27:気の早いあれ
店舗内を練り歩く。空調が良い感じで利いていてとても過ごしやすい。
ああもう、最高だなあ……。
「中々いいお店ないね」
「そうだね。ちょっと大人っぽいのばっかりだね」
大人っぽいと言うのは、要するにどれもこれもおばさん臭いのだ。若い人に向けたアクセサリーを取り扱っている店もあるにはあるんだけど、髪留めに絞って言えば無いのである。
あるのは、ネックレスやブレスレットといった物ばかり。
エスカレーターで昇ったり降りたりと色々練り歩いて見たけれど、あまりいいお店が見つからない。
「探すと意外と無いものねー。そろそろ合流の時間だけどどうしよっか」
緋翠ちゃんが時計を見ながら聞いてくる。
言われて時間を見ればそろそろ四時に差し掛かろうとしている。集合時間は四時から前後十五分にフードコート的喫茶スペースに集合となっている。
「あれ、瑞貴だ」
そしてめざとく瑞貴の存在に気付くのも緋翠ちゃんだ。
雑貨屋さんで難しい顔をしているのは正直似合わない。
後ろからコッソリ覗くと女物のアクセサリーを見ている。もうなんかそれだけで胸が痛いんだけど。緋翠ちゃんも眉根を寄せてちょっと困った顔をしている。
「大丈夫だと思うよ、二人とも」
そんなボク達に桜華ちゃんが抱き寄せて言ってくれた。
ボクはそんなに顔に出ていたはずじゃあ無いんだけどなあ。
こうなるといよいよもって、ボクは本当に瑞貴のことが……。
「瀬野くん、何してるの?」
まごついているボク達二人を置いて、桜華ちゃんが瑞貴に声を掛けた。
それにとても驚いた様子を見せる瑞貴。本当に悩んでいたみたいで、桜華ちゃんの顔を見ると救いを得たと言わんばかりに明るいでいる。
「笹川さんかー。いやさ、燈佳と相月の誕生日がそろそろ近いからプレゼントでもと思ったんだけど、何がいいのか分からなくてなあ……」
「というわけだけど。だから大丈夫だって言ったじゃん」
「え、うわ! 二人ともいたのか……別行動だったわけじゃ無いのか……」
やっとボク達の存在に気付いた瑞貴がとても驚いていた。
まあ、ちょっとは気配消しましたし? しょうがないじゃん?
「あたしの誕生日まだ一ヶ月も先なんだけど」
緋翠ちゃん、悪態吐いてても表情までは隠し切れてないよ。頬が緩んでるから。
というか、ボクの誕生日覚えていてくれたんだ。
ゲームの中で何気なく話をしただけだったはずなのに。確かあれは去年の冬に瑞貴が誕生日がもうすぐだって言ったときにみんなで誕生日を言い合った時だったと思う。嬉々として教える人、もう誕生日なんてこなければいいのにと哀愁たっぷりに言う人。悲喜交々だった覚えがある。その中でボクもぽろっと言ったんだった。
「ボクだってもうちょっと先だし」
強がってみたけど、やっぱり自分の事を……特に男の時にぽろっと零した事を覚えていて貰えるなんて本当に嬉しい。顔の見えない関係の時のことを覚えて貰えるのがどうして、たまらなく嬉しいと思ってしまった。
「そうなんだけど、二人とも夏休み中じゃないか。時間つけて祝うって難しいかなって思ってさ。折角だし選んでみようと思ったんだが、中々難しくてなあ。燈佳も相月もアクセサリーの趣味わかんねーわ」
彼はそう言って悪気なくからっと笑った。
なんだろう、それだけでじんわりと胸の奥底にあった痛みが和らぐような。そんな感じ。
「燈佳は髪留めがいいんじゃないかなーと思いつつ、見てるんだが。最近暑そうだしな。こっちとこっちなら、どっちがいい? ああ、値札見るなよ」
二つ見せられて、ボクが目に付いたのは花飾りが付いた少し和風っぽい髪留めだった。淡い紫のアクリルかガラスで作られた花飾りがとても綺麗で――
「燈佳ちゃんにあげるなら、こっち」
横から口出しをして来た桜華ちゃんが選んだのもボクが気になっていた方だった。
「桔梗は燈佳ちゃんの誕生花」
「ボクもそっちがいい……かな」
もう一つの方はシンプルで実用一辺倒。飾り気は無いけれど、普段使いには持ってこいな物だ。そっちはそっちで悪くは無いんだけれど、やっぱり、うん、そっちの桔梗の花飾りが付いた方がいいかな。
「良し分かった。じゃあ、こっちだなあ。相月はどうするかなあ。まだ絞り切れて無いんだよなあ」
「あたしはまだ一ヶ月も先だから、日を見て呼び出して買って貰う!」
「そんでもいいが、俺、夏休み中結構忙しいぞ……?」
「それでもいい。みんながいないときに選んでよ!」
「おー、分かった。それじゃあ適当に日程合わせるなー」
「うん!」
凄い。あっという間に二人で遊ぶ約束取り付けてる。
えっと、ボクもこうやってぐいぐい行った方がいいのかな……。
「燈佳ちゃん、負けたくないなら自分から行かなきゃ」
「うん……」
桜華ちゃんの耳打ちにボクは自然と小さく頷いていた。
無意識だった。だけど、肯定の意を返してはたと気付く。ボクはどうしてここまで傷ついているんだ。イヤだなあ……。友達が友達と二人で遊ぶ約束をしただけじゃないか。
どうしてここまで傷つく必要があるんだろうか。
「よーし、買ってきたぜ。早いけど姫さま、十六歳の誕生日おめでとう」
「あ、ありがとう」
飾り気のない紙袋だ。すぐに取り出すと思われて包装も断ったのだろう。
その気遣いが嬉しいような寂しいような。
出来れば綺麗に包装された物が欲しかったな。そっちの方がもっと嬉しい。
顔を上げてみたら、店員さんが申し訳なさそうな顔をしていた。ああこれは多分瑞貴に押し切られた感じかな。
「桜華ちゃん、つけて?」
「はいはい」
ボクはバッグから櫛とまだ封を切っていない紙袋を桜華ちゃんに渡す。
ボクが一人でつけられたら格好が付くんだけど、生憎自分の髪を弄るのだけは苦手なままだ。このまま行けばもうずっと苦手なままかもしれない。
「出来たよ」
首元がスッキリした! 結構大雑把にやってくれたみたいだけど、結構しっかり纏まってる。涼しいって言うか、首元がスッキリしたせいでちょっと肌寒く感じる。
「おお、あれだ。有名だった船のゲームの子みたいだな」
「あー……」
鏡を渡されて確認してボクも瑞貴の言いたいことが分かった。でも凄い。髪留めを表に出しながら髪をしっかりとめてくれている。ううむ、即席でこういうことが出来るのは凄い……。
「よし、これなら暑さにへばることも無いだろー。そんじゃ健ちゃんむかえに行こうぜ。席取ってて貰ってんだよ」
「そうしましょ。私もちょっと疲れた」
桜華ちゃんが肩を揉む仕草を見せる。それになんかイラッときた。
「疲れたのはボク達の方なんだけど!? あんなもの見せつけて……!」
無くしてた殺意が蘇ってきた。
「ほう……。燈佳がいうあんなものが何なのか……ぐっ!」
最後まで言わせない。ボクは肘を瑞貴の脇腹に入れて黙らせた。これくらいの暴力はいいと思う! 圧倒的戦力差の前に打ちのめされたボクは、今日は傷心の貯めにアリアさんに慰めて貰うんだ。同じ悩みを持つ者としてきっと慰めて貰える、はず……!