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21:学校をやすんだ日、ふたたび

 二人を見送って、とりあえずまずは片付けをしてしまう。

 掃除は今度の休みの日に纏めてやるとして、一応もう、病院の方にいってもいいんだけど、流石にまだ早い。人がたくさんいるのはイヤだし……。受付時間のギリギリに行くのがベストだと思うんだ。


 一応外に出る練習の為に九時前にスタンバイするとして……。

 帽子は用意しておこう。ちょっと嫌な思い出があるけれど、ボクの手持ちは今アレしかないし。


 ふう、そろそろ時間だ。

 帽子を被って玄関の扉に手を掛ける。


「大丈夫……。ボクは大丈夫……」


 開いて、外への一歩目を踏み出す。

 行ける。大丈夫。今日は……大丈夫だ。


 うん、少し息が上がるし息苦しいけど。何とかなる。

 時間を掛ければ大丈夫そうだ。

 ゆっくりと自分のペースで進んでいると、電話が掛かってきた。


「はいもしもし」

『どうも、養護教諭の渡瀬です。榊さん、大丈夫ー?』

「えっと……今のところは。少し息苦しいですけど」

『そっかそっかー。それじゃあ迎えの必要はなさそうね?』

「今のところは。危なくなりそうだったら電話します」

『はーい。じゃあ、今日待ってるからねー』


 短いやりとりだ。

 渡瀬先生は眠そうな声なのに、聞くべき事はしっかりと聞いてくるし、こうやって心配もしてくれるからとても嬉しい。

 誰かに頼っていいなんてそれだけで心が落ち着く。


 時間は掛かったけれど、病院に着いた。

 受付をして、呼ばれるまで待つのみだ。


「榊さん、榊燈佳さーん」


 暫く本を読んで時間を潰していると、名前を呼ばれた。


「やあ、二ヶ月ぶり、元気にしてたかい? 今日は一人できたのかい?」


 診察室に入ると、にこやかな顔で白川先生が迎え入れてくれる。


「はい。一人で来れました」

「それは素晴らしい!! よくできたね。頑張ったね」


 白川先生が我が事の様に喜んでくれているのが嬉しくて、ボクも笑みが漏れた。

 そうだよ、ボクここまで一人で来れたんだよ。

 昨日は人の目が怖かったのに、今日は一人で来れた。これも瑞貴のお陰なのかも……。


「しっかし、燈佳くん、見ない間に随分可愛くなったね」


 可愛くなったって。それ本当なのかな。

 ボクの中じゃあ、もうこの体を見て美少女だ、なんて思えない。


「よく分かりません」

「そう? 僕は入ってきてすぐ気付いたけどね。少し、ここを往復してくれる?」

「え、あ、はい」


 言われたとおりに、ボクは診察室のスペースを一往復して元の席に戻った。


「うん、やっぱり。歩き方が女の子らしいよ。何か心境の変化でもあった?」


 歩き方……。別に仕込まれた訳じゃ無いんだけど。そういうのでも分かってしまうのかな。でも、うん。白川先生には話した方がいいのかな。


「好きな人ができました……たぶん」


 まだ、この思いが本当の恋なのか分からないけれど、瑞貴の事を考えるとふわふわした感じがする。


「そっか。青春だねえ」

「あと……昨日、その……」


 そう、今日はこの事を話に来たんだ。

 白川先生と一緒なら、裏サイトの内容も見れると思う。


「うん、昨日?」

「無理矢理……されそうに……」


 これだけ、言うのがとても恥ずかしい。

 確かにこれは痴漢された人とか強姦された人とかが寝入る気持ちも分かる気がする。


「そっか。まあ、そんなに可愛くなったんだったら仕方ないね。僕は女性のそういう気持ちは分からないけど、心中は察せる事はできるよ」

「えっとそれ自体は別に……。未遂でしたし、助けて貰って」


 ああ、ヤバイ。思い出したら顔がにやける。うぅ……ダメだって。今は真面目にしないといけないのに。


「あっはっは。そっかー、助けてくれた子を好きになっちゃったんだねえ」

「たぶん、です。確定じゃないです」

「じゃあ、そういうことにしておこう。他にも何かあるのかな?」

「えっと、これ、一緒に見てほしくて。ボク一人じゃ怖いから」


 瑞貴から貰ったURLを開いて見せる。


「どれどれ、っとボクの方にもそれを送ってくれるかな?」

「あ、はい」


 赤外線で白川先生のスマホにURLを送る。


「裏サイトかあ。なるほどなあ」


 ボクもそのURLを開いた。真っ先に飛び込んでくるのはスレッドの一番上にある一年のTSってうざくない? という書き込みだ。

 それを見ただけで、胸が痛む。耐性はあったつもりだけど、やっぱり顔を合わせた人が書いてると思うときつい。


「うわあ、凄いね。燈佳くんの事が一杯書いてある」

「ああ、やっぱりこれ、ボクの事ですよね……」


 開いた。スレッドが立ったのは四月の半ばだ。そう考えるとほぼ丸二ヶ月前には因縁をつけられていたことになる。

 内容は、様々だ。ブスとか、可愛くないとか。一年の金髪のイケメンに色目使ってるとか。

 その中でも五月の半ばに書き込まれた書き込みから様相が変わっている。


 知ってるか、TSってあのMSとやりまくってるらしいぜ。

 まじか、まあそうだよなあ。姫とか呼ばれてるし。

 そういえば、噂で聞いたんだが、姫は男女見境ないらしいぞ。俺の知り合いも喰われたって。

 はあ? 嘘乙。そんなんだったら俺がやりてーよ。

 じゃあ頼んでみればww もしかしたら咥えてくれるかもよ。

 粗チンに用無しっていわれんじゃねーの。

 ちげえねえ。


 最初は私怨から始まった書き込みだったけれど、最近の方になると殆どが、ボクとヤれるのか、ヤれないのかの話ばっかりだ。


「クク……これは中々……。燈佳くん、君はやりまくなのかい?」

「先生まで……。ボク、そんなことやったこないし……昨日初めて一人でしたくらいだし……」

「へえ。一人で初めてねえ」

「あっ!」


 つい口が滑った。


「うん、いい傾向だね。オナニーなんて誰でもするもんさ。僕だってするし、僕のお嫁さんもするよ。だからそんな恥ずかしいことでもないさ」


 笑って言う白川先生に少しだけ癒やされた。

 誰だってすると言っても、やっぱり恥ずかしい物は恥ずかしいのだから。


「それで、火の無い所に煙は立たぬっていうから、聞いておくけど、きみの好きな人ってこのMSくん?」


 それが誰を指して居るのかはわかったし、聞いて頬も熱くなってくる。

 ボクは小さく頷く。それが限界だった。


「な、内緒にしててください……」

「なんで?」

「やっぱり、男のボクが男の彼を好きになるなんておかしいから……」

「恋愛は自由だよ。君が好きな人を好きでいいんだ。幸いにも君は魅力的な可愛い女の子になってるんだから、いいんじゃないかい? その彼を好きで居ても」

「でも……いずれは戻らないといけないし……父さんや母さんにどう説明したらいいかわからないし……」

「正直に話すのが一番だと思うけどね、僕は。何も疚しいことがあるわけじゃ無いし。こういった不思議な出来事は稀にある事さ」

「稀にあったら怖いです」


 うん、普通ならこういうこと絶対起こらないし。ありえない。


「そうかい? 案外近くには幽霊もいるし、異世界の魔王さまもいるし、獣人の女の子も居るもんだよ。男の子が女の子になるくらい訳ないって」

「先生、慰めようとしてくれるのはありがたいですけど、荒唐無稽です……。流石に魔王はない」

「いやあ、それが一番事実に近いんだけどねえ……。まあいいさ。裏サイトの方は僕の方で潰しておくよ。こんなの健全な成長の妨げだ」


 え、できるの……? それならそれが一番だけど。

 白川先生って一体何者なんだろう。くるにゃんの関係者だってのは分かるんだけど、どうしてここまで落ち着いて居られるのかな。何かも悟りを開いた見たいな感じがする。


「さて、それじゃあお昼からは学校かい?」

「はい。渡瀬先生に呼ばれてて」

「睡瑠からか。そっか、それじゃあ送っていこう。ついでにお昼も食べていかないかい? 女子高生と合法的にご飯食べられると嬉しいよねー」

「だから、ボク男ですって!」

「そうかなあ? 僕からみたら可愛い女の子にしか見えないけどなあ。手を出したら犯罪だからしないけどね。恋する乙女は皆可愛い物だよ」

「こ、恋するって……」


 直球な物言いにまた頬が熱くなる。恋はたぶんしてる。瑞貴のこと、多分好きなんだと思うし。

 うう。なんか変だ。胸の内はスッキリしてるのに、まだ何か燻ってる感じ。


「さて、あまり睡瑠を待たせるのもアレだし、行こうか」


 ボクは釈然としない気持ちのまま、白川先生の車に乗せられてお高いレストランに連れて行かれた。

 お昼はお高いだけあってとても美味しかった……。役得なんだけど、なんだけど!! なにこのホント釈然としない気持ち。ボク一応カウンセリングに来たんだけど。結果も聞いてないんだけど!?

 いいのかなあ、こんななあなあで……。

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