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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
28/50

雪が舞い散る

 1日あれば作成可能ということで私たちは午後から暇になった。クエスト受けるにしても受けれるものがない……。ということで、各自フリータイム。

 ログアウト組みは、美和、キラの二人。美和に罠クエの動画を上げに行くのか尋ねると、連動クエと一緒にあげる予定とのこと。単に新情報がないか各スレ確認するらしい。うん、ご苦労なこった。キラはログアウト後のことは聞いても話してくれない。まぁ、彼も結構な情報通だから調べているのだろう。

 あかねとソウは都市観光、もといあかねにとっては現地調査の続きだ。ソウには観光デートを押し付けた。都市内でもイベント(なに)が起こるか分からない、と言い聞かせてソウをしぶしぶ連れて行かせたのだ。


 私もあかねちゃんと一緒にいたい……。けど、空気を読まないとね。せっかくの幼馴染の再会なのだ。邪魔はしないよ!


 残るは私と洋平。

 STRアクセがほしい私は金策をと考えたが――私にとって、ここは未開の土地。勝手が解らないは、死に戻りでもしたらたまったもんじゃないはで、そしてなにより美和にキツく言われたこともあり、都市から出禁となった。



 と言うことで、洋平と二人で食べ歩き。ピロシキっぽいのやらジャガイモがゴロっと入った料理まで手広く胃に収めていく私。洋平は途中で味に飽きたっぽい。極寒の都市ということもあり、味付けは濃いし、なにより、マヨネーズがどの料理にも不断ふんだんに使用されている。


 ここは――マヨラー天国よ!

 幸せ……。

 マヨネーズって万能調味だよね!


 時折、小雪まじりの突風が顔面に吹き付ける。


 寒っ、


 私はたまらず洋平の腕を掴み後ろに隠れた。

「な、なんか食ってばっかりだよな――オレら」

 洋平は私を振りほどこうとする。コラ、動くな。寒いだろう。

 じっと洋平を見ると――顔が赤い。


 オマエも寒いのかよ……。


 それに――ばっかって言うけど、

 そう、実益と趣味を兼ねたフィールドワークなのよ! 


「オレもう食えねぇし、それに――太るぞ」


 ぐっ、

 ここはVR世界。だ、大丈夫……。それに私もお腹一杯だ。


 お、

 この匂いは――


 ふらふらと匂いに釣られて辿り着いた場所は、


 串焼き屋。


 紛れもなく仮想現実で初めて食べたファストフード!


「お、嬢ちゃん。王国出身者かい?」と店主が私を見て声を掛けてきた。

 そういや、毛皮のコート丈は腰上までしかなく下は初期装備ズボンだったわ。


「ここは王国大通りにある『クイトロ』4号店だよ」


 思い出補正ってあるよね。串1本ならまだ食べれそうだぞ。

「2本ください」

 とやさしい私は洋平の分まで頼む。うへぇと声を漏らす洋平。


 若いのに胃が弱いな。

 オマエのギフトが泣いているぞ!


「へい、まいど! 今から焼くので5分ほど待ってておくれ」


 ようへい、と呼ぶとさっきまでいたのに――いない。逃げたか!



「お主にわざわいが降りかかろうとしておるぞ」



 当の本人はなんか怪しい紫フードに呼び込まれていた。

 私は店主に近くにいるからと連れの行った方へ指した。「おう、できたら声かけるな」と快諾してくれた。

 洋平の元へ。

 なになにオモシロイこと起きてるの? 

「お、占い屋じゃないか!」


 水晶玉を覗いている紫フード。


 私も占ってもらわねば――


 占い師は私に気づくと、「おや、連れも一緒でしたかな。どうです? 相性占いとかいかがですかな」


 PTのパートナーとしての占いか。占う価値はあるわね。


「ええ、お願い」の私の即答に、洋平は「ええぇ?!」と驚く。なによ――私だって、あかねちゃんとやりたかったわよ。フフフ、ビシージの時のコンビを見せてやりたかったわ。きっと相性がピッタリね。いやむしろ、ミワとの相性を見たほうがよかったかと一瞬頭をぎった。


 ……。


 ブルっと体が震えた。

 これは風邪じゃなく――悪寒。

 洋平を見ると風邪でも引いたかのように赤い。


 バカは風邪ひかないよね? まあ、いいや。ほら早く。


 と一種の手相占いのようで、金属板に二人手を重ねて乗せた。

 板が光る。

 それを水晶越しに見ている占い師は紙に文字を書き始め――


「嬢ちゃん、できたぞ」と店主が串2本持ち叫んだ。


「ようへい、ちょっと行ってくる」と私は言い残して串焼き屋へ向かい、店主に400ギル支払った。

 私は戻る途中、我慢しきれず一口齧り付く。


 おう、この味この味! 


 洋平は私に気づくと、占い結果であろう紙をクシャっと握りつぶして、ポケットへ無造作に突っ込んだ。


「コラ、ようへい。結果を出しなさい」と手を差し出す。


「どっかいった」とすっとぼける洋平。


 ほほう、この私を欺こうっての?


「いい? PT戦で大事なのはパーティ間の意思疎通よ。イヤなことが書いてあってもそれを補っていくのがPTというものだと思わない? どうせ、ヘイト関係でボロクソ書かれていたんでしょ。それに――オトコって占いを信じていないクセに、イイことだけ信じるのよね。どうせロクでもない内容だったのでしょ」


「ち、ちげーよ」と私に捲し立てられた洋平はポケットから紙片を取り出した。


 えーなになに、と私は黙読する。


 占いの内容はこんな感じだった。

 理想的なカップル。今はちぐはぐな関係かもしれないが、きっと息の合う最高のパートナーになり、お互いの足りない部分を補えていくでしょう。最高の結婚相手! 二人ならどんな障害でも乗り越えれる!


 ……。


 こ、これって――恋占いじゃないの!


「ま、まあ。占いってのもあてにならいものよね」


「そ、そうだよな。それにこんなゲーム内の占いなんて信じろっていうのが――」


 なに、この気まずい雰囲気……。



 不意に――甲高い悲鳴。


 路地裏から少女と思わしき声が聴こえた。


 これって――もしかしなくても、


 そう、この占い師最初に何て言っていた?


 《禍が起こるだろう》


 って、イベントフラグじゃないか!


「ようへい」と呼び止めるべもなく、洋平の姿はすでになかった。


 あちゃ――私は額に手を当てた。


 ようへい(あのバカ)、ここはVRだ。現実世界リアルではない。困っている人がいるからって駆けつけようってヤツがいるか。お人好しにも程があるぞ。まあ、人として評価はできるけど。


 私は洋平を追いかける。

 角を曲がると、数名の輩に囲まれ、少女を守るように立つ洋平がいた。


 これは突発イベント。ある程度、リアル感を出すためにRPGなどでよくランダムイベントが組まれる。お使いクエストやシナリオ道中などで起伏のない場合、一種の起爆剤として投入されている。予測不可能なイベントを起こして、PCに緊張感を持たせる効果だ。

 かくいう私もPTフリー時には何度もランダムイベに遭遇している。そう、最初だけはすごく新鮮で面白くイベントを熟していった。ただ、こういうのも種類が決まっているのが分かってくると興が醒めていくもの。今では、またかと無視している状態だ。


 洋平はすでに剣を抜き盾で構えていた。


 そのキラキラ顔なにを期待している……。


 仕方がないと思いつつ口ずさみ、愛剣のツヴァイを抜く。




「あっさりおわったな」と物足りない洋平。


 ――まあ、このレベルでやるようなイベントではなかったんだよ。


 種類的に言えば、これは迷子クエストという位置づけになる。護衛版の突発イベント。

 少女を無事、お家まで送り届けて、イベント終了。小銭を稼いだ。報酬3000ぽっちだが。報酬を貰う洋平はすごく得意気であった。


 なんでコイツはいつだって一生懸命なんだよ。


 私はため息をつく。

 周りを見ると、かなり都市郊外のほうへ来てしまったらしい。



 少し高台があるので、何気なくそこへ座ってしまった。

 夕暮れ――前方には聳える山脈が連なっている。日はまだあるのに光さえ吸い込まれる闇に覆われた山容。なにやら不気味に山が生きている音が聞こえてきそうだ。


 あの山頂にはなにが眠っているのだろう。

 あの山を越えた先にはなにが待っているのだろう。


 いつ以来だろう……。

 景色を見て、こんな感傷に浸ったのは――。

 もちろん、こんな感情を抱いた要因は――。


 隣を見る、


 珍しく私の機微を感じたのか、そっと傍に座った洋平――何も言わずに私が見ていた景観を眺める。


 そして私は、


 占いの紙を握ったままだったことに今更気づいた。


 お互い本当の意味で知らない二人なのに……。



 私は皺を伸ばし綺麗に畳むと自分のポケットへ大事にしまい込んだ。


 《snow() falls() all(舞い) around() me


 自然に口ずさんでいた。


 主人公が雪に覆われた見知らぬ土地へと冒険していく歌詞だ。

 その歌は自分の可能性、自分を探す哲学的な内容の意味だった。


 洋平もこの曲は知っていたのだろう調子に乗って口ずさんできた。


 オマエは音痴だから詠うな!



 上空ではピューという2匹の番の綺麗な鳴き声(ハモリ)が聴こえた。



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