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巻き込まれて女の子になったボク  作者: 来宮悠里
ふたつめの願い
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04:人恋しくて

 実力テストは前日にまとめてノートを読み返したお陰もあって、全部良い感じに仕上がった。

 これなら上位はいけるだろう。

 毎時間終わる度に、絶望顔の翡翠にドヤ顔してやっていたら、瑞貴から鬼畜少女呼ばわりされた。ひどい!

 だって、いいじゃない。自信あるんだし。悔しかったらちゃんと勉強すれば良いんだよ。


「終わったぁ!」


 五時間目、最後の英語のテストが終わった。

 眠かったけど、流石に瑞貴の隣で居眠りはいやだなあって思ったから、我慢した。変な寝顔は見せられないからね。


「お疲れ様。今回はなんか気合い入れてたなあ」

「手抜きするのやめたんだ」


 大きく伸びをするとお腹が見えてしまうから、机にぐったりと突っ伏す形を取る。

 同じようにぐったりしている瑞貴が労いの言葉をかけてくれたのが嬉しくて、正直に答えてしまった。

 この学校は微妙に古風なところがあって、学年順位が張り出される事になっている。一位から最下位まで、無慈悲に張り出される。

 流石に中位なら目立たないけれど、上位は嫌でも目立つ。

 ボクも、もう大分視線恐怖症がよくはなってきているから、人の目に晒されてもめげない気持ちを育てたい。白川先生も言っていたんだ。そろそろ荒療治も悪くないよって。

 だから、手を抜いて目立たないようにして来たけど、それはもうやめる。

 それで起こるやっかみから何もかも、全部地力で解決するんだ。


 好きな人に良く見られたいから。格好いい所もあるって知って貰いたいから。頑張るんだ。


「ふうむ、そうかー。じゃあ、俺もたまには本気を出してみようかな」

「えー、瑞貴はいつも本気でしょ?」

「ひっでえな!」


 そう言って笑ってくれる瑞貴が可愛い。

 だから、ボクも自然と笑っていられる。そう気づけたのは昨日家に帰ってからだった。


「そういえば、文化祭ってなにやるんだろう」

「飲食とか、ステージ発表とかだろ? あんまり興味がなあ……」


 正直、文化祭はよく分からない。中学の時も文化発表会って体でステージ発表と展示だけだったし、それも二年に一回で、ボクは丁度登校拒否になった時期だから、家に届くプリントでそれを知っただけだし。


「そう? ボクは結構楽しみだけどなあ」


 今年は楽しくなりそう。だって、好きな人と、友達と、みんなと一緒にやれるなんてそれはとても良い事だし。


「ふうむ……実体が分からないからなんとも言えないぜ。正直、俺も県外からの入学だからな。ここの文化祭がなにやってんのか実は知らない」

「そうなんだ?」

「おう。まあ、文化祭はあんまり良い事がなくて好きじゃねーんだ」

「そっかー。ボク、瑞貴と回るの楽しみだけどなあ」


 確か日程は三日間だし、一日くらい独占しても良いよね……。

 手は、流石に繋いでくれないだろうけれど、二人で、色々と見て回りたいな。


「おー、人の予定勝手にきめるんじゃねー」

「えー、いいでしょ?」

「いいけどな。予定とかは日程とか出揃ってからきめようぜ」

「うん!」


 やった! 嫌がってたから断れられるかと思ったけど、よかった、一緒に回れる。

 でも、緋翠が文化祭の時に告白するって言ってたから、行くとしても初日かな。

 二日目以降は空けておいてあげないと。

 もし、自分が与り知らぬ所で、この恋が終わるようなことがあったらとても悲しいけれど、それはそれで割り切らなきゃ。ううん、割り切れる……?

 ボクは素直におめでとうって言えるのかな……。


 想像してゾッとした。胸がざわついて苦しくなる。そんなのイヤだ。

 絶対素直におめでとうなんて言えない。泣いて喚いて、緋翠に当たる可能性がある。

 でも、そうなったらなったで受け入れないとだ……。二番目はイヤだし。瑞貴の一番はボクがいい。


「おーい、一人百面相をしてどうした?」

「ふえ!? な、なんでもないよ!?」


 あ、危ない。思ってることがすぐ顔に出るのも厄介だ。

 あんまりこういうのは悟られないようにしないと。


「そうか? 気分悪いならちゃんと言えよ。保健室に連れて行ってやるから」

「えー、もしかして連れて行って食べちゃう系?」


 それはそれでいいなあ。保健室でハジメテってのはちょっとロマンがある。


「いやいや、何言ってんの!?」

「瑞貴ならしそうだなあって」

「お前! 俺の事なんだと思ってるのか、ケダモノか!?」


 顔を真っ赤にして狼狽する瑞貴。やっぱり遠回しじゃダメなのか。

 それとも下半身に直結した物言いだからダメなのかな。

 でも、そう言うことしたいし、考えるだけで疼いてくる。ボクを求めて、ほしいなあ……


 ああ、もう、ボクってこんなにえっちだったかなあ……。

 触れられない、寄り添えない。このほんのちょっとの隙間がとても辛い。


「燈佳ちょっといい?」


 緋翠が呼んでる。なんだろ?

 うう、人恋しくなったし、緋翠にお願いして発散させて貰おうかな。

 ダメだなあ……。気持ちがとても不安定だ。


「ちょっと行ってくるね」

「あいよ。後教室であんまり誘うような事は言うなよ。俺が睨まれる!」

「あ、うん」


 気付かなかった。よくよく見渡してみれば、男子が一様に瑞貴を睨み付けている。ついでに瀬野死ねって言ってる人も居た。ちょっとこわい!

 緋翠に着いて、教室を出る。

 人気のない所まで連れ出された。えっと、流石に怒られるかな。

 自分でもそんな感じのことを言った気がする。


「燈佳、大丈夫?」

「むう、あんまり大丈夫じゃない」

「流石にあの発言はダメだと思う!」

「ん、言ってからそう思ったよ。緋翠、ちょっとだけいい?」

「えっと、何する気?」


 ボクは返事をせずに緋翠に抱きついた。

 わきゃっていう可愛らしい悲鳴が聞こえたけれど、すぐさま抱きしめ返してくれた。

 胸に響く緋翠の心臓の音が心地良くて、体温も、背中をあやすように叩いてくれるリズムも、何もかもが心地いい。

 いつもなら、桜華にこうやって甘えていたけれど、もう無理だし。誰か甘やかしてくれる人がいるのは嬉しい。


「ありがと、嫌がられるかと思った」

「んー、あたしもこの気持ち分かるから、たまにふと人恋しくなるときあるよね」

「うん」

「ほんと、元が男の子だなんて信じられないなあ」


 あんまり緋翠にこういうことはしなかったけれど、ふわりと香る洗剤の匂いなんかが、やっぱり桜華とは違って、やっぱり違うんだなって気付かされた。

 じわりと、体全体に広がる温もりを得て、漠然とした不安感がちょっとずつ霧散していく。


「これはちょっとイケない気持ちになりそうね……」

「うん?」

「姫ちゃんは可愛いなあって事。あたしも姫ちゃんくらい可愛ければなあ」

「ボクは可愛くもなんともないよ。緋翠の方がボクよりよっぽど女の子してて可愛い」


 正直な気持ちだ。いじらしくも一途に思う緋翠の方がよっぽど可愛い。

 それに比べて、ボクはどうだ。

 不安定になった感情のままに、一人で自慰をして、好きな人を求めてる自分なんて可愛いわけがない。

 する度に自己嫌悪に陥るけれど、でも快楽を求めたら自然と彼を意識してしまう。


「うーん……元男の子に可愛いって言ってもらうのは嬉しいけど。えっと、じゃあ二人とも可愛いって事じゃ、だめ?」


 よくはないけど、言った言わないの水掛け論争になりそうだから、ボクは返事代わりに、緋翠をぎゅうっと目一杯抱きしめた。

 暖かくて、心地いい。桜華に比べたら柔らかさが足りないけれど、それでもやっぱり緋翠も女の子だ。


「姫ちゃんは甘えん坊だなあ……よしよし」

「ん、ありがと。連れ出してくれたのもだけど。昨日からずっと頭の中えっちなことで一杯だったんだ」

「そう言う日もあるよ。姫ちゃんはまだその気持ちとの付き合い方が分からないだけだろうし、暫くしたら慣れるよ」

「緋翠もあったの?」


 ボクの素朴な疑問に、緋翠の顔がみるみる真っ赤になっていった。ということはあったのか。よかった……。ボクが変なだけじゃなくて、通過儀礼みたいだ。

 それだけで少し安心できた。

 そうこうしている内に予鈴がなった。

 男子の実行委員を決めるために戻らないと。

 流石に抜けっぱなしは、心配されそうだ。


「戻ろっか」

「そうだね」

「緋翠、連れ出してくれて本当にありがとう。あのままだったら気持ちに流されて言っちゃいけないことまで言いそうだったよ」

「ううん、だって、これあたしの為でもあるし。無自覚な誘惑で瑞貴取られるの癪だし!」

「あはは、そっかあ……」


 そうかあ……。そっちの方が強かったのかな。

 でも、うん、お陰で頭の中にずっと燻ってた触れて欲しい気持ちを抑えられたから良かった。


 って、もしかしてボク相当ダメなんじゃない?

 好きな人だけじゃなくて、友達と触れ合ってるだけで収まるって、それって節操なしもいいとこって事じゃないのかな!?

 うわあ……問題が一個解決したと思ったらまた一個でてきたよ……。

 どーしよ、これ。

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