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巻き込まれて女の子になったボク  作者: 来宮悠里
育まれる想い

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46:背中に背負われて

「なあ、燈佳」

「ひっ! な、なにっ!?」


 時折襲ってくる淫靡な気分と格闘しつつ、体を拭いていたせいで、盛大に狼狽えた返事をしてしまった。


「そのだな……」


 瑞貴がとても言いにくそうにしている。

 何が言いたいんだろう?


「替えってあるのか?」


 あっ……。

 言われて気付いた。学校ならまだしも、休みの日は持ち歩いていない。

 だってそもそも、汚れるとしたら突発で来たアレの為に持ち歩いてる感じだし……。


「ない……」

「そ、そうか……。その、見られないように気をつけろよ」

「う、うん……」


 そうか、ボクこれからノーパンで帰るのか……。

 うわあ……、ますます変態のレベルが上がっていくよぉ……。


「それとさ、一度公園によって、ちゃんと洗うか? そのままだったら気持ち悪いだろ」

「そうだね……おしっこ臭いよね?」

「どう答えろってんだよ、それ……」


 どうっていうか、普通に臭いなら臭いでいいんだけど。

 ボク自身、ショーツとか、浴衣とか、手とかから臭ってるし。もうなんか慣れたけど……

 汚物にまみれてない瑞貴はよっぽどじゃないかなあ。

 それなのに、ボクをおんぶして行くって言ってくれるんだから、やっぱり瑞貴は格好いいなあ……。


 とりあえず、瑞貴のシャツの裾から大事に使って、大部分をぬらさないように頑張ったお陰で、時間が掛かったけれど、何とか吹き終わった。

 正直、ちょっと感じてたらしくて濡れてしまってたのが、ボクは変態だったのかと自己嫌悪に陥ったけれど……。


「えっと、拭き終わったけど……」


 浴衣やスリップも吸ってしまった部分は絞って水気を切った。

 ちゃんと沙雪さんに洗い方教えて貰わないと、だ。折角の浴衣一回着ただけでダメにするなんて許されない。


 でも問題は、あんなに盛大に漏らしたのに、下がスースーするせいで、またでそうだって言うのがちょっと大問題なんです。ちょっと下の栓緩んでませんか……。人前でもう漏らしたくないんだけど……。


「荷物は?」

「あっ!」


 よたよたと足を縺れさせながら、置いていた巾着と下駄を回収する。

 下駄を履こうと思ったけれど、鼻緒がすれて、とても痛かったから履くのはやめておいた。


「言えば取ってくるから無理するなよ……」


 ふらつくボクに慌てて駆け寄ってきてくれた、瑞貴がボクの体を支えてくれる。

 その力強さに胸がどきりと跳ねた。

 もうなんなんだ……。ボクは一体どうなってしまっているんだ。

 ただ支えて貰っただけなのに、どうしてこんなにも胸が切なくなるのだろう……。


「行くか。ほれ、乗れ乗れ」


 瑞貴がボクに背を向けて屈んでくれる。

 いいのかな……、ボク今相当汚いのに。


「汚れは洗えば落ちるから気にするな。マジでその足で歩かせるとか、俺の選択肢の中にはないから」


 街灯に照らされて見える、鼻緒ですれて真っ赤になった足。

 裸足で歩けばいいんだろうけど、下着を穿いていないのが心許なさ過ぎて、自然と内股になってしまっている。歩き方もよたよたとした歩き方で、速度は全然出ないだろう。


 それ以上に瑞貴と密着するって事を考えたら、どうしようもなく体の芯が熱くうずいて、頭が逆上せたかのようにぼーっとしてしまっている。

 瑞貴の背中をじいっと見つめていると、


「どうした? 多少臭う位なら俺は気にしないぞ」

「えっと、多分相当だとおもうけど……本当にいいの?」


 だって、今でも若干臭うし……。


「そんなにイヤなら、お姫様抱っこで連れて行くぞ。そん時は遠慮無く匂いを嗅ぐからな!」

「や、やだ! なんか変態みたい!!」

「男は、可愛い女の子の匂いは嗅ぎたい物だからな、諦めろ」


 その可愛いにボクは含まれてるのかな……?


「えっと、ボクの匂いも嗅ぎたいの……?」


 もう殆ど頭の中がぴんくい何かに支配されてるせいで、やけくその勇気が出てくる。

 でも、その匂いを嗅ぎたいって気持ち分かる。

 好きな人と密着したい。正直、服という薄布すら邪魔だなって思うくらいだ。素肌と素肌で密着したい。その上で、好きな人の匂いを嗅ぎたい……。


「まあ、な……」


 そう照れたように言う瑞貴の姿が可愛くて。

 そして、肯定してくれたことが堪らなく嬉しくて。

 背中に負ぶさるという躊躇いは、どこかへ吹き飛んで行ってしまった。


「えっと、えへへ……じゃあ、まずは公園まで! またおしっこしたくなってきてるから、あんまり揺らさないでね!」

「言わなくていいことは口に出すな。ああもう、くっそ想像してしまった……燈佳、俺に変な性癖付いたらどうしてくれるんだ!」

「その時はボクが……ふふっ」


 ボクは含み笑いを漏らして、瑞貴に負ぶさった。

 そういえば……。


「燈佳」

「んー?」


 これはやっぱり、気付かれたよね。気付かないわけがないよね。でもなんか気付いて貰えるってそれだけで、胸がドキドキする。イケないことをしているつもりはないんだけど、なんかそんなドキドキ感がある。


「下はともかく、上もつけてないのか……?」


 どうせいらないから。

 正直浴衣は着けない方が綺麗に見えたから外してきたんだけどね。

 でも、瑞貴が顔を赤くしてるって事は、こんな細やかな膨らみでもちゃんとおっぱいの感触を感じ取ってくれたのかな……。それだったら嬉しい。


「今日は浴衣だし。ほら、着物の下には何もつけないって言うじゃん?」

「でも下は穿いてただろ!?」

「流石に下を穿かないのは変だよ!!」


 本当はちょっとやってみようと思ったけど、スースーしてまともに歩けそうになかったし、不安がいっぱいだったからやめたんだけどね……。多分これ桜華の嘘だよねえ……。騙されたよね、ボク。

 正直やめて正解だったよ。現に今ノーパンだけど、凄い恥ずかしいもん……。

 でも、感じてくれるならサービスしちゃう。


「ちょ! 勘弁してくれ!!」


 ボクが密着したかっただけなんだけど。瑞貴はお気に召さなかったみたいだ。

 触って欲しくて、ボクが瑞貴の体温をすぐ側で感じていたかっただけなのに。


「んぅ!」


 体を押しつけたら、電気が走ったかのような感覚がした。


「へ、変な声出さないでくれ……」

「じゃ、じゃあ、その手付きはなんなの?」


 ボクの太股に回された瑞貴の手がいやらしく動いている。

 汗ばんだ大きな手が、何度も、ボクの太股を撫でるように動いて、今じゃあお尻に近い所に触れている。


「あ、あんまり挑発しないでくれ……、俺だって男だぞ……?」


 瑞貴ならいつでもいいのに。今この場で目茶苦茶にされたってボクは文句を言わないよ?

 溜まってる欲望があるなら、ボクにぶつけてくれていいのに。そしたら、ボクだって色々と踏ん切りが付くんだ……。


「ボクだって……」


 ボクだって何? 今、瑞貴になんて言おうとした?

 これはまだ心の内に留めておく事でしょ……。なんでつい口を吐いてでようとしてくるんだ。


「どうした?」

「ううん、何でもない。早くいこ? 流石にボクだって臭いままおんぶされたくない!!」

「はいはい、仰せのままに、我が姫君様」


 唐突にお姫様なんていうから、またドキドキしてくる。

 もう、どうして、たった二文字。一言が口に出せないんだろう……。


 好きの一言が……。


「瑞貴……」

「どうした?」


 言ってしまえば楽になれるのに。

 結局出た言葉は、


「いつも助けてくれてありがとね……」


 そんなありきたりな言葉だった。

 違う、そうじゃない。全部ぶちまけてしまえばいいのに……。


「なんそりゃ。言っただろ、俺は姫さまの味方だって。ちゃんと約束しただろ? 肝心なときにいつも間に合ってないけどさ」

「ううん、それでもボクは嬉しいよ?」


 来てくれるだけで嬉しい。だけど嬉しくなると共に、ボクの中に罪悪感が生まれ続ける。

 どうしても瑞貴を騙しているという罪悪感が。ボクが男だって言う唯一の汚点が、ボクの心を苛み続ける。


「そうか……それならいいが……。燈佳聞いてくれるか?」


 なんだろう……?

 ボクは見えてないだろうけれど、頷いて先を促した。


「言いたいことがずっとあったんだ。だけど、言おうと思ったときが大体、弱っているところにつけ込んでる気がして、今日も日を改めるつもりなんだけど……

 必ず俺から言うから、もう少しだけ待ってくれないか。遅くとも年内までには言うよ。だからさ……、燈佳がずっと言い淀んでること、その時に教えてくれたら嬉しい……。

 俺、どんな事でも受け入れるからさ、あんまり暗い顔をしないでくれ。なんだかんだで、近しい人達が笑ってるのを見るのが好きだからさ……」


 語りかけるように、諭すように、ただ淡々と瑞貴は言葉紡いだ。

 その言葉の裏にある意味まで含めた膨大な情報が頭の中に流れ込んでくる。

 そして、一つの仮説が鎌首をもたげてボクに囁きかける。


 もしかして……、瑞貴もボクの事が好き……?


 想像して、急に頬が熱くなった。瞬間湯沸かし器なんて揶揄されてもおかしくないくらい熱くなった。


「ん……待ってる。ボクもその時に包み隠さず話すよ」


 冷静を装えたのかは分からないけれど、何とか言葉を発することができた。


「ああ、我慢するのは辛いかも知れないが、待っててくれ」


 それきり会話が途切れた。

 夏の夜のじっとりとした暑さが、嫌でも汗を浮かばせてくる。沸き立つ男の汗臭さがボクの鼻腔をくすぐって、それがとても心地良く感じて……時折混ざるアンモニアのきつい臭いが淫靡な気持ちを昂ぶらせてくる。

 ああ……、できるなら今にも瑞貴とえっちな事をしたいと思ってしまう。

 はしたない子だとか、変態だとか言われてもいい。その大きな手でボクを目茶苦茶にして欲しい……。

 その思いは、公園で体を洗って、頭を冷やしても冷めることがなかった……。

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