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巻き込まれて女の子になったボク  作者: 来宮悠里
ふたつめの願い
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15:ボクの想い

 お腹が空いた……。

 結局放課後まで寝通してしまった。

 ベッドサイドにはいくつかお土産が置かれていて、休み時間の度に誰かがお見舞いに来てくれたんだなってのがよくわかる。

 ジュースとか、お菓子とか、お昼の代わりのパンとか。

 今日はお弁当を作る気力が無かったから、元々購買で何か買う予定だったのだ。


「ふあっ……んー!」


 体を起こして、大きく伸びをする。

 こっちにきてから、今までに無いくらい気持ちのいい寝起きだ。

 肩の荷がすっかり落ちきったような、そんな清々しさがある。


「あら、やっとお目覚めね、お寝坊なお姫様だことー」


 ちょっとまだ、ぼんやりした頭で辺りを見回すと、カーテンの隙間から、渡瀬先生が苦笑して覗いていた。

 ボクは慌てて伸ばした手を下ろして、持ち上がって乱れた制服を直した。


「そんなに慌てなくても……。うん、顔色もいいし問題なしね」

「はい、久しぶりにとても気分がいいです」

「そう、それは良かった。もう放課後だし、荷物持って今日は帰りなさい」

「そうします。長々とありがとうございました」


 お礼を言って、保健室から出る。そういえば、今日ってどうやって運ばれてきたんだろう……? 完全に意識がブラックアウトしてたから覚えて無いんだけど。

 瑞貴が運んでくれたのかな……?

 そう考えたら自然と笑みが溢れた。それはとても嬉しいことだ。


 教室に着いたら、桜華が待っていてくれた。

 他に誰も居ないところを見ると、みんな先に帰ったのかな……?


「桜華!」

「あ、燈佳。大丈夫?」

「うん、もう大丈夫。心配掛けてごめんね」

「ううん。瀬野くん達は台本作るからって先に帰ったよ」

「そっか……。後でメッセージ送っておかないとだね」

「そうだね。それより……」


 むにっと、桜華がボクの頬を包み込む。

 そのままむにむにと弄り倒してきた。ちょっとくすぐったい!


「顔付きが柔らかくなった。何かあった?」

「うん。ボク決めたよ」

「そう、それは私が聞いても大丈夫?」

「桜華に聞いて欲しい。桜華には辛いかも知れないけど」

「うん、じゃあ聞く」


 言わないといけない。

 今まで何度となく助けてくれた桜華にはちゃんと伝えてあげるのが、けじめだ。

 胸に手を置いて、一度深呼吸する。

 うん、大丈夫。


「ボクね、女の子として生きたい」


 言えた。

 口に出して、その言葉が胸に燻っていた物が溶けていくようだった。

 言って、桜華をみると、珍しく目を大きく開けて驚いた素振りを見せてくれた。

 それもすぐに引っ込んで、今度は慈愛に満ちた微笑みを浮かべて一言。


「そっか、決めたんだ」


 そう言って、桜華はボクの頬から手を離した。

 桜華の纏う雰囲気には諦念に似た何かが混ざっていたけれど、どこかスッキリしたような感じが見え隠れしている。

 少しの罪悪感と、決意を伝えられたことへの達成感と、後よくわからない何か。


「決めたならしょうがないね……。燈佳くんとえっちしたかったけど……諦めるしかないかあ……」

「やっぱりそれって本気だったんだ」

「うん。私燈佳に言ってたことは全部本気だよ。燈佳を思って一人でしたし。正直女の子の燈佳でもいいから私にシてほしいもん」


 臆面無くそう言ってくる桜華だけど、もうその物言いでボクがたじろぐことはない。

 その気持ちがよく分かってしまうから。


「……女の子のボクでいいなら、する?」


 だから、慰めの意味合いも込めた提案だった。

 でも桜華はそれに首を振って答えた。うん、ボクも同じ立場だったらそうすると思う。慰めで抱かれても虚しいだけだ。


「今はいい。うん、もう少しして、ちゃんと気持ちに整理がついたら、しようね」


 ……ブレないなあ。

 本当にボクのどこがいいのか分からない。

 でも、そんなもんなんだって思う。

 みんな一度は自分を卑下にすると思うけど、自分では気付かない魅力的なところが他の人には一杯見えてるんだって。

 それが、なんとなく分かってしまった。


「ねえ、桜華」

「何?」

「願い事さ、全部ボクが使ってもいい?」

「うん。最初からそのつもりだよ」

「ありがとう。後、これから先の計画の相談に乗ってもらってもいい?」

「勿論! 大事なこと一杯あるもんね」

「うん、これから先、生きていくために必要なことだから……」


 瑞貴のこと、親のこと、それに文化祭のこともあるし、考えることは一杯だ。

 ボク一人じゃあ考えきれないところもある。

 もう自分一人じゃあどうしようもないって分かってるから、誰かに相談しよう。

 目一杯甘えてしまおう。


「とりあえず、帰ろっか。今日、何食べたい?」

「豪勢にお肉とか……」

「ちゃんと野菜も食べようね」

「はあい」


 帰りにステーキ肉を買って帰った。単純に焼くだけで美味しいけど、拘れば拘るほど奥が深いのが焼き料理。

 目茶苦茶拘った結果、桜華がとても美味しいと言ってくれたのでボクは満足だ!


 でもあれだ……。胸の内が軽くなったからって、その日の夢見で瑞貴と桜華二人から攻められる夢を見たボクはホントどうしようも無いと思う。

 幸せだったから良かったんだけどさ……!

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