私の武器はどっち?
――120万ギル!
なにがって、金鉱の買取価格だよッ!
一人30万ギルの分配。あとその他もろもろの報酬合わせれば、約40万ギルの稼ぎだ。
もうウッハウハだ!
あのRMで金策は結構いいかもしれない。まだ取り合いにもなっていないし、現状独占できる!
邪なことを考えていると、
「ねね、少し相談があるんだけど……」と美和が真剣な眼差し。
――お金? 貸さないよッ!
杖で小突かれた。
「二匹のレアモンスターをRMスレに報告しようと思うの。ホラ、情報は共有したほうがいいでしょ?」
美和はこういう攻略にたいしては真摯だった。
「そ、そうよね。自分たちだけで甘い蜜を吸うのもね……」
さっきまでの自分を戒める。
私が了承すると、洋平とあかねも同意した。まぁ、二人はなんのことやら分かってないと思うが。
「よかったわ。じゃ、RM報告スレに動画も一緒にアップしておくわ」
ぇ! 動画も貼るの?
あの、ワタクシ盛大に歌っているんですが……
ヤダ、恥ずかしい……
見えない汗が流れている感覚に陥る。
「ホ、ホント。ヨカッタワ」
私たちは市場調査を兼ねた、観光に勤しむこととなった。この地に最初、降り立った時は――私の資金は0に近かったからね。アルケノが痛かった……。でも、今は小金持ちだ。掘り出し物でも買おうかな。ムフフ。
お金に余裕があると気分も違うね!
砂漠都市ジゼルも違って見える。最初はただただ暑いしか感想はなった……。
町並みをみると、王国とおなじく基底部は石造りだ。だが、その上の日干し煉瓦の練度が悪いのか歪に整形されている。積み重ねられた建物は、高ければ高いほど歪んでいる。
でもそれが――全体を通してすごくいい雰囲気になっている。
建物のは、窓の上に半円をした窓が付いている。窓の周りには白い漆喰で装飾されていて、日差しの強い光に照らせる都市は、白いキャンパスのようだ。町並み自体が迷路のように入り組んでおり、窓から向かい窓へロープが張り巡らされ上には、色とりどりのターバンや絨毯、民族衣装などが乾かされていてた。
運営のこだわりがハンパない!
私たちは細い石道を歩く。少し開けた路にでると露店がズラっと並んでいる。飲食店が多いので飲食街という場所という位置づけなのかな。どこの店も香ばしい匂いが垂れ流れている。
お、なんだこのお好み焼きみたいなもの。か、辛い、でも美味い!
「洋平、今度あれ食べようよ」と手を引張て向かいの露店へ行く。
こ、これ香辛料やばい! でも、辛うまっ!
「う、喉が……」
洋平がドリンクを手渡す。気がきくじゃないか。
「ありがとう、洋平」
てか、これすごく飲みやすい!
ヨーグルト風味のドリンク。暑かったので喉越しサッパリ、一気飲みした。
私と洋平は食べ歩きを楽しんでいた。
「アンタたち、ホントよく食べるわね」と、美和は食べ物に興味がないようだ。
だから、成長して――
やめて、お腹をグリグリしないで……。
あかねは真面目に市場調査を行っていた。
お昼頃になったため、みんなで食事を取ることとなった。
そのへんの料理店へは手短に入る。店内はカフェ風でいまどきの感じだ。
「やっぱ、インドといえばカレーだよね」
「厳密にはインドではないけどね」と美和が冷静に突っ込む。
「ここは砂漠都市ジゼル。人口約10万人が住む。東方地方最大の都市で――」と解説魔のあかねが語る。
洋平は、りんごとハチミツの入ったカレーがないかな、と。
――せっかくだから、本格的なやつ頼もうよ……。
「わたしは野菜9種類のナブラタンカレーをおねがいします」
あかねちゃん、本格過ぎてわからないよ……。
甘口はあるのかしらと小声で言う、お子ちゃまの美和。
私は無難に店のおすすめタンドリーチキンを注文した。
「うまっ」
「アサヒって、美味いしか言えないの?」
ムカっ!
「じゃあ、美和も感想いってみてよ!」
「あかね――」
「このナブラタン、本場の味はすごく辛いですが、ここのは野菜の甘味を丁寧に引き出し、最後のクリームで日本人好みの甘口になっています。すごくクセになる味、美味しい」
あかねは頬っぺたが落ちそうな演技をする。
「ぐぅ」
上手い感想に、ぐうの音も出ない。
「あら、ぐうは出るのね」と不敵に笑う美和。
てか、ミワ感想言ってないよね?
やってまいりました、本日のメイン武器屋です。
私は今、一人。
美和は防具を揃えるからと、あかねと一緒に防具の方にいる。なんでも現状の杖でも、結構いい数値を出せるからとか。ヒラは生存率アップのため防具から揃えていくのが、ここのセオリーらしい。
私は心ときめき見つめている。
震える手を抑えながら、それを手にしようとした時――、
不意によろめいた。
「な、なによッ」と睨みつけ……、その先には190cmはあろうか大男が私がほしかった武器を手に取っていた。筋肉質の大男は、黒を基調とした革鎧、その皮の継接ぎにはこれまた目を引くオレンジ色。全身真っ黒なのに、オレンジで型どられているその姿は異様に見えた。私は、そっと目を伏せた。
ヤバい、ヤンキーだ……。
眼を逸らしているが、超にらまれているのが分かるんですケド。
「あ、アサヒ!」
悪魔の声、いや天使の声、美和様!
「ちょっと来て!」
私はハイハイと、それはもう仕方ないなぁ感を出しながら、その場を後にした。
私はいそいそと防具売り場へ向かうと、
うぉ、全身赤い……。
真っ赤っかの美和がそこにはいた。
「どう、これ?」
「朱の衣と呼ばれる、バーミリオンクローク一式です。性能は、一式トータルコーデ装備でボーナスINT+12です」と、淡い水色の法衣を纏ったあかねが言う。「ちなみに、わたしが着ているのはジゼル装束という――」
あかねちゃん、マジ女神!
美和は返答を待っているのが分かる。
どうって言われても……。
私のイメージでは、赤ずきんちゃんにしか見えないんだが。
私が黙っていると、美和が杖を頬に押し付けてくる。
なんで? と抗議すると、なんとなくと言われた。
盾売り場で、悩んでいる洋平を発見する。私が隣に行くと気づいたのか、「うーん、どっちにするか迷っている」と言ってきた。
攻撃力を上げるがダメカットが低いスパイクバックラーか、防御力は低いが魔法耐性があるフェアリーシールドか。
私はそっと奥にあったスクトゥムを薦める。
「いや、それSTRが足りないから装備できないって」
「いいじゃん、レベルあがったらSTRに振ったら」
「大局的観点から見なさい。今後のことを見据えてフェアリーで」と美和が断定。
洋平も、だよなとフェアリーシールドを手に取った。
むぅ、不服はあるが、否定できない。
私たち一行は、ポカンとある物を見ていた。
「これって――」
「ギ、ギターよね?」
「正確にはエレキギターですね」
「だな」
――なんで武器屋に楽器があるの?
美和は拳を手のひらで叩いた。
「吟遊詩人専用じゃないの?」
あかねは立体画面を見ながら、「範囲が通常の3倍になるみたいですね」と言う。
いやいや、これで演奏してたら攻撃できないじゃない。
ちなみに、値段は……、
25万ギル! 高ッ!
一応、試し弾きをやってみる。
うん、ちゃんとエレキの音がでる。アンプなしで奏でられるっていいな。これ、チューニングも必要なさそうだわ。リアルならほしい。
てか、これ弾けないプレイヤはどうするの?
洋平がどこからともなく拡声器を持ってきた。
……。
私はどこの革命家だよ。
美和は言ってたスレ報告に一旦ログアウトする意向を示し、晩飯は要らないと告げ、宿屋に戻っていった。あかねはお花を摘みに、と宿屋でログアウトしに、洋平は雑魚狩りいってくると新しい武器を引っ提げ、意気揚々と出かけて行った。各自、自由行動となったのだ。
そして、
私はポツンと武器屋に取り残された。
翌朝――。
私とあかねは、宿屋前にて待っていた。
いつものようにログアウト後の美和は遅刻気味だ。いつもなら、怒っているだろうが、私は爽やかな朝を迎えていた。チラチラとあかねがこちらを見てくる。
「ごめん、待った?」と悪びれる様子もなく美和が出てくる。
私が笑顔だったので、イヤに機嫌良さそうねと呟いた。「あ、それとアサヒ。時間あるときでいいから、ログアウトしてスレ覗いてみて。驚くわよ!」と、不敵な笑みを浮かべる。
美和はなにかに気づいたのか、私の背後を覗こうとしてくる。私は、ササッ、ササッと平行に移動する。
と、背後から洋平の呼び声がしたので、ハッ振り返る。
まさか――このアホ朝まで雑魚狩りしたのか?
あっ、
美和が私の背負っているモノを見て、顔をヒクつかせている。
「あさひ。それは、なーに?」とゆっくり聞いてくる。
「え、えーと」と私が言いよどんでいると、
「ツヴァイハンダー。攻撃力58。両手剣の系統の一つで……」
あかねは親切に解説してくれる。
「アンタ、それ。装備できないでしょ!」
「だ、だいじょうぶ。STR歌えば――いける!」
「いけるじゃないッ!」
「ちなみに40万ギルです」
補足してくれる、やさしいあかねちゃん。
「アサヒ、今の自分の装備を見て、どう思う?」
「え、このカッコイイ両手剣で素早く敵を――コヅカナイデクダサイ」
「今の装備、武器以外は初期装備じゃない!」
だって、支援だと防具関係でいいのないし……。それに、
「支援職は優遇職だと思っているでしょ」と、私が思っていることを言う美和。
「もし仮に、アサヒみたいなのが、PTに入ってきたら、どう思う?」
「そりゃ、コイツ、寄生かよ――と」
ハッ!
「そう、アサヒは寄生している状態――つまりこのPTのガンなのよ」
美和はくわっと睨みをきかせ、「ガンなのよ!」と指を突きつけた。
ガーン。
私は地面にうな垂れ、「今後、武器を買うことは自粛します」と誓ったのであった……。