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巻き込まれて女の子になったボク  作者: 来宮悠里
ひとつめの願い
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08:これがボクの日常の一端

 目が覚めた。

 辺りはまだ暗いし、それに肌寒い。


「えっと……」


 発した自分の声を聞いて、全て思い出す。

 夢であって欲しかった。けど、夢じゃ無い現実だ。

 しょうがない、今は受け入れよう。


「ん、時間」


 いつものルーチンで考えればたぶん三時前後なはずだけど……。

 パソコンデスクの上に置かれたスマホを見る。

 通知が何件か入っていて見てみると、大体ゲームの呼び出しばっかりだ。

 後、父さんと母さんから一件ずつ。先に母さんから来てて、それに返事をしなかったことに対する心配の通知が父さんから。

 見る余裕が無かったのもあるけれど、家を追いだしたことに対する恨みもある。

 もう少し返事はしないでおこう。どうせ今返事をしたって、夜中だ。迷惑に決まってる。


 ついでに時間の確認をして、午前三時を少し回っている頃だというのを確認して、パソコンの電源をいれる。

 今まで貯金に回していたお年玉を全部使って作ったハイエンド機。実際こんな高スペックな物を作ったところで用途がオンラインゲームと動画を見るだけって言う寂しい物だけど、デュアルモニタにしているお陰で色々と便利だ。

 パソコンが立ち上がると、自動起動になっていたチャットソフトが立ち上がるが、インターネットに接続されていませんの悲しい文字が。そういえばLANは繋いでいなかった。


「……無線の子機どこだっけ」


 これが現実逃避であると言うことはよく分かっているけれど、普段通りの事を行うことで、心の平穏を得ようという浅ましい物だ。


 パソコン用の小物入れを漁ってUSBタイプの子機を探し出した。とりあえず回線はテザリングでいいかな。今日はログインして挨拶するだけにしておかないと。

 たぶん今普通にレア堀に行ったとしても、体が慣れてないせいで凡ミス連発しちゃうかな……。


「よし、これでいっかな」


 ネットに接続されていることを確認して、ボクがよくプレイしているシェルシェリス・オンライン……通称CLOを起動する。

 流石に回線速度が遅いから読み込みに時間が掛かるけれど、何とかログインする事は出来た。


『こんばんは』

『おはよう、結姫。今日は忙しかった?』


 まず、真っ先にこの時間メインで活動しているアリアさんが返事をしてくれた。

 しかし、やっぱり体が小さくなったせいもあって、キーが遠く感じる。


『お、姫さまだー。やほー、大丈夫だったかい?』


 次に、ボクの所属しているギルド、フェアリーファームのマスターが反応を返して来る。


『ちょっとばた付いてて、鯖対抗戦出られなくてごめんね。クイーンズリリィとして申し訳ない』

『いい、大丈夫。リリィのスキルの抜け道あるから。そうじゃないとわたしが一人でずっと鯖トップにいる理由が見つけられない。とりあえず鯖対抗戦はうちの勝利。来週も特典全部うちの鯖だから、安心して』

『珍しくアリアは焦ってたけどねー?』

『うるさい。結姫にリリステラ装備渡してたの忘れてて焦っただけ。ちゃんと一人で虹発動して敵薙ぎ払ってたからいいでしょ』


 よくそんな大それた芸当ができるなあ。

 CLOには、種族によって得意な物が全然違う。

 まあ、だからといって結局そこら辺の量産型ネットゲームと何ら変わりないんだけど。

 差違があると言ったらアバターアイテムの豊富さ位だ。


『まあ、相変わらずアリアの強さにはびっくりしたけどさ。鯖対抗戦は、姫さまとアリアいないと話にならない所があるからね』

『正直、最終防衛ラインにわたしと結姫を二人で置く作戦は止めた方がいいと思う。いつか玉座落ちるよ』

『絵になるじゃん? お姫様とそれを護る女騎士の構図』

『まあ、確かに結姫の子は可愛いから分かるけど。でも、わたしが騎士? 狂戦士の間違いじゃ無い?』

『アリアさんのキャラも可愛いと思うけどなあ』


 文字を打つのに四苦八苦。ブラインドタッチが危ういなんて、本当に大丈夫なのだろうか?

 体調不良を理由に早々に落ちてしまおうか?

 このままチャットの流れを追っているだけでもいいんだけど。


『大丈夫、俺は知っている。二人の中身がおっさんだって事を』

『そうね。そう思っているのが健全ね』


 CLOは見た目にリソースの殆どを費やしたゲームだと巷じゃ言われている。

 なぜかフランス語で探すと言う意味のシェルシェと、百合と言う意味のリスを掛け合わせたタイトルのせいも合って、女性アバターの種類が豊富だ。百合探しなんて言われて、女の子同士がいちゃいちゃしてるのが好きな開発者でもいたんだろうと言われている。男性もあるにはあるが、殆どが女性向け。洋服とかのコラボも女性向けのブランドばっかりコラボしているし、さっきのリリステラ装備も女性専用だ。

 だからまあ、女性アバターが多い。殆どと言っても過言じゃ無い。

 マスターがおっさん云々言うのも、オンライゲームのプレイヤー層の統計から予測で言っていることだろう。


『ボク、この春から高校生だって言ったと思うんだけど』

『それは嘘かも知れないだろ!! 別にいいんだ! ゲーム内のおにゃのこが可愛ければそれで! 操作してるのがおっさんでもシコリティ高ければそれでいい!!』

『うわ、引くわ。気持ち悪い。死んでくれないかな』


 マスターに対するアリアさんの突っ込みは割と鋭いというかトゲがある。


『OK分かった。ちょっと自爆アイテム取ってくるから待ってろ。デスペナ1%で許してくれるか?』

『レベルダウンまですれば許す』

『ごめん、流石にそれは許してください。また経験値500Mとか稼ぐのキツイっす。俺今92%まで経験値あるんだけど』


 ここまで土下座のモーションが様になっているマスターもそうそういないだろう。

 このやりとり見ていると、やっぱり今の現状が現実なんだと思い知らされるし、それと同時に心の平穏が訪れてくれる。

 今日一日で変わってしまいそうになったけど、やっぱりボクの日常はこちら側だ。

 午前三時頃起きて、CLOにログインして経験値を稼いで、五時頃にコンビニに買い物に。そして、帰ってきたら朝ご飯を作って、ボクの分は部屋に持って行く。

 朝ご飯を食べながらアリアさんやマスター達と人のいない狩場でレア掘をする。

 お昼くらいに少し眠って、また夕飯を作る時間までゲーム。たまにチャットだけで時間を潰すこともあるけど、それもまた面白い。

 そして夕飯を食べたらお風呂に入ってピークタイムは寝て過ごす。

 サーバー対抗戦があるときくらいかな、起きているのは。


『そうだ今からアークいくけど、姫さまどうする?』

『今日はパス。テザリングで繋いでるから回線切れたら困るでしょ』

『LANなかったの?』

『ちょっとばたついてて確認取る前に堕ちた』

『それならしょうが無い』


 殆どが本当だけど、正直今日は足を引っ張ることしか出来ないと思った。

 スキルのキー配置に指が届くかも怪しいし、回線の問題もある。

 みんながアークに行った後にでも、ちょっと思い通りに動けるか試してみよう。


 たまり場に集まってくる人達に挨拶を交わしつつ、地味に嫌みを言われたりで少し傷ついたり。

 みんながアークに行って、たまり場に一人ぽつんと座っている自分のキャラを見る。

 CLOの特徴は女の子が多い。ボクのキャラも例に漏れず女の子だ。下調べの段階で男の子不遇と書いてあったから一も二も無く女の子を選んだ。

 明るい茶髪にちょっと癖の入ったボブっぽい髪型。目はぱっちりしてて色は青と緑の中間みたいな色。

 装備は今リリステラの装備をしているから、ファンタジーのお姫様みたいな格好だけれど、普段はもっとラフな感じだ。実用装備に見た目装備の見た目を上書きできるというのがCLOの特徴でもある。もっぱら条件がちょっと厳しくて準エンドコンテンツになってるんだけど。一応ボクもいくつか見た目重視の実用装備を持ってはいる。


「ちょっと、試してみようかな」


 チャット機能をオフにすれば、Fキーじゃなくて通常のキーでスキルショートカットを三段フルに使える。

 一段12スロット。それが全部埋まっているわけでは無いけれど、プレイヤースキルを問われる段階で、多様なスキルを使える事が条件のうちに入っている。

 見た目だけでも遊べるけれど、結構戦闘面でもシビアな事が要求される。

 このスキルだけ使っていればOKなんてことは滅多に無い。見た目全振りのくせに割とゲームバランスはシビアなのだ。


 回線は貧弱ではあるけれど、普段一人で遊ぶ程度の動きをトレースするくらいは出来る。

 まずは一通りいつもの指の配置で、キーを押してみる。

 やっぱり少し遠い。今自分の指がどこにあるのかたまに分からなくなるときがある。


「……これはちょっと修正がきついかも?」


 指が届かない。料理の時も思ったけれど、今までのような動きができないのはキツイ。

 歩幅も違うし、筋力も違う。服のサイズは言わずもがなだし、多分体力も引き籠もり期間中に落ちた時より少ないと思う。

 体格自体が違うのだから当たり前なんだけど。まさか、ゲームをして改めて実感するとは思わなかった……。


 ふと、キーに置かれた華奢な指に目が行った。

 綺麗な手だなって。節くれだっていない小さな手、それに綺麗な艶のある長い爪。

 いつだったか、アリアさんが言っていた気がする。爪の綺麗な子の手を見るのが好きだって。その時はいまいち意味が分かっていなかったけど、今ならちょっと分かる。


 ある程度の設定を終えてちょっとだけ弱いところでの狩場で試運転をして、なんとか動けるようになったことを確認してたまり場に戻ると、アークに行っていた人達が戻ってきていた。

 そして、暫く雑談しているといつの間にか、六時になっていた。


『そろそろ同居人に朝ご飯作ってくるね』

『おう、いってら。そうか姫さま、親の友人の家に居候になるんだったな』

『うん。まあ、ボクも顔見知りの子だから幾分か楽だし』

『顔見知りの子、ねー。襲っちゃダメだよ?』


 アリアさんが茶化した事を言ってくれる。やっぱりアリアさんにもボクは男だと思われてるみたいだ。それにちょっとした表現で同居人が女の子だと見抜いたと見える。


『いや、たぶんボクが襲われる側だから』

『ほう……それはそれは。くそう! 俺も可愛い女の子とルームシェアしてぇ!』

『うわあ……』


 アリアさんがマスターから物理的に距離を取る。どん引きしているようだ。

 肉食獣桜華ちゃんの事を思い出すと思わず苦笑が漏れた。

 いつ起きてくるか分からないから、朝ご飯は冷めても美味しい奴にしよう。

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