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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
29/50

アーティファクト2

 よく朝――。

 ギルド前恒例の待ち合わせタイム。私はさっとフードを深く被った。PCが何組か目前を通ったのだ。行先はこの通りからすると、氷結エリアでパルンガ鉱山、もしくは遺跡あたりか。その一行は、まだ見ぬ装備類からしてトッププレイヤーと判断できる。トリガーアイテムを取り終え、こちらに昇級クエをしにきたのであろう。攻略進行度では私たちもトップに並んでいることになる。


 いつのまにかトッププレイヤーの仲間入り?

 まあ、レベル差があるけどね。

 これで昇級クエを初クリアしたのなら……。


 午前中は、仕立て屋クエと決めていたので、はやる気持ちを抑える。

 最後にやって来たのは、これもいつも通りの美和だった。

 開口一番、「では行きますか」の美和。


 さすがです……。



「これはこれはお待ちしておりました、アサヒ様」

 真摯な助手。

「ぉおお、待ちわびておったぞ」

 不必要にテンションの高い博士。「これトロン、例の物を」と手を鳴らす。丁稚は奥からなにやら豪華な箱を持ってきた。

「性能は保証付きじゃ」


 せいのう(・・・・)はね。


 博士は箱をカウンターに乗せて、上蓋を取った。


「これは王国軍の正装ですね」

 あかねは装備スレにあったスクリーンショットを見たことがあったそうだ。


 うん、白基調の制服ブレザーだね。

 普通にカワイイ。もしかして、これって当たり?


「アレはこれを模写ったものじゃ、こっちが本家本元オリジナルじゃ!」


 ささ、と助手が試着室へ案内する。


 10分後――。


「アサヒ、もう着替え終わったでしょ」


「ちょっと待っ――」


 カーテンから顔だけ出す美和。「これは――」

 美和は無造作にカーテンを全開にした。


「――タケが短い」と美和。反射的にスカートを隠す。


 このスカート膝上20cm以上あるんですけど!


「大丈夫じゃ。下はスパッツ仕様なのじゃ」


 そういう問題じゃない……。


「なんで、こんなにタケが短いの?」

「うむ、古文書によると――なんでもブレザーは上が重いイメージがあるとかで、下はミニで調整しているそうじゃ」

「なるほど」


 なるほどじゃないよ! それにこの、


「そして、このニーハイソックス――」


 そう、このニーハイがなんのためかタトゥ型だ。


「――なぜかは知らんが、上にネズミをかたどっているんじゃ。これも古文書によると、この絶対領域が欠かせないらしいのじゃ」


 おい、その古文書こっちに出せや、ゴラァ!


「ただ、残念なのじゃが古文書がどこのだれかに盗まれてしまってな……。そのせいで、解読が遅れたのじゃよ。まったく嘆かわしい。もしその古文書をどこか見つけたのなら、また報告をお願いするぞ」

 と博士は「こんな感じの」と手で長方形の箱型を空中に描いた。


 それって、もう本じゃなくない?


 きっとみんなも思ったのであろう、首を傾げていた。

「解読の仕方は秘匿じゃよ」と博士は、ほぉほぉっと笑う。ただ一人――疑問でもタワぶれた感じでもなく、ただ冷徹になにかを見つめていた者がいた。


 キラだった。


 美和は唐突に、「絶対回避のキラ。絶対防御のソウ」


「そして――絶対領域のアサヒ」


 おい、ヘンな二つ名付けるな!


「わたしは絶対魔法とかがいいわね」

「あ、わたしは絶対回復でお願いします」


 洋平は、なぁオレはオレはと私に聞いてくる。


 オマエは絶対馬鹿で決定だよ!


「でも、性能はピカイチよね」と美和はもう一度私を見て、「本当、ヨカッタワ――」と小さく呟いた。最後の文は、ワタシジャナクテだろう……。


 私はいそいそと毛皮羽織る。スカート丈と毛皮丈が丁度だった。

 その姿を立て銅板で確認する。


「なんか余計にエロくみえる」


 い、言わないで、私も思ったんだから……。




 表通り、私はフードを被り歩く。

 大勢の行き通りに何人かが振り返る。PC達だろう――その視線がどこに向かっているか否応なく分かる。


「まったく――またかよ」と少し不機嫌の洋平。


 いや、なんでオマエが怒っているんだよ。


「ようへいだってそうでしょ」

 と私の不意の言葉に、洋平は驚いた様子。

「アルケノ二人騎乗の時、後ろから胸を覗こうとしてたでしょ。振り返ったら、知らんぷりして誤魔化そうとしてたけど――」私は呆れたと言わんばかりの振りをして、「あら、気づいてないと思ったの?」と言ってやった。


「な、な、な――」


 洋平は返答に困惑しているみたいだ。


 そりゃそうだ、注目を浴びない目的が、かえって注目される結果になったのだ。そして、唐突の私の返し。


「いや、だって――」

 洋平はすごく慌てだした。


 おっ、きいてるきいてる。


 吹き出しそうになるのを我慢する。

 洋平がそんなことができる玉ではいことくらい分かっているのに。

「いや、その、悪かった――よく考えたら、見られるってことは似合っていることだと思うんだわ。その自信持ってもいいんじゃないかなぁと……」

 悪くない洋平が謝りながら、最終的には何だかよく分からず励ましてきた。

 私は下を向いて両手で顔を隠す動作をした。それをみて、また慌てる洋平。

 肩が震え、いまにも笑いが止まらない。


「なにやってるのよ」とコツンと杖で私を叩く美和。

 私は上を向き、舌をペロリと出した。


「お、おまえーーー」


 うん、ようへいを揶揄からかったら少し落ち着いたわ。


 自信を持て――か、


 私は毛皮を脱ぎ捨てた。


 さすが、アーティファクト。防寒機能は完璧ね。性能がピカイチだもの。



「アサヒのPTってことで注目は避けれそうにないわね」

 嘯くと美和は、ため息をついた。


 一番ため息が深かったのは、あかねであった。



前話で削除したシーンがあります。

ご一読くだされば幸いです。


お読み頂きありがとうございます。感想などあれば是非お願いします。

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