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23:これは必要な知識・後

「さて、それじゃあ始めましょうか、といっても、最初のはさらっと進めちゃうけどねー」


 そう言って、渡されたのは保健体育の教科書。

 中学の時に見たことがある表紙だ。半分くらいまでは学校で使ったけど、それ以降は行ってないから使っていない奴。

 パラパラと捲って、少し懐かしい想いに浸る。


「とりあえず、榊さんってもう生理来たー?」

「はい。先月に……」

「あら、意外に早いのね。というか、そっか年齢的には来てて、周期も安定しててもおかしくない歳だものね。ということは今月もしっかりと来たと」

「えっと……はい」


 いきなりだ。いきなりプライベートすぎる質問だ……。流石に内容が内容なだけにぼかして答えたりはしないけれど、これはちょっと恥ずかしい。


「そう、それじゃあ、男子と女子の体の違いは身をもって体験してるわけだから、作りについては飛ばしても大丈夫ね」


 男女の体の作りのことかな。中学の時にさらっとやった覚えがある

 授業が授業なだけに誰も真面目に聞いてなかったし、わーわーきゃーきゃー煩かったような。

 要するに二次性徴的なあれやそれの話だ。……ボクの体はまだ成長の余地があるのか分からないけれど。少しくらい、もう少しくらい成長してほしいなあ……。

 せめて高望みはしないけれど、身長は一四七くらいはほしい!


「えっと、それじゃあ、基本的な事を抑えたお話をしましょうか」


 それから、渡瀬先生は所謂、保健体育で習う性教育の話をしてくれた。

 男女の体の作りや違い、それに二次性徴を経て起こる心身の変化。

 男性器や女性器の役割に、子供を作ると言うこと。

 単語の一つ一つに恥ずかしさを覚えるけれど、目の前に居る渡瀬先生は至って真面目に話をしている。

 それに横で聞いている理事長も時折、ほうとか、うむとか相槌をを打っているから、聞いているボクが恥ずかしいと思っちゃ行けない。はずなんだけど……。

 やっぱりこれ、聞いてると恥ずかしいんだけど!?


「さて、昨日は大変だったしその辛いことを思い出させるのは忍びないけれど、ここからが重要だよー」


 間延びした声で、渡瀬先生は仕切り直しをした。

 昨日の辛いこと。レイプ未遂。だけど……。


「一応ね、知識として知ってるのと知らないのとじゃ気の持ちようが違うから」


 なんだろう?


「女性の膣は濡れるっていうけど、これって気持ちいいから濡れるわけじゃなくて、体の防衛反応っていうのをしっかり覚えていてほしいの。よく嫌がってるのにここは正直じゃないかとかっていう馬鹿な男がいるけれど、そう言う言葉を真に受けて自分は変なんじゃないかって思ったらダメよ」


 あまりにも唐突過ぎて、というかダイレクトすぎて、恥ずかしいとも思えない。

 ありのままの事実ということに驚きを隠せなかった。


「さて、それじゃあそろそろ本題に入りましょうか。といってもビデオを見ることなんだけどねー。榊さん、オナニーのやり方知らないでしょ? これからずっとやらないって言うなら無用な知識だけど……そうじゃないよねー?」


 含みを持たせた言い方に、ボクは自然と頬が熱くなった。

 知らない。知らないなりにやってみたけれど、多分あれは何かが違うものだったんだと思う。男なら絶頂を向かえれば射精という分かりやすいパターンがあるけれど、女のそれはよくわからない。


「と、いうわけで、はい、これが正しいやり方でーす」


 渡瀬先生が映像の再生を始める。

 そこに写ってるのは……


「ちょっと待て! 睡瑠!! お前はなんてものを持ってきた! それよりもいつこんなもの撮ったんだ!?」


 まさかの無修正。おしべとめしべのアレ的な行為を今まさに始めようとしているところだった。

 瞬間的にボクは目を覆った。刺激が強すぎる!!


「えっとー。昨日、蓮理と始める前にカメラ設置したんだけど」

「よりにもよって昨日のか! 生け贄ってそう言うこと、ふざけるなよ!!」

「いいじゃない、減るものじゃないし。ちゃんとした情操教育に役立つんだから、教育者冥利に尽きるでしょ?」


 二人が言い合いをしている中でも、映像は時折無情にも再生されていく。

 恥ずかしいし、ドキドキする……。でも目が離せない……。


「とりあえず、女性が感じるポイントとしては、陰核……クリトリスが一番感じるんだけど、それ以外にも胸やお尻、雰囲気によってはそれ以外も十分感じる事があるの、ところで結々里はどうされるのが一番好き?」

「なぜわたしに話を振った……。わたしがこういうの苦手なの知っているだろう……」


 理事長は顔が真っ赤になっている。本当に苦手らしい。

 でも、その表情が初な少女然としていて、本当にこの人は年上なのかと疑ってしまう。


「……まあ生徒の前だ、答えよう。後で覚えておけよ、睡瑠。抱きしめられるのもいいが耳元で甘く囁かれるのもいい。好きな者には触って貰えるだけで嬉しいものだ」


 触って……。あ、それはちょっとわかる、かも……。

 瑞貴に頭撫でられたりとか、抱きしめて貰うだけでも全然、いい……ってボクは何を考えてるんだ!


「ほう……なるほど。性転換した挙句に思い人までいるのか。なるほどな」

「ち、ちがっ!」

「別にわたしは誰が誰を好きであろうと問題無いと考えている。別にいいのではないか? 元々男だった君が男を好きになったとしても。いや、もしかしたら女かも知れぬがな」


 そういって、小さく笑う理事長。

 最初の恥ずかしがり様はどこへやら。少し頬が赤いが不敵な笑みを浮かべている。

 別にボクが誰を好きだって良いって言ってくれるのは嬉しいけれど……。


「さて、慣れてきたら、こうやって中に指入れたりもするけれど」


 シーンが変わって、それを手本のようにボクに見せながら渡瀬先生は本当に指導しているかのように教えてくれている。

 いや、もうなんでボクこんなの見せられてるの……。恥ずかしい……。


「まあ、最初は怖いよね。だから一人でするときは、想像しながらとか、こういう道具を使ったり……」

「……睡瑠。お前は学生に何を見せてるんだ」

「電マとローター」

「いうなよ!?」


 机の上に置かれたのは、多分まだ新品なんだろうと思われる、こけし的なあれと、ピンクいコード付きのあれだった。

 流石にボクも名称だけは知ってるけど、実物を見るのは始めてだ。


「ええー……。もっとキツイの持ってこようと思ったんだけど。あ、これ新品だから安心して。よければ榊さんにあげるけど」

「……あれか、張型の方も持ってくるつもりだったのか」

「ええ。だって、こういうのを知ってるか知らないかって、快感を得る上で大事だと思うの。指だけじゃ疲れるし……」


 指だけじゃ疲れるんだ……。なんかさっきからこの手の話を聞いてるとむずむずしてくるんだけど、なんなんだろこれ……。


「まあ、実際はここからが本番なんだけど」


 映像が切り替わる。体中の至る所に傷跡がある裸の男性が写った。

 勿論理事長の姿もある。……って、裸の男性って鈴音先生? いや、ホント、なんでボク担任の先生と理事長がやってるのを見せられてるの。


「……流石に身内のをみるのは私も辛いわね……」

「撮られてる事に気付かなかったわたしは不甲斐ないよ……」


 こんなの見たらこれから、ボクは鈴音先生をどういう目で見ればいいんだろう……。

 ……すごい。生唾を飲み込んで、ボクは食い入るようにそれを見てしまう……。


「……睡瑠。間抜けが発情してるようなんだが」

「こういうの見るのはじめてなんでしょうから仕方が無いわー。でも流石にこれ以上は見る必要無いし、切ってしまおうかしら」

「それが良い。あまり過激な物を教育資料として見せるわけにもいかぬだろう。後、愛おしい蓮理の姿はわたしだけが見ていいんだから」

「はいはい。いつまで経ってもバカップルね」


 あ、消された。いい所だったのに……。すごいなあ……あれ、ボクもこれからしちゃうのかなあ……。とろとろに蕩けた理事長の姿が淫靡で目に焼き付いている。ボクもああなっちゃうのかな……。

 ダメだ、なんか変なスイッチが入った……むずむずする……。


「まあ、ムラムラしたら中途半端にせずに発散するのが一番なんだけど……ここ学校だったねー……」

「どうするんだ、これ、収拾付くのか?」


 触りたい、けど、ここ、学校だし……。こんなのダメだって。


「えっと……もう、いいですか?」


 早くここを抜け出して外の空気に当たりたかった。

 頬が熱いし、火照ってるし。


「一応まだ、あるんだけど。避妊具の説明とか、付け方とかー。男の子の喜ばせ方とか?」

「あぅ……」

「……一気に詰め込みすぎた?」


 渡瀬先生が困ってる。だけど、だけど、なんか変なんだ。ボクの体が変。

 まるで、昨日、瀬野くんに行かないでって言ってしまった時みたいな気持ち。

 お腹の奥が切なくて。どうにかなりそうな、そんな気持ち。


「はあ……最悪こうなることを見越してのわたしだった訳だな。おい」


 理事長が強引にボクと目を合わせてくる。


「眠れ」


 たった一言。それだけでボクは抵抗するまでも無く意識を失った。

 一体全体何をされたのか分からなかった。

 起きたときにはボクは保健室にいて、起きてすぐ枕元にあったバッグの中には所謂大人の玩具が入っていた。

 それと、渡瀬先生が手書きしたと思われる、一人エッチマニュアルとか言うものが入ってた。そっとボクは見ない振りをした。

 い、家に帰ったらじっくり読む……!

 でも、あれがああなって子供ができるって……凄い。あんなおっきいのが女の人の体に入るというのがまず凄い……。

 思い出してまた頬が熱くなってきた……。


「あら、目が覚めたー? 下校時刻まで起きないからびっくりしたけど、寝不足だったかしら?」

「うひゃあ!!」

「ちゃんと人がいるのを確認してから荷物はみた方がいいわよー。とりあえず今日は送っていくから、見るのは家で、ね?」

「は、はい……」


 油断というか何というか。場所が場所な事をすっかり失念していた。

 幸い見られたのは渡瀬先生だけだったから良かったけれど、荷物を確認するときは周りの様子を伺ってからにしよう。

 いやでも、無理矢理バッグの中に突っ込んだ先生にも問題があると思うけれど……!

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