ヤンキーですよ?
トリガーアイテムである噂のピンクの結晶の検証のため、一路、氷雪地帯にある《氷結都市ペイン》にやってきた私たち。
目的は、私の初期装備をなんとかする!
半分冗談、半分本気です……、ハイ。一応の目的は、Cランクへ上がること。ピンクの結晶はたぶん、Cランク昇級試験に必要なアイテムらしく私たちはまだDランクなので検証不可な状態だったのだ。なので、少し≪ハウバッド遺跡≫の道中より逸れるが、氷結都市へとやってきた次第なのですよ。
なんで、そんな遠くのギルドまでやってきたのかは説明しなくてもいいよね……。そ、それにこの氷結都市ギルドには初回特典として無料で毛皮のコートがもらえるのだ。まあ、防御力やらステアップにはまったく関係ない、単に防寒としての装備だけどね。これで私の目的は果たしたのです。これ、なかなかモフモフしていて気持ちがいい。これでいいんじゃない? と小声で言ったのに、案の定、杖で小突かれましたよっと。ここのギルドにあるクエストを消化、ギルドポイントを集めて昇級する、その報酬金で新装備を買い、そのまま万全な形で遺跡へという流れになったのです。
問題は……。
掲示板にはCランククエストだらけ。そういえば、この氷雪地帯は苦境設定で、本土の北部最果ての地だったな。やっぱり依頼もCランク以上の大物クエが多い。ドラゴン退治とかあるんですけど! ドラゴンってイイ響き。わくわくするよね。
お、 Dランクが一枚だけ貼ってある。
なになに……。このお香をある場所で焚いてくれ。報酬金――、
100万ギル!
Dランクの平均報酬は20~30万ギル程度。比べるまでもなく、この価格は破格!
私はすぐさま引っ剥がして、ハハー、ミワサマと美和にお辞儀深く献上した。苦しゅうないと美和がクエスト内容を確認すると、意外なことに浮かない表情をした。
キラが覗き込み、「お、罠クエってここだったんだ」
え? なに?
「うーん、アサヒはクエストスレまで目を通してないよね」
イエス、マイロード。
「このクエストは前々スレあたりで大荒れしたクエストなのよ」
「香を焚くだけで100万ギルという欲にまみれたソロPCが、ボコボコにされた動画が上がってたやつね」と付け加えるキラ。
え?
「焚いた瞬間、オオカミ系のモンスターがPOPするのよ」
まあ、一匹だけなら……。
「それも眷属4匹つれた――計5匹が即POPさ」
あ、そりゃボコボコにされるわね……。
「それにこのクエスト自体が滅多に依頼にでないのよね。この最果ての地という条件も相まって、未だにクエストクリア者はいない」
「でも、今回パーティ戦だから勝てるよね?」
「動画見てないからアサヒは分からないだろうけど、敵の移動速度が恐ろしく速い。今の洋平なら防御しきれずにすぐに溶けるわ」
カチンと来たらしい洋平が、「やってみないとわからんだろッ」と息巻いたが、おれの問題は今ヘイト関係で、防御には自身あるんだよ、と最終声が小さくなった。
ヘイト維持はすごく気にしているようだ。てか最初の勢いはどうした。まぁ、吠えるところが負け犬っぽく洋平らしいが。
「そのヘイトだけど、同ランクかそれ以上の――しかも、5匹のヘイト管理が器用にできるわけ?」
「で、で、で――」
洋平は言葉に詰まる。
できないのかよ……。
「まあ、ここにきてこのクエストがあるのは偶然と云うより、むしろ必然って感じがするね。どっちにしろ、Dランクはこれだけだし、やるしかないのかもね」と、洋平に比べて達観したキラ。
美和はため息をつき、そうなのよねと頷いた。
死に戻りしてもコート装備あるから、大丈夫。王国ギルドでランクアップ目指しても――
いや、毛皮のほうが目立つだろ……。
くっ、負け犬に突っ込まれるとはなんたる不覚!
そして、私たちは《イルラン平原》へと向かっている――。
氷雪地帯から離れたエリア。そのため、大地は雪から草に霜が積もる程度へと変わっていた。それでも吐く息はまだ白かった。馬に騎乗しながらの移動中、
スピード系のモンスターか……。うーん、アレ試してみるか?
「アサヒ、ちょっと止まって」
私は手綱を引くと、ヒヒンと大げさに前足を高く蹴り上げ馬が止まる。
北西100mほどに8mもある岩亀がいた。
レアモンスター?
「アダマントータス。防御特化型のモンスターです。カニ族は被ダメージカットがあり、魔法耐性がないのが特徴ですが、カメ族はVITが高く、そして魔法にも耐性があるのが特徴です。ただ、STRがVITを超えているならそれほど固くない、そして攻撃間隔も遅いモンスターです。Dランク相当のアダマントータスでは、かなりSTRを上げないといけないと思われます。ちなみに通常モンスターです」
あかねちゃんの記憶力がすごい。って、レアじゃないのか。 なぜ、ミワが呼び止めたんだろう?
トータスに奥に向かい合っているPCがいた。戦闘中のようだ。
あの装備――黒い鎧、ホーバージョンだっけ? 防御力を保ちながらステSTRもあがる装備で一部の職に人気ある。いや、人気あるんだから、どこでも見かけるくらいは。いやでも、あの身長の高さはどこかで見たような……。
あ、≪砂漠都市ジゼル≫にいたヤンキー! 黒いチェラータ被っているが、間違いないッ!
「あれ、絶対防御の人ですか?」と、キラの質問にたぶんねと答える美和。
ほほう、ヤンキー界隈でも結構有名人みたいだ。これは早く目的地に急いだほうが……。
「先日のビシージでTOP2になったソロプレイヤーよ」
そうなの? とあかねに向くも、ごめんなさい。最新情報まではさすがに網羅してないのと謝られた。いや、こっちがごめん……。
「動画スレあるから、落ちた時に見ておくといいわ。大剣でオーガキングの攻撃を相殺してた化物よ」
そういえば、私のツヴァイも物色してたな。って、武器持ってなくない?
「バックラー型のグローブ?」と丁度私の疑問の答えを口にするキラ。
「TOP3までは報酬に装備があったから、もしかするとユニーク武器かもしれないわね」
ヤンキーはトータスの攻撃に拳を合わせて、綺麗にパーリングしている。喧嘩で馴れているのか、かなり堂に入っているぞ。恐るべしヤンキー。
トータスの突進、パンプスにも左右のコンビで相殺。
「なるほど、技の出始めを相殺すると効果も出ないのか。これは規格外の強さだね」と、キラは感心し、「これは決定じゃないかな?」
「そうね」
なにやら、リーダー不在で話が進行しているようだが……。
トータスがポリゴンに帰えると、美和は私たちより前にでて、「ねぇ、よかったらわたしたちのパーティに入らない?」と誘い文句。
えええええー。私はあまりの予想外で声が出てしまい慌てて口を塞いだ。
「ちょ、ちょっと、タンクは2枚いらないでしょ?」と私は小声で洋平を指す。洋平はなぜか胸を張った。威張るんじゃない。
「姉御、それは違うんだ――」とキラがやんわり諭す。「タンクはタンクでも、MTではなくSTとして仲間に加わって欲しいんだ」
「サブタンクは攻撃を主としながら、メインタンクに集まるタゲを分散する役割のことです」
「これから敵の数も増えると想定してサブタンクがほしいと思ってたのよ」
それなら、ヒラをもう1枚増やしてもいけるでしょ。いや、MTSTヒラ1枚構成は高火力を基とした玄人好み――と思考したところで私は諦めた。つまり、ミワ好みの構成なのだ。これは折れないよね。きっと仲間にするわ。
「それに今の依頼にピッタリの構成よ」
一筋の小さい光明がみえた。これだ!
「そ、そう、それよ。私たちが行くのはクエストよ。報酬金は分けれるけど、ギルドポイントは分けれないのよ?」
ミワの心にに暗雲が立ち込めているのが目に見えるぞ。PTに入る側にデメリットがあるなら入る道理もない。これはいけるんじゃない? と思っていたことが私にもありました。
「ポイント? ああ、Cランク昇級クエで止まっているからな。ポイントは上限いってるから別にいらねぇな」
おう、ミワの心が晴れていくぞ。くそッ。
「いや、だからと言ってパーティに入るとは言ってねぇがな」
美和の顔に影がまた差し込む。ククク、 本人の意思確認があった。そうだ、本人が嫌がれば、他人が一生懸命勧誘してもダメなものはダメなんだ。フフフ、忘れてた。お前はソロプレイヤーだ。孤高のソロヤンキーファイターだ!
「――その声、ソウちゃんだよね?」
「ソウちゃん? たしかTOP2のプレイヤー名は山崎宗二だったね」とキラが思い出したように呟く。
「わーやっぱり、ソウちゃんだ」とあかねは微笑み、また背が伸びたんじゃないと少し間が抜けた空気を出す。
ソウちゃんと呼ばれる大男は、チェラータを深く被りなおすとクルりと背を向けた。
美和の目が輝いていたのは言うまでもない。