アーティファクト2
よく朝――。
ギルド前恒例の待ち合わせタイム。私はさっとフードを深く被った。PCが何組か目前を通ったのだ。行先はこの通りからすると、氷結エリアでパルンガ鉱山、もしくは遺跡あたりか。その一行は、まだ見ぬ装備類からしてトッププレイヤーと判断できる。トリガーアイテムを取り終え、こちらに昇級クエをしにきたのであろう。攻略進行度では私たちもトップに並んでいることになる。
いつのまにかトッププレイヤーの仲間入り?
まあ、レベル差があるけどね。
これで昇級クエを初クリアしたのなら……。
午前中は、仕立て屋クエと決めていたので、はやる気持ちを抑える。
最後にやって来たのは、これもいつも通りの美和だった。
開口一番、「では行きますか」の美和。
さすがです……。
「これはこれはお待ちしておりました、アサヒ様」
真摯な助手。
「ぉおお、待ちわびておったぞ」
不必要にテンションの高い博士。「これトロン、例の物を」と手を鳴らす。丁稚は奥からなにやら豪華な箱を持ってきた。
「性能は保証付きじゃ」
せいのうはね。
博士は箱をカウンターに乗せて、上蓋を取った。
「これは王国軍の正装ですね」
あかねは装備スレにあったスクリーンショットを見たことがあったそうだ。
うん、白基調の制服ブレザーだね。
普通にカワイイ。もしかして、これって当たり?
「アレはこれを模写ったものじゃ、こっちが本家本元オリジナルじゃ!」
ささ、と助手が試着室へ案内する。
10分後――。
「アサヒ、もう着替え終わったでしょ」
「ちょっと待っ――」
カーテンから顔だけ出す美和。「これは――」
美和は無造作にカーテンを全開にした。
「――タケが短い」と美和。反射的にスカートを隠す。
このスカート膝上20cm以上あるんですけど!
「大丈夫じゃ。下はスパッツ仕様なのじゃ」
そういう問題じゃない……。
「なんで、こんなにタケが短いの?」
「うむ、古文書によると――なんでもブレザーは上が重いイメージがあるとかで、下はミニで調整しているそうじゃ」
「なるほど」
なるほどじゃないよ! それにこの、
「そして、このニーハイソックス――」
そう、このニーハイがなんのためかタトゥ型だ。
「――なぜかは知らんが、上にネズミを象っているんじゃ。これも古文書によると、この絶対領域が欠かせないらしいのじゃ」
おい、その古文書こっちに出せや、ゴラァ!
「ただ、残念なのじゃが古文書がどこのだれかに盗まれてしまってな……。そのせいで、解読が遅れたのじゃよ。まったく嘆かわしい。もしその古文書をどこか見つけたのなら、また報告をお願いするぞ」
と博士は「こんな感じの」と手で長方形の箱型を空中に描いた。
それって、もう本じゃなくない?
きっとみんなも思ったのであろう、首を傾げていた。
「解読の仕方は秘匿じゃよ」と博士は、ほぉほぉっと笑う。ただ一人――疑問でもタワぶれた感じでもなく、ただ冷徹になにかを見つめていた者がいた。
キラだった。
美和は唐突に、「絶対回避のキラ。絶対防御のソウ」
「そして――絶対領域のアサヒ」
おい、ヘンな二つ名付けるな!
「わたしは絶対魔法とかがいいわね」
「あ、わたしは絶対回復でお願いします」
洋平は、なぁオレはオレはと私に聞いてくる。
オマエは絶対馬鹿で決定だよ!
「でも、性能はピカイチよね」と美和はもう一度私を見て、「本当、ヨカッタワ――」と小さく呟いた。最後の文は、ワタシジャナクテだろう……。
私はいそいそと毛皮羽織る。スカート丈と毛皮丈が丁度だった。
その姿を立て銅板で確認する。
「なんか余計にエロくみえる」
い、言わないで、私も思ったんだから……。
表通り、私はフードを被り歩く。
大勢の行き通りに何人かが振り返る。PC達だろう――その視線がどこに向かっているか否応なく分かる。
「まったく――またかよ」と少し不機嫌の洋平。
いや、なんでオマエが怒っているんだよ。
「ようへいだってそうでしょ」
と私の不意の言葉に、洋平は驚いた様子。
「アルケノ二人騎乗の時、後ろから胸を覗こうとしてたでしょ。振り返ったら、知らんぷりして誤魔化そうとしてたけど――」私は呆れたと言わんばかりの振りをして、「あら、気づいてないと思ったの?」と言ってやった。
「な、な、な――」
洋平は返答に困惑しているみたいだ。
そりゃそうだ、注目を浴びない目的が、かえって注目される結果になったのだ。そして、唐突の私の返し。
「いや、だって――」
洋平はすごく慌てだした。
おっ、きいてるきいてる。
吹き出しそうになるのを我慢する。
洋平がそんなことができる玉ではいことくらい分かっているのに。
「いや、その、悪かった――よく考えたら、見られるってことは似合っていることだと思うんだわ。その自信持ってもいいんじゃないかなぁと……」
悪くない洋平が謝りながら、最終的には何だかよく分からず励ましてきた。
私は下を向いて両手で顔を隠す動作をした。それをみて、また慌てる洋平。
肩が震え、いまにも笑いが止まらない。
「なにやってるのよ」とコツンと杖で私を叩く美和。
私は上を向き、舌をペロリと出した。
「お、おまえーーー」
うん、ようへいを揶揄ったら少し落ち着いたわ。
自信を持て――か、
私は毛皮を脱ぎ捨てた。
さすが、アーティファクト。防寒機能は完璧ね。性能がピカイチだもの。
「アサヒのPTってことで注目は避けれそうにないわね」
嘯くと美和は、ため息をついた。
一番ため息が深かったのは、あかねであった。
前話で削除したシーンがあります。
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