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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
30/50

守護者

 石垣に囲まれたバウジッド遺跡――。印象は一言で拒絶的だ。

 すべては白と黒とのコンテンション。中に入ることを拒むように凍りつく白は、本来は黒の扉を鎖していた。

 私の持っているピンクの結晶がゆっくり間隔を空け鈍く光り出す。

 目的地付近へ近づくにつれ、点滅が速くなっていく。トリガー設置場所――剣と盾を装備したアンデットの前に到着した頃には、一際光り輝いていた。

 その遺跡を守るかのように扉の前に佇むモンスター――ガーディアンテッド。


 私は洋平にトリガーアイテムを手渡した。最初にヘイトが乗るのが、トレードしたPCになるからだ。

 洋平は目で合図する。

 私たちは動く気配もない、眼前にあるオブジェクトに警戒する。


 ――ガコッ。


 結晶がガーディアンの胸に空いた穴に合致した。

 胸の結晶だけ命が宿っているかのようだ。その生命の熱で凍っていた身体が溶け出す。錆びていた刀剣は新品同然の研ぎ澄まされ、摩耗して何が彫られていた分からなかった盾ですら、今では明瞭に分かるほどに。

 アンデットは生命を取り戻そうと動き出した。

 そして、眼窩の暗闇に赤い火が灯ると、


「汝ら、世界を脅かすモノか――

 我、この世の扉を閉めるモノ――


 守護者の周り、雪に埋もれた地面から手が湧き出した。

 ガーディアンテッドの命の煽りにあてられ、死者が蘇ったのか……。


 1匹、2匹、3匹――4匹!



 この理を開けるモノは――永遠の死を」

 守護者がひと振りして言った。


 戦闘開始だ!



「ようへいはボス。私たちで雑魚処理」

 と私は短く指示を出す。

 歌は最初からVIT系《snow() falls() all(舞い) around() me》だ。

 罠クエ(あの)戦いで私たちはかなり成長した。予想のできない展開、それに打ち勝つ戦術。大いに今を落ち着かせていた。何があっても自らの役割を熟せば――勝てると。


 ソウは雑魚4匹のヘイトを取る。最初のコンタクトは揮発系のみだ。蓄積が貯まるまで美和は待機。キラは攻撃の威力が小さい――ヘイトが少ない――ので、序盤から参加する。

 避けなくてキラは暇なのか、

「ソウちゃん――1匹受け取ろうか?」

「テメェの助力なんていらねぇよぉ」

 相も変わらず戦いの最中に会話を挟む二人。

 まあ、それほど余裕があるのだろう。

 ちぇと子供じみた拗ね方をしたキラは雑魚を蹴り、その反動で空中へ大きく宙返り、その間もスリングショットで空中攻撃追加。


 器用なヤツ……。


 スリングショットは遠隔武器だが。装備可能STR基準が低いので威力の程はあまりない。

 キラは着地後もバク転をし、洋平の背後へ。

 急に後ろに気配がしたので吃驚する洋平。守護者の一撃をモロに喰らいそうになった。そんなのお構いなしにキラは、挑発からのヘイト譲与コンボ。これで洋平のヘイト量は2倍。


 ホント、器用なヤツ――。


 ソウのヘイト固定は出来上がり、美和による魔法攻撃が始まっていた。

 私は過去のMMOギミックに鑑みる。

 ギミックがボスのコア破壊なのは確実。だが、果してそれだけであろうか。――相手は、まして眷属ですらアンデット。考えうるギミックは――


 1、眷属を倒し、ボスギミック集中攻撃。

 2、眷属はアンデット故に倒せない!


 1匹、美和のファイアを浴び、ポリゴン――ではなく肉体のみ焼き切れ、骨となった。支えとなった筋肉が削げ落ち、そして崩れる。続いて、2匹も撃破――。

 骨になる。

 3匹途中で異変は起こる。

 骨が、

 骨が動く。カラカラと乾いた音を鳴らし立ち上がる――スケルトン。

 その骨接ほねつぐ音は、嘲笑うものに聴こえた。無駄な努力ご苦労様と。


 そう――、


 3、眷属は倒せる――だが、一定時間経過後に復活する。


 普通なら眷属をサブタンクが持ちつつ、復活するのを前提・・に倒してく。もちろん、これはヒラMP節約のためだ。

 だが、このPT――ソウだと4匹相手にもノーダメージ。美和が空く。ただ、魔法職は高火力だが動く標的に当てることは難しい。無論、弾幕よろしくと数撃てば結晶コアに当たるかもしれないが、文字通り美和の撃つファイアが同士打ち(フレドンリーファイア)になるかもしれないのだ。まあ、それでもキラなら避けそうだが……。リズムを崩されるだろうけどね。それにトリガーの時にキラ一人でギミック攻略を果たすという前例がある。つまりは、別に仲間内で難易度を上げる意味もないため――美和は待機となった。


「この高火力が恨めしいわ」と愚痴る美和。


 てか、自慢じゃね?



 私とキラの二人でコア破壊ギミックに挑むことになる。


「姉御、よろしく」


 《脱兎のフリアント》に曲を変える。

 やはりこの戦闘もタイムアタックと感じたからだ。

 って、私がコア攻撃に参加できそうになりからなんだけどね!

 いやー、さすがに良い装備になったからって、あの台風みたいな所へ潜る勇気ないわ……。


 攻撃自体は洋平を狙って行われているとはいえ、守護者の攻撃に巻き込まれれば、当然ダメージが判定される。攻撃している相手に近づくのだ。ヘイトが違くても、当たる確率は高い。

 キラはククリ二刀をだらりと下げ、脱力している。そしてゆらゆらとリズムを取り出した。ジッと見つめる。その先は――


 洋平と守護者。


 5秒ほどだったろうか。

 キラが動く。 

 攻撃間隔を計っていたのか、まるで大縄跳びに入る勢いで突進した。

 速度アップしているキラは水を得た魚。攻撃を避けながら攻撃する様は、まさに急流を逆らい泳ぐよう。

 一気に台風の目まで入っていった。


 コアにダメージ判定が入る音。

 キンキン――キン、と小気味よい。


 キラお得意の斬り付けからの蹴りバック宙、そして空中スリングショット。


 カツン。


 強化ガラスに小石をぶつけ、軽く跳ね返る音だった。それまでの連続攻撃でコアに罅が出来ていたのが、自己修復機能よろしくと直ってきている。


「ありゃりゃ、さすがにこの武器じゃ無理か」

 スリングショットを見て戯けるキラ。


 スリングショットだけ規定のSTRに達していなかったのだろう、コアにダメージ判定がされなかったようだ。キラもそう判断したのか、二刀流のみに徹しいく。


 そして再び、コアに亀裂――


 あと一撃で壊れる。そう思った瞬間、


 それは動作のないものだった。


 守護者からの盾の薙ぎ払い。


 不意を突かれたとしても、いつものキラなら避けれたであろう。だが運悪く、空中攻撃の最中にことは起こったのだ。


「キラ!」

 私は叫びながら、振り返った。なぜなら――



 空中で当たり判定を受けたキラは10mも吹っ飛ばされていたのだから。





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