラに聞き返したいが、当の本人は考え込み、これ以上はだんまりだった。



 こうしてキラ以外の皆は、強制ログアウトまで楽しい食事会もとい、反省会は開かれたのである。





 そう――楽しかったのはここまで、

 この最高難易度エンドコンテンツ後からPTでの関係が歪になり始めた。

 その最たる原因は、きっと――


 私がトッププレイヤーを意識しだしたからだろう。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ