アーティファクト
「すまない」
マリアーヌとガラルドが入ってくる。
「早急に依頼をしたいのだが――」
マリアーヌは緊迫した面持ちだ。それは苦渋の顔のはずだが、欧米風モデルの顔立ちは整っていた。
容姿端麗とは如何に!
そのプロポーション――てか、その甲冑はなんなんだ? その紛うことないバディを魅せつけるかのような、ピッタリとしたフォルム。胸の谷間まである鎧ってどうなの? こりゃ、人気がでるのも頷けるわ。
女性の私が見てもエロカッコイイぞ!
洋平が胸部を瞥見している。
おい、やめろ。おまえはバレてないと思っているだろうが、女性はそういう視線には敏感なんだよ……。
こっちが恥ずかしくなるだろ!
ソウは、そういやオレこれ見たなぁと二度目のイベントらしく興味を失っている。キラは昇級クエイベをスレで知っているようで、まるで関心がない――洋平、二人を見習え……。
一方、ガラルドは鼻を掘じっていた。
アンタも緊張感ないよな……。あれか、一定時間待機してたら、キャラ特有のモーションがでる、あれなのか?
あっ!
ガラルドがデコピンをやる要領で――ピンと指で何かを撥ねた。
洋平がいきなり崩れ落ちる。
何事かと後ろを振り向く洋平。何食わぬガラルド。オカシイなと首を傾げる洋平。
おう、あれって当たり判定ダメージありなのか……。
洋平はNPCとなにやってるんだ。
「王国騎士団からの依頼ということはCランク以上の冒険者ということになりますが――」
受付嬢はなにやら書類を調べて、「ただいま、Cランク以上の者は出払っていないようです」と告げた。
うん、スレを見なくても分かる展開。
「なっ!」とマリアーヌは驚く。その顔も絵になるよね。
マリアーヌは私たちに気づくと、
「こちらの方々は?」
「はい、ただいまCランク昇級試練の説明の最中――」
「マリアーヌ様、Cランク昇級を受ける者なら、それ相応の者たちかと」と渋い声で遮るガラルド。
アンタ後ろで鼻掘じってたよね? シチュエーションとそのモーションから偶然に起きたシステム的なエラーなのか?
システムエラーなら直しておけよ、運営! 喫緊の場面が台無しじゃないか。
「ふっ、なにか不満のある顔だな。なぜ軍がギルドにと……」
この顔は呆れてたんだよ。
「正規なら軍が調査に出向くんだが、軍諜報部からの情報ではないんでな。簡単には動かせないのだよ」
マリアーヌは手でガラルドを制し話を引き継ぐ、「それに……、その情報源が私の知己でな。無下にもできないのだ」
「もし依頼を受けるのであれば、内容を明かそう。だが――」
聞けば後戻り出来ぬぞ! とガラルドは凄む。
つまりは、
1、依頼拒否で冒険者コース。
2は――、
「そう畏まることはない。悪い話ではないぞ、ギルドランクCランク? 調査次第では我が八忠将第8団隊に入隊させてやる。自らの優秀さを証明してみせるか?」
そう、2はガラルド率いる部隊で出世していく立志伝になる。
たしか正式オープン時には傭兵結成可能らしく、大規模なギルドなら八忠将第9団隊ができるそうだ。あくまで、裏部隊という設定らしいが。
まあ、スレで情報を得て話し合ったパーティの総意は――もちろんYESだ。すでにソウが受諾済だしね。
「その話お受けします」
ギルドから外へ出ると外気は少し肌寒くなっていた。私たちは「仕立て屋マジュム」には向かっていない。罠クエからの連動依頼。ドロップアイテム『毛皮』の売値が1ギル……。きっと売るなと言う暗示なんだろう。行き場所が「仕立て屋」だし、報酬はレア装備かもしれないと期待している。まあ、報酬は「金」でも問題ない。当初の予定では罠クエ100万ギルで(もちろん、人数分けして)、装備を整えることだったからだ。もしも、報酬が防具だった時のために、防具屋に向かっている。比較のためだ。
防具屋に到着した頃には、とうとう白いものが舞い始めた。
「お、これよくない?」
ノクタダブレット。黒に染められた生地で編まれた綿鎧だ。真っ黒っていうのがソウと被るが、性能と金額は申し分ないように思える。あかねは各地で現地調査したメモ帳で見比べいている。
「うーん、その金額なら砂漠都市でもう少し良い性能のがありますね……」
砂漠都市か……。遠いな。
普通、RPGなら行く先々に良い装備が売っているのが通俗だ。ただ、低レベルなら装備レベルが足りずに装備不可ってことが多いが。このゲームだとステータスで装備可能か決まる。極論だが、レベル1でもステが高ければ装備可能という仕様だ。
選択肢によりPCの行く場所が別れるVRMMOには仕方のないことか。まあ、制作側からすれば、かなり綿密にレベルデザインはしていると言われそうだが。でも、また砂漠エリアに戻るのは、非現実的――ここ仮想現実《VR》だけどね――だし、ここは妥協するしかないな……。
あかねに一通りメモってもらい、美和達と合流する。
美和はアクセサリー売り場で目を輝かせていた。
この氷結都市ペインは特産物が魔鉱石で、その収益だけでこの最果ての地という不毛の地でも成り立っているのだ。と、あかね情報。
首、右指、左指、右耳、左耳の計5箇所の装備枠にあたるアクセサリー。しかも魔鉱石の本場とあって、プラス値が高い。全てのアクセ装備枠をレベルに換算すると3の上昇値を見込める程だ。美和がヨダレ垂らしているのが分かるよね……。私は1個指輪を摘む。
――1個10万ギル?
高けぇよ……。美和は躊躇するまもなく、全部INT系を買い取っていた。あとちょいでフレアが撃てるわと嘯く美和に、洋平がギョっとしてたのは言うまでもない。
うむ。まあタゲ取り、がんばれ……。
検証スレでVITがヘイトに関係するらしく、今は防御力よりもVIT至上主義になっているみたいだ。防具の合計防御力より、合計VITを意識したコーデが今の流行りってわけね。まあ基本、VITでも多少の防御力は上がるからね。
美和はソウに、相殺目的ならVITよりSTR系装備で整えたほうが良いと助言していたが、ソウはVITアクセを買っていた。一瞬で溶けないようなPTへの配慮なのだろう。まあ、なんと言うか見た目より堅実な男なのだ。
各々合ったアクセを買って店を出た。私以外ね――
ふん、ブルジョワどもめ!
街道はうっすらと雪片で凍り始めていた。ギルドより指定された一画は、随分な街の外れ。
その建物は、混合経営らしく一階は道具屋、地下に仕立て屋となっていた。なぜ地下にと、思いつつ階段を降りる。テーブルに置かれた三角フラスコからは紫の煙が立ち登り、傍にあるツボの中身はドロっとした緑色のゼラチン質がグツグツと煮えていた。そこは仕立て屋には程遠い化学実験室に近かった。
「よくこの寂れた仕立て屋マジュムまでお越しいただきました」と美和より小さいNPCが話しかけてきた。小人族という代々この地に住んでいた種族だ。種族といっても人間族。なぜか成長が止まるため、小人族と揶揄されてきた人々。ただ、生来の知識は半端なく、魔鉱石合成の成功による都市貢献、そしてこと古代遺跡の文献など、成果は夥しいものがある。学術的なことに輩出している種族だ。それでも古代文明を語るのは今も昔も異端で、揶揄される原因なんだろう。
このイベントでミワの出生が明らかに?! 乞うごふ――と私が美和に振り返ると杖で顔を押し戻された。
「これこれ、寂れたとは失礼じゃぞ。コモルル助手よ」
「あ、ソルル博士」
ソルルと呼ばれるのもまた小人だった。ハの字をした髭が偉く立派だ。癖なのか先っぽを触っている。
なんだ? 背後から登場するのが流行っているのか。
「ワシがこの仕立て屋マジュム、オーナーのソルルじゃ」と私のバックを見て、「おお、それはワシが依頼したモノじゃないのか?」と、まだ出してもないモノを見るソルル博士。博士は徐ろにリュックに飛び乗り、素材を取り出そうとする。勝手にイベントが進んでいく。
お、重い……。
取り出した素材を高々と上げた。光に透かして見るその姿は、真剣そのもだ。そして、
本物じゃ本物じゃと小躍りしだした。
…………。
……。
コホンと咳払いをして、「依頼ご苦労じゃ」と威厳を込めて言う。
――報酬は過度な期待は辞めておこう。
「アーティファクトは知ってるじゃろ」
「博士、一般の人に古代知識はありませんよ」
「ぐぬぅ。コモルルよ、世間一般に広めるのじゃ!」
「そんな資金ありませんよ……」
「アーティファクトと云うのはですね。古来からこの地を治める古代人が作ったとされる伝説の装備。それを古文書より禁秘とされた作成を紐解いてたのが――」
「なにを隠そう、こちらにおわすソルル博士なのです!」
両手を腰に当てドヤ顔の前の副将軍。
「うむ、問題はじゃ。素材がその時代にいるモンスターからしか入手不可能だったのじゃ。そこでじゃ、この世界は1枚ではない――複数ある世界が幾重にも連なっているのは知っているじゃろ?」
「つまりは博士は無いなら、有る世界に行けばいいと考えたのです!」
「ワシって天才」
「ただ、行っても帰ってこれないのでは意味がない――そこであちらのモンスターを誘き寄せようと考えに至ったのです!」
「ワシって天才」
「なにかと古代という単語だけで忌避されがちなので、ああいう依頼内容になりましたことをお詫びします。不快に思われ無礼だと承知していますが。できれば是非、素材をこちらに譲って頂きたいのです」
だから、あんな罠クエみたいになったのか。
「タダではないぞ! 報酬は作成されたアーティファクトじゃ!」
私の脳内にはコメディ調の音楽が鳴り響いているんだが――名前負けしている伝説防具。
イヤな予感しかしない!
「そうじゃ、トロン。トロンはどこじゃ?」
「あるじー」とこれまた、ちっちゃいのが登場してきた。
「これ、トロン。お客様の御前じゃ。語尾を伸ばすんじゃない。ワシが馬鹿にされるんじゃぞ」
あるじーと悄気げるトロン。
ソルル博士は、寸法測る紐を持ってきてくれんかとトロンに伝えると、でと一拍置き、こちらを見据えて――
「この古より伝わるアーティファクトを受け取る者は誰じゃな?」
とソルル博士は毛皮を掲げて言い放った。
PT全員が無感情で私を指したのも言うまでもない。




