37:ドキドキプールサイド
ああもう、どうしたんだろうボク。瑞貴を見るだけでどきどきする……。
遠目からでも分かる位に鍛え始めてるのが分かる体。腹筋は割れてないけれど引き締まっている感じに凄く男らしさを感じる。
鍛えるって言ってたのは覚えていたけれど、まさかこんなになってるなんて……。
「おー、燈佳どうした、顔赤いけど」
「な、なな、なんでもないよ!?」
「ははーん、まさか、俺のこの鍛えた体に見惚れたな!」
「そんなこと、ない……!!」
事実そうなんだけれど……。
えっと、なんというか、否定しておかないといけない気がする。
ボクのちっちゃな誇りにかけて……断じて見惚れていたなんて。
「……まさかとは思うけど、燈佳ってこういうの好きなの?」
「待って! ボクが筋肉フェチというか、細マッチョ系好きとか、そう言うんじゃ無いよ!?」
「それで、真意は」
桜華がボクと緋翠ちゃんを屈ませて、二人に背を向け内緒話の構図にした。
なんか、背中とかお尻に凄い視線を感じるけど、致し方ない我慢である……!
「えっと、凄くいいと思います……」
「姫ちゃん言葉遣いが変なんだけど……。それなら立川の方も中々いい体つきじゃあ」
「あっちはなんか趣味じゃ無いかな……。服着てても凄いの分かってたし」
「なるほどギャップがいいのね」
「そうなのかなあ」
「あたしもあれは凄いと思ってる。去年までひょろひょろだったのになー」
緋翠ちゃんがちらっと瑞貴を見て、溜息を吐いている。
そっか、中学が一緒だったから、昔の瑞貴を知ってるんだ。
「ずるいなあ……」
「え、いきなり何!?」
むう、つい口を吐いて出ていたらしい……。失言だった。
「大丈夫、気にしない方がいい。私は正直燈佳くん一択」
「あんたは黙ってなさい」
「えー……」
「あ、いや。そういえば姫ちゃんの事、くんとかちゃんとかで分けてたけど、あれなんなの」
「んー、秘密」
「あっそう」
緋翠ちゃんも答えてくれるとは思ってなかったのだろう、すぐに興味を無くしたみたいだ。
冷や冷やした。まさか桜華が敵に回るのかなってちょっと勘ぐった。
ボクを男だってバラして、今まで築いてきたものを壊してくるのかと。それで、桜華に依存せざるを得ない状況を作り出すのかと。
もし、バラされたらボクは元の木阿弥だ。仲良くなった人に嘘を吐いていたのだ、返ってくるものはそれ相応のものだろう。特に緋翠ちゃんからは女の敵呼ばわりされてもおかしくない。いつか自分から言おうとは、思っているけれど、そう言う反応されると考えるとやっぱりちょっと、怖い、な……。
「でも、あの瑞貴はちょっと格好いいから、心配ね……」
「そうだね。ハーフだかクォーターだか分からないけど、金髪碧眼であの体系だし、引く手数多かも……」
「だよねえ……」
ボクと緋翠ちゃんは瑞貴の処遇をどうするか相談する。
だって、あんなの逆ナンしてくださいと言っているようなものだし。
「だれか必ず一人一緒にいればいいんじゃない?」
天啓だった。
まさか桜華からこんなまともな意見が出るなんて思わなかった!
「とっかえひっかえしてれば、クズ男の汚名をかぶせることができるし……」
助け船じゃなくて私怨だった。
でも確かに悪くない考えではあるし、理に敵ってる。
「動機はさておき、それはとてもいい考えだと思います。公平だし」
何をとは言わない。だけど、やっぱり独り占めして嫉妬を買うような真似はダメだよね
でもここまで明確になっちゃうと、抜け出してとかはダメかな……うーむ……。
って、いやいや、ボクは何を考えてるんだ……いや、あれ、いいのか。ボク瑞貴の事好きだし……。
「というか……みんなで遊ぶって考えないの?」
「海ならまだやりようはあるけど、この人だかりみてそれ言える?」
プールは人でごった返していた。芋荒い状態と言っても過言では無いだろう。
それに至る所でナンパもあってるし、子供は縦横無尽に駆け巡っている。
「おーい……、そろそろ相談は纏まったか?」
あ、そういえばボク達内緒話してたんだった。
「まあ、正直その格好も眼福と言えば眼福だが! 水着いいね! 普段は隠れてる体のラインが露わになって凄くいい! みんないい尻してる!」
「……瀬野、もう少しオブラートに包め」
「ほお? チラチラ見てた健ちゃんがそれをいうかあ?」
「む……それは仕方が無い。男の性だ」
おお、なんというか発言に貫禄があるお陰で、男らしく聞こえるぞ!
やってることは最低なんだけど。まあ、それだけ魅力があったと言うことで、ちょっとは許してあげないことも無い。
「えっと、とりあえず相談は纏まったけど、えっと……」
うわあ、これを面と向かって言うのはちょっと恥ずかしいんだけど。
誰か代わりに言ってくれないかな。
「瀬野くんを今日は一日一人にさせないことにした」
「え、なにそれ……」
「誰彼構わずナンパしそうだし……」
「ひでえ! 俺そんな軽薄な奴に思われてたの!? 泣くぞ!」
ナイスだ、桜華。いいふぁいんぷれーだ! お陰でボクが二人っきりになりたいとかいう思いを隠すことができるぞ!
「みんなで遊べばいいんじゃないのか……?」
「ケンちゃんは察し力がたらないなー!」
いつの間にかいなくなってていつの間にか戻ってきたくるにゃんが言った。手にはかき氷とか粉物を持っている辺り、フードコートを回ってきたのだろう。
お腹は空いてないけど、粉物のソースの匂いを嗅ぐとちょっと食べたくなるなあ……。
「……なるほど。ならば俺はここに居るから、皆で楽しんできてくれ。流石に泳げない俺がいてもな」
「意外すぎる。健ちゃん泳げなかったのか!」
「うむ。だから水泳の授業の無い天乃丘に来たわけだしな。浅いところで遊ぶ分には問題無いが、どうやら何か思惑があるようだし、皆で遊ぶのは後ででも良いだろう」
「思惑とかあるのか。そうか! 俺の取り合いかっ!!」
「まあ、あながち間違いでは無いだろう」
立川くん、ボクと緋翠ちゃんを交互に見るのはやめてくれませんか? まるで同一の存在みたいじゃないか! まあそうなんだけどね!!
「しょうが無いからボクがケンちゃんと一緒にいるー!」
「……ふむ、まあ一人より誰かいた方がいいか、鈴音、遊びに行きたくなったら遠慮しないでいいからな」
「おー! その時はケンちゃんも一緒だー! ボクが泳げるように訓練してあげるよ!」
「それは願っても無いな」
ふと柔らかく笑う立川くん。いつも仏頂面だったけど、ちゃんと笑うことができるんだ、新発見だ。
「ほらほら、行ってこい。時間は限られてるぞ」
「おう、そんじゃまた後でな。ロリコン扱いで捕まるなよ!」
「はあ……」
頭を抱える立川くん。まあ流石に差がありすぎるから仕方が無いかも。くるにゃん普段は子供っぽいし。下手したら捕まるかも……? まあ最悪いいお兄さんと妹いや、親子……? まあいっか。
「それで、どーするよー」
「ボクあれ行きたい!」
ボクが指したのはウォータースライダーだ。しかもただのウォータースライダーじゃない。なんと言っても距離が長いのだ。それにうねってるし、ドーム状だし!
たぶんきっと、あれ、二人で入る奴だし! 一人でも行けるんだろうけれど。
「……流石にあれは怖い」
「桜華に同じ」
二人はげんなりとした顔をしている。絶叫系ダメなのかー。ジェットコースターとか楽しいのに。
「じゃあ、最初は姫ちゃんと瑞貴で……。あたし達は下で遊んでる」
「燈佳、気をつけてね、変なことされたらちゃんと殴るの、分かった?」
「ひでえな……! 俺はそんなことしねえよ!?」
ごめん、ボクは何も応えずに曖昧に笑うだけに留めておくよ!?
だって、できるなら変なことして欲しいし……。それって、ボクの体にも魅力があるって事だしね。
やっぱり、こういうことをしても本当の事を話したら気持ち悪いって思われちゃうのかな……。それだけが不安だ。
でも、今だけは、少女の幸せを味わってもバチは当たらない、よね?