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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
14/50

レアモンスタ

 巨大な砂丘に囲まれた――オルセアは予想より遥かに大きな――湖だった。そのほとりには、多種の椰子が生い茂っていた。私はアルケノより飛び降り湖へ向かう。


 オアシス――、

 それはバカンス!


 日差し避けのフードを脱ぎ去り、いつしか駆け足になっていた。

 私は湖へ飛び込む。


「わ、冷たい!」


 思ったより、ひんやりとしていた。装備は外していない。一応、ここはフィールド。いついかなる時も敵が襲ってくるかもしれない。それに、このゲームでは、装備品は濡れたりしない。ただ、濡れたという感覚が身に纏う。だから、慣れてくると、


 あぁ、冷たくて気持ちイイ……。


 淡水魚が泳いでいるのが見えるほど、水は澄んで透き通っていた。


 釣り道具も持って来ればよかったなぁ。


 美和はすでに湖上プカプカと流されている。


 ぉ、おう、たくましいナ……。


 あかねと一緒に水を掛け合ったり楽しんだが、戦闘装備でやるコレジャナイ感が半端ない。雰囲気って大切よね。私はあらかじめ買っておいた水着を用意する。もちろん、あかねちゃんの分もだ! フリフリのカワイイやつだ。あかねは少し恥ずかし気に廻りを見渡す。

 大丈夫。辺りに人がいないのは確認済だ。洋平もふらふらと探索に出かけていた。

 洋平は、「ちょっと、その辺で冒険してくる」と、子供みたいなことを言ってたな。その黒歴史を動画に流してやろうか。ケケケ。

 着替えが終わり、キャッキャウフフ。あれやこれやの水辺イベントを一通りこなしていった。


 暑さも吹っ飛び、「さぁ、もうひと狩りしますか!」とあかねと上がったら、洋平が良い時に戻ってきた。

「まいった。あのカメ、アクティブリンクするのかよ。さすがに3匹はきつかった」

 3匹リンクに勝てるのか……。何気にタンクはソロでも強いな、持久戦だが。

 私なら、確実に負けるな。なんてったって攻撃力も防御力も回復もない。PT不可避!


 いいのか、コレで?


 美和は飽きたのか、すでに陸地へ上がっていた。

 あかね曰く、ここに生息するモンスターはリッパーという60cmほどの大きなカニで、かなりの鈍足らしい。と、美和が走っては振り返り、カニにファイア、走っては振り返り、カニにファイアと遊んでいる。

 私とあかねは座視している。しばらく見ていると、あかねが「今のいい感じでした」と評論する。たしかに、ソロ狩りの精度が高くなっている。地形を上手く利用しているのが分かる。

 美和はこのマラソンのことを――ドッグランと命名した。

 そういえば前に犬派なの? と聞くと、猫派に決まっているでしょと素っ気なく言われたな。


 なぜ、犬の単語を入れる……。


 私の疑問を余所に、美和はカニを苛めている。ドッグイーターが入ると、ほぼ静止している状態だ。そこに浦島太郎――もとい洋平が近づき、


 バッシュ! 


 3秒動きを封じる。


 鬼か!


 と、背後よりなにかが湧き出る音――湖から水泡が浮き上がっていた。


 なにかいる!


 私はあかねの腕を組み、その場から急いで立ち去る。


 直径2mはあるハサミが水面から覗かせる。砂漠都市ジゼルの証言では、大きなハサミをもつオルセアの守り神はリッパーの供物により度々姿を現せる、と言っていた。湖辺の雑魚カニ(リッパー)を倒してたから、抽選POPに間違いない。


 そう、シアーズエンペラーことRMが沸いたのだ。


 美和がファイアで釣る(pull)。本体が陸地へ上がり、姿を現した。岩の甲羅を背負った蟹だった。もうカニなのかカメなのか明瞭はっきりさせてほしい……。

 シアーズエンペラーは雑魚カニと同じくノロノロと浜辺を登ってきた。洋平が最適解にヘイトアビを回す。

 美和はそれを確認し、ファイア2を撃ち込む。いつも揺れないヘイトが、いとも簡単に美和へ移る。ダメージヘイトが優ったようだ。洋平もフルアビで一気にタゲを取り返そうとするも、見向きもされない。私も近寄り、攻撃するもダメージが通っている感覚がない。これは――、

 物理耐性特化型のRMのようだ。こういう敵は物理に強くて、魔法に弱い。魔法耐性がないモンスターなのだ。魔法なら100%、いやそれ以上のダメージを与えているかもしれない。

 再度のファイア2で、守り神シアーズエンペラーの敵視を一矢に受ける美和。

 こりゃ無理だわと匙を投げて、傍観する洋平。私も攻撃が効かないので、どうしようかと所在なげにしていると、あかねが「こっちこっち」と手を振っている。洋平も暇なのか、一緒にあかねの所へ行く。

 すると美和が、「そこから賢者のラ・フォリアお願い」と無碍むげに言う。よく見ると、ここはドッグラン周回コースのど真ん中であった。美和はすでにドッグラン戦法に移行していた。仕方なく、私とあかねは体育座りをして肩を並べて一緒に歌う。


 お、あかねちゃんのハモリいい感じ!


 オイ、洋平。オマエは歌うな。リズムが崩れる!


 美和がリキャスト中なのか、「そこ、緊張感ないよ」と注意してくる。


 えーっと、


 私たちを中心にマラソンをしている美和。


 シュールすぎる……。


 美和のRM前に倒してた雑魚カニがPOP。リンクする前に洋平がヘイトを取った。私は詠いながら、あかねはヒールしながら、順次湧いてくる雑魚を倒していく。


 30分ほど経ったであろうか。


「お、おわったわよ……」と美和が息を切らして声を掛ける。すでに粒子になったのか、RMの存在は消えていた。私たちも雑魚狩りが終わったところだった。美和がこちらに近づきながら、「アサヒ、途中で違う歌(STR系)詠ってたでしょ」と指摘してくる。


 だって、カニ堅いんだもん……。


 雑魚が再POPする前に、ドロップ確認だ。この瞬間が一番ワクワクする!

 まず、雑魚からはカニ肉10個、そして――

 RMからは指輪リングが1つのみドロップ。ハズレか?


 プロテクトリング:物理カットダメージー5%という高性能の装備だ。ただ、

 一番の功労賞――美和は「なんか、釈然としないわね」とまだ息が整っていなかった。


 物欲センサーでも働いたんじゃない?


 欲のない洋平は「リング(コレ)売って、山分けでもする?」と提案するも、却下。

 さすがに装備できる仲間(PT)がいるのに、売ってしまうという発想はあり得ない。PTの戦力を強化するのは自明の理。そうすることで、更に強いモンスターを攻略して装備が整っていくのだ。美和も本気で言ってる訳でない。

 ということで、洋平はありがたく指輪を貰い受けた。


「さすがにもうでないよな?」


 オイオイ――。



 バチバチと焚き火が爆ぜる音を聴きながら、私と洋平は談話している。

 私たちはオアシスで野営をしている。砂漠都市ジゼルへの帰路には夜をまたぐ必要があったため、一夜をここ――オルセアで過ごすこととなった。

 美和とあかねは二人、少し薄暗く暖をとれる場で寝入っている。

 2対2の3時間交代。懐中時計を取り出し、そろそろ交代の時間だ。あと3時間休めれるなら、次の交代時には出発の頃合だ。あかねと美和はそのまま都市へ戻ることになるが、ジャンケンで決めたこと――文句はないはず。てか、パートナー選択権は、明らかに独善的であったが……。


 ―――


 ――


 ―


 肩を揺さぶられた。「え、もう交た――」

 美和は顔を近づけて、人差し指を口に当てるポーズ。


 なにかあったのか、と周りを確認する。すでに洋平は起きており、あたりを伺っていた。

 美和に説明を求めるが、遠くの椰子の木を指す。

 見ると、樹樹が微かにうごめいていた。風はない。


 奥に、なにか――いる?


 注視していると段々と眼が慣れてきた。椰子の葉陰から、なにかがゆっくりと動いている。

 雲から月夜が顔を出す。

 葉陰から覗かせているのは――


 私の驚きに、美和が手で私の口を塞ぐ。


 ――覗かせていたのは、アンデットだった!


 こんな真っ暗闇にアンデットって、ホラーですか!

 運営、なにがやりたいんだ?! お化け屋敷なの? なんなの? 死ぬの?

 ハァハァ。クッ、心霊テレビ系で一旦スイッチ入っちゃうと、一人でトイレや、風呂でシャワーができないくらい怖がりになるんだよ……。

「やる?」と洋平。って、もう戦意喪失だよ。あかねはプルプル震えて、美和に縋っているは。美和は「わ、わたし全然、へ、平気」と、どうみても顔が青白いは――。


 もうビビりまくりだよ。


 私たちは、ただただアンデットが通り過ぎるのを女子3人抱き合い、通り過ぎてたあとでも、声もでず震えていた。


 うっすら日が昇り、少し世界が青白く染まった。

 焚き火はいつしか消えており、黒い煙を吐いてた。


 私たちは無言のままアルケノに騎乗し、無事に砂漠都市ジゼルへ帰還したのであった。






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