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吟遊詩人はアイドルではありません!(仮)  作者: ナガイヒデキ
1章「クレイジークレイジーは止まらない!」
10/50

ギフト

 私たちパーティは南門から街道にでて、オロナ村に向かっている。

 距離にして約8kmくらいか。あかねのお使いクエの連続クエにあたる情報によると、馬車で30分くらいにある、のどかな農村だそうだ。あかねは街の外のクエストだと知って、受けなかったらしいが、今はPT中なので再度依頼を受け持っている。もちろん、私たちも全員受けた。お使いクエストはそんなに時間かからなかったので。それに、クエストを受けるなら効率よくやらないとね。


 なんてたって、お金がない……。でもこのクエスト報酬で総合計2万ギルはいく!

 ちなみに、全員徒歩移動だ。馬車は300ギルと安かったのだが、あまり徒歩と移動時間がそんなに変わらないみたい。定期に出る馬車が、まだ時間に余裕があったって理由もある。

 けっして、お金がないからケチったわけではない。


「ねえ、ギフトって知ってる?」

 唐突に、美和は嬉しそうな顔で聞いてきた。


「ギフト?」

 私はオウム返しに聞き返しながら、そんなの運営の説明にあったっけと、あかねに助けを求めた。あかねは、首を横に振り、知らないみたいだ。


「フフフ……。ギフトってのはね、固有パッシブスキルの総称なのよ」

「ぱっしぶ?」と洋平。

「パッシブスキルというのは、アクティブスキルという能動的に発動するスキルではなく、継続的に発動しているスキルのことを言います!」

 あかねは眉を上げ、デスデスと首を縦に振る素振り。

「その中でも、パッシブの如何によっては、ユニークスキルを取得できるってわけ!」

 美和は興奮した面持ち。


 あぁ、ギフト持ちなんだと予測ができる。だが、洋平はそんな空気も読めないタイプで「ふーん」と気がない返事で街道を進む。やはり、美和は声を荒げて、

「いい? ギルドカードの裏のステ画面下に下三角が出ていたら、ギフト持ちなのよ」と自分のギルドカードを取り出す。あかねはカードをみて、ぉおと歓声をあげる。そうでしょ、そうでしょとご満悦な美和。

 あかねも自分のカードをみて、肩を落とした。


 ――シュンとしたあかねちゃんもカワイイな。


「ギフト持ちはそんなにいないみたいだから、気を落とさないで」と美和がフォローするが、自慢げだ。

 私も自分のカードを確認する。お、と小さい下三角があった。これは気づかない人いるんじゃないと疑問と期待をもちつつ、三角をなぞる。


 ≪ギフト:アニメ声≫


 おい、運営!


 別窓に≪その場の雰囲気で支援能力効果UP≫とあった。


 微妙。オレツエー要素が全くない。まあ、支援特化としてはいいほうかな?


 でもアニメ声って恥ずかしい……。

 私のギフト? アニメ声です。

 ……

 …

 言えない。

 そりゃ、たまに声が独特って言われるけど。

 そ、それにミワが得意げに話してるし、ここは黙っておこう。


 私は空気読める子なのだ。


「あるの?」と美和は察したのか聞いてきた。


 私は大げさに首を横に振った。現実世界なら汗でも流れてバレていたかもしれない。


 が、同時に、

 洋平も自分のカードを取り出し、裏をみて、

「あ、


 ……あった」


 ――ナイトォウ!


 さすが洋平、空気読めてない。だが、私のピンチが流れたから許す。


「確率は10分の1くらいだからね。要は中身よ、ナ・カ・ミ」と強気な美和、「で、どんな性能?」と凄みを利かす。

「≪暴飲暴食≫。毒・麻痺・石化・沈黙の状態異常に耐性をもつ」


 ぉう、なかなかタンクとしては神スキルではございませんか。

 あのミワも――す、すごいわねと愕然としてるわ。


「ま、まあ、いいわ。わたしのギフトは≪空間把握≫よ。そして、ユニークスキルとして、≪ヘヴィ≫を取得したわ」と美和は私をみて、

「で、ヘヴィの効果を試し撃ちしたいんだけど」


 ミワ、なぜこっちを見る?


「大丈夫、ダメージソースはないから」


 こっちは大丈夫じゃない!


 私は洋平をチラチラみて、「ブ・ラ・ッ・ド・リ・ッ・ジ」と口パク。すると洋平は、「オ、オレが代わりに」と慌てて手を挙げる。なかなかいい人材を手に入れたわ、と洋平を見つめてほくそ笑む。


 二人もこちらをチラチラみて、内緒話をしている。


 だから、なに!


「では、遠慮なく」と美和は本当に遠慮なく杖を素早く掲げ、黒い球体の靄が浮かび上がる。なんか小声で、VR充(バーチャルジュウ)めって聞こえたが。「えい」と掛け声に、球体が洋平の頭上に振り落ちる。


 ぬぉ、と声が漏れた内藤はまるで土下座をするように顔が地面に着いた。


 その光景を見て、私の感想は――よかった、私じゃなくてだったのは言うまでもない。

 私は気遣うふりして、手を差し伸べた。


「おて!」


「おい、テメー」


 最下層が何か言っているようだが、私はうりうりと頭を突いた。


 あかねは、いい子イイ子と頭を撫でてあげている。それを見てた美和は、ハッと目を見開き、

「この魔法を≪ドッグイーター(犬喰い)≫と名付けましょう」と高々と宣言する。

「悪魔かおまいらはッ!」


 洋平はなんとか立ち上がり、「あ、あのな、早く元に戻せよ――」と抗議している。

「あら、効果時間40秒まで解除不能よ」



 オロナ村はまさに集落ともいえる場所だった。広場を中心に円状に木造建築が建ち囲んでいる。その家屋のなかで少し大きめなのが村長のいる建物みたいだ。

 私たちは村長に挨拶をして、ボア退治にいく旨を伝えた。ふぉふぉふぉと顎鬚をさすりながら、冒険者が来てくれて有難い。これで農業被害も治まると目を細めて笑う。

 村長から教えられたボア生息地へ向かう。村から少し西にある≪バルン平野≫に生息しているようだ。


 村から数分、「あれかな?」と洋平が指さす。指した方向を見ると、クマかと思える大きな動物が、こちらに尻を向け、農作物を食べていた。もうそこには食べれるものがないので、他所の餌場へ移動しようとしたのか、こちらと目があった。ぶふぉと動物特有の鳴き声を出すと、片足を地面に何度も慣らし、突っ込んできた。


 アクティブかいッ!

 てっきり農作物のみ荒らすモンスターだと思ってたわ。てか、この黒い猪(ワイルドボア)


 はやい!


 ――猪突猛進。

 洋平が盾で突進を防ぎ、進行がとまった。


 不意を突かれたが、よくやった、洋平!


 すぐさまファイアが飛んできた。爆裂音がすると、ワイルドボアは向きを変え、美和に突進した。

 美和は驚き、「ちょ、ヘイト!」と叫んだ。


 やっぱりヘイト固定まだできてないんだわ!

「洋平! ヘイトよろしく!」


「へいと?」


 へ?


「えーとですね。ヘイトというのは、敵対心のことでして……」

 あかねが呑気に解説を始める。


 いま、説明してるヒマじゃないよ……。

 て、自己紹介したときの初ゲームってVRでなく、MMO自体が初ってことか!


 すでに、ワイルドボアは洋平と美和の半分の距離、約5mを切っていた。そして、急に――速度が半減した。


 ドッグイーター(ヘヴィ)が入ったようだ。


 私は美和を見やると、すでに後方10mは下がり再度ファイアを放っていた。

 ワイルドボアの敵対心(ヘイト)は完全に美和に向いている。


「洋平、なんでもいいからヘイト稼いで!」


「なにしたらいんだよッ」


「殴ってでもいいから」と私はワイルドボアに走って近づく。

 あともうちょいのところで、ワイルドボアは何かに解き放たれたのか、勢いを増して突進を再開した。


 ヘヴィの効果がきれた?


 美和は効果時間を把握していたのか、今度はかなり距離を開けていた。しかも後方に……。

 あっという間に、ワイルドボアと美和は地平線の彼方へと消えていった。


「……でですね。タンクという役職からは、ヘイト管理というのが基本的な立ち回りでして」

 あかねの講釈は続いてた。


 あかねちゃん……。


 私は、ミワ死んじゃったかなと、遥か遠く透き通った空を見上げて言った。


 5分くらい経っただろうか。私は、「どうする?」と残ったメンバーに今後のことを聞いた。

 あかねが何かを見つけたのか、あっと叫んだ。視線の先に目を向けると、美和がこちらに走ってきてるのが目にとまった。

 美和は立ち止まり、後ろを向くと、その奥から黒い煙が立ち昇った。ファイアが当たったのだろうか。

 そして、また美和がくるっと向いて走り出し、こちらに合流する。かなり疲れているのだろう、肩で息をしている状態だ。

 ワイルドボアの突進に、みんな武器を構え臨戦態勢を取る。


 美和とワイルドボアとの距離2mで何度目になるか分からないファイアが当たり、ポリゴンと化した。

 美和は振り返ると、屈託のない笑顔を浮かべて、


「ちょっと、洋平アイツにファイアぶち込んでもいいよね」


 と、それはもう爽やかに言った。



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