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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
17/50

遊撃士

「ねね、ジャイアントイーターPOPしているか、見に行かない?」


「アサヒ、まだPOP条件分かってないのに行ってもムダよ」


 ――うぅ。


「今度の報酬で防具そろえるから。ねぇ、お願い!」と粘る。


 ジト目の美和。


「そろえるからッ!」


 美和は二人を見やる。

「オレは別にいいけど」

「わ、わたしもとくに……」

 美和はため息ついて、「いたらラッキーと思ってよね」と騎乗しているアルビノの腹を蹴り、一路オルセアに向かう。


 さすが、ツンデ――デレてないな……。ツンロリ? あれ?



「たしか、このへん」

 私は手のひらをオデコに水平にあてて、あたりを眺める。


 お! 遠くを指差す。


 美和は少し――いや、大分背伸びをして、「何かいるわね」と言った。


 私たちが見やる一帯は、少し吹雪いており視界が悪い。


 やがて、砂が舞っている場所までたどり着いた。まだまだ視界は良好ではないが、


 あ、あれは――


「アンデットプリズンね」


 一昨日の明朝ちかくにいたRMだ。あの時は、ちょっと怯えたけど、今なら戦える!

 私は一同を見渡す。

「まだ倒された報告もないわ。DPSメーターの解析では、強力なリカバリーが掛かっているみたいよ」


「火力なら――」私は美和を見る。


「アサヒの歌次第よ」と美和はこちらを一瞥、「ノっている時とノってない時のステアップの差がヒドイ」


 え? そうなの?


「ふつう、ステアップは一定よ」


 ギ、ギフトのせいかな……。

 ま、まあ。どうせ、死に戻りする予定だったし、


「やりますか!」


「あの――」あかねが恐る恐る、「先客がいるみたいですが……」と、RMより手前を指差す。

 注視すると、たしかにPCが一人突っ立っていた。

「あのPCが死んだら、順番的に、わたしたちね」と美和は冷静。


 まぁ、ソロで勝てるわけないもんね。


 お――っと洋平が「うごいたゾッ」と。


 少年がアンデットプリズンに一直線に駆け走る。


 アンデットは右拳での攻撃。それを躱しながら、その腕をなんなく斬り返す。

 少年は、自分の得物を睨めつけた。


 VRMMO中にはログは一切表示されない。もしログ関係があったとしても、まして戦闘中なら確認しているヒマなどない。確認作業などは一旦ログアウトして、自室にあるパソコンからアプリで検索可能らしい。なので、VRMMO中の確認は――自分の攻撃が通じる、通じないかは感触によって判断される。

 例えで言えば、


 豆腐を斬った感触――攻撃100%以上通っている。


 粘土を斬った感触――攻撃50%以下カット。


 と言った感じだ。あくまで私的意見だが。


 少年は躱し続けながらも攻撃を挟んでいく。ただそれでも、少年の顔は晴れることはない。


 ――攻撃が効いてない?


「人ってあんなに躱せるものなんですね」とあかねは妙に感心している。アンデットの動作が遅いといっても、ああも攻撃しながら避けつづけるのは、スゴイの一言だ。

 たしかに、感心せざるを得ないね。


「あのPC、どっかで見たことあると思えば、動画で見たんだわ。たしかスレで――絶対回避アブソルートリーアボイドと呼ばれていたわ」


「な、なに? その中二病感満載の――あぶそ、あぶそる……ぼいど?」


「絶対回避ですね」とあかねは無いメガネをクイッと上げる仕草。

「彼に関しての動画は結構あがっているわ。これよりも速い攻撃を躱せていたのよ。まあ、攻撃が通らなくて最終的には逃げてたけどね」と美和は両手を広げてた。


 いつしか砂嵐も止んでいた。


 と、


 キィイイーン


 協和音が聞こえた。

 少年は武器を見つめる。その顔は不敵な笑みを浮かべていた。


 攻撃が――効いた?


 アンデットの攻撃を空中で躱した瞬間に、連続した攻撃を発する。

 共鳴音が続く。

「すげーなアイツ。避けながら攻撃ならなんとかできそうだが、一つの場所を狙うってのは――オレにはムリだわ」


 みぞおちの丁度上にあるピンク色した結晶コア。攻撃する側は、接近すればするほど危険なエリアのはずだ。洋平の避けれるっていうのは、ある程度の距離をとった時の状況でいっている。あんな懐にいる危険な状況が続いていることではないはずだ。


 なおも少年の攻撃は正確にコアを攻撃し続ける。時には腰を軸に脚を反動させて、空中で体勢を変えつつ攻撃したり、まるでまとわり付く油のように攻撃を潤滑していく。攻撃を加速していくにつれ、結晶にヒビ入り始めた。


 そして――。

 コアが割れた。



 ――クリティカルが発生しました――


 システムメッセ?


「ク、クリティカル? あったのね……。ログ解析にはクリティカルは存在しなかったし、FPSのヘッドショットみたいなテクニカルな行為だとPCスキルに差ができるから、運営の仕様サービス――クリティカル自体がないものとばかり思っていたわ……」

「でも、クリティカルはあった――わたしたちの思っていたのとは違う仕様、ギミックを破る行為の総称として――クリティカルシステムと言っていのかしら」と、美和は興奮したようすで一気に捲し上げた。


 少年の攻撃は止まらない

「各地に生息しているレアモンスターにはギミックがある? もし――」

 アンデットの悲鳴。


「クリティカルを起こせば、倒せない敵は――いない?」


 脚を斬り払い、アンデットはいとも簡単に崩れ落ちた。それでも少年は攻撃の芽を止まない。


 うわ、メッタ打ちだわ。


 アンデットは片膝を付き起き上がると、上体を逸らし――重低音の腹から響く咆哮を上げた。アンデットに巻かれた包帯と囚人服は、自らの血で赤黒く変様している。


「第2フェーズへ移行した?」


 アンデットは大きく振りかぶり、


 横払い。


 はやい!


 急にリズムが狂ったのか、さっきまで余裕で避けていた少年に焦りの色が出ていた。だがそれでも、少年は前転で攻撃を避け、そのまま攻撃に転じようとした。が、アンデットはそれを予測してたのか、懐に潜った少年に振り上げる動作をすでにしている。


 少年は躱せないとみると、そのアッパーに足蹴りを合わせて、


 後ろへ大きく距離を取った。


 それは一旦仕切り直しのように見えたが――


 少年は悶絶する形で地に落ちたのだった。


「浅はかね。あんな躱しかって、漫画かアニメくらいなもんじゃない。よく分からないけど、リアルでもできるとしてもよ、ここはゲームの世界なのよ! 触れたと云うことは攻撃判定ができるってこと。頭にあたろうが、心臓を打ち抜かれようが、小指がかすろうが、攻撃力は一緒なの」


 でも、まだ少年はポリゴン化して(死んで)いない。


「幸か不幸か、蹴りのD値とアンデットのD値がすこし相殺されたみたいね」


 けど、もうほとんどHPはゼロに近い――


 アンデットは打ち下ろし攻撃の動作に入っている。私は――


「あかねッ!」と叫んでいた。が、すでにあかねは少年にヒールをかけていた。辻ヒールという行為だ。

 フィールド上にいるPCに対して、他PCによるヒール支援のことだ。こう聞くと良いことだと思えるかも知れないが状況次第なのだ。辻ヒールは他PCに嫌がれることもある。その最たるものがPL(パワーレベリング)行為だ。そして、死に戻りをするPCに対してなどは、迷惑甚だしいことこの上ない。だから、辻ケアルとするとき躊躇することだってあるはずだ。

 私のあかねに対する評価は高い。まず視野が広いこと。見た情報から素早く察してヒールを行う。これは、HP(ヒットポイント)が見えない弊害からきている。ヒールがすぐに飛んでくる。まあ、だから美和にはオーバーヒールだと言われているが……。ただ、慎重派に越したことはない。まして、このゲームは死ねば復活の薬や蘇生魔法すらないのだから――。

 そしてあかねが、少年にしたヒールは絶妙だった。


 少年は振り下ろしを転がるように避け、今度こそ敵との距離を十分に取った。動けるようになったのが不思議に思ったのか、周りを伺う少年。


 少年はこちらに気づき、合図を送る。

 あっさりとしたものだった。


 それは――救援要請だったのだから。





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