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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
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ログアウト

「なんて、紛らわしい」

 美和の一言はそれだった。


 ごもっとも……。


 まあ、なんにせよ、私たちの早とちりだったこと、MMO初心者だったことを弁明してやり、美和はしぶしぶ納得したようだ。

 一方、洋平はというと――ギルドカード裏を見ながら、あかねにスキルの意味や使い方を学んでいた。


 あかねちゃん、もう用語だけで会話できるようになったのね……。


 しかし、見た目歴戦の戦士に見える洋平。オマエの装備は見せかけか。洋平の言い分は、装備はすべてお使いクエの報酬品。連続クエが派生したのか、どんどん装備が整っていったと。なんてウラヤマシイ。宿も報酬で泊めてもらえて、お金は一切使ってないと。所持金15万ギルは持っているみたいだ。私はギルドカード見て、落胆する。なんだろう、この心に荒ぶる感情……。これが嫉妬っていうやつか。理不尽だろうが私は洋平をキッと睨んでいた。

 こっちに気付いたあかねは、「で、出過ぎたことをしちゃいましたか、わたし?」と、なぜか謝ってきた。


 私としては説明する手間が省けて大助かりなんだが。


 美和はいやぁね、昼間っから見つめ合っちゃってと二人ヒソヒソ話している。

 なにかにつけて、あかねとミワは勘違いしている節がある……。


 そのあとは特に事故もなく、ワイルドボア狩りは滞りなく行われた。途中、釣り(pull)を失敗して4匹リンクもあったが、洋平のタゲ固定はすさまじく、VIT全振りと装備効果もあってか、ヘイトが揺れることすらなかった。討伐部位もボロボロ落としたので、みんな大漁大漁とホクホク顔であった。

 そして気づけば、夕方になっていた。

 私の初期装備ポーチには牙が大きすぎて、3個しか入らなかった。なので、洋平のリュックに入れてもらっている。リュックは初心者クエストでもらったそうだ。美和は道具屋で4000ギルで売ってたと話していたな。あとでクエスト教えてもらって、無料でゲットしにいくか。


「なんかお腹へったね」

 懐中時計の裏蓋を見ると、リアル時刻は13時前になっていた。通りでお腹も空くはずだ。

 辺りも暗くなってくるし、いったん、狩りを中止し、村へ戻ることを提案した。


「あら、一瞬で街に戻る方法があるじゃない」と美和はおもむろにワイルドボアを攻撃した。ワイルドボアは雄たけびを上げて突っ込んでくる。近くにいたあかねは、あわわわと慌てて逃げようとするが、美和に裾を掴まれて、そのまま突進を食らった。

 二人同時にキラキラと消し飛んだ。


 相も変わらず見事な紙装甲だな……。


 って、死に戻りかよッ!


 あれ、私ヘイト行動とってないんですけど。

 やっぱりパーティ内だとヘイトに名前がのるんですかね?


 ワイルドボアは鼻息を荒げてこちらを睨む。


 ですよねー……。


 私はワイルドボアの攻撃を食らい、喘ぎ声が漏れた。レベルが上がっているとはいえ、あっちは各上。あの何とも言えない感覚に、全身脱力状態となり崩れ落ちた。そして、地面にくねくねと身体を波うつ。


 最後の視界に移ったのは、洋介の唖然として立ち尽くしている姿だった。



 教会を出ると、二人は立ち話を止め、こちらに手を振って出迎える。私はグッと拳を握りしめ、「ミワ、やるなら先に言ってよね」と一応の抵抗を見せる。


「でもこのほうが早いでしょ?」と何食わぬ顔の美和。そして、「昼食前に、ギルドに寄れてお金が手に入り、レベルも上がる。一石二鳥じゃない」と言い含む。


「そ、そうかもしれないけど……」


 むぅ、効率厨め。確かに、私もMMOではよくやるけども――。

「一言あってもよくない? ね、あかね」と賛同を得ようとすると、あかねは人差し指同士さすりながら、もう慣れましたと呟いた。


 あかねちゃんが不憫すぎる……。

 私はため息をついた。


「さぁ、さっさとギルドへ報告いきましょ」と、美和が大杖を上げる。


「あ、私、洋平に牙預けっぱなしだわ。てか、洋平に死に戻りの説明した?」


 ……。


 なぜ黙る!


「すぐに来るわ。きっとタンクだから堅くて死に戻りし難いのでしょ」と、目を合わさずに言われる。


 ――5分後。


 来ないんですけど……。


 ――更に5分経過。


 さすがに治まりが悪かったのか、美和が「こ、来ないわね」と歯切れが悪い。

 そのまま無言が続き、ぽつりと「どうしましょう……」といつになく弱気発言。


 ――と。

「あ、よかった。合ってた、合ってた」と洋平が教会から出てくる。


 美和は洋平の姿を見て、すこしホッとした表情だ。


 いや、ホントよかったよ。あのまま気まずい雰囲気で食事どころではなかったわ。


「おそい。なにしてたのよ!」美和も調子が出てきたようだ。

「ごめんごめん。ちょっと興――いやなんか発散してたら、倒しちゃって」と顔を掻きながら、なんだか分からない言い訳をした。その後、3,4匹リンクさせて死んだそうだ。


 なぜ、顔が赤い?





「では、報酬をお受け取りください」

 私はギルドカードを受け取り、裏面を見た。


 ムフフ。よ、4万ギルあるー! 私は心の中で叫んだ。


「アサヒ、あかねに宿代払いなさいよ」と美和が現実を突きつけてくる。仮想なのに……。


「わ、わかってるわよ」


「あ、わたしは大丈夫です」


 いや、さすがにお金のやり取りは、しっかりしておかないとね。私は受付嬢から12000ギル引き出しから、昨日と今日の宿分をあかねに手渡した。もちろん、今日も泊めてもらうつもりだ!


 美和はカードを掲げて、見つめている。やけに嬉しそうだ。

「ファイア2か」と私を一瞥し、はやく試したいわと。


 ――私に撃たないよね?


 あかねはリカバリーで、効果は徐々に単体HP回復だそうだ。


 私もレベルが上がっていたので、CHR全振りで二つの歌を覚えた。剣技のアナリーゼと賢者のラ・フォリアの2つだ。前者がSTR、後者がINTの効果アップ。

「次からINT一択ね」と美和が顔を近づかせて、というより見上げて言う。頭に手を乗せようとしたら、払い除けられた。


「そういえば――」と、美和は顎を触りながら、「アサヒ、詠ってなかったよね?」と、首を傾げた。


「い、いやー。ステアップなくても余裕そうだったから……」


 言えない。戦いに夢中で忘れていたなんて。


「よかったわね。次から詠いまくれるわよ」


 私は乾いた笑いしか出なかった。隣で、あかねが「知っている曲なら、一緒にコーラスいきます」と力強く告げた。


 ――我がココロノ癒し、あかねちゃん。


「なぁ、飯なら二階で食べるんだよな?」

「何言ってるの。仮想での食事は、味覚はあるものの、満腹にはならない設定よ」

「マジで?」

「現実に戻らない人が出てきそうですしね」

「餓死したらどうするのよ。今は運営が管理しているから、13時になれば強制的にログアウトされる仕様よ」


「私たちはこの後、落ち合って食事するけど」私は、洋平を見やり、「みんなで祝勝会もやりたいよね」と提案する。


「そうね、洋平の活躍も大きかったし。たしか大阪よね?」

「一人だとかわいそう」あかねは目を潤ませる。


 ――ボッチか。


「ぼっちじゃないからな」


 なぜココロを読む。


「強制ログアウトまで、ここで祝勝会やりますか」


 私とあかねで、おおーと拳を突き上げ賛同した。


 ギルド2階酒場は大繁盛だった。


「おなじ考えの人はいるよね」

「空いてるかな?」

 先に着いてたあかねは、両手を振って呼んでいる。声は喧噪でかき消され聞こえないが、そこが空いているようだ。しかも、空いてる席はあと1テーブルのみだった。


 あかねちゃん、ナイス!


 私は駆け足で、あかねの隣席を取ろうとしたら、ここはダメですと美和を指名された。すごくショックなんですが……。


 私は心の傷が癒えないまま、4人掛けテーブルに着いた。私たちは、一度は試したい『とりあえずエール』を注文したが、女性陣は全員、最初の一口で飲むのを諦めた。ただただ苦い味しかしなかったからだ。お口直しと美和が葡萄酒を頼み、甘くて飲みやすいと好評だった。もちろん、私とあかねもそれにした。洋平はエールを頑張って飲み干していたが、美味しいのかと聞くと、不味いと返ってきた。なら、飲まなくていいのに……。

 洋平は好きな料理を注文して、私たちはシェアできる料理を小分けにして、これ美味しいね、わたしはこっちのほうが好みと、あれやこれや感想を言い合い、吟味した。最後には、美和による戦闘教壇が始まり、洋平とあかねは真剣な眼差しで聞いてた。あの時のアビの使い方はベストだったとか、まだまだオーバーヒール気味、ヒラはMP管理が命だとか、私に関してはPull用に弓でも装備したほうがいいんじゃないかとアドバイスされた。

 美和が急に黙り込んだので、私が不審に思っていると、隣の席を指さした。

 プレイヤ4人組が大いに盛り上がっていた。


「しかし、あのモンスタはなんだったか」

「きっと特殊なモンスタだったんだろうな」

「レアモンスターか、あり得るな。てことは、レアな武器か素材が手に入ってたてことか。糞ッ! 惜しいことをしたな」

「いや、4人でボロ負けだったんだぜ。ありゃ、勝てないよ」

「だな。ダメージなんて効いてなかったように感じたぜ。高火力がいないと、アレはキツイ」


 美和は目を閉じ、耳に手をあて聴きいている。ときどき、場所、場所と呟いていた。


「一応、高レベルのノーマルモンスタかどうか、≪ミュウゼット砂漠≫の敵を全部調べておくわ」

 くわっと美和が目を見開いた。


 たぶんだが、いや確信だが――次の行き場所は≪ミュウゼット砂漠≫になりそうだ。


 そして、


 システムメッセージが脳内に響く。


 ――強制ログアウトを開始します。




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