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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
35/50

古代文明流砂洞攻略3

「バ、バカな。なぜ、こんなところに――」


 舌打ちをした神楽は広間に勢いよく入り込んだ。神楽PTメンバーもあとに続く。


 よし、私たちも行くよ。


 洋平の背中を押す。

 気合を入れるようで剣で盾を叩く――それは挑発アビのような仕草だった。

 私たちもそれに倣い気合を入れ、広間になだれ込む。


「さあ、雑魚狩りの始ま――ざ、ざこ?」


 大広間にいるのは雑魚とは違う一回り大きいアントだ。


 ひい、ふう、みい、よう……。

 8匹いるんですけど!

 もしかして、これレイド戦? え、なんでこんな場所ところで?


 戸田PTも異常に気づき広間へと後ろから割って入ってきた。


「戸田くん、こっちは盾ヒラ弓1ずつ持つので、盾魔をお願いします」

 盾2ヒラ2魔2弓2の全部を神楽はすべて受け持っていた。


 よく溶けないな。

 いや、ここまで防御スキル・アビは温存してきたのだ。フルスキルアビで対応しているはず。

 でないと、いくらトップの防御力を誇るとしても持たないはずだ。


 戸田はすぐさま言われるアントを引き抜いていく。

「洋平くん、残りのを。あと宗二ソウくん、拓也(戸田PTのST)くんは()から居た雑魚のタゲをお願いします」


 トップは格が違うわね。混戦で、しかも盾をやりながら全体を見渡し指示が出せるなんて……。


 私に――できるのかな?


 いやいや、()は”お手伝い”、客寄せパンダだ。


 道化のように踊って、いや詠ってやろうじゃないか!


 とは言っても位置取りはしっかりしないとね。

 ソウ、拓也は雑魚をまとめて、盾役は各々、敵味方範囲に巻き込まれない距離を保つ。

 四隅を時計回りに右上から、神楽、洋平、戸田、ソウ・拓也と陣取っていく。

 支援、後衛職はどの位置からも魔法が届く距離――それが大広間中央。

 盾役は全員、壁側に立つ。後衛職に敵の背後を見せる陣構えだ。これはもちろん敵の範囲攻撃に後衛を巻き込ませない処置と、あと同士撃ち(フレンドリーファイア)を誘発させるためでもある。

 実は敵味方関係なくフレンドリーファイアが有効なのがこのVRMMOの特徴だ。だが、敵の同士撃ちから文字通りの同士打ちを始める訳はではない。あくまで範囲に巻き込ませる形である。

 一度検証スレで同エリアのRM同士を上手く誘導して、フレンドリーファイアで倒すと言う企画動画を上げてたPCがいたな。まあ、結局失敗に終わったが……。ただでさえ、1匹やるのに苦労するのに、2匹のRMを同時戦闘、しかも同士撃ちを狙いながらなんて不可能に近くない? キラにさり気なく聞いてみると、さすがに()()()()は先が読めないとサラリと言ってたな。うん、できそうで怖い。


 さっきまでの『伝説の魔法少女』から『雪が舞い落ちる』へ選曲を変える。

 正しく戦局が変わったのだ。


「これが歌の効果か――」

 神楽が嘯き、

「硬い、固い、堅い! これならアビを一つ抑えれる! これがアサヒ様のチカラ!」

 戸田の声はうわずっていた。

 支援って改めて自ら体験しないと実感が沸かないものよね。

 戦局が緩やかになったことで、他PTのヒラもホッと胸を撫でおろしたようだ。

 だが、まだ今ある危機が去った訳ではない。MP残量だ。いつもは8割を目処に次戦を開始するのだが、今回に限っては大広間で休憩だった。連戦チェーンは切れてもよい。だから、MPは枯れても大丈夫と思って普段より多めに、美和はとくにケチらずに魔法を撃っていた。

 まだ魔術士は良い。ことヒラ職で言えば、MP枯れが盾役を落とす要因になると言うことはあってはならないはずだ。それゆえに、ヒラの重圧と責任感の比重は相当なものだ。

 それでも盾の防御力が上がり生存率が高くなることはヒラにとっては少し安堵できることなのであろう。


 うーん、私にMP回復効果の歌があれば――、


 戦術が増えたであろう。盾職だってガチガチの防御装備でなく紙装備ヒールスポンジであってもMPが無尽蔵にあれば盾は務まる。ヒラ、魔術士だって一撃で溶けない敵なら攻撃・ヒールヘイトで盾役を熟せるだろう。まあ、ヒラはハゲそうになりそうだが。それに魔術士的にはINTを上げるより回数を増やす方がDPSを上げる結果になるかもしれない。

 ないものねだりは仕方がない。無から有は創れない。ここはVRMMOだ。1と0の世界。現状無いモノがどこからともなく降って湧いてくるモノではない。これは現実でもそうなのだ。そんな都合のいい話などない。所詮、既存のもの(ゲーム設定)で工夫してやっていくしかないのだ。だったら、


「あかねヒール温存。洋平のだけのHP3割を目安に維持。ミワはMP回復に専念――」

 と私が言うより前に、美和は目を閉じていた。これはたしか魔術士のパッシブスキルだったはず。目を閉じることにより『瞑想』状態になる。瞑想中はMP自然回復が二段上がるらしい。

 この戦闘中に目を閉じるだけの行為。これがいかに恐ろしいことか。ただでさえ、いつ敵の範囲に巻き込まれるか、いかなるときに戦況が傾く――敵の増援が来るかもしれない――そんな状況で目を閉じるのだ。VRで恐怖心に打ち勝つとは大袈裟かもしれないが、PTを完全に信頼してないとできないことは確かだ。トップPTの魔術士たちは躊躇なく瞑想を行っているのは流石というべきか。


「ソウは雑魚にノーダメで――」の私の指示に、「マジで?!」は拓也の驚き。


「キラ! ようへいのレイドを分担! ようへいは取られたソーサリーアントのみ挑発!」

 キラと魔法職は相性が悪い。いや、魔法攻撃自体ならキラには余裕で避けれるだろう。相性とはPTもしくは混戦時だ。もし避けた場所に他PTがいたら……。フレンドリーファイアで戦況が悪化したではあってはならない。もちろん、キラならそんなヘマはしないだろうが。するとすれば敵なんだな、これが。このVRのモンスター全体に言えるのか分からないが、結構AIがバカなのだ。プログラム通りにしか行動できない。いや、当たり前なんだけどね。なんて言うか、戦況に応じて変化できないのだ。いつぞやのジャイアントイーター戦だって洋平が一撃で倒されそうになったが、地中に潜られ助かった場面があった。モンスターのルーチンなんだろう。つまり、ある種の条件が揃うと敵は大ポカをするのだ。だから、あんなフレンドリーファイアみたいな企画動画が持ち上がったわけだが。それに、あまりに賢いAIだと人類は太刀打ちできないのではないか。たしか盤ゲームはコンピューターに負け越しているとか。それに私自身、COM戦はノーマルモード一択だ。ハードモードなんて絶対しない。なんでかって? そりゃ、面白くないもん……。このAIは運営が意図したものに違いない。だから、その大ポカが怖いのだ。敵の魔術士が、え? こんな近距離で? と在り得ない範囲魔法と言う名の自爆攻撃をしてくる可能性もあるのだ。これはキラが避けれても、私たちが避けれない。

 安全を考慮するなら洋平に魔術士を付けるのが一番いいわけだ。



 だんだんと雑魚の数が減りだした。

 魔法職のMPが回復してからは高火力をもって順次減らしていったからだ。さすがにSTによるヘイト稼ぎはここまで時間があれば多数であっても固定できていた。


「タクヤ、一匹貰おぉうか?」

「え? いいの? 助かるよ」

「コラ、拓也! 楽しようとしない!」

 戸田PTの魔術士がツッこむ。この時はまだ笑顔が見受けられた。



 雑魚を全滅させた頃――。


 主力MTを抱えるヒラの顔が曇っていた。

 起こるべき事象が起こってきたのだ。

 もちろん、この長時間MTを陥落させないと言う荷重があるのだろう。

 だが、その一端はMP残量だ。歌はVIT系、所詮は先延ばし。もうヒラには残りカス程度しかないのだろう。さっきからヒール2、3ではなく、1を小まめに連発してる状態だ。ヒール量が足りてない。その証拠にMTの顔が険しい。


 けど――、


 よく耐えた。



「あかね!


 辻ヒール解禁!」


 MP回復はこのVRMMOでは、たったの2種類。宿に泊まるか、自然回復か。ポーションなどの類は一切ない珍しいVRMMOなのだ。POT連打(ポーション飲みまくり)で回復ができない。いや、それができても実際するかと言うと微妙だけどね。飲みすぎてお腹ポッコリ……。嫌すぎる!

 フィールド上では自然回復しかない。自然回復の方法は簡単だ。なにもしなければいい。なにもしない時間が長ければ長い程よいのだ。ある一定時間からMP回復値が経過時間を基準に平方根的に増加する仕組みだ。これにより、たった一秒の差がMP回復量が2、3倍と違ってくるのだ。できるだけヒラはヒーリング時間を長引かしたい。だが、それが戦闘中だとそう簡単な話ではなくなる。こと、レイドアント複数を持つ神楽PTヒラ、MTST二人を受け持つ戸田PTヒラにはヒーリングする時間すらもほとんどなかっただろう。結果、今息切れ状態だ。


 だけど、あかねちゃんは違う!


 洋平だけのHP管理に、大回復からのHP残量3割まで待機。この繰り返しで今ではアライアンス中のヒラMP量は一番に躍り出ているはずだ。時間に換すれば、あかねのMPは8割回復している。

 あかねと神楽PTヒラのスイッチ。

 レイド戦での前線を持ち直したことは大きい。

 これで一気に復調の兆しになった。


 よし、これはいける!


 PT全員がそう思っただろう。押せ押せムードだ。

 おい、だからと言って、キラとソウ、タゲ取りに張り合うんじゃない。

 私はもう防御は必要ないと感じ、『伝説の魔法少女』に切り替えた。


 そして、ふと大広間深部に目をやる。


 そこにいるはずの――指揮官コマンダー()()()()()






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