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19:背中合わせて、ごめんなさい

 うあああ……。もういっその事殺して欲しい。

 二十畳近く合ったリビングダイニングと違って、個室は八畳程度しかないし、それに家具類があるから、体感はもっと狭い。

 失念していた。


 近い……。とても近いよ!


 桜華ちゃんはまだお風呂だし。絶対一発やってから戻ってくると思う。そうじゃないと長風呂なんて言わないと思う。絶対これ、ボクに対する嫌がらせだ……!!

 酷い、酷いよ……。ボクどうすればいいんだよぉ……。


 ちらちら。

 暇つぶしの名目で、瑞貴くんにはボクのパソコンを使わせてる。

 ブックマークとか見られても問題無いし。エッチなサイトとか見ないからね。


「ううむ……燈佳のパソコンは使いやすいな……」


 でしょう。ボクが頑張って組んだんだよ。周りの機材とかも全部必要な物も見繕ったし!!

 でも違うの。そうじゃないの。お願いだからこっち見ないで。


「しかし、いいのか。俺が使っても」

「い、いいよ。今日はボク本読みたいし」


 ベッドに寝っ転がっているボク。手に持ってる本をひらひらと見せる。

 でもごめんなさい。全然内容が分からないの。読んでるように見えて、さっきからそんなに進んでいない。

 瑞貴くんが気になって、仕方が無いんだ。


「そうか。しかし、うむ……燈佳の部屋ってさっぱりしてんだな」


 瑞貴くんがボクの部屋を見渡して言う。

 さっき慌てて、脱いだ服とかを片したから、クローゼットとか開けられたら困る。

 というか、クローゼットとか開けられたら、ボク死んじゃう。中に入れるタンスとか買ってないから、下着類は適当に買ってきた籠に畳んでおいてあるだけだからね!?


「まだ、模様替えしてないからね。いつかしようかなって」

「ほー。まあまだ二ヶ月だし、部屋の模様替えまで行き着かないよな」

「そうだね。瑞貴くんも?」

「まあなあ。適当にPC広げて、寝床作って終わってるわ」


 やっぱり、そこまでは行き着かないよね。一年とか二年とかそういうスパンをかけて部屋は作っていくのが普通だし。


「で、だ」

「なに?」

「いつまでこっちに背中向けてるんだ」

「寝るまで!!」


 そう、まだぴんくいスイッチが切れてないボクは今現在瑞貴くんに背中を向けているのだ。

 諦めて。今日は無理だから。顔見れない。なんかずっと胸がドキドキしてるし。あれと関連づけたせいで罪悪感というか何というか、ふわふわした気持ちがずっと続いてるんだ。


「流石に俺でも傷つくんだけど……」

「ごめん。今日だけだから……たぶん」

「一緒にいてくれとかいって、ちょっとしたら顔も見せないって。我儘だなあ」


 ベッドのスプリングが軋む。

 うう、瑞貴くんが実力行使にでてきた……。


「なんか俺に言えない事か?」


 そうだから、困ってるんだけど!?


「うん」

「何か疚しいことか?」

「そんな感じのようなそうじゃないような……」


 お風呂場でのあれと関連づけて、顔が見れないって誰が言えるか。

 それを言ったが最後、瑞貴くんで想像して自慰しましたってことじゃん。恥ずかしすぎる。本当はちょっと違うけど、達した後に瑞貴くんが思い浮かんで恥ずかしいだけなんだけど。なんか色々混在してごちゃごちゃになって顔が見れなくなった。


「まあ、いつもより元気そうではあるが」

「今日はテンパってるから」


 側に瑞貴くんの熱を感じて、否が応でも頬が熱くなる。

 なんだこれ……なんなんだこれ。少しだけ、好きかもって思うだけでこうなるの……。

 ボク男なのに……。やっぱり変だよね。桜華ちゃんは好きになってもいいって言ってるけど。やっぱり変だよ。


「ふむ……燈佳はテンパると無駄にテンション上がるのか」

「いつもは違うよ。今日は特別」

「そうか」


 ぽんぽんとボクの頭を撫でるように触ってくる。

 それがどきどきを増長させてくる。もうやめてほしい。

 今日は一緒に居て欲しい気分なのに、それ以上に恥ずかしさで追い出してしまいそうになる。

 でも、触られるのは嫌な気がしなくて。うぅ……。


「ぜったい、こっち振り向かないって約束して」

「おー? いいけど。どうしたんだ急に」


 ボクは名残惜しいけど、頭に置かれた手を振り払って体を起こす。

 そして、ベッドに腰掛ける瑞貴くんの背中に自分の背中を預ける。


「どうしたんだ」

「気にしないで」


 抱きしめられた時の心地よさを思い出そうと思ったけれど、これはこれで恥ずかしい。

 背中越しに体温を感じて、さらに胸がドキドキする。

 でも、これなら少しはマシかも。


「今日はありがと」

「気にするな。実際俺が向かえたのも叫び声が聞こえたからだしな」

「そっか」

「早く助けに行けなくて悪かった。怖い想いさせたな」

「ううん……。もしかしたらボクの病気酷くなったかも知れないけれど、格好良かったよ」

「そう言ってくれると嬉しいが……」


 だって、格好良かったのは本当だし。そうじゃないとこのドキドキの理由が説明つかない。


「ねえ」

「なんだ?」

「もし、ボクが男で、まあ、こんなんじゃ無いにしても、酷い目に遭いそうだったら助けてくれた?」


 ボクにとっては核心に触れる問題。だけど、彼に取ってはボクの些細な戯言に聞こえるだろう。


「そうだな。逆に聞くが、燈佳は俺がピンチの時は助けてくれるか?」

「え、なにそれ。当たり前じゃん……」

「そういうこった」


 そっか。当たり前なのか。


「えへへ……」


 嬉しいなあ。他意が無いにしても、男のボクを助けてくれるって言ってくれるのは嬉しい。


「変なことを聞くなあ。まあ、いいけどな」

「だって、聞きたくなったから仕方が無い」

「そうか。まあ、俺は俺ができる範囲でなら助けるよ。燈佳みたいに崖から飛び降りるとかはできないけどな」

「思い出させないでよ。あれ、無我夢中だったし、堪忍袋の緒が切れてたんだから……」

「だろうな。まあ、今回の件もあいつの周りが一枚噛んでそうだけど」

「ボクもそう思うけど。裏サイトの書き込みなんて本気で漁らないと分からないから、確証は無いよ」


 十中八九噛んでる。だけど、確証が無いからなんとも言えない。

 難しい問題だ。


「あんまり気に病むなよ」

「うん。でもこれからちょっと怖いかも……ボクってそう言う目で見られてたんだね」

「燈佳はまだ中身みてねーだろ」


 怖いからね! でもいつかはちゃんと見ないと行けないと思う。


「まあ、そんだけ姫さまは魅力的ってことだ。体育祭なんか凄かったろう」

「あー……うん。瑞貴くんも凄かったね」

「ブーイングの嵐だからな。まあ、俺ら以外にも二人三脚出てたの名物カップルばっかりだったのもあるしな」

「そうなんだ……」

「いや、もうちょっと周りに気を張ろうぜ? 割とそう言う話どこにでもゴロゴロ転がってんぜ?」

「よくわかんないや……」


 よく分からない。うん、ボク自身が自分の周囲にしか興味が無いのが悪いんだろうけれど。

 でも、誰と誰が付き合ってるとか、そういうのってあんまり興味がない。

 だって……。ううん、これは考えちゃいけないこと! 封印する!!


 でも、神様、これくらい今日は許してくれませんか?


 ボクは瑞貴くんの背中を見る。

 寝間着姿の彼はあまりにも無防備だった。

 いつもボクに対してそんな事を言っているのに、だ。


 だから、今日くらいは、許して欲しい。

 その背中に覆い被さるように、抱きついた。


「うお!? ちょ、ど、どしたの!?」

「ん……ありがとね」


 まるで猫が差し出した手に顔をすりつけるように、ボクは瑞貴くんの肩に顎を乗せてそう囁く。

 嬉しかったから。一緒にいてくれて助かったから。


「ねえ……」

「おう……」

「呼び捨てにしていい?」

「なんだよそれ、別にいいよ。正直さんとかくんとか高校生にもなって恥ずかしいと思ってたしな」

「そっか、じゃあ、瑞貴」


 うぅ、自分で言ってて恥ずかしい。

 呼び捨てって緊張する。


「おやすみ、今日はありがとね」


 ボクが神様に今日許しを請うのはここまで。

 ぱっと体を離して、ボクは頭から毛布を被る。

 今、顔見られるのは恥ずかしい……。

 耳まで熱いんだもん!

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