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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
33/50

古代文明流砂洞攻略1

「アサヒ!」


 いつもの待ち合わせ時間。

 いや、いつも(・・・)ではなかった。

 場所はギルド前。私とあかねは宿を出る時に運良く出会い、そのまま同行。

 なんと美和が一番に集合場所にいたのだ。で、

 合流前の呼びかけがさっきの台詞。


 なにやら憤慨した面持ち……。

 まあ、こっちもちょっとした頼みごとがあるし――。


「ちょっとアサヒ、MS参加ってどういうこと?」


 え? ミッション? なんのこと……?


 美和は私の顔に目を遣ると眉を寄せた。


 なんか思惑と違うと感じたのだろう。

 私もミワが何に怒っているのか分からない。


 ぞろぞろと集まる他メンバー。



「なるほど――つまりスレにきていた人にお手伝いを頼まれて引き受けたと云うことね」


 経緯はこう。からしべスレに常駐していた私だったが、盛り上がりに乗じてついつい――いやあれは盛り上がったわ。


 うぅ、まさか手伝いがミッションだなんて……しかも最高難易度レイドとは。


「困ったね。まさか出汁につかわれるとは、ね」と最後は配慮した様子もなく、寧ろ楽しげなキラ。


 こっちは面白ないわッ!

 あのスレの白熱さえもウソだったのかな……。

 いや、そんな……。まて、だが、しかし――


 美和は叱ってやろうと思ったのに当てが外れたのか溜め息をついて、

「今度から、わたしもからしべスレを確認しておくわ」とまるでダメな子を持つ親の言い草。


 見た目は逆なんだけどね!


「アンタ、反省しているの?」と杖でグリグリ頬をなじられる。


 ハンセイシテイマス。

 今度からお手伝いの内容とか聞きますから……。


「まあ、受けちまったもんは仕方ない。どうせ、受ける依頼だったんだろう?」


 ナイス援護!


「そ、そうよ。いずれ受けるなら早めでもいいわよね」


「まだわたしたちのレベルでは早いわ。キラが云ったでしょ、出汁に使われたって。わたしたちは客寄せパンダってわけよ」

「姉御をスレに留まらせ、自分は併用して他スレへと噂を流す謀略。なかなか戦略家だね。たしか№1プレイヤーだったかな? 少し興味が沸いてきた」


 なんか目論むような顔をするな。

 うん。頼むから、もうこれ以上問題は起こさないでね。


 美和がジト目で見てくる。


 ハイ、モンダイジはワタシです……。



 私たちはミッション参加のために目的地を砂漠都市へと移した。

 その旅路でも美和に愚痴られたのは言うまでもない。


 うぅ、耳が痛い……。

 №1プレイヤーかなんか知らないけど、会ったら一言文句いってやるからね!





「ああ、よかった。来てくれて。神楽かぐら ゆう です。よろしくお願いします」と相手が握手を求めてきた。


 なんだ、この爽やかイケメンは――つい手を握り返してしまったではないか!

 隣のフツメン(ようへい)がイラついてるが気にしない。


 イケメンに悪はない!


 ハーフなのかな、どこか日本人離れした整った顔立ち。脇にドラゴンをモチーフにした銀の兜を挟んでいた。身長はスラッと180cm。鎧自体もユニーク装備か、白銀のタイトなフルプレート。そのためか鎧越しなのに細マッチョに見える。これは願望というものかもしれないが。


「たしかレベル35。鎧はユニークで分からないけど、盾はそれほど上位ではないね。これはギフト持ちといったところか」

 キラ恒例の品定め。


 ギフト持ちは初期ステ値が低いからな。


「ええ皆さん、お集まりいただき光栄です。先程もご挨拶いたしましたが、募集主の神楽です」と神楽は一段ボリュームを上げ呼びかけた。私は文句言うタイミングを逃し、スゴスゴと群衆に混ざる結果となった。


 イケメンだったから仕方ないよね?


「まず初顔合わせの方もいますので、簡単な紹介から――」

 神楽のパーティは盾、遊撃、ヒラ、魔術3の構成。


 恐ろしい高火力PTだね。てか、なにこのハーレムPTは……。

 リーダーの神楽以外、全員女性なんだが。そりゃ、さっきから洋平も機嫌が悪いよね。


「次は――」

 次のPTはMT、ST、遊撃、ヒラ、魔術2。私たちの構成に近いね。男女比率も。まあ、このPTも神楽PTも装備類が私たちより全然上だけど……。ほんと、私たちが参加していいのかね。

 ああ、利用されてたんだわ。ちょっと悲しくなってきた。


「では最後に、あさひさんPTお願いします」


 お、チャンス到来。


「あのひとついいですか? 私、”お手伝い”と聞いてたんですけど……」

 お手伝いを強調して言ってやったが、


「そうですね。まずミッション名は『古代遺跡調査』。そこまではミッションを進めていますか?」


 聞かれたので、私は頷いてしまった。


「では問題ないと思います」


 やんわり私の皮肉は軽く流されていた。


「前回は深部にある女王の間を発見。そこで全滅しましたが……。ひとまず、その女王の間を制圧するのが今回の目的です」


「動画を見たのですが、アントが大量に流れ込んでPT全滅されてたようにお見受けしたのですが。今回はそれについてどういう対策をされるのですか?」

 他PTのリーダーが真摯に聞く。


「まず説明の前に我々が独自に調査した簡易の地図を渡しておきます。見ていただくと分かると思いますが、この流砂洞はアリの巣の構造を模倣した形になっています」

 神楽PTの遊撃が地図ビラを配る。大きめの路が開始から伸び右へ渦を巻いている。その路の道中からも枝分かれする小道。または小部屋、袋小路などに至り、多彩な経路となっている。パッと見は時計回りの渦といったところか。

 これ全部、道順覚えるのは大変だわ……。まるでアリの巣の迷宮だ。

 まあ、今回は神楽に付いてくだけでいいから楽は楽か。


「赤い線で引かれているのが前回通った道筋になっています」

「なるほど、最短ルートで行かれたワケですか」

「ええ、動画を見ていなかった方もいらっしゃいますでしょうから、一応説明しておきます。女王の間にはアントが8匹、そして一段高くなっている場所に椅子に座る人型モンスター。たぶん、アント8匹を纏める指揮官コマンダーでしょう。女王の間に着く頃には、最短ルートで挑んだ甲斐がありHPMP共に8割は残っていました。正直、この時は勝ったと思ってましたよ」

 神楽の表情はそれまでトップを走り続けてきた自信が伺えた。

「アント8匹の構成は盾2ヒラ2魔2弓2。倒す順番は高火力の魔からヒラ、弓、最後に盾。そして敵の勢力が残り半分になったとき――ことは起こったのです」

 神楽は苦虫を噛んだような顔した。それほど自信があったのであろう。


「女王の間にモンスターが一気に流れ込んできたのです」


「なるほど――それでスレ募集欄に高火力と記載されてたのか」


 え? どういうこと?


「我々は周辺の雑魚がリンクして押し寄せてきたと考えています」


 いやいや、待て待て。ボス部屋で周囲の雑魚がリンクするなんて普通は在り得ないでしょ。

 ボス戦闘中に雑魚の感知範囲が広がるなんてことはないはずだ。トレインと言う考えはどうだろうか。トレインとはモンスターを牽引する現象のことを言う。アントはアクティブモンスターだ。

 大概のMMOでは敵のヘイトが切れるのは、もちろん死んでリセットか、あるいは大幅な移動距離によるリセット――これは敵にある種の縄張りがあり、それ以上の範囲を出ると追いかけるのを諦める、もしくは見失うと言う設定だ。

 だがこのVRMMOではヘイトが切れない。死に戻り以外にヘイトリセットはない。そういや、街まで大型RMをトレインさせ大迷惑をかけたPCが晒されていたんだっけ……。

 ルート進行上でたまたまヘイトに乗った雑魚が1匹いたのかもしれない。

 いや――ないか。

 トレインならすぐに押し寄せていたはずだ。

 ならどうして、リンクした?


「敵ボスを指揮官と云っている通り、ギミックはそこにあると云うワケですな」

「ええ、そうです。我々が確認したとき、コマンダーは椅子には()()()()()()()()。それはフェーズ移行していたことに気付かなかったと云うことです。動画を見ればお気づきかと思いますが、押し寄せる群衆の中にコマンダーは居たのです。たぶん――それがギミックです」


指揮官コマンダーが《仲間を呼び寄せる》と云うことか」


 某有名国産RPGを連想させる。あれはあれで経験値稼ぎにはモッテコイなんだけどね。ボス戦であんなことされたらキレるわね……。


「我々も尽力したが、あまりに多勢に無勢。雑魚だけ20匹、さすがにタゲは取りきれなかった。零れ落ちたヘイトから後衛が順に殺られ、そして全滅。最短ルートが仇となった。だから、今回の作戦ルートは――」


「――全滅ルートです」





「さっきのリーダー、ミワはどう思った?」

「アサヒとは違うカリスマを感じたわね。問題点を自ら考え、それについての改善案もしっかりある。それに大きな矛盾点を感じなかったわ。まあ、提供された情報がすべて正しいと仮定してだけどね」


 私はどんなタイプのカリスマなのだろう。

 私の期待した目に気づいた美和は、「感情に訴えるカリスマかしら?」と呆けた。


 なぜにギモンブン?


「あれだけ論理思考なのに、なんでキレちゃったんだろうね。ぼくはそっちのほうが気になるね」

「一度の成功が当たり前になったとき、自らの失敗に向き合えなかったのかもしれないわね」


 ああ――気持ちはよく分かる。私だってムカついたらコントローラーをブン投げ暴言を吐くなんて一度じゃ二度じゃ済まないわ。もしその光景が動画に流れでもしたら……。

 ちょっと寒気がした。


「現実社会でも一度の失態で、人生を棒に振るなんてよくあることだしね」

「ゲームで社会性を学ぶなんて、わたしは真っ平御免だわ」と美和は長い髪をかきあげて、


 ゲームは楽しむべきものよと嘯いた。




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