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巻き込まれて女の子になったボク  作者: 来宮悠里
ふたつめの願い
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11:まるでボクの事のよう

 みんながボクを見ている。

 期待と羨望と、後何か色々な下心を混ぜた視線がボクを見てる。


 どれも一様に影が三日月の笑いを浮かべている。

 怖い。ボクを見て笑っている皆が怖い。


「やめて、みないでっ!!」



 飛び起きた。

 パジャマが汗でぐっしょりと湿っていた……。いやそれだけじゃ無いけれど、まさかまたこの恐怖を味わうなんて……。

 前にも夢に見るほどだった。その時より幾ばくかマシになってるけど、それでもやっぱり頭の中で過ぎるだけで、こんな痛烈な恐怖を味わうことになるなんて。


「……最悪だ。シーツ取り替えて、お風呂入ろ」


 気持ち悪かった。それこそ、四月の時から何も変わってない気がする。


「うえっ……どうして……ふぐっ……」


 後処理をしていて、唐突に堕ちた。

 気持ちが堕ちてしまった。

 力になってあげたいのに、できない自分の無力さが恨めしい。

 人の前に出ることができないのが辛い。


 女の子になってしまったことに対して、良かったかなって少しでも思ったのが間違いだった。容姿が目立てば目立つほどに人目にはさらされるし、それに好きな人の期待に応えられないのが辛い。

 ボクが男の子だったなら、瑞貴はきっと笑ってしょうがねえなあなんて言ってくれたりしたんだろう。

 わかんない……ボクはどっちとして生きていけばいいのかが分からない。

 正直瑞貴とそう言うことがしたい。だけど、女の子だからって過度な期待が怖い。


「うぅ……いやだ……やだよぉ……」


 濡れたシーツで顔を覆って、声を押し殺して咽び泣く。

 どうしたいのかが分からない。

 どうしたらいいのかが分からない。

 答えは自分の中にしかないのに……。誰かに弱音を吐いて楽になりたい。


 自分で自分の逃げ道を塞いでおいて、誰かに頼りたいと思うのは本当にバカだ。

 自分でもそう思う。

 一番最低なことだけど、ここまできついなら、桜華への回答を保留にしておけば良かったと思うほどだ。


 違う、ボクが頼りたくないと思っているのが問題だ。

 自分で解決しなきゃって。そう思ってしまっているのがいけないんだ。

 きつい……辛い。もう逃げ出したい。居なくなりたい。


 期待に応えられないことがこんなに辛いなんて思いもよらなかった。

 でも……でも……、変わらないと……逃げたらダメだ……。

 自分で逃げ道を塞いだんだ。弱音を吐ける相手はあんまり居ない。

 気に掛けてくれる人はいるけれど、相談をしていいのか分からない。


 澱む。心が澱むけど……、ここを乗り越えないといけない。

 期待を受けて、嘲笑を乗り越えて……その先……?

 ボクはどうしたいの? 過去の傷を乗り越えて、その後は?

 瑞貴とお付き合いしたい。けど、それとこれとは別問題だ。

 別方向の道だ。乗り越えないといけない障害ではない。


 あれ……、ボク、もしかして、ただ単に自分という存在をちゃんと認められたいだけ、なのかな……? 男とか女とか関係無く、榊燈佳という人物を……。

 誰かのために頑張りたいって思ってるボク自身を認めて欲しいのかな……。


 いいのかな……そんなので……。

 わからないけど……それが本心なら、凄く嫌なものだな……。


 涙を拭って、立ち上がると、スマホのランプが点灯していた。何か届いてるのかな……?

 家に帰ってからすぐ充電に繋いで、放置してたからすっかり忘れていた。


 母さんから定期連絡が一件と、緋翠から心配のメッセージ、それと瑞貴から長いとても長いメッセージが一件。

 前二つはとりあえず置いておくとして、瑞貴からのメッセージを開く。

 それは、劇の大まかなあらすじだった。

 ああ……これは、ボクじゃなきゃ無理だ。


 瑞貴がボクの事を知っているはずがないのに、なんだかもう、それだけで心が軽くなった。

 いやでもボクがやらないと。役割は違うけれど……。


 愛する姫の為、姿や性別までも偽り国の騎士団に入った敵国の王子。

 姿を変えていることを知っているのは王子のお付きのみ。


 出だしはなんというかロミオとジュリエットを彷彿させるものだ。

 なんでこんなピンポイントにボクの心を抉りに来る話なんだ。

 こんなの、ボク以外の誰もできないよ……。


 お付きの人は王子への思いをひた隠しにして従事し、姫へ嫉妬を募らせる。

 そして、ついに思いを王子に告げた従者は振られ、敵国へ情報を売る。

 それがきっかけで、戦争となる二国。

 王子は姫に告げた。今まで騙していてすまなかった、私は敵国の王子であると。

 姫はそれに全部知っていたと答えた。それでもひた隠しにする王子に惹かれていたと伝える。


 ハッピーエンドだ。まごう事なきハッピーエンドなのに、どうしてこんなにも胸を締め付けられる思いなのだろうか。

 まさに自分の事のよう。

 ファンタジーという括りならあり得る話かもしれない。だけどこれはもう現実に起こっている一端だ。

 姫が瑞貴で、王子がボクで、お付きが桜華。

 考えるだけで吐きそうになる。

 だけど、やらなきゃ……。これはボクがやらなきゃいけない……。


 つらい、だけど、やってみせる……。

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