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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
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私の武器はどっち?

 ――120万ギル!


 なにがって、金鉱の買取価格だよッ!


 一人30万ギルの分配。あとその他もろもろの報酬合わせれば、約40万ギルの稼ぎだ。


 もうウッハウハだ!


 あのRMで金策は結構いいかもしれない。まだ取り合いにもなっていないし、現状独占できる!


 邪なことを考えていると、


「ねね、少し相談があるんだけど……」と美和が真剣な眼差し。


 ――お金? 貸さないよッ!


 杖で小突かれた。


「二匹のレアモンスターをRMスレに報告しようと思うの。ホラ、情報は共有したほうがいいでしょ?」

 美和はこういう攻略にたいしては真摯だった。


「そ、そうよね。自分たちだけで甘い蜜を吸うのもね……」


 さっきまでの自分を戒める。


 私が了承すると、洋平とあかねも同意した。まぁ、二人はなんのことやら分かってないと思うが。


「よかったわ。じゃ、RM報告スレに動画も一緒にアップしておくわ」


 ぇ! 動画も貼るの?


 あの、ワタクシ盛大に歌っているんですが……


 ヤダ、恥ずかしい……


 見えない汗が流れている感覚に陥る。


「ホ、ホント。ヨカッタワ」



 私たちは市場調査を兼ねた、観光に勤しむこととなった。この地に最初、降り立った時は――私の資金は0に近かったからね。アルケノが痛かった……。でも、今は小金持ちだ。掘り出し物でも買おうかな。ムフフ。

 お金に余裕があると気分も違うね!

 砂漠都市ジゼルも違って見える。最初はただただ暑いしか感想はなった……。

 町並みをみると、王国とおなじく基底部は石造りだ。だが、その上の日干し煉瓦の練度が悪いのか歪に整形されている。積み重ねられた建物は、高ければ高いほど歪んでいる。

 でもそれが――全体を通してすごくいい雰囲気になっている。

 建物のは、窓の上に半円をした窓が付いている。窓の周りには白い漆喰で装飾されていて、日差しの強い光に照らせる都市は、白いキャンパスのようだ。町並み自体が迷路のように入り組んでおり、窓から向かい窓へロープが張り巡らされ上には、色とりどりのターバンや絨毯、民族衣装などが乾かされていてた。


 運営のこだわりがハンパない!


 私たちは細い石道を歩く。少し開けた路にでると露店がズラっと並んでいる。飲食店が多いので飲食街という場所という位置づけなのかな。どこの店も香ばしい匂いが垂れ流れている。


 お、なんだこのお好み焼きみたいなもの。か、辛い、でも美味い!


「洋平、今度あれ食べようよ」と手を引張て向かいの露店へ行く。

 こ、これ香辛料やばい! でも、辛うまっ! 


「う、喉が……」


 洋平がドリンクを手渡す。気がきくじゃないか。


「ありがとう、洋平」

 てか、これすごく飲みやすい!

 ヨーグルト風味のドリンク。暑かったので喉越しサッパリ、一気飲みした。


 私と洋平は食べ歩きを楽しんでいた。

「アンタたち、ホントよく食べるわね」と、美和は食べ物に興味がないようだ。


 だから、成長して――


 やめて、お腹をグリグリしないで……。


 あかねは真面目に市場調査を行っていた。


 お昼頃になったため、みんなで食事を取ることとなった。

 そのへんの料理店へは手短に入る。店内はカフェ風でいまどきの感じだ。


「やっぱ、インドといえばカレーだよね」


「厳密にはインドではないけどね」と美和が冷静に突っ込む。

「ここは砂漠都市ジゼル。人口約10万人が住む。東方地方最大の都市で――」と解説魔のあかねが語る。

 洋平は、りんごとハチミツの入ったカレーがないかな、と。


 ――せっかくだから、本格的なやつ頼もうよ……。


「わたしは野菜9種類のナブラタンカレーをおねがいします」


 あかねちゃん、本格過ぎてわからないよ……。


 甘口はあるのかしらと小声で言う、お子ちゃまの美和。


 私は無難に店のおすすめタンドリーチキンを注文した。


「うまっ」


「アサヒって、美味いしか言えないの?」


 ムカっ!


「じゃあ、美和も感想いってみてよ!」


「あかね――」


「このナブラタン、本場の味はすごく辛いですが、ここのは野菜の甘味を丁寧に引き出し、最後のクリームで日本人好みの甘口になっています。すごくクセになる味、美味しい」

 あかねは頬っぺたが落ちそうな演技をする。


「ぐぅ」

 上手い感想に、ぐうの音も出ない。


「あら、ぐうは出るのね」と不敵に笑う美和。


 てか、ミワ感想言ってないよね?




 やってまいりました、本日のメイン武器屋です。

 私は今、一人。

 美和は防具を揃えるからと、あかねと一緒に防具の方にいる。なんでも現状の杖でも、結構いい数値を出せるからとか。ヒラは生存率アップのため防具から揃えていくのが、ここのセオリーらしい。


 私は心ときめき見つめている。


 震える手を抑えながら、それを手にしようとした時――、


 不意によろめいた。


「な、なによッ」と睨みつけ……、その先には190cmはあろうか大男が私がほしかった武器を手に取っていた。筋肉質の大男は、黒を基調とした革鎧、その皮の継接ぎにはこれまた目を引くオレンジ色。全身真っ黒なのに、オレンジで型どられているその姿は異様に見えた。私は、そっと目を伏せた。


 ヤバい、ヤンキーだ……。


 眼を逸らしているが、超にらまれているのが分かるんですケド。


「あ、アサヒ!」


 悪魔の声、いや天使の声、美和様!


「ちょっと来て!」


 私はハイハイと、それはもう仕方ないなぁ感を出しながら、その場を後にした。


 私はいそいそと防具売り場へ向かうと、


 うぉ、全身赤い……。


 真っ赤っかの美和がそこにはいた。


「どう、これ?」

「朱の衣と呼ばれる、バーミリオンクローク一式です。性能は、一式トータルコーデ装備でボーナスINT+12です」と、淡い水色の法衣を纏ったあかねが言う。「ちなみに、わたしが着ているのはジゼル装束という――」


 あかねちゃん、マジ女神!


 美和は返答を待っているのが分かる。


 どうって言われても……。

 私のイメージでは、赤ずきんちゃんにしか見えないんだが。


 私が黙っていると、美和が杖を頬に押し付けてくる。

 なんで? と抗議すると、なんとなくと言われた。


 盾売り場で、悩んでいる洋平を発見する。私が隣に行くと気づいたのか、「うーん、どっちにするか迷っている」と言ってきた。

 攻撃力を上げるがダメカット(ダメージカット)が低いスパイクバックラーか、防御力は低いが魔法耐性があるフェアリーシールドか。

 私はそっと奥にあったスクトゥムを薦める。

「いや、それSTRが足りないから装備できないって」


「いいじゃん、レベルあがったらSTRに振ったら」


「大局的観点から見なさい。今後のことを見据えてフェアリーで」と美和が断定。

 洋平も、だよなとフェアリーシールドを手に取った。


 むぅ、不服はあるが、否定できない。



 私たち一行は、ポカンとある物を見ていた。


「これって――」


「ギ、ギターよね?」

「正確にはエレキギターですね」

「だな」


 ――なんで武器屋に楽器があるの?


 美和は拳を手のひらで叩いた。

「吟遊詩人専用じゃないの?」

 あかねは立体画面を見ながら、「範囲が通常の3倍になるみたいですね」と言う。


 いやいや、これで演奏してたら攻撃できないじゃない。


 ちなみに、値段は……、


 25万ギル! 高ッ!


 一応、試し弾きをやってみる。

 うん、ちゃんとエレキの音がでる。アンプなしで奏でられるっていいな。これ、チューニングも必要なさそうだわ。リアルならほしい。

 てか、これ弾けないプレイヤはどうするの?


 洋平がどこからともなく拡声器を持ってきた。


 ……。


 私はどこの革命家だよ。


 美和は言ってたスレ報告に一旦ログアウトする意向を示し、晩飯は要らないと告げ、宿屋に戻っていった。あかねはお花を摘みに、と宿屋でログアウトしに、洋平は雑魚狩りいってくると新しい武器を引っ提げ、意気揚々と出かけて行った。各自、自由行動となったのだ。

 そして、

 私はポツンと武器屋に取り残された。



翌朝――。


私とあかねは、宿屋前にて待っていた。

いつものようにログアウト後の美和は遅刻気味だ。いつもなら、怒っているだろうが、私は爽やかな朝を迎えていた。チラチラとあかねがこちらを見てくる。


「ごめん、待った?」と悪びれる様子もなく美和が出てくる。

私が笑顔だったので、イヤに機嫌良さそうねと呟いた。「あ、それとアサヒ。時間あるときでいいから、ログアウトしてスレ覗いてみて。驚くわよ!」と、不敵な笑みを浮かべる。


美和はなにかに気づいたのか、私の背後を覗こうとしてくる。私は、ササッ、ササッと平行に移動する。

と、背後から洋平の呼び声がしたので、ハッ振り返る。


まさか――このアホ(ようへい)朝まで雑魚狩りしたのか?


あっ、


美和が私の背負っているモノを見て、顔をヒクつかせている。


「あさひ。それは、なーに?」とゆっくり聞いてくる。


「え、えーと」と私が言いよどんでいると、


「ツヴァイハンダー。攻撃力58。両手剣の系統の一つで……」

あかねは親切に解説してくれる。

「アンタ、それ。装備できないでしょ!」


「だ、だいじょうぶ。STR歌えば――いける!」


「いけるじゃないッ!」

「ちなみに40万ギルです」

補足してくれる、やさしいあかねちゃん。


「アサヒ、今の自分の装備を見て、どう思う?」


「え、このカッコイイ両手剣で素早く敵を――コヅカナイデクダサイ」


「今の装備、武器以外は初期装備じゃない!」


だって、支援だと防具関係でいいのないし……。それに、


「支援職は優遇職だと思っているでしょ」と、私が思っていることを言う美和。

「もし仮に、アサヒみたいなのが、PT(パーティ)に入ってきたら、どう思う?」


「そりゃ、コイツ、寄生かよ――と」


ハッ!


「そう、アサヒは寄生している状態――つまりこのPTのガンなのよ」

美和はくわっと睨みをきかせ、「ガンなのよ!」と指を突きつけた。


ガーン。


私は地面にうな垂れ、「今後、武器を買うことは自粛します」と誓ったのであった……。




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