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巻き込まれて女の子になったボク  作者: 来宮悠里
ふたつめの願い
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14:青い春的なあれと、決意

 体を起こして、ボクは静かにどう切り出そうか考える。

 幸いにも、渡瀬先生はボクのことを知っている人だ。ありのままに言っても問題は無いだろうと思う。

 だけど、ありのままに全部洗いざらい吐いてしまって笑われないだろうか?


「あんまり難しく考えなくてもいいよー? 笑えるところは遠慮無く笑うからー」

「酷いです」

「だって、しょうが無いじゃない、面白いと思うことは悪いことじゃないもの」


 歯に衣着せぬ物言いなのはいいんだけれど……まあ、そっちの方がボクも話しやすいかな。笑い飛ばしてくれる方が幾分か気が楽になる。


「ボク……瑞貴のことが好きなんです」

「うん、知ってる。結構噂になってるからねー」

「やっぱり……」


 噂がどんな噂なのか気になるけど、それは後で聞くとして、今は、言いたいことを言ってしまおう。


「手伝うって。瑞貴のやりたいことを手伝うって言ったんだけど……」


 ボクは二学期に入ってからあったことを全部話をした。

 まだほんの一週間も経っていないのに、一杯あった。

 その一つ一つをただボクは喋った。誰かに聞いてほしかった。

 瑞貴のことを手伝いたいのに、配役を任命されたときに衝動的に拒否してしまったこと。

 それがとても辛くて、悪夢を見たこと。

 瑞貴が好きで、好きで、どうしようもないこと。

 触りたい、触られたい、瑞貴を思って一人をすることを口に出した。


 自然と泣いていた。


「あらあら……」

「せんせぇ……ボク……どうすれば……」


 不安で押しつぶされそうだった。

 桜華を振った事も心の負担になっていたし、自分が男だって言うことが枷になっていて、近づきたいのに近づけない。同年代にこの悩みを話せないのが辛かった。


「それを決めるのは、あなた自身よー」


 それは突き放すようなとても冷たい言葉だった。

 けれども、そうするしかないと納得してしまった言葉だった。


「辛いときはいくらでも話を聞いてあげられるけれど、あなたがどうしたいかは自分で決めるしかないの。男の子として生きたいのか、女の子として生きたいのか、それはあなた自身が決めることよ」


 全くもってその通りだった。

 そして、ボクの中で既にどう生きたいかが朧気ながら確立してることに気付く。

 ずっと言っていた。

 戻りたくないって、戻ることを遠ざけていた。その気になればいつでも戻れるのに、それを保留して、遠ざけて、勝手に自分で傷ついていた。


 ――ああ……ボクは……こんなにも女の子として過ごしたいと思っていたのか。


 楽しい日々。可愛いと言われる日々。妬みに嫉みに、情欲に、様々な想いを向けられる今。

 恐怖を感じるときもあればそれ以上の幸せを感じる事が多かった。

 引き籠もっていた一年半の灰色の日々を上書きするかのように、楽しいことが多かった。

 だから、ボクは女の子として生活することをイヤとは思っていなかった。

 恋をして、誰かのために頑張りたいって、好きになって貰いたいって思って、触れて欲しいと願って、触れたいと望んで……。


「ボクは……ううん……わたし。うん、そう、わたしは……」

「榊さん、無理して一人称まで変えなくてもいいのよ?」

「あ、はい……でも、決めました……」

「そう、迷いは吹っ切れた?」

「はい」


 力強く頷くことができた。

 暗澹たる黒雲に一条の光が差したかのような思いだった。

 後は雨後の晴れ間の様に、燦々とした青空が広がるだけ。


 改めて、気付かされた。

 この瑞貴を好きだって言う気持ち。女の子として、男性の瑞貴が好き。

 だから、力になりたいと思ったし、性的な接触をしたいと思った。


「榊さん、自分に自信を持つのよ。あなたは可愛いんだから」

「……はい!」


 元気よく返事ができたと思う。

 そう、ボクは可愛い。

 一番最初の客観的に自分を見た時にそう思ったじゃないか。

 見てくれは悪くはない、むしろとてもいい方なのだ。

 だから、自信を持って過ごせばいいんだ。


「人の視線も克服できるように頑張ります……!」

「うん、その意気ね」


 渡瀬先生が優しく微笑んでくれていた。

 桜華みたいに、いつもどこかぼんやりしている先生なのに、本当にこういうとき優しそうな顔をしてくれる。

 男女問わずに人気があるのが頷けてしまう。


「先生、ありがとうございました、話を聞いてくれて」

「いえいえ、これも仕事だからねー。健全な生徒の育成が結々里の方針だからー」


 どこかちょっとおばさんくさい仕草で、そんなことを言った先生にボクも気を抜いた笑いが漏れた。

 それと同時に、異様なまでの眠気が襲ってくる。


「先生」

「なあに?」

「お昼まで休んでてもいいですか?」

「しょうがないわね。今日だけよ」

「ありがとうございます」


 仕切りのカーテンがシャッと言う音と共に閉められた。

 起こした体をベッドに横たえる。

 たったそれだけなのに、もう視界が狭まってきた。

 意識を手放す。

 闇がボクを襲ってくるけれど、もうその闇は全くもって怖くはなかった。

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